非コレラビブリオ(ナグビブリオ) – 感染症

非コレラビブリオ(ナグビブリオ)(non cholera non agglutinating vibriosis)とは、海水中に生息する細菌のことです。

主に魚介類の生食や不十分な加熱調理により人体に侵入します。

この病原体は食中毒様の下痢や腹痛、発熱症状を引き起こし、夏季に多く発生するため、海水浴や魚介類の取り扱いには注意が必要です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

非コレラビブリオ(ナグビブリオ)の種類(病型)

非コレラビブリオ(ナグビブリオ)感染症は胃腸炎型、敗血症型、創傷感染型に分類され、それぞれ異なる特徴を持ちます。

胃腸炎型

胃腸炎型は、非コレラビブリオ感染症の中で最も一般的な病型です。

主に汚染された海産物の生食や、不十分な加熱調理によって引き起こされ、胃腸炎型は数日間で自然に回復することが多いですが、重症化する場合もあります。

特徴詳細
主な感染経路汚染された海産物の摂取
主要症状下痢、腹痛、嘔吐
一般的な経過数日間で自然回復

敗血症型

敗血症型は、非コレラビブリオ感染症の中でも特に深刻な病型であり、生命を脅かす可能性がある状態です。

主に、免疫機能が低下している方や慢性疾患を持つ方に見られますが、まれに健康な成人でも発症することがあります。

敗血症型は急速に進行する可能性があるため、早期発見と迅速な医療介入が不可欠です。

創傷感染型

創傷感染型は、非コレラビブリオ菌が皮膚の傷口から侵入することで発症する病型で、海水や汚染された水環境での活動後に注意が必要です。

この型は海水や汚染された水に触れた際に生じ、皮膚に傷や擦り傷がある場合にはリスクが増大します。

病型主な感染経路主要症状
胃腸炎型汚染された海産物の摂取下痢、腹痛、嘔吐
敗血症型菌の血流への侵入高熱、血圧低下、意識障害
創傷感染型傷口からの菌の侵入局所の発赤、腫脹、痛み

非コレラビブリオ(ナグビブリオ)の主な症状

非コレラビブリオ(ナグビブリオ)感染症の症状には下痢、発熱、腹痛などがありますが、病型によって症状の程度や種類がかなり異なります。

胃腸炎型の症状

胃腸炎型の典型的な症状は、激しい腹痛や水様性の下痢で、感染後12〜24時間程度で現れることが多いです。

また、嘔吐や吐き気を伴うこともあり、患者さんの体調を著しく低下させ、食事摂取が困難になることもあります。

発熱は軽度から中等度で、38〜39度程度です。

下痢が激しい際は、水分と電解質のバランスが崩れやすくなり、めまいや倦怠感、尿量の減少などが現れることがあります。

胃腸炎型の主な症状

症状特徴
下痢水様性、頻回
腹痛激しい、持続的
発熱38〜39度程度
嘔吐随伴することがある
脱水重症化のリスクあり

敗血症型の症状

敗血症型は比較的まれではありますが、迅速な対応が求められる深刻な状態です。

この型では、細菌が血流に侵入し全身に広がることで全身の炎症反応が引き起こされ、多臓器不全に発展する可能性があります。

初期症状として高熱(39度以上)や悪寒、といった全身症状が現れることが多いです。

進行すると、血圧低下や頻脈、呼吸困難などのショック症状が見られる場合があります。

また、意識障害や錯乱状態に陥ることもあり、迅速な対応が必要です。

皮膚症状として、紫斑や点状出血が出現することがあり、血液凝固系の異常を示唆している可能性があります。

肝機能や腎機能の低下が起こりやすく、黄疸や乏尿などの症状が現れることも。

創傷感染型の症状

創傷感染型海水や魚介類に接触した後に傷口の異常を感じた場合は、創傷感染型を疑う必要があります。

この型の特徴的な症状は、感染部位周辺の発赤、腫脹、疼痛です。通常、感染後24〜48時間以内に現れ始め、徐々に悪化していきます。

感染部位は徐々に広がり、熱感を伴うことが多く、患部に触れると強い痛みを感じるほどに。

重症化すると、潰瘍や壊死が形成されることもあり、場合によっては外科的処置が必要です。

創傷感染型の主な症状

局所症状全身症状
発赤発熱
腫脹倦怠感
疼痛リンパ節腫脹
熱感悪寒

症状の経過と注意点

胃腸炎型の場合、通常2〜3日程度で症状のピークを迎え、その後徐々に改善しますが、個人差が大きく、回復に1週間以上かかるケースも珍しくありません。

敗血症型は急速に症状が悪化する可能性が高く、24〜48時間以内に重篤な状態に陥ることもあります。

創傷感染型では、感染部位の症状が徐々に拡大していくことが多く、処置を行わないと全身症状へと発展する恐れがあるので、傷口の清潔保持と定期的な観察が必要です。

各病型における注意すべき症状

・胃腸炎型

  • 頻回の水様性下痢
  • 脱水症状(口渇、尿量減少、めまい)
  • 38度以上の発熱が3日以上続く場合

・敗血症型

  • 39度以上の高熱
  • 意識レベルの低下
  • 血圧低下や頻脈

・創傷感染型

  • 感染部位の急速な拡大
  • 潰瘍や壊死の形成
  • 全身症状の出現(高熱、倦怠感)

非コレラビブリオ(ナグビブリオ)の原因・感染経路

非コレラビブリオ(ナグビブリオ)感染症は、海洋環境に生息する細菌によって引き起こされ、主な原因は汚染された海産物の摂取や海水との接触です。

非コレラビブリオの特徴

非コレラビブリオは、海洋環境に広く分布する細菌の一種で、塩分を好む性質を持ち、主に沿岸域や河口付近の汽水域に生息しています。

水温が20℃を超える夏季に増殖が活発になるため、この時期に感染リスクが高いです。

特徴詳細
生息環境海洋、特に沿岸域や汽水域
好適条件塩分存在下、水温20℃以上
栄養源海水中の有機物、微生物

経口感染

経口感染は、非コレラビブリオ感染症の主要な感染経路の一つで、食品衛生の観点から特に注意が必要とされる経路です。

汚染された海産物を生食したり、十分に加熱調理せずに摂取することで感染が起こりますが、調理過程での交差汚染や不適切な保存方法によっても感染リスクが高まります。

また、汚染された海水を誤って飲み込んだ時や、汚染された調理器具を介して二次汚染された食品を摂取した際にも感染の危険性があり、食品取り扱いの全過程における衛生管理が重要です。

創傷感染

創傷感染は、もう一つの重要な非コレラビブリオの感染経路であり、海洋関連の職業や活動に従事する方にとってリスクが高い経路です。

海水や汚染された水に触れた際に、皮膚の傷や擦り傷から細菌が侵入することで感染が起こります。

感染経路主な感染源リスク要因
経口感染汚染された海産物、海水生食、不十分な加熱
創傷感染汚染された海水、水皮膚の傷、海関連活動

環境要因と感染リスク

非コレラビブリオの増殖と感染リスクは、環境要因に大きく影響されます。

  • 水温の上昇(特に20℃以上)
  • 塩分濃度の変化
  • 海水の汚染度
  • 海産物の取り扱い方法
  • 個人の免疫状態

特に、夏季は水温の上昇により細菌の増殖が活発になるため、注意が必要です。

診察(検査)と診断

非コレラビブリオ(ナグビブリオ)感染症の診断は、臨床症状の観察、問診、身体診察、そして各種検査を組み合わせて行います。

問診と身体診察

非コレラビブリオ感染症の診断時に、患者さんの症状の詳細、発症時期、経過などを丁寧に聴取します。

身体診察では、全身状態の評価とともに、消化器系や発赤や腫脹、潰瘍形成などの皮膚症状を確認することで、感染の程度や進行状況を把握します。

発熱の有無や程度、脱水症状の確認も重要な診察項目です。

問診と身体診察で確認する主な項目

問診項目身体診察項目
症状の詳細体温測定
発症時期腹部触診
海産物摂取歴皮膚状態確認
海水接触歴脱水症状確認

検査法

非コレラビブリオ感染症では、原因菌を直接検出することで、確実な診断を行えます。

主な検査方法は、便培養検査や血液培養検査です。

  • 便培養検査 胃腸炎型の診断に有用で、患者さんの便検体から原因菌を分離・同定します。検体の採取から結果が出るまでに2〜3日程度かかりますが、確実な診断が可能です。
  • 血液培養検査 敗血症型の診断に用いられ、血液中の細菌を検出します。重症例や全身症状が強い場合に重要で、抗菌薬選択にも役立ちます。

これらの培養検査には通常数日を要するため、PCR法などの遺伝子検査を用いることで、より短時間での診断が可能となりつつあります。

非コレラビブリオ感染症の主な検査法

検査名対象検体主な用途
便培養便胃腸炎型の診断
血液培養血液敗血症型の診断
PCR法便・血液迅速診断

非コレラビブリオ(ナグビブリオ)の治療法と処方薬、治療期間

非コレラビブリオ(ナグビブリオ)感染症の治療は、軽症例では経口抗生物質と水分補給が中心で、重症例では入院管理下での静脈内抗生物質投与が必要になることがあります。

抗生物質療法

非コレラビブリオ感染症に対する主要な治療法は、抗生物質療法です。

一般的に使用される抗生物質には、テトラサイクリン系、ニューキノロン系、第三世代セフェム系などがあり、選択は臨床経験や細菌培養の結果を踏まえて行われます。

抗生物質の種類主な使用例
テトラサイクリン系第一選択薬として
ニューキノロン系重症例や耐性菌疑い
第三世代セフェム系入院治療が必要な場合

支持療法

抗生物質療法と並行して、軽症例では経口補水液の摂取が推奨されますが、重症例では点滴による輸液療法が必要です。

また、発熱や痛みに対しては対症療法として解熱鎮痛薬が使用されることもあります。

治療期間

軽症例では3〜5日間の抗生物質投与で改善が見られることが多いです。

一方、重症例や合併症がある場合は、10日以上の治療期間が必要となることもあり、免疫不全患者さんや高齢者では慎重な経過観察が求められます。

重症度一般的な治療期間
軽症3〜5日
中等症5〜7日
重症7〜14日以上

予後と再発可能性および予防

非コレラビブリオ感染症は、治療により多くの場合良好な予後が期待できますが、重症化や再発のリスクもあるため、経過観察が必要です。

予後の概要

多くの患者さんは、数日から1週間程度で回復しますが、患者さんの年齢や基礎疾患の有無、感染の程度によって予後が異ります。

予後に影響を与える主な要因

要因予後への影響
年齢高齢者ほどリスク増加
基礎疾患免疫不全などで悪化の可能性
感染の程度重症例ほど回復に時間を要する
早期対応早期発見・対応で予後改善

重症化のリスク

非コレラビブリオ感染症は、まれに重症化し、重症化のリスクが高い群は、高齢者、小児、妊婦、免疫機能が低下している方などです。

肝臓疾患を持つ方は重症化のリスクが高く、免疫系にも影響を与えるため、感染に対する抵抗力が弱くなっている可能性があります。

重症化した場合、敗血症や多臓器不全などの合併症を引き起こすことがあるので、早期発見と迅速な対応が不可欠です。

再発の可能性

非コレラビブリオ感染症の再発は比較的まれですが、完全に否定することはできません。

再発のリスク要因

  • 不十分な治療期間
  • 抗菌薬耐性菌の出現
  • 繰り返しの暴露(汚染された食品の摂取など)
  • 免疫機能の低下

再発を防ぐためには、十分な期間の療養を行い、治療の中断や自己判断での服薬停止は、再発のリスクを高めることがあるため避けてください。

予防法

非コレラビブリオ感染症の予防には、食品衛生と個人衛生の徹底が重要です。

効果的な予防策法

  • 海産物の十分な加熱調理
  • 生の魚介類の取り扱いに注意(調理器具の洗浄・消毒を徹底)
  • 手洗いの徹底(特に調理前、食事前、トイレ使用後) ・傷口の処置と保護(海水浴時など)
  • 安全な水の使用(飲料水、調理用水)

特に夏季は、ビブリオ属菌が増殖しやすい環境なので、より一層の注意が必要です。

非コレラビブリオ(ナグビブリオ)の治療における副作用やリスク

非コレラビブリオ(ナグビブリオ)感染症の治療に用いられる抗生物質療法には消化器症状、アレルギー反応、耐性菌の出現などの副作用とリスクがあります。

抗生物質療法に伴う副作用

抗生物質療法は非コレラビブリオ感染症の主要な治療法で、消化器症状(悪心、嘔吐、下痢)が最も一般的な副作用の一つです。

腸内細菌叢のバランスが崩れることで引き起こり、長期にわたって持続することもあります。

また、ある種の抗生物質では、光線過敏症や肝機能障害などの副作用が生じる場合もあります。

副作用頻度
消化器症状高頻度
アレルギー反応中頻度
光線過敏症低頻度
肝機能障害低頻度

アレルギー反応のリスク

抗生物質によるアレルギー反応は、軽度の皮疹から、アナフィラキシーショックのような生命を脅かす反応まで、さまざまな程度の反応が起こり得ます。

特に、ペニシリン系やセフェム系抗生物質でアレルギー反応が報告されているため、注意が必要です。

耐性菌出現のリスク

抗生物質の乱用により、薬剤耐性を持つ細菌が増殖するリスクがあります。

輸液療法に関連するリスク

過剰な輸液は、肺水腫や心不全を引き起こす可能性があり、高齢者や心機能低下患者さんでは注意が必要です。

一方、不十分な輸液は脱水状態の改善を妨げ、腎機能障害のリスクを高め、既存の腎疾患を有する患者さんでは慎重な管理が求められます。

リスク原因
肺水腫過剰輸液
腎機能障害不十分な輸液
電解質異常不適切な輸液管理

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外来治療の費用

軽症の場合、外来治療で対応可能です。

項目金額(円)
診察料2,800
検査費5,000〜10,000
薬剤費3,000〜5,000

入院治療の費用

重症の場合、入院治療が必要となります。

項目金額(円/日)
入院基本料10,000〜30,000
検査・処置費10,000〜30,000
薬剤費5,000〜15,000

以上

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