プリオン病  – 感染症

プリオン病(prion diseases)とは、異常プリオンタンパク質の蓄積によって引き起こされる致死性の神経変性疾患の総称です。

プリオン病の発症メカニズムは、異常プリオンタンパク質が正常プリオンタンパク質に作用し、連鎖的に異常化が広がることによるものです。

これにより、脳の神経細胞が変性・壊死し、海綿状態になります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

プリオン病 の種類(病型)

プリオン病の病型は、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)、致死性家族性不眠症(FFI)などが挙げられます。

クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)

クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)は、プリオン病の中で最も一般的な病型の一つです。

CJDは、孤発性、家族性、医原性に分類されます。 孤発性CJDは、原因不明で発症する、最も多く見られるタイプです。

CJDの分類発症原因
孤発性原因不明
家族性遺伝的要因
医原性医療行為による感染

変異型クロイツフェルト・ヤコブ病

変異型クロイツフェルト・ヤコブ病は、1996年に英国で初めて報告されました。

この病型は、牛海綿状脳症(BSE)に感染した牛肉の摂取が原因と考えられており、 変異型CJDは、他のプリオン病と比べて若年での発症が特徴的です。

ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)

ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)は、遺伝性のプリオン病です。

GSSは、プリオンタンパク質をコードする遺伝子(PRNP)の変異が原因で発症し、この病型は、小脳失調や認知機能障害を主な症状とします。

致死性家族性不眠症(FFI)

致死性家族性不眠症(FFI)も、遺伝性のプリオン病の一つです。

FFIは、PRNPの特定の変異によって引き起こされ、睡眠障害や自律神経系の異常が見られます。

プリオン病の主な病型

  • クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)
    • 孤発性
    • 家族性
    • 医原性
  • 変異型クロイツフェルト・ヤコブ病
  • ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)
  • 致死性家族性不眠症(FFI)
病型主な特徴
CJD急速に進行する認知機能障害と運動障害
変異型CJD若年での発症、BSEとの関連性
GSS小脳失調、認知機能障害
FFI睡眠障害、自律神経系の異常

プリオン病の種類は、発症メカニズムや症状に違いがありますが、いずれもプリオンタンパク質の異常な蓄積が原因です。

プリオン病 の主な症状

プリオン病は、記憶力の低下や歩行障害など、重大な症状が現れることが知られています。

認知機能障害

プリオン病の初期段階では、認知機能に関連する症状が現れることがあります。

患者さんは、新しい情報を記憶することが難しくなったり、現在の時間や自分のいる場所がわからなくなることも。

また、言葉の理解や表現が上手くできなくなったり、物事に対する適切な判断ができなくなったりする症状も見られます。

症状説明
記憶力の低下新しい情報を覚えることが困難になる
見当識障害時間や場所の認識が曖昧になる
言語能力低下会話や文章理解が難しくなる
判断力の低下適切な判断や意思決定が困難になる

運動障害

プリオン病が進行すると、体の動きに関わる症状が現れてきます。

歩く際にふらついたり、バランスを取ることが難しくなったりして、転んでしまう危険性が高くなり、自分の意思とは関係なく体が勝手に動いたり、筋肉が硬直したりするような症状も。

  • ふらつきや歩行障害
  • バランス障害による転倒リスクの増加
  • 不随意運動や筋肉のこわばり

精神症状

プリオン病を発症した人の中には、気分の落ち込みやイライラ、不安感などの精神的な症状を伴う場合があります。

さらに、現実にはない物が見えたり聞こえたりする幻覚や、誤った考えに囚われる妄想なども生じることも。

全身症状

プリオン病が最終段階に近づくと体全体の機能が低下し、食べ物を飲み込むことが困難になり、食事量が減少して体重が落ち、また、排泄の問題も起こります。

症状説明
嚥下障害食事摂取量の減少や体重減少を引き起こす
排泄障害尿失禁や便失禁などが生じる可能性がある

プリオン病 の原因・感染経路

プリオン病は、感染性タンパク質プリオンが原因となって発症します。

プリオンとは

プリオンは、正常なタンパク質から異常な立体構造に変化したものであり、次のような特徴を持っています。

プリオンの特性解説
感染力宿主の細胞内で自己複製し、感染を拡大する
耐熱性高温環境下でも変性しにくい性質を持つ
耐薬品性通常の消毒薬では不活化が困難

プリオンは正常なタンパク質と接触すると、その構造を自らの異常な構造へと変化させます。

この連鎖的な反応によって脳内のタンパク質が次々とプリオンへと変化し、最終的に脳組織が海綿状となってしまうのです。

プリオン病の感染経路

プリオン病の主な感染ルート

  • – 汚染された医療機器による感染
  • – 感染動物の危険部位を食することによる経口感染
  • – 遺伝的な要因(変異遺伝子の受け継ぎ)
感染ルート危険性
医療機器滅菌・消毒が不十分な場合、汚染された医療機器から感染する恐れあり
経口感染感染動物の危険部位を食べることで感染リスクが高まる
遺伝家族性プリオン病では、変異遺伝子が親から子へ受け継がれることで発症

医療機器を介した感染

プリオンは通常の滅菌・消毒方法では完全に不活化することが難しいため、医療機器を介して感染が拡大するリスクがあります。

特に脳外科手術などで使用された機器が適切に処理されなかった場合、プリオンによる二次感染の危険性が高くなります。

そのため、プリオン病患者に使用した医療機器については、専用の方法で滅菌・処理することが必要です。

経口感染と特定危険部位

プリオンに感染した動物の肉を食べることで、ヒトがプリオン病に感染することがあります。

牛海綿状脳症(BSE)の場合、感染牛の脳や脊髄などの特定危険部位には高濃度のプリオンが蓄積していて、これらの部位を食することで、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の感染するリスクが生じるのです。

一方で、感染牛の筋肉部位からはプリオンがほとんど検出されないことが分かっています。

牛肉の安全性確保には、特定危険部位の確実な除去が欠かせません。

診察(検査)と診断

プリオン病の診断は、臨床症状とさまざまな検査結果を総合して判断します。

病歴聴取と神経学的診察

初めに、患者さんの病歴を詳しく聞き取り、神経学的な診察を行い、プリオン病特有の症状がないかどうかを確認します。

病歴聴取で確認すること神経学的診察で確認すること
発症時期と経過意識障害の有無
家族歴認知機能障害の有無
危険因子の有無不随意運動の有無

検査による診断

続いて、以下のような検査を実施します。

  • – 脳波検査:プリオン病に特徴的な周期性同期性放電(PSD)があるかどうかを確認
  • – 頭部MRI検査:大脳皮質や基底核に信号の異常があるかどうかを確認
  • – 髄液検査:14-3-3蛋白やタウ蛋白が上昇しているかどうかを確認
検査の種類目的
脳波検査PSDの有無を確認
頭部MRI検査信号異常の有無を確認
髄液検査14-3-3蛋白やタウ蛋白の上昇の有無を確認

確定診断

プリオン病の確定診断は、脳生検や剖検による病理学的検査によって行われ、脳の組織にプリオン蛋白が蓄積しているのを確認すれば、確定診断となります。

遺伝子検査

遺伝性プリオン病の可能性がある場合は、PRNP遺伝子の検査を行い、 変異があるかどうかを確認することで、遺伝性プリオン病の診断に役立てられます。

プリオン病 の治療法と処方薬、治療期間

プリオン病は、現在のところ根本的な治療法が確立されておらず、対症療法が治療の中心です。

治療期間は患者さんの状態によって異なりますが、多くの場合、長期間に及びます。

対症療法の重要性

プリオン病の治療において、対症療法は非常に重要な役割を担っています。

患者さんの症状に応じて、適切な薬物療法や支持療法を行うことにより、症状の緩和や合併症の予防を図ることが可能です。

治療法目的
薬物療法症状の緩和、合併症の予防
支持療法全身状態の維持、合併症の予防

薬物療法の選択肢

プリオン病の薬物療法で使用される薬剤

  • – 抗てんかん薬:ミオクローヌスや痙攣の抑制
  • – 抗精神病薬:幻覚や妄想などの精神症状の緩和
  • – 抗不安薬:不安や興奮の緩和 – 鎮静剤:不眠や興奮の緩和

支持療法の役割

プリオン病の患者では、全身状態の悪化や合併症の発生リスクが高くなるため、支持療法を適切に行うことが極めて重要です。

支持療法目的
栄養管理栄養状態の維持、合併症の予防
感染対策肺炎などの合併症の予防
褥瘡予防皮膚の保護、感染予防

治療期間

プリオン病の治療期間は、患者さんの状態や病型によって大きく異なり、多くの場合、数ヶ月から数年にわたる長期間の治療が必要です。

予後と再発可能性および予防

プリオン病は治療が大変難しく、予後は芳しくありません。

しかしながら、早期発見と対症療法を行うことで、症状の進行を遅らせ、患者の生活の質を保つことが可能です。

治療の予後

治療法目的
抗てんかん薬けいれん発作のコントロール
抗精神病薬精神症状の緩和
リハビリテーション運動機能の維持・改善

プリオン病の治療は、根本的な治療法がない現状では対症療法が主体となります。

病状が進行してしまった場合、寝たきりになるなど日常生活が送れなくなることがあり、発症からの生存期間が平均で約1年程度で、良好とは言い難い状況です。

予防の重要性

予防法内容
感染経路の遮断危険因子への曝露を避ける
食品の安全性確保安全性が確認された食品を選択する
スクリーニング検査感染の早期発見に努める

プリオン病の主な感染経路は、感染した動物の肉や内臓を食べることです。

危険因子への曝露を避け、安全性が確認された食品を選ぶことが予防につながります。

またスクリーニング検査により感染の早期発見に努めることも大切です。

プリオン病 の治療における副作用やリスク

プリオン病の治療では、副作用やリスクが生じる可能性があります。

治療法の選択における慎重な検討の必要性

プリオン病の治療法は限定的で、効果や安全性には不確実な部分があります。

治療法の選択には、患者の状態や希望、予想される効果と副作用を総合的に考慮しなければなりません。

治療法効果副作用
薬物療法症状の改善や進行抑制の可能性消化器症状、神経系への影響など
対症療法症状の緩和副作用は限定的

副作用モニタリングと早期対処の重要性

プリオン病の治療中は、副作用のモニタリングが欠かせません。 定期的な検査や診察を通じて、副作用の兆候を早期に発見し、適切に対処することが肝心です。

  • – 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢など)
  • – 神経系への影響(錯乱、記憶障害、運動機能の低下など)
  • – 血液検査値の異常 – アレルギー反応
モニタリング項目頻度
身体症状のチェック毎日
血液検査2週間ごと
医師の診察1ヶ月ごと

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

プリオン病の治療費は非常に高額になる傾向にあります。

治療費の内訳

プリオン病の治療費には、入院費、検査費、投薬費、医療機器使用料などが含まれます。

項目概算費用
入院費(1ヶ月)100万円〜300万円
検査費(1回)10万円〜50万円

さらに、長期にわたる療養が必要となる事例では、追加費用が発生する可能性があります。

  • 介護サービス利用料
  • 在宅医療機器のレンタル料
  • 自宅の改修費用

公的助成制度の活用

高額な治療費の負担を軽減するために、以下のような公的助成制度が利用できます。

制度名概要
高額療養費制度月額の医療費が一定額を超えた場合、超過分が払い戻される
障害者医療費助成制度一定の障害があると認定された場合、医療費の自己負担分が助成される

以上

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