ニューモシスチス肺炎 – 感染症

ニューモシスチス肺炎(pneumocystosis)とは、ニューモシスチス・イロベチー(Pという真菌が原因で発症する日和見感染症です。

通常、この真菌は健康な人には影響を及ぼしませんが、エイズや臓器移植、がん治療などで免疫力が低下している人の場合、重篤な肺炎を引き起こす可能性があります。

ニューモシスチス肺炎の主な症状は、発熱、呼吸困難、空咳などで、治療を受けないと生命に関わる事態になりかねません。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

ニューモシスチス肺炎の種類(病型)

ニューモシスチス肺炎は、大きく分けて典型例と非定型例の2つの病型に分類されます。

典型例

典型例は、HIV感染者や免疫抑制状態の患者さんに発症することが多い病型で、免疫力が低下しているために、ニューモシスチス肺炎を発症しやすくなっています。

病型発症対象
典型例HIV感染者
典型例免疫抑制状態の患者

非定型例

非定型例は、基礎疾患のない患者に発症する病型で、健常な人に発症することもありますが、まれなケースです。

  • 基礎疾患のない患者に発症
  • 健常者に発症することもある
  • まれな病型
病型発症頻度
典型例多い
非定型例まれ

病型による違い

典型例と非定型例では、発症する患者層に大きな違いがあります。

典型例は免疫力が低下した患者に多く見られますが、非定型例は基礎疾患のない患者に発症するのが特徴です。

ニューモシスチス肺炎の主な症状

ニューモシスチス肺炎の主な症状として、発熱、呼吸困難、空咳などです。

これらの症状によって、患者の生活の質は著しく低下し、治療を受けなければ、生命に関わるリスクもあります。

発熱

ニューモシスチス肺炎の患者の多くは、高熱を伴い、体温は38℃以上に達することが多く、場合によっては40℃近くまで上昇することもあります。

呼吸困難

ニューモシスチス肺炎の患者さんは、呼吸困難を訴えるケースが多いく、息切れや呼吸の速さ、呼吸の浅さなどの症状が観察されます。

症状概要
息切れ少し動いただけで息切れを感じる
呼吸の速さ安静時でも呼吸数が多い

空咳

ニューモシスチス肺炎の患者さんには、空咳が頻発し、痰が出ないにもかかわらず、しつこく咳が継続します。

  • 咳が長期間続く
  • 咳が激しい
  • 夜間に咳が悪化する

その他の症状

ニューモシスチス肺炎の患者さんは、上記以外の症状を伴うことがあります。

症状概要
倦怠感全身のだるさや疲労感を感じる
体重減少食欲不振により体重が減少する

これらの症状はニューモシスチス肺炎に特徴的ですが、他の呼吸器疾患でも類似した症状が見られることがあるため、確定診断のためには医療機関での検査必要です。

ニューモシスチス肺炎の原因・感染経路

ニューモシスチス肺炎は、ニューモシスチス・イロベチー(Pneumocystis jirovecii)という真菌が原因となり、空気感染によって広がっていきます。

原因真菌

ニューモシスチス肺炎の原因は、ニューモシスチス・イロベチー(Pneumocystis jirovecii)という真菌で、この真菌は健康な人の肺にも存在していますが、免疫力が低下すると肺炎を引き起こします。

原因真菌ニューモシスチス・イロベチー(Pneumocystis jirovecii)
分類真菌
存在部位健康な人の肺にも存在

感染経路

ニューモシスチス肺炎は、空気感染によって伝播していき、感染者さんが咳やくしゃみをした際に放出された真菌を吸い込むことで、感染が成立します。

  • 空気感染によって伝播
  • 感染者の咳やくしゃみで放出された真菌を吸入
  • 直接接触では感染しない
感染経路空気感染
感染成立真菌の吸入
非感染経路直接接触

感染リスク

ニューモシスチス肺炎は、免疫力が低下している人ほど発症リスクが高くなり、中でもHIV感染者やがん患者さん、臓器移植を受けた患者さんなどは特に注意が必要です。

診察(検査)と診断

ニューモシスチス肺炎を診断するには、患者の症状や身体所見、画像検査、血液検査、気管支肺胞洗浄液の検査などを総合的に評価します。

問診と身体診察

患者の症状や既往歴、免疫抑制状態の有無などを詳細に聞き、肺音の異常を確認します。

項目内容
問診症状、既往歴、免疫抑制状態の有無など
身体診察聴診器を用いた肺音の異常の有無

画像検査

胸部X線写真やCT検査を用い、両側肺野のすりガラス陰影や浸潤影を確認します。

検査所見
胸部X線写真両側肺野のすりガラス陰影や浸潤影
CT検査より詳細な肺野の異常陰影

血液検査

血液中の炎症マーカーやβ-Dグルカンの上昇を検査します。

  • 炎症マーカー(CRP、ESRなど)の上昇
  • β-Dグルカンの上昇

気管支肺胞洗浄液の検査

気管支鏡を用いて肺胞内の洗浄液を採取し、ニューモシスチス・イロベチーの有無を確認することで、確定診断ができます。

ニューモシスチス肺炎の治療法と処方薬

ニューモシスチス肺炎の治療の中心は、抗真菌薬の投与で、主な治療薬として用いられるのは、ST合剤とペンタミジンの2つです。

ST合剤

ST合剤は、ニューモシスチス肺炎の第一選択薬です。

スルファメトキサゾールとトリメトプリムという成分からなる合剤で、ニューモシスチスに対して高い効果を発揮します。

薬剤名ST合剤
成分スルファメトキサゾール、トリメトプリム
投与方法経口投与

ペンタミジン

ペンタミジンは、ST合剤が使用できないケースで選択される薬剤で、静脈内に投与するか、吸入投与で使用します。

薬剤名ペンタミジン
投与方法静脈内投与、吸入投与
副作用腎機能障害、低血糖など

副作用対策

治療薬の副作用対策も欠かせません。

ST合剤を使用する際は、葉酸欠乏による副作用を防ぐために、ロイコボリンを併用し、ペンタミジンの場合は、腎機能をこまめにチェックしたり、血糖値を管理する必要があります。

投与期間

ニューモシスチス肺炎の治療薬の投与期間は、患者の状態によってさまざまで、通常は2〜3週間ほど治療を行います。

  • 初期治療:1〜2週間
  • 維持療法:2〜3週間

ただし、症状が重い場合には、さらに長い期間の投与が必要なこともあります。

治療に必要な期間と予後について

ニューモシスチス肺炎の治療期間と予後は、患者の免疫状態や合併症の有無によって大きく違ってきます。

治療が奏功すれば予後は良好ですが、治療の遅れや合併症の存在は予後不良につながるリスクも。

治療期間

ニューモシスチス肺炎の治療期間は、通常2〜3週間程度ですが、患者さんの状態によって治療期間が延長されることもあります。

患者の状態治療期間
軽症例2〜3週間
重症例3〜4週間以上

治療薬

ニューモシスチス肺炎の治療には、主に三つの薬剤が使用されます。

  • スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST合剤)
  • ペンタミジン
  • アトバコン

予後に影響する因子

ニューモシスチス肺炎の予後に影響する因子

因子影響
免疫状態免疫抑制状態が重度であるほど予後不良
合併症呼吸不全や敗血症などの合併症があると予後不良
治療開始時期治療開始が遅れるほど予後不良

予後

ニューモシスチス肺炎の予後は、早期診断と治療が行われれば良好なものの、以下のようなケースでは予後不良となる可能性が高くなります。

  • 免疫抑制状態が重度である
  • 呼吸不全や敗血症などの重篤な合併症を伴う
  • 診断および治療開始が遅れた

ニューモシスチス肺炎の治療における副作用やリスク

ニューモシスチス肺炎の治療を行う際は、使用する薬剤の副作用やリスクについて十分に理解し、薬剤を選択することが大切です。

ST合剤の副作用

ニューモシスチス肺炎の第一選択薬であるST合剤では、いくつかの副作用が報告されています。

  • 皮疹、発熱などのアレルギー反応
  • 肝機能障害
  • 腎機能障害
  • 血液障害(貧血、白血球減少、血小板減少など)
副作用発現頻度
アレルギー反応比較的高い
肝機能障害まれ
腎機能障害まれ
血液障害まれ

ペンタミジンの副作用

ペンタミジンの副作用

  • 腎機能障害
  • 低血糖
  • 肝機能障害
  • 血液障害(貧血、白血球減少、血小板減少など)
副作用発現頻度
腎機能障害比較的高い
低血糖比較的高い
肝機能障害まれ
血液障害まれ

患者さんのリスク因子

ニューモシスチス肺炎の治療では、患者の個別のリスク因子を考慮することも重要です。

  • 高齢
  • 腎機能障害
  • 肝機能障害
  • 免疫抑制状態

副作用対策とモニタリング

治療に伴うリスクを最小限に抑えるには、対策とモニタリングが欠かせません。

  • 定期的な血液検査、腎機能検査、肝機能検査
  • 副作用症状の観察
  • 必要に応じた薬剤の減量や変更

予防方法

ニューモシスチス肺炎の予防では、HIV感染者や臓器移植患者さんなど、免疫抑制状態にある人は細心の注意が必要です。

免疫力の維持

ニューモシスチス肬炎の予防には、免疫力の維持が欠かせません。

方法内容
栄養管理バランスの取れた食事で栄養状態を良好に保つ
生活習慣十分な睡眠と適度な運動で身体を健康に保つ

感染源の回避

ニューモシスチス肺炎の感染源を避けることも大切です。

  • 人込みを避ける
  • マスクを着用する
  • 手洗い・うがいを徹底する

予防薬の使用

免疫抑制状態にある人は、医師の指示のもと予防薬を服用することがあります。

薬剤対象
ST合剤HIV感染者、臓器移植患者など
ペンタミジン吸入ST合剤が使えない場合

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

ニューモシスチス肺炎の治療にかかる費用は、健康保険が適用されるので、患者の自己負担額は一定の割合に収まります。

治療費の内訳

ニューモシスチス肺炎の治療費の内訳

  • 診察料
  • 検査費(血液検査、画像検査など)
  • 投薬費(抗真菌薬など)
  • 入院費(重症例の場合)
項目費用
診察料数千円〜数万円
検査費数万円〜数十万円
投薬費数万円〜数十万円
入院費数十万円〜数百万円

健康保険の適用

ニューモシスチス肺炎の治療費は、健康保険が適用されます。

  • 自己負担割合は、3割(70歳未満)または1〜3割(70歳以上)
  • 高額療養費制度により、自己負担額は月額上限額に抑えられる
年齢自己負担割合
70歳未満3割
70歳以上1〜3割

治療費の目安

ニューモシスチス肺炎の治療費は、症状や治療方法によって大きく異なります。

  • 軽症例(外来治療のみ):数万円〜数十万円
  • 中等症例(入院治療を要する):数十万円〜数百万円
  • 重症例(集中治療を要する):数百万円以上

ただし、これはあくまでも目安であり、実際にかかる治療費は患者さんのケースによってさまざまです。

以上

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