ペスト – 感染症

感染症の一種であるペストとは、Yersinia pestisという細菌が原因となって発症する重篤な感染症のことを指します。

主な感染経路は、ペスト菌に感染したノミに咬まれることによるものですが、肺ペストの際は飛沫感染によって人から人へ感染が拡大する可能性もあります。

ペストは早期発見と速やかな対応が非常に重要な感染症であり、適切な処置が遅れると死亡率が高くなるリスクがある危険な疾患です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

ペストの種類(病型)

ペストには、腺ペスト、肺ペスト、敗血性ペストという3つの主要な病型が存在します。それぞれの病型によって、症状や感染経路、重症度が異なるため、正しく理解しておくことが大切です。

腺ペスト

腺ペストは、ペスト菌に感染したノミに咬まれることで感染が成立します。

感染部位の近くのリンパ節が腫れ上がり、発熱や全身倦怠感などの症状が現れます。

適切な処置が行われないと、敗血症や肺ペストへと進行してしまう可能性があります。

感染経路症状
ペスト菌に感染したノミに咬まれるリンパ節の腫れ、発熱、全身倦怠感

肺ペスト

肺ペストは、腺ペストや敗血性ペストが適切に治療されなかった際に発症することがあります。

また、肺ペストに感染した患者の飛沫を吸い込むことでも感染が広がり、高熱、咳、血痰などの呼吸器症状が特徴的です。

肺ペストの症状は急速に悪化し、治療が遅れると死亡率が非常に高くなってしまいます。

敗血性ペスト

敗血性ペストは、腺ペストや肺ペストから病状が進行した場合や、ペスト菌が直接血流に入り込んだ際に発症します。

ペスト菌が血液中で増殖し、全身に広がることで、多臓器不全を引き起こします。

敗血性ペストの症状として、以下のようなものが挙げられます。

  • 高熱
  • ショック状態
  • 意識障害
  • 播種性血管内凝固(DIC)
病型感染経路
腺ペストペスト菌に感染したノミに咬まれる
肺ペスト他のペスト患者からの飛沫感染
敗血性ペスト腺ペストや肺ペストから進行、または菌が直接血流に侵入

ペストの主な症状

ペストの症状は、感染した病型によって大きく異なります。腺ペスト、肺ペスト、敗血性ペストのそれぞれの症状を理解し、早期発見と迅速な治療を行うことが重要です。

腺ペストの症状

腺ペストは、ペスト菌に感染したノミに咬まれることで感染が成立します。

感染部位の近くのリンパ節が腫れ上がり、発熱や全身倦怠感などの症状が現れます。

症状詳細
リンパ節の腫れ感染部位近くのリンパ節が腫れ、圧痛を伴う
発熱38°C以上の高熱が続く
全身倦怠感だるさや疲労感が強くなる

肺ペストの症状

肺ペストは、腺ペストや敗血性ペストから病状が進行した際や、肺ペストの患者からの飛沫感染によって発症し、以下のような呼吸器症状が特徴的です。

症状重症度
高熱(38°C以上)重症
中等症~重症
血痰重症
呼吸困難重症

肺ペストは急速に悪化し、適切な処置が行われないと死亡率が非常に高くなってしまいます。

敗血性ペストの症状

敗血性ペストは、腺ペストや肺ペストから病状が進行した場合や、ペスト菌が直接血流に入り込んだ際に発症します。

症状は急激に悪化し、多臓器不全を引き起こします。

敗血性ペストの主な症状は次のようなものです。

  • 高熱
  • ショック状態
  • 意識障害
  • 播種性血管内凝固(DIC)

敗血性ペストは、治療が遅れると高い確率で死亡につながってしまいます。

ペストの原因・感染経路

ペストは、Yersinia pestisという細菌によって引き起こされる感染症であり、主に感染したノミを介して人に感染します。

ペストの原因菌

ペストの原因となるのは、Yersinia pestisというグラム陰性桿菌です。

この細菌は、自然界ではげっ歯類(ネズミなど)の体内で増殖し、ノミに取り込まれることで感染環を形成します。

特徴詳細
グラム染色陰性
形状桿菌
自然宿主げっ歯類(ネズミなど)

ノミを介した感染経路

ペストは、主にペスト菌に感染したノミに咬まれることによって人に感染します。

感染したノミがげっ歯類を咬むことで、ペスト菌がげっ歯類の体内で増殖し、新たなノミに取り込まれ、このサイクルを繰り返すことで、ペスト菌は自然界で維持されています。

人への感染は、次のような経路で起こります。

  1. 感染したノミに直接咬まれる
  2. 感染したげっ歯類との接触
  3. 感染した動物の死骸との接触

人から人への感染経路

ペストは、通常は人から人へ直接感染することはありません。

しかし、肺ペストの場合、感染者の咳などの飛沫を吸い込むことで、人から人への感染が起こり得ます。

病型人から人への感染
腺ペストまれ
敗血症ペストまれ
肺ペスト飛沫感染の可能性あり

臨床診断と確定診断について

ペストの診断は、臨床症状と検査結果を組み合わせて行います。

早期発見と迅速な対応が大切であるため、疑わしい症例に対しては積極的に検査を実施することが欠かせません。

臨床診断

ペストの臨床診断は、患者の症状と病歴、感染リスクの評価を基に行い、以下のような点を考慮します。

    臨床診断の要点詳細
    症状発熱、リンパ節腫脹、全身倦怠感など
    病歴ペスト流行地への渡航歴、感染動物との接触歴、ペスト患者との接触歴

    確定診断

    ペストの確定診断には、以下のような検査が用いられます。

    • 細菌学的検査:リンパ節穿刺液、血液、喀痰などの検体からペスト菌を分離・同定する。
    • 血清学的検査:ペスト菌に対する抗体を検出する。
    • 遺伝子検査:PCR法によりペスト菌のDNAを検出する。

    検査の注意点

    ペスト菌は感染力が強く、検査には十分な感染対策が必要です。検体の採取や取り扱いは、専門の医療機関で行うことが重要です。

    また、検査結果の解釈には注意が必要です。特に、血清学的検査では、他の細菌との交差反応により偽陽性となることがあります。

    ペストの治療法と処方薬

    ペストの治療は、早期発見と迅速な抗菌薬治療が大切です。

    使用される抗菌薬は、ペストの病型や重症度によって異なりますが、テトラサイクリン系、アミノグリコシド系、フルオロキノロン系などが主に用いられます。

    腺ペストの治療

    腺ペストの治療には、以下のような抗菌薬が使用されます。

    抗菌薬投与期間
    ドキシサイクリン(テトラサイクリン系) 10~14日間
    ゲンタマイシン(アミノグリコシド系) 10~14日間
    シプロフロキサシン(フルオロキノロン系)10~14日間

    通常、10日間から14日間の投与が行われます。

    敗血症ペストの治療

    敗血症ペストの際は、より強力な抗菌薬治療が必要です。以下のような薬剤が使用されます。

    • ストレプトマイシン(アミノグリコシド系)
    • ゲンタマイシン(アミノグリコシド系)
    • レボフロキサシン(フルオロキノロン系)

    治療期間は、症状の改善を確認しながら、10日間から14日間が目安となります。

    肺ペストの治療

    肺ペストの治療には、腺ペストや敗血症ペストと同様の抗菌薬が使用されますが、感染拡大防止のために隔離措置が必要です。

    病型隔離措置
    腺ペスト不要
    敗血症ペスト不要
    肺ペスト必要

    また、肺ペストでは呼吸不全に対する呼吸管理も重要な治療の一部となります。

    治療に必要な期間と予後について

    ペストの治療期間は、病型に関わらず10日間から14日間が一般的ですが、予後は早期発見と迅速な治療開始に大きく依存します。

    特に、敗血症ペストや肺ペストでは、治療の遅れや合併症により予後不良となる可能性が高いため、疑わしい症状がある際は速やかに医療機関を受診することが大切です。

    腺ペストの治療期間と予後

    腺ペストの治療期間は、抗菌薬の投与開始から10日間から14日間が一般的です。

    早期に治療を開始した場合、多くの患者は良好な経過をたどります。

    病型治療期間予後
    腺ペスト10~14日間良好

    ただし、治療が遅れてしまった際や、敗血症や肺ペストへ進展してしまった場合は、予後不良となる可能性があります。

    敗血症ペストの治療期間と予後

    敗血症ペストの治療期間は、腺ペストと同様に10日間から14日間ですが、より集中的な管理が必要です。

    敗血症ペストの予後は、治療開始の遅れや合併症の有無によって大きく異なります。

    • 早期治療開始:予後良好
    • 治療遅延:予後不良
    • 合併症あり:予後不良
    病型治療期間予後
    敗血症ペスト10~14日間治療開始の遅れや合併症により異なる

    肺ペストの治療期間と予後

    肺ペストの治療期間は、他の病型と同様に10日間から14日間ですが、隔離措置と呼吸管理を含む集中治療が必要です。

    肺ペストの予後は、治療開始の遅れや呼吸不全の程度によって大きく異なります。

    早期治療開始と適切な呼吸管理を行った場合でも、肺ペストの死亡率は高く、予後は不良となる可能性が高いです。

    ペストの治療における副作用やリスク

    ペストの治療に使用される抗菌薬は、多くの場合、副作用のリスクを伴います。

    テトラサイクリン系抗菌薬の副作用

    テトラサイクリン系抗菌薬(ドキシサイクリンなど)は、ペストの治療によく用いられますが、以下のような副作用が報告されています。

    • 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢など)
    • 光線過敏症
    • 歯や骨の発育障害(小児)
    • 肝機能障害
    • 腎機能障害

    アミノグリコシド系抗菌薬の副作用

    アミノグリコシド系抗菌薬(ストレプトマイシン、ゲンタマイシンなど)は、重症ペストの治療に用いられますが、以下のような副作用が報告されています。

    • 腎機能障害
    • 聴覚障害
    • 前庭機能障害
    • 神経筋接合部障害

    フルオロキノロン系抗菌薬の副作用

    フルオロキノロン系抗菌薬(シプロフロキサシン、レボフロキサシンなど)は、ペストの治療に用いられますが、以下のような副作用が報告されています。

    • 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢など)
    • 中枢神経系症状(頭痛、めまい、不眠など)
    • アキレス腱炎や腱断裂
    • QT延長症候群

    予防方法

    ペストは感染力が強く、致死率の高い感染症であるため、予防対策を徹底することが大切です。

    ペスト予防の基本は、感染源であるげっ歯類やノミとの接触を避け、衛生環境を整えることです。

    げっ歯類の駆除と生息地の管理

    ペストを予防するためには、感染源であるげっ歯類の駆除と生息地の管理が欠かせません。以下のような対策が有効です。

    • 建物内外の清掃と整理整頓
    • げっ歯類の侵入を防ぐための建物の修繕
    • 餌となる食べ残しや廃棄物の適切な管理
    • 殺鼠剤や捕獲器の使用
    対策目的
    清掃と整理整頓げっ歯類の生息地を減らす
    建物の修繕げっ歯類の侵入を防ぐ

    ノミ対策の実施

    ペストは主に、感染したノミに咬まれることで感染します。そのため、ノミ対策も重要です。

    • 定期的な殺虫剤の散布
    • ペットのノミ予防
    • 野生動物との接触を避ける
    対策目的
    殺虫剤の散布ノミの駆除
    ペットのノミ予防ペットを介したノミの侵入を防ぐ

    個人の衛生管理

    ペストの予防には、個人の衛生管理も大切です。以下の点に注意しましょう。

    • 手洗いの徹底
    • マスクの着用
    • ペスト流行地への不要な渡航を避ける
    • 野生動物の死骸に触れない

    治療費について

    治療費についての留意点

    実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

    ペストの治療費は、症状の重症度や合併症の有無、治療期間などによって大きく異なりますが、一般的に高額となる傾向があります。

    初期治療費用

    ペストの初期治療には、抗菌薬の投与と症状管理が中心となります。

    この段階での治療費は、以下のような内訳になることが多いです。

    • 診察費:5,000円~10,000円
    • 血液検査費:5,000円~10,000円
    • 抗菌薬費:10,000円~30,000円
    • 入院費(個室):1日あたり20,000円~30,000円

    重症例の治療費用

    重症ペストの際は、集中治療室(ICU)での管理が必要となり、治療費は大幅に増加します。

    • ICU管理費:1日あたり100,000円~200,000円
    • 人工呼吸器管理費:1日あたり50,000円~100,000円
    • 血液浄化療法費:1回あたり100,000円~200,000円

    重症ペストの治療には、数週間から数ヶ月の入院が必要となることがあり、総治療費は数百万円に及ぶこともあります。

    項目費用
    ICU管理費1日あたり100,000円~200,000円
    人工呼吸器管理費1日あたり50,000円~100,000円

    合併症の治療費用

    ペストでは、敗血症、播種性血管内凝固(DIC)、多臓器不全などの重篤な合併症を伴うことがあります。

    これらの合併症の治療には、追加の医療費が必要となります。

    • 抗凝固療法費:1日あたり10,000円~20,000円
    • 臓器サポート療法費:1日あたり50,000円~100,000円

    合併症の治療には、長期の入院と集中治療が必要となることが多く、医療費はさらに高額となります。

    以上

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