ポリオ(急性灰白髄炎) – 感染症

ポリオ(急性灰白髄炎 polio)とは、ポリオウイルスによって引き起こされる感染症です。

特に、5歳未満の子供に多く発症し、衛生状態が悪い環境下では感染リスクが高くなります。

ポリオに感染すると、初期症状として発熱、頭痛、吐き気などが現れ、重症化すると手足の麻痺や呼吸困難といった深刻な合併症を引き起こすことがあります。

ワクチン接種による予防は可能ですが、感染後の根本的な治療方法はありません。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

ポリオ(急性灰白髄炎)の種類(病型)

ポリオには、不顕性感染、非麻痺型ポリオ、麻痺型ポリオの3つの病型があり、感染後の症状や重症度によって分類されます。

不顕性感染

不顕性感染は、ポリオウイルスに感染しても無症状か非特異的な症状しか示さない病型です。 感染者の約90%がこの病型に該当します。

病型割合
不顕性感染約90%
非麻痺型ポリオ約10%
麻痺型ポリオ1%未満

非麻痺型ポリオ

非麻痺型ポリオは、感染者の約10%に見られ、次のような症状が現れます。

  • 発熱、倦怠感、頭痛、嘔吐などの非特異的症状を呈する感染
  • 無菌性髄膜炎

これらの症状は通常数日で自然に回復します。

麻痺型ポリオ

麻痺型ポリオは、感染者の1%未満に発生する最も重篤な病型で、以下の3つのサブタイプに分類されます。

  1. 脊髄型ポリオ
  2. 延髄型ポリオ
  3. 球麻痺型ポリオ
麻痺型ポリオのサブタイプ主な症状
脊髄型ポリオ四肢の非対称性の弛緩性麻痺
延髄型ポリオ呼吸困難、循環不全
球麻痺型ポリオ嚥下障害、構音障害、顔面筋力低下

麻痺型ポリオでは、回復後も麻痺が後遺症として残ることがあります。

ポリオ(急性灰白髄炎)の主な症状

ポリオ(急性灰白髄炎)の症状は多岐にわたり、軽症から重症まで幅広いスペクトラムを示します。

急性期の症状

ポリオに感染すると、初期段階では発熱、頭痛、吐き気、倦怠感などの非特異的な症状が現れます。

これらの症状は他の多くのウイルス感染症でも見られるため、ポリオの診断は難しいです。

症状頻度
発熱高い
頭痛高い
吐き気中程度
倦怠感高い

麻痺の出現

ポリオの最も特徴的な症状は急性の弛緩性麻痺(急性弛緩性麻痺)です。

これはウイルスが中枢神経系、特に脊髄の運動ニューロンを侵すことによって引き起こされ、麻痺は通常、非対称性であり、下肢に多く見られます。

  • 急性弛緩性麻痺
  • 非対称性の麻痺
  • 下肢に多い

呼吸障害

重症のポリオ症例では呼吸筋の麻痺により呼吸困難が生じる可能性があります。

症状重症度
呼吸筋麻痺重症
呼吸困難重症

回復期の症状

急性期を乗り越えた患者さんの多くは数週間から数ヶ月かけて麻痺から回復していきますが、一部の患者さんでは永続的な麻痺や筋力低下が残ることがあります。

回復の程度は個人差が大きく、早期のリハビリテーションが予後の改善に不可欠です。

ポリオ(急性灰白髄炎)の原因・感染経路

ポリオの原因はポリオウイルスであり、主に糞口感染によって感染が拡大します。

ポリオウイルスの感染力は非常に強いため、適切な予防対策を講じることが重要です。

ポリオの原因

ポリオの原因となるのは、ポリオウイルスと呼ばれるエンテロウイルスの一種です。

ポリオウイルスにはI型、II型、III型の3つの血清型があり、いずれもポリオを引き起こす可能性があります。

ポリオウイルスは非常に感染力が強く、感染者の糞便中に大量に排出されます。

ポリオウイルスの主な特徴

特徴詳細
ウイルスの種類エンテロウイルス属
血清型I型、II型、III型の3種類
感染力非常に強い
主な排出経路感染者の糞便中に大量に排出

ポリオの主な感染経路

ポリオウイルスは主にウイルスに汚染された水や食べ物を介して感染が起こります。

ポリオウイルスに汚染された水や食べ物を口にすることで、ウイルスが体内に侵入し、感染が成立。

また、感染者のくしゃみや咳などの飛沫に含まれるウイルスを吸い込むことで感染が成立することもあります。

ポリオの主な感染経路

  • -糞口感染:ウイルスに汚染された水や食べ物を介して感染
  • -飛沫感染:感染者のくしゃみや咳などの飛沫に含まれるウイルスを吸い込むことで感染

ポリオウイルスの感染力の強さ

ポリオウイルスは非常に感染力が強いウイルスで、 感染者の糞便中に大量に排出され、排泄物を介して容易に感染が拡大します。

また、ポリオウイルスは環境中で長期間生存でき、水や食べ物を汚染し続けます。

ポリオウイルスの感染力の要因詳細
感染者の糞便中への大量排出感染者の糞便中に大量のウイルスが排出され、排泄物を介して感染が広がりやすい
環境中での長期間生存ポリオウイルスは環境中で長期間生存可能で、水や食べ物を汚染し続ける

診察(検査)と診断

ポリオ(急性灰白髄炎)の診断では、臨床症状の評価と検査による確定診断が必要です。

臨床症状の評価

症状特徴
発熱高熱が数日間続く
頭痛頭全体の痛み
筋肉痛四肢や体幹の筋肉の痛み
筋力低下四肢の脱力感や麻痺

これらの症状がみられた場合、ポリオを疑う必要がありますが、確定診断のためには検査が欠かせません。

検査による確定診断

ポリオの確定診断のための検査

  • – 髄液検査:髄液中のポリオウイルスの検出
  • – 血清学的検査:ペア血清での抗体価の上昇の確認
  • – ウイルス分離:便や咽頭ぬぐい液からのウイルス分離
検査方法
髄液検査腰椎穿刺により髄液を採取し、ウイルスを検出
血清学的検査急性期と回復期のペア血清で抗体価の上昇を確認
ウイルス分離便や咽頭ぬぐい液からウイルスを分離

早期診断の重要性

ポリオの診断においては、早期発見が非常に重要で、早期に診断し、適切な対応を取ることで重症化を防ぐことが可能です。

疑わしい症状がある際は迅速に医療機関を受診し、検査を受けることが求められます。

ポリオ(急性灰白髄炎)の治療法と処方薬、治療期間

ポリオの治療は対症療法と理学療法が中心で、 抗ウイルス薬の投与は効果が限定的なため、一般的には行われません。

対症療法

対症療法は、疼痛管理、呼吸管理、循環管理などです。

疼痛管理にはアセトアミノフェンやNSAIDsが用いられ、呼吸管理では必要に応じて酸素投与や人工呼吸器による呼吸補助が行われます。

薬剤名用途
アセトアミノフェン疼痛管理
NSAIDs疼痛管理、抗炎症

理学療法

理学療法は、麻痺した筋肉の機能回復と拘縮の予防を目的として行われます。

  • 関節可動域訓練
  • 筋力増強訓練
  • 日常生活動作訓練

これらの訓練は、病状に応じて個別に計画され、長期的に継続します。

治療期間

ポリオは軽症では数週間から数ヶ月程度で回復することもありますが、重症の場合は数年以上の治療が必要なこともあります。

重症度治療期間
軽症数週間~数ヶ月
中等症数ヶ月~1年程度
重症数年以上

予後と再発可能性および予防

ポリオ(急性灰白髄炎)の治療成績は、早期発見と治療が行われれば良好で、再発の可能性は低いですが、完治後も定期的な経過観察が極めて大切です。

予防には、ワクチン接種が最も効果的な方法となります。

ポリオの治療予後

ポリオの治療予後は、発症からの時間経過と症状の重症度によって大きく左右されます。

早期に発見し、治療を開始することが良好な予後につながる重要なポイントです。

軽症例では、数週間から数ヶ月の治療で後遺症なく回復することが多いです。

一方、重症例では麻痺などの後遺症が残る可能性が高くなります。

発症からの時間予後への影響
24時間以内良好
48時間以内比較的良好
72時間以上後遺症リスク大

ポリオの再発可能性

ポリオは、一度罹患すると生涯免疫を獲得するため、基本的に再発することはありません。

ただし、ごくまれに再発する症例が報告されています。

再発リスクを最小限に抑えるためには、完治後も定期的な経過観察が欠かせません。

  • 3ヶ月ごとの診察
  • 6ヶ月ごとの筋力評価
  • 1年ごとの呼吸機能検査

このようなフォローアップを継続することで、再発の早期発見・対応が可能となります。

ポリオの予防

ポリオを予防するうえで、ワクチン接種が最も有効な手段です。

ワクチンの種類接種方法
不活化ワクチン(IPV)皮下注射
経口生ワクチン(OPV)経口投与

世界保健機関(WHO)は、全ての子供にポリオワクチンの接種を推奨しています。

ポリオ(急性灰白髄炎)の治療における副作用やリスク

ポリオの治療には、副作用やリスクが伴うことを理解することが必要です。

ポリオワクチンの副作用

ポリオワクチンは、ポリオの予防に非常に効果的ですが、副作用が報告されています。

ポリオワクチンの一般的な副作用

副作用頻度
接種部位の発赤、腫れ、痛み比較的よくある
発熱まれ
アレルギー反応非常にまれ

ポリオの治療薬の副作用

ポリオの治療には、抗ウイルス薬や対症療法が用いられ、これらの薬剤にも副作用があります。

抗ウイルス薬の副作用

  • 吐き気や嘔吐
  • 下痢
  • 頭痛
  • 発疹

対症療法で使用される薬剤も、副作用を引き起こす可能性があるため、医師の指示に従って適切に使用することが大切です。

後遺症のリスク

ポリオは、治療を受けても後遺症が残るリスクがあり、最も多いのは、手足の麻痺や筋力低下です。

後遺症リスク
手足の麻痺高い
呼吸困難中程度
嚥下障害中程度

後遺症の程度は個人差が大きく、リハビリテーションを行うことで、日常生活への影響を最小限に抑えられます。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

ポリオの初期治療費

ポリオの初期治療には、入院費、検査費、投薬費などが必要です。

項目費用
入院費50万円〜100万円
検査費10万円〜20万円

症状が重篤な場合は、集中治療室での管理が必要になることもあり、さらに費用がかかります。

ポリオの後遺症の治療費

ポリオの後遺症である麻痺や筋力低下に対しては、長期的なリハビリテーションが必要です。

  • – 理学療法:週2〜3回、1回あたり5,000円〜10,000円
  • – 作業療法:週1〜2回、1回あたり5,000円〜10,000円
  • – 装具代:10万円〜50万円

後遺症の状態によっては、生涯にわたって継続的な治療が必要となるため、治療費は高額になります。

ポリオの予防接種費用

ポリオの予防接種は、感染と重症化を防ぐために欠かせません。

種類費用
不活化ポリオワクチン1回あたり5,000円〜10,000円
生ポリオワクチン1回あたり1,000円〜2,000円

予防接種は複数回接種する必要で、トータルの費用は数万円程度になります。

公的支援制度の活用

ポリオの治療費は高額になるため、公的支援制度を活用することが推奨されます。

  • – 高額療養費制度:月々の医療費の自己負担を一定の上限額に抑えることが可能となります。
  • – 障害者医療費助成制度:一定の障害があると認定された際には、医療費の自己負担が軽減されます。

以上

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