マールブルグ病とは、エボラウイルスと同じフィロウイルス科に分類されるマールブルグウイルスが原因で発症する重篤なウイルス性出血熱の一つです。
マールブルグウイルスの自然宿主はアフリカに生息するオオコウモリであり、ウイルスに汚染された洞窟などでコウモリと接触することにより人への感染が広がると考えられています。
また、感染者の体液などを介した人から人への二次感染も起こるため、医療従事者などが感染リスクにさらされる可能性もあります。
マールブルグ病の致死率は23~90%と高く、現時点で特効薬が存在しないため、対症療法と合併症の予防が基本的な治療方針となります。
マールブルグ病の種類(病型)
軽症型マールブルグ病の特徴は、発熱や頭痛などの非特異的症状を呈するものの、出血症状や臓器障害などの重篤な合併症を伴わないことです。
病型 | 主な症状 |
軽症型 | 発熱、頭痛、筋肉痛など |
重症型 | 出血症状、臓器障害など |
大半の症例では支持療法のみで回復に向かいますが、一部の患者において重症化のリスクがあるため慎重な経過観察が求められます。
重症型マールブルグ病
重症型マールブルグ病では、出血症状や多臓器不全などの深刻な合併症を伴います。
適切な集中治療を実施しない場合、致死率は著しく高くなるため、重症患者の管理には以下の点に留意が必要です。
- 厳格な感染管理下での対症療法の実施
- 臓器不全に対する集中治療の提供
- 二次感染防止のための措置の徹底
極重症型マールブルグ病
極重症型マールブルグ病は、急速に病状が進行し、発症後わずか数日で致死的な経過をたどる最も重篤な病型と言えます。
病型 | 予想される致死率 |
軽症型 | 10%未満 |
重症型 | 50~80% |
極重症型 | 90%以上 |
現時点の医療技術では、ほとんどの症例で救命は非常に困難であり、感染予防と早期発見の重要性が高まっています。
妊娠女性におけるマールブルグ病の特徴
妊娠女性がマールブルグウイルスに感染した際には、流産や死産のリスクが非常に高くなる点に注意が必要です。
加えて、母体自体も重症化しやすく、非妊娠女性と比べて致死率が有意に高いことが知られています。
妊婦のマールブルグ病管理においては、産科医と感染症専門医の緊密な連携が欠かせません。
マールブルグ病の主な症状
マールブルグ病の症状は、発熱や出血症状など多岐にわたりますが、病期が進行するにつれて重症化していく傾向があります。
発熱と全身症状
マールブルグ病の初発症状として最も頻度が高いのは、急性の発熱です。
主な症状 | 頻度 |
38℃以上の発熱 | 90%以上 |
頭痛 | 70~80% |
筋肉痛 | 60~70% |
倦怠感 | 60~70% |
発熱に加えて、頭痛や筋肉痛、倦怠感などの全身症状も高い頻度で認められます。
これらの症状は非特異的であるため、初期段階で診断を下すことは容易ではありません。
消化器症状
発症から数日が経過すると、消化器症状が現れ始めます。
主な症状は以下の通りです。
- 嘔吐
- 下痢
- 腹痛
これらの症状は、脱水や電解質異常を引き起こす恐れがあるため、注意深い管理が求められます。
主な症状 | 頻度 |
嘔吐 | 50~60% |
下痢 | 50~60% |
腹痛 | 40~50% |
出血症状
マールブルグ病の重症例では、皮膚や粘膜からの出血が認められます。
出血症状は、以下のような部位に出現することが多いです。
- 歯肉
- 鼻腔
- 消化管
- 腟
出血症状は、血小板減少や凝固異常を反映しており、予後不良の兆候と考えられています。
重症例では、致死的な消化管出血や脳出血を来すこともあります。
多臓器不全
マールブルグ病の後期には、全身の臓器障害が進行し、多臓器不全に陥ることがあります。
肝不全、腎不全、呼吸不全などが代表的ですが、これらの合併症は極めて予後不良です。
多臓器不全に対しては、人工呼吸管理や血液浄化療法などの集中治療を要しますが、治療に抵抗性を示すことが少なくありません。
マールブルグ病の原因・感染経路
マールブルグウイルスは、オオコウモリを自然宿主とするフィロウイルスの一種であり、コウモリとの直接的な接触や、感染動物との接触などを介してヒトに感染します。
マールブルグウイルスの起源
マールブルグウイルスの自然宿主は、アフリカに生息するオオコウモリ(ルーセットオオコウモリ)であることが知られています。
ウイルス名 | 自然宿主 |
マールブルグウイルス | オオコウモリ |
エボラウイルス | オオコウモリ |
オオコウモリは、ウイルスに感染していても無症状であるため、長期間にわたってウイルスを保有し、排出し続けることができます。
コウモリの生息地域では、ウイルスに汚染された洞窟などを介して、ヒトへの感染リスクが高まります。
動物からヒトへの感染
マールブルグウイルスは、以下のような経路で動物からヒトに感染します。
- コウモリとの直接的な接触
- コウモリの排泄物や体液との接触
- 感染したサルとの接触
アフリカでは、オオコウモリの肉を食用とすることがあり、狩猟や調理の過程でウイルスに曝露されるリスクがあります。
また、感染したサルを介したヒトへの感染例も報告されています。
感染経路 | リスクの程度 |
コウモリとの直接的な接触 | 高い |
コウモリの排泄物や体液との接触 | 高い |
感染したサルとの接触 | 中程度 |
ヒトからヒトへの二次感染
マールブルグウイルスは、感染者の血液や体液に直接触れることで、ヒトからヒトへの二次感染を引き起こします。
感染者を看護する家族や医療従事者は、高い感染リスクにさらされています。
また、感染者の遺体との接触も、ウイルス伝播の重要な経路の一つです。
葬儀での遺体との直接的な接触は、アフリカにおける感染拡大の主な要因となっています。
診察(検査)と診断
マールブルグ病の診断には、臨床所見と検査所見の両方が重要です。
疫学的情報も考慮しながら、早期に診断を確定し、適切な感染対策と治療を開始することが、患者の予後を改善する上で欠かせません。
臨床所見による診断
マールブルグ病の診断において、臨床所見は重要な手がかりとなります。
主な臨床所見 | 特徴 |
発熱 | 38℃以上の高熱 |
出血症状 | 皮膚や粘膜からの出血 |
全身症状 | 頭痛、筋肉痛、倦怠感など |
消化器症状 | 嘔吐、下痢、腹痛など |
これらの症状に加えて、以下のような疫学的情報も診断の手がかりとなります。
- アフリカの流行地域への渡航歴
- コウモリとの接触歴
- 感染者との接触歴
臨床所見と疫学的情報を組み合わせることで、マールブルグ病を疑うことができます。
検査による確定診断
マールブルグ病の確定診断には、以下のような検査が用いられます。
検査方法 | 検出対象 |
ウイルス分離 | マールブルグウイルス |
抗原検出検査(ELISA法など) | ウイルス抗原 |
遺伝子検出検査(RT-PCR法など) | ウイルス遺伝子 |
抗体検出検査 | IgM抗体、IgG抗体 |
これらの検査は、発症初期の血液や体液を用いて行われます。
特に、ウイルス分離や遺伝子検出検査は、感度が高く、確定診断に有用です。
バイオセーフティの確保
マールブルグウイルスは、感染力が非常に強く、致死率も高いため、検査には高度なバイオセーフティ対策が必要です。
検体の採取や輸送、検査の実施に際しては、以下のような点に注意が必要です。
- 適切な個人防護具の使用
- 検体の安全な取り扱い
- 検査室の隔離と消毒
- 検査従事者の健康管理
バイオセーフティを確保することは、検査の安全性と精度を保証する上で欠かせません。
マールブルグ病の治療法と処方薬
マールブルグ病に対する治療は、主に対症療法と支持療法が中心となります。
早期診断と早期治療を行いながら、新たな治療選択肢の実用化を目指すことが、マールブルグ病の制圧に向けた重要な課題と言えます。
支持療法の重要性
マールブルグ病の治療において、支持療法は患者の生命予後を改善する上で重要な役割を果たします。
支持療法には、以下のようなものがあります。
支持療法の種類 | 目的 |
輸液・電解質管理 | 脱水と電解質異常の補正 |
呼吸管理 | 呼吸不全の予防と治療 |
血液製剤の投与 | 出血傾向の改善 |
二次感染の予防 | 細菌感染症の予防 |
これらの支持療法を適切に行うことで、患者の全身状態を改善し、合併症を予防することができます。
特に、重症例では集中治療室での全身管理が必要となります。
開発中の治療薬
マールブルグ病に対する特異的な治療薬は、現在開発中です。
以下のような治療薬が研究されています。
治療薬の種類 | 作用機序 |
抗ウイルス薬 | ウイルスの増殖を抑制 |
回復期血漿療法 | 中和抗体による感染防御 |
モノクローナル抗体療法 | ウイルスの細胞侵入を阻害 |
これらの治療薬は、実験的な段階であり、臨床試験で有効性と安全性が評価されています。
将来的には、これらの治療薬がマールブルグ病の治療選択肢となる可能性があります。
早期治療の重要性
マールブルグ病の治療では、早期診断と早期治療が重要です。
発症早期から適切な支持療法を開始することで、患者の予後を改善することができます。
また、特異的な治療薬が開発された場合、早期に投与を開始することで、治療効果を最大限に高めることが期待されます。
早期治療のためには、疑い例の早期発見と速やかな検査が欠かせません。
治療に必要な期間と予後について
マールブルグ病の治療期間と予後は、病型によって大きく異なります。
軽症例では比較的短期間で回復が期待できる一方、重症例では長期の治療を要し、予後不良となることが少なくありません。
軽症例の治療期間と予後
軽症例では、支持療法のみで回復に向かうことが多いです。
病型 | 治療期間 | 予後 |
軽症 | 1~2週間 | 良好 |
重症 | 数週間~数ヶ月 | 不良 |
多くの場合、発症から1~2週間程度で症状は改善し、後遺症なく治癒します。
致死率は10%未満であり、適切な支持療法が行われれば、予後は良好と言えます。
ただし、一部の症例では重症化するリスクがあるため、慎重な経過観察が必要です。
重症例の治療期間と予後
重症例では、集中治療を要する期間が長期化し、治療に数週間から数ヶ月を要することがあります。
重症患者では、以下のような合併症を伴うことが多いです。
合併症の種類 | 頻度 | 予後への影響 |
出血症状 | 高い | 重度の貧血や脳出血により予後不良 |
多臓器不全 | 高い | 治療抵抗性で致死率が高い |
播種性血管内凝固(DIC) | 中程度 | 出血傾向や臓器障害を引き起こす |
二次性の細菌感染症 | 中程度 | 全身状態の悪化や治療期間の延長 |
これらの合併症は、治療を難渋させ、予後を悪化させる要因となります。
重症例の致死率は50~90%と非常に高く、集中治療を行っても救命が困難なことが少なくありません。
予後不良因子
マールブルグ病の予後を悪化させる因子として、以下のようなものが知られています。
- 高齢
- 基礎疾患の存在
- 免疫抑制状態
- 妊娠
- 発症から治療開始までの期間が長い
これらの因子を有する患者では、重症化のリスクが高く、予後不良となる傾向があります。
特に、高齢者や基礎疾患を有する患者では、合併症の頻度が高く、治療に難渋することが多いです。
早期治療の重要性
マールブルグ病の予後を改善するためには、早期診断と早期治療が重要です。
発症から治療開始までの期間が長いほど、重症化のリスクが高まり、予後不良となります。
治療開始時期 | 予後 |
発症から48時間以内 | 比較的良好 |
発症から48時間以降 | 不良 |
疑い例を早期に発見し、速やかに検査と治療を開始することが、患者の生命予後を改善する上で欠かせません。
また、重症例に対しては、経験豊富な医療チームによる集学的な治療が必要となります。
マールブルグ病の治療における副作用やリスク
マールブルグ病の治療では、支持療法に伴う副作用と、実験的治療に伴うリスクが存在します。
支持療法に伴う副作用
マールブルグ病の支持療法では、以下のような副作用が生じる可能性があります。
治療の種類 | 副作用 |
輸液療法 | 電解質異常、浮腫 |
呼吸管理 | 人工呼吸器関連肺炎、気道損傷 |
血液製剤投与 | アレルギー反応、感染症伝播 |
抗菌薬投与 | 薬剤耐性菌の出現、副作用 |
これらの副作用は、患者の全身状態によっては重篤化する可能性があるため、慎重なモニタリングが必要です。
特に、人工呼吸器関連肺炎は、人工呼吸管理を要する重症患者で頻度が高く、予後を悪化させる要因となります。
また、血液製剤の投与では、未知の感染症の伝播リスクを完全には排除できないことに留意が必要です。
実験的治療に伴うリスク
マールブルグ病に対する特異的治療薬は開発中であり、いくつかの実験的治療が試みられています。
これらの治療には、以下のようなリスクが伴います。
- 有効性が確立していない
- 安全性が十分に検証されていない
- 副作用の可能性がある
- 長期的な影響が不明である
特に、抗ウイルス薬や回復期血漿療法では、以下のような副作用が報告されています。
治療の種類 | 副作用 |
抗ウイルス薬 | 肝機能障害、腎機能障害、骨髄抑制 |
回復期血漿療法 | アレルギー反応、輸血関連急性肺障害(TRALI) |
これらの副作用は、重症患者では致死的となる可能性があるため、リスクとベネフィットを慎重に評価する必要があります。
予防方法
マールブルグ病の予防には、感染リスクの管理と発生時の迅速な対応が重要です。
感染リスクの管理
マールブルグ病の感染リスクを管理するためには、以下のような対策が必要です。
対策の種類 | 内容 |
動物との接触の管理 | コウモリなどの動物との不用意な接触を避ける |
感染源の制御 | コウモリの生息地域への立ち入りを制限する |
個人防護具の使用 | 感染リスクのある場面では、適切な個人防護具を使用する |
手指衛生の徹底 | 石鹸と水による手洗いや、アルコール手指消毒薬の使用を徹底する |
特に、コウモリとの接触は、マールブルグウイルスへの曝露リスクが高いため、避けることが大切です。
また、コウモリの生息地域では、洞窟などへの不用意な立ち入りを控えることが重要です。
発生時の対策
マールブルグ病の発生が確認された場合、以下のような対策が必要です。
対策の種類 | 目的 |
疑い例の早期発見と隔離 | 感染拡大の防止 |
接触者の特定と健康観察 | 二次感染の早期発見 |
感染経路の調査と制御 | 感染源の特定と制御 |
医療機関における感染管理の徹底 | 医療関連感染の防止 |
迅速な疑い例の発見と隔離は、感染拡大を防ぐ上で欠かせません。
また、接触者の特定と健康観察は、二次感染の早期発見に役立ちます。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
マールブルグ病の治療には多額の医療費がかかりますが、各国の公的医療保険や国際的な支援制度を活用することで、患者の経済的負担を軽減することが可能です。
マールブルグ病の治療には、以下のような費用がかかります。
費用項目 | 概算費用 |
入院費(1日あたり) | 1,000~3,000 USD |
集中治療室費用(1日あたり) | 3,000~5,000 USD |
抗ウイルス薬 | 5,000~10,000 USD |
支持療法(輸血、呼吸管理など) | 10,000~20,000 USD |
重症例では、数週間から数ヶ月の入院治療を要することがあり、総医療費は数十万USドルに上ることもあります。
また、後遺症の治療や社会復帰のためのリハビリテーションにも多額の費用がかかる場合があります。
以上
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