マラリア – 感染症

マラリア(malaria)とは、ハマダラカという蚊が媒介する寄生原虫によって引き起こされる感染症です。

熱帯地域や亜熱帯地域で多く見られ、発熱や悪寒、嘔吐、貧血などの症状が現れます。

重症化した際には、脳性マラリアや黄疸、腎不全などの合併症を引き起こすことがあり、最悪の場合、死に至ることもあります。

世界保健機関(WHO)の報告では、年間約2億人がマラリアに感染し、4万人以上が命を落としているとのことです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

目次[

マラリアの種類(病型)

マラリアには、熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、卵形マラリア、四日熱マラリア、マラリア原虫感染症の5つの種類が存在します。

熱帯熱マラリア

熱帯熱マラリアは、マラリアの中で最も重症化しやすい種類です。

熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)によって引き起こされ、48時間周期の発熱や貧血、脳症状などが特徴的です。

症状発熱、貧血、脳症状など
原因熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)
周期48時間周期

三日熱マラリア

三日熱マラリアは、三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)によって引き起こされます。

48時間周期の発熱が特徴的ですが、重症化することは比較的稀です。

  • 48時間周期の発熱が特徴
  • 重症化することは比較的稀
  • 三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)が原因

卵形マラリア

卵形マラリアは、卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale)によって引き起こされます。

48時間周期の発熱が特徴的ですが、重症化することは稀です。

症状48時間周期の発熱
原因卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale)
重症度重症化することは稀

四日熱マラリア

四日熱マラリアは、四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)によって引き起こされます。

72時間周期の発熱が特徴的で、他の種類と比べると症状が軽めです。

マラリアの主な症状 – 周期的な発熱に注意

マラリアの症状は、感染した原虫の種類や患者の免疫状態によって異なりますが、一般的には発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛などが主な症状として知られています。

重症化した際には、貧血、黄疸、腎不全、意識障害などの合併症を引き起こすことがあるため、早期の診断と適切な治療が不可欠です。

発熱

マラリアの最も特徴的な症状は、周期的に繰り返される発熱です。

熱帯熱マラリアでは48時間周期、三日熱マラリアと卵形マラリアでは48時間周期、四日熱マラリアでは72時間周期で発熱が起こります。

マラリアの種類発熱の周期
熱帯熱マラリア48時間周期
三日熱マラリア48時間周期
卵形マラリア48時間周期
四日熱マラリア72時間周期

悪寒

発熱に伴って、悪寒が生じることがあります。これは、体温調節中枢が発熱に対抗しようとして引き起こされる症状です。

頭痛と筋肉痛

マラリアでは、頭痛や筋肉痛を伴うことがあります。これらの症状は、発熱に伴って現れることが多いです。

症状特徴
頭痛発熱に伴って現れることが多い
筋肉痛発熱に伴って現れることが多い

その他の症状

  • 倦怠感
  • 嘔吐
  • 下痢
  • 食欲不振

マラリアの症状は非特異的なものが多いため、流行地域への渡航歴がある場合は、マラリアを疑う必要があります。

マラリアの原因と感染経路 – マラリア原虫とハマダラカに注目

マラリアは、マラリア原虫という寄生虫によって引き起こされる感染症です。

この原虫は、ハマダラカという蚊を介して伝播され、蚊が吸血する際に人体に感染します。

マラリアの原因となる寄生虫

マラリアの原因となるのは、マラリア原虫(Plasmodium)という寄生虫で、以下の5種類があります。

  • 熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)
  • 三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)
  • 卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale)
  • 四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)
  • マラリア原虫(Plasmodium knowlesi)

ハマダラカによる感染経路

マラリアは、ハマダラカ属の雌蚊によって媒介されます。

ハマダラカが、マラリア原虫に感染した人の血液を吸血することで、原虫を体内に取り込みます。

感染経路詳細
ハマダラカの吸血マラリア原虫に感染した人の血液を吸血することで、原虫を体内に取り込む
ハマダラカから人への感染原虫を保有するハマダラカが、別の人を吸血する際に、唾液とともに原虫を注入する

人から人への感染経路

マラリアは、基本的にハマダラカを介して感染しますが、以下のような人から人への感染経路も存在します。

  • 母子感染(妊娠中の母親から胎児への感染)
  • 輸血による感染
  • 臓器移植による感染

マラリア原虫のライフサイクル

マラリア原虫は、ヒトとハマダラカの体内で複雑なライフサイクルを持っています。

ハマダラカの体内で増殖した原虫は、唾液とともにヒトの体内に注入され、肝臓で増殖した後、赤血球に侵入します。

赤血球内で原虫が増殖することで、マラリアの症状が引き起こされます。

診察(検査)と診断

マラリアの診断では、臨床症状や渡航歴などから疑いを持つことが大切です。

確定診断には、血液検査が必要不可欠であり、血液塗抹標本の顕微鏡検査や迅速診断テストが用いられます。

臨床診断

マラリアの臨床診断では、以下のような点に注目します。

  • 発熱、悪寒、頭痛などの症状
  • 流行地域への渡航歴
  • マラリアに特徴的な発熱パターン(48時間周期や72時間周期)
臨床診断のポイント詳細
症状発熱、悪寒、頭痛など
渡航歴流行地域への渡航歴の確認
発熱パターンマラリアに特徴的な発熱周期の確認

血液検査

マラリアの確定診断には、血液検査が必要です。 主に以下の2つの方法が用いられます。

血液検査の種類特徴
血液塗抹標本の顕微鏡検査感度が高く、種の同定が可能
迅速診断テスト(RDT)簡便で迅速に結果が得られる

血液塗抹標本の顕微鏡検査

血液塗抹標本の顕微鏡検査は、マラリア原虫の有無や種類を同定するための基本的な検査法です。

ギムザ染色などを施した血液塗抹標本を顕微鏡で観察することで、赤血球内のマラリア原虫を検出します。

この検査法は感度が高く、熟練した検査技師によって種の同定も可能ですが、検査に時間がかかることが欠点です。

迅速診断テスト(RDT)

迅速診断テスト(RDT)は、マラリア原虫の抗原を検出するための簡便な検査法です。

採取した血液を専用のテストキットに滴下し、15~20分程度で結果が判明します。

RDTは簡便で迅速に結果が得られるため、流行地域での診断に有用ですが、感度が血液塗抹標本の顕微鏡検査と比べて低いことが欠点です。

マラリアの治療法と処方薬

マラリアの治療では、原虫の種類や患者の状態に応じて、抗マラリア薬を選択することが大切です。

抗マラリア薬の種類

抗マラリア薬には、以下のような種類があります。

抗マラリア薬特徴
クロロキン三日熱マラリアや卵形マラリアに有効
メフロキン多剤耐性マラリアに対して使用
アトバコン・プログアニル予防投与にも使用される
アーテミシニン誘導体重症マラリアの治療に用いられる

原虫の種類による治療薬の選択

マラリア原虫の種類によって、治療薬の選択が異なります。

マラリアの種類第一選択薬
三日熱マラリアクロロキン
卵形マラリアクロロキン
四日熱マラリアクロロキンまたはメフロキン
熱帯熱マラリアアーテミシニン誘導体とその他の薬剤との併用療法(ACT)

重症マラリアの治療

重症マラリアの場合、早急な治療開始が必要です。アーテミシニン誘導体の注射薬や、キニーネの点滴投与が行われます。

患者の状態が安定したら、経口薬に切り替えて治療を継続します。

抗マラリア薬の副作用と注意点

抗マラリア薬の使用に際しては、副作用や注意点に留意する必要があります。

  • クロロキン:長期投与により網膜症を起こす可能性がある
  • メフロキン:神経精神症状や不整脈などの副作用がある
  • アトバコン・プログアニル:下痢や嘔吐などの消化器症状がみられることがある
  • アーテミシニン誘導体:副作用は少ないが、妊婦には推奨されない

治療に必要な期間と予後について

マラリアの治療期間と予後は、原虫の種類や患者の状態によって異なります。 一般的に、治療を受ければ、多くの患者は数日から1週間程度で回復します。

治療期間

マラリアの治療期間は、以下のような要因によって変わります。

  • 原虫の種類
  • 感染の重症度
  • 患者の免疫状態
  • 治療薬の種類と効果
マラリアの種類一般的な治療期間
三日熱マラリア3~7日
卵形マラリア3~7日
四日熱マラリア7~14日
熱帯熱マラリア7~14日

合併症がない場合の予後

治療を受けた場合、合併症のないマラリアの予後は良好です。

ほとんどの患者は、治療開始から数日から1週間程度で症状が改善し、回復します。

マラリアの種類予後
三日熱マラリア良好
卵形マラリア良好
四日熱マラリア良好
熱帯熱マラリア適切な治療を受けた場合は良好

重症マラリアの予後

重症マラリアの場合、予後は深刻になる可能性があります。早期の診断と集中治療が必要不可欠であり、治療が遅れると死亡リスクが高まります。

熱帯熱マラリアによる重症マラリアは、特に危険であり、適切な治療を受けない場合の致死率は15~20%にもなります。

再発と再感染

マラリアは、治療後も再発や再感染を起こすことがあります。

  • 三日熱マラリアと卵形マラリア:肝臓に潜伏する原虫により、数週間から数ヶ月後に再発することがある
  • 熱帯熱マラリアと四日熱マラリア:再感染により、再び発症する可能性がある

再発や再感染を防ぐためには、予防薬の継続服用や蚊に刺されないための対策が大切です。

マラリアの治療における副作用やリスク

マラリアの治療に用いられる抗マラリア薬は、患者の生命を救うために必要不可欠ですが、副作用やリスクも伴います。

治療の際には、薬剤の選択と投与量に注意が必要であり、患者のモニタリングを十分に行うことが重要です。

クロロキンの副作用とリスク

クロロキンは、三日熱マラリアや卵形マラリアの治療に用いられる薬剤ですが、以下のような副作用やリスクがあります。

  • 長期投与による網膜症
  • 心臓への影響(QT延長など)
  • 低血糖
  • 肝機能障害
副作用リスク
網膜症長期投与による不可逆的な視力障害
QT延長心室性不整脈のリスク
低血糖意識障害や痙攣のリスク
肝機能障害肝不全のリスク

メフロキンの副作用とリスク

メフロキンは、多剤耐性マラリアの治療に用いられますが、以下のような副作用やリスクがあります。

副作用リスク
神経精神症状自殺念慮や自殺行動のリスク
QT延長心室性不整脈のリスク
肝機能障害肝不全のリスク
血液障害出血のリスク

アーテミシニン誘導体の副作用とリスク

アーテミシニン誘導体は、重症マラリアの治療に用いられる薬剤ですが、以下のような副作用やリスクがあります。

  • アレルギー反応
  • 肝機能障害
  • 血液障害(貧血など)
  • 妊娠初期での催奇形性の可能性

患者のモニタリングの重要性

抗マラリア薬の投与中は、患者の状態を注意深くモニタリングすることが大切で、 以下のような点に注意が必要です。

  • 副作用の早期発見と対処
  • 薬物相互作用のチェック
  • 治療効果の評価と必要に応じた薬剤の変更

予防方法

マラリアを予防するためには、蚊に刺されないための対策と予防薬の服用が大切です。

流行地域への渡航者は、これらの予防措置を講じることで、マラリアのリスクを大幅に減らすことができます。

蚊に刺されないための対策

マラリアを媒介するハマダラカは、主に夜間に活動します。そのため、以下のような対策が有効です。

対策効果
長袖の衣服や長ズボンの着用肌の露出を減らし、蚊に刺されるリスクを低減
防虫剤の使用蚊の忌避効果により、刺されるリスクを低減
蚊帳の使用就寝時に蚊から身を守ることができる
網戸や扉の使用屋内への蚊の侵入を防ぐ

予防薬の服用

マラリアの流行地域に渡航する場合、医師の指示に従って予防薬を服用することが大切で、主な予防薬には以下のようなものがあります。

予防薬特徴
メフロキン週1回の服用で効果が持続する
アトバコン・プログアニル毎日の服用が必要だが、副作用が少ない
ドキシサイクリン毎日の服用が必要で、光線過敏症などの副作用がある
クロロキン一部の地域で耐性があるため、使用が制限されている

予防薬の選択と服用期間

予防薬の選択は、渡航先の地域や個人の健康状態によって異なります。医師や薬剤師と相談し、適切な予防薬を選択することが重要です。

予防薬は、渡航前から服用を開始し、帰国後も一定期間継続する必要があります。

服用期間は予防薬の種類によって異なりますが、通常は以下のようになります。

  • 渡航前:出発の1~2週間前から服用開始
  • 滞在中:滞在期間中は指示通りに服用を継続
  • 帰国後:帰国後も4週間程度服用を継続

その他の予防措置

マラリアの予防には、以下のような措置も有効です。

  • 流行地域での屋外活動を避ける
  • 高リスク地域での宿泊を避ける
  • 発熱などの症状が出た場合は速やかに医療機関を受診する

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

マラリアの治療費は、感染した原虫の種類や重症度、治療を受ける国や地域によって大きく異なります。

一般的に、開発途上国では数十ドルから数百ドル程度ですが、先進国では数千ドルから数万ドルに及ぶこともあります。

マラリアの治療費に影響する要因

マラリアの治療費は、以下のような要因によって変動します。

要因影響
感染した原虫の種類熱帯熱マラリアは重症化しやすく、治療費が高額になりやすい
感染の重症度重症マラリアでは集中治療が必要となり、治療費が高額になる
使用する抗マラリア薬の種類新しい抗マラリア薬は高価な場合がある
入院の必要性入院治療が必要な場合、治療費が高額になる
治療を受ける国や地域の医療事情医療資源が乏しい地域では治療費が安い傾向がある

開発途上国におけるマラリアの治療費

開発途上国では、マラリアの治療費は比較的安価です。

WHOによると、アフリカでは以下のような治療費の目安があります。

  • 非重症マラリアの治療:数ドルから20ドル程度
  • 重症マラリアの治療:数十ドルから200ドル程度

ただし、これらの金額は一般的な目安であり、国や地域によって差があります。

国・地域非重症マラリアの治療費重症マラリアの治療費
ナイジェリア5~10ドル50~100ドル
ケニア10~20ドル100~200ドル
タンザニア5~15ドル50~150ドル

先進国におけるマラリアの治療費

先進国では、マラリアの治療費は非常に高額になることがあります。 アメリカでは、重症マラリアの治療に数万ドルを要することもあります。

国・地域非重症マラリアの治療費重症マラリアの治療費
アメリカ数千ドル~1万ドル数万ドル~10万ドル
ヨーロッパ数千ユーロ~1万ユーロ数万ユーロ~10万ユーロ
日本数十万円~100万円数百万円~1,000万円

以上

References

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