オウム病(psittacosis)とは、クラミジア・シッタキという細菌が原因となって発症する呼吸器感染症です。
感染した鳥の排泄物や羽毛に含まれる細菌を体内に取り込むことで人間に伝播し、症状は高熱、咳、頭痛、筋肉痛などのインフルエンザに類似しています。
オウム病は比較的珍しい病気ですが、鳥類との接触機会が多い人の間で、感染リスクが高くなっています。
オウム病の種類(病型)
オウム病は肺炎型、非肺炎型、全身感染型の3つの主要な病型に分類されます。
肺炎型オウム病
肺炎型オウム病は、クラミジア・シッタシ菌が主に肺に感染し、肺胞や気管支に炎症が生じ呼吸器系に顕著な影響を与える、最も一般的な病型です。
進行度は軽度から重度までさまざまで、個々の患者さんの免疫状態や感染の程度によって症状の現れ方が異なります。
非肺炎型オウム病
非肺炎型オウム病は、肺以外の臓器や組織に感染が起こる病型です。
この病型では、クラミジア・シッタシ菌が肺以外の部位に定着し、多様な臨床症状を引き起こします。
非肺炎型オウム病は、肺炎型に比べて診断が難しい場合が多く、症状が非特異的であるため、他の疾患と区別がつきにくいことも。
感染部位 | 主な影響 |
心臓 | 心筋炎 |
肝臓 | 肝炎 |
脳 | 髄膜炎 |
関節 | 関節炎 |
全身感染型オウム病
全身感染型オウム病は、クラミジア・シッタシ菌が血流を介して全身に広がり、複数の臓器や組織に同時に影響を及ぼす深刻な病型です。
免疫機能が低下している患者さんや高齢者で発症リスクが高く、肺炎型と非肺炎型の症状が複合的に現れることが多く、全身の臓器機能に重大な影響を与えます。
病型別の臨床的特徴
各病型の主な特徴
- 肺炎型:主に呼吸器系に症状が現れる
- 非肺炎型:特定の臓器や組織に限局した症状を呈する
- 全身感染型:複数の臓器系に同時に影響を及ぼし、全身症状が顕著
病型 | 主な感染部位 | 臨床的特徴 |
肺炎型 | 肺 | 呼吸器症状が主体 |
非肺炎型 | 特定の臓器 | 感染部位に応じた局所症状 |
全身感染型 | 全身 | 複数の臓器系に症状、全身状態の悪化 |
オウム病の主な症状
オウム病は、症状が軽度から重度まで多岐にわたり、病型によって異なる特徴を示します。
オウム病の一般的な症状
オウム病に感染すると、通常、潜伏期間は1〜4週間程度で、その後、以下のような症状が現れます。
- 突然の高熱(38.5℃以上)
- 悪寒と震え
- 頭痛(多くの場合、激しい)
- 筋肉痛や関節痛
- 全身倦怠感
- 食欲不振
症状は、インフルエンザや他の呼吸器感染症と類似しているため、初期段階での鑑別診断は困難です。
肺炎型オウム病の症状
肺炎型の特徴的な症状
症状 | 特徴 |
咳 | 通常は乾いた咳で、徐々に悪化する |
呼吸困難 | 息切れや胸痛を伴うことがある |
胸部X線異常 | 肺の浸潤影が見られるが、物理的所見に乏しい |
血痰 | 重症例では血痰を伴うことがある |
低酸素血症 | 重症例では酸素飽和度が低下する |
肺炎型オウム病の症状は、通常の細菌性肺炎と比較して、身体所見に比べて胸部X線での異常が顕著であることが特徴です。
非肺炎型オウム病の症状
非肺炎型オウム病は、呼吸器症状が軽微だったりなかったりする病型です。
主な症状
症状 | 特徴 |
発熱 | 持続的な高熱が特徴的 |
頭痛 | 激しい頭痛が持続する |
筋肉痛 | 全身の筋肉痛が顕著 |
消化器症状 | 吐き気、嘔吐、下痢などが見られることがある |
肝機能異常 | 肝酵素の上昇が見られることがある |
全身感染型オウム病の症状
全身感染型は、オウム病の中で最も重症な病型で、複数の臓器が影響を受けます。
主な症状
- 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)
- 心筋炎や心膜炎
- 肝炎や脾腫
- 腎機能障害
- 髄膜炎や脳炎
- 播種性血管内凝固(DIC)
全身感染型オウム病は、急速に進行し、治療が行われない場合、生命を脅かす可能性があります。
オウム病の原因・感染経路
オウム病は、クラミジア・シッタキ菌が引き起こす感染症で、主に鳥類から人間に伝播します。
オウム病の病原体
オウム病を引き起こすのはクラミジア・シッタキ菌で、この菌は、グラム陰性の偏性細胞内寄生細菌であり、宿主細胞内でのみ増殖する特性を持っています。
クラミジア・シッタキ菌の特徴
- 細胞内寄生性:宿主細胞内でのみ増殖可能
- 小型:直径約0.3μmの球形または楕円形
- 二相性の生活環:感染性のある基本小体と、非感染性で増殖可能な網様体の2つの形態を持つ
- 抗生物質感受性:テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質に感受性がある
感染源となる鳥類
オウム病の感染源となる鳥類は多岐にわたります。
主な感染源となる鳥類
鳥類の種類 | 特徴 |
オウム科 | 最も一般的な感染源。ペットとして飼育されることが多い |
インコ科 | オウム科に次いで感染源として重要 |
ハト | 都市部での感染源として注目されている |
七面鳥 | 家禽類の中では感染源として重要 |
ニワトリ | 家禽類としては比較的感染率が低い |
これらの鳥類は、症状を示さずにクラミジア・シッタキ菌を保有している場合があり、人間に感染させる可能性があります。
感染経路
オウム病の主な感染経路は、感染した鳥類からの飛沫感染や接触感染です。
主な感染経路
- 感染した鳥の排泄物や呼吸器分泌物に含まれる菌を吸入する
- 感染した鳥の羽毛や羽根に付着した菌を吸入する
- 感染した鳥との直接的な接触(くちばしを介した接触など)
- 感染した鳥の体液や組織との接触
特に、鳥舎の清掃や鳥の世話をする際に、乾燥した排泄物や羽毛が舞い上がることで感染リスクが高まります。
感染リスクの高い環境と職業
オウム病の感染リスクは、鳥類との接触頻度や接触の度合いによって大きく異なります。
感染リスクの高い環境と職業
環境・職業 | リスク要因 |
ペットショップ従業員 | 鳥類との日常的な接触、鳥舎の清掃 |
獣医師・動物看護師 | 感染した鳥類の診療、処置 |
鳥類飼育施設作業員 | 大規模な鳥舎での作業、多数の鳥との接触 |
家禽加工場作業員 | 感染した家禽類の処理、加工時の飛沫への暴露 |
鳥類研究者 | 野生鳥類との接触、感染した鳥類のサンプル採取 |
愛鳥家 | 日常的な鳥類との密接な接触、鳥舎の清掃 |
診察(検査)と診断
オウム病の診断は、臨床症状、疫学的情報、および特異的な検査結果を組み合わせて行われます。
臨床症状と疫学的情報の評価
オウム病の診断は、まず患者さんの臨床症状と疫学的情報の詳細な評価から始まります。
患者さんへの質問
- 鳥類との接触歴(特に過去4週間以内)
- 職業や趣味(鳥類との接触機会の有無)
- 症状の発現時期と進行
- 他の感染症の可能性
身体診察と一般検査
次に、患者の身体診察を行い、一般的な検査を実施します。
検査項目 | 主な所見 |
体温測定 | 高熱(38.5℃以上)が特徴的 |
聴診 | 肺野のラ音(異常呼吸音) |
血液検査 | 白血球数増加、CRP上昇 |
胸部X線 | 肺炎像(浸潤影) |
これらの検査結果は、オウム病の診断を裏付ける所見となりますが、他の呼吸器感染症との鑑別には更なる精査が必要です。
特異的検査
オウム病の確定診断には、クラミジア・シッタキ菌の存在を直接的または間接的に証明する特異的検査が実施されます。
検査方法 | 特徴 |
PCR法 | 高感度で迅速な結果が得られる |
培養検査 | 確実だが時間がかかる |
血清学的検査 | ペア血清での抗体価上昇を確認 |
PCR法は、患者さんの喀痰や気管支洗浄液からクラミジア・シッタキ菌のDNAを検出する方法で、感度が高く迅速な結果が得られることから、近年広く採用されています。
鑑別診断
オウム病の症状は他の呼吸器感染症と類似しているため、鑑別診断が必要です。
主な鑑別疾患
- 一般細菌性肺炎
- マイコプラズマ肺炎
- レジオネラ肺炎
- Q熱
- インフルエンザ
オウム病の治療法と処方薬、治療期間
オウム病の治療では、抗生物質の投与が中心です。
抗生物質療法
テトラサイクリン系抗生物質が第一選択薬として広く使用されており、その中でもドキシサイクリンが最も効果的です。
ドキシサイクリンは、クラミジア・シッタシ菌に対して強力な抗菌作用を持ち、体内での吸収性も優れているため、標準的な治療薬として採用されています。
治療期間と投薬スケジュール
オウム病の標準的な治療期間は、通常10日から21日間です。
軽症から中等症の場合、外来治療で対応できますが、重症例や合併症がある場合は入院治療が必要になることもあります。
一般的な投薬スケジュール
薬剤名 | 用量 | 投与間隔 | 投与期間 |
ドキシサイクリン | 100mg | 12時間ごと | 10-21日間 |
クラリスロマイシン | 500mg | 12時間ごと | 10-21日間 |
代替薬と特殊なケース
ドキシサイクリンに対してアレルギーがある場合や、妊婦・授乳中の女性、8歳未満の小児など、テトラサイクリン系抗生物質が使用できない患者さんには、代替薬としてマクロライド系抗生物質が処方されることがあります。
代表的なマクロライド系抗生物質は、アジスロマイシンやクラリスロマイシンです。
治療経過と経過観察
治療開始後、多くの患者さんは48時間以内に症状の改善を感じ始めますが、完全な回復には時間がかかる場合があり、重症例では数週間から数か月を要することもあります。
治療経過における主な観察ポイント
- 発熱や呼吸器症状の改善
- 血液検査値の正常化
- 胸部X線画像の改善
- 副作用の有無と程度
再発予防と長期的なフォローアップ
オウム病の再発を防ぐためには、処方された抗生物質を指示通りに最後まで服用してください。
治療を途中で中断すると、症状が再燃する可能性が高まるので注意すると共に、フォローアップも大切です。
フォローアップ項目 | 頻度 | 目的 |
胸部X線検査 | 3-6か月ごと | 肺の状態確認 |
血液検査 | 必要に応じて | 炎症マーカーの確認 |
呼吸機能検査 | 年1回 | 肺機能の評価 |
予後と再発可能性および予防
オウム病は早期発見と対応により回復が見込める一方で、再び感染するリスクもあります。
オウム病の予後
オウム病の予後は、一般的に良好であり、多くの患者さんは管理のもとで完全に回復します。
予後に影響を与える主な要因
- 診断までの時間
- 患者の年齢と全身状態
- 合併症の有無
- 治療の開始時期
これらの要因によって、予後が大きく左右されることがあります。
予後 | 特徴 |
良好 | 早期診断、若年・健康な患者、合併症なし |
不良 | 診断の遅れ、高齢・基礎疾患あり、重度の合併症 |
早期診断と対応が行われた際、多くの患者さんは2〜3週間で症状が改善し、4〜6週間で完全に回復します。
再発のリスクと対策
オウム病は、一度罹患しても再感染の可能性があります。
再発リスクを高める要因
- 継続的な鳥類との接触
- 免疫機能の低下
- 不完全な治療
再発を防ぐためには、いくつかの対策が必須です。
- 鳥類との接触を最小限に抑える
- 個人防護具の使用
- 定期的な健康チェック
- 免疫機能を維持するための健康的な生活習慣
オウム病の予防策
オウム病の予防には、個人レベルと環境レベルの両方からのアプローチが求められます。
予防レベル | 対策 |
個人 | 手洗い、マスク着用、保護メガネの使用 |
環境 | 鳥舎の清掃、換気の改善、消毒の徹底 |
個人レベルでの主な予防策
- 鳥類との接触後の手洗いの徹底
- 鳥舎清掃時のマスクと保護メガネの着用
- 鳥類の健康状態の定期的なチェック
- 新しい鳥を導入する際の検疫期間の設定
環境レベルでの予防策は、鳥舎の定期的な清掃と消毒、換気の確保、過密飼育の回避などです。
オウム病の治療における副作用やリスク
オウム病の治療には抗生物質が有効ですが、副作用やリスクに十分注意を払いながら慎重に進めていく必要があります。
抗生物質療法の副作用
オウム病の治療で主に使用されるテトラサイクリン系抗生物質やマクロライド系抗生物質には、いくつかの副作用が報告されています。
主な副作用
抗生物質の種類 | 主な副作用 | 発生頻度 |
テトラサイクリン系 | 消化器症状、光線過敏症 | 比較的高い |
マクロライド系 | 肝機能障害、QT延長 | 比較的低い |
これらの副作用は、多くの場合、薬剤の減量や投与方法の変更によって管理できます。
特定の患者群におけるリスク
妊婦さんや授乳中の女性、小児、高齢者、肝臓や腎臓に問題がある患者さんなどは、標準的な治療法が適用できない場合があり、個別の対応が必要です。
妊婦さんに対するテトラサイクリン系抗生物質の使用は、胎児の歯や骨の発育に影響を与える可能性があるため避けられます。
また、高齢者では薬物代謝能力の低下により、副作用のリスクが高まる場合があります。
薬剤耐性菌の出現リスク
抗生物質の乱用は、薬剤耐性菌の出現につながる可能性があります。
薬剤耐性菌の出現を防ぐために注意する点
- 処方された抗生物質を指示通りに最後まで服用する
- 症状が改善しても勝手に服用を中止しない
- 残った抗生物質を自己判断で使用しない
- 定期的な経過観察を受け、必要に応じて薬剤の変更を検討する
長期的な合併症のリスク
オウム病の治療後も、一部の患者さんでは長期的な健康上の問題が生じる可能性があるので注意が必要です。
重症例や治療が遅れた際に起こる合併症
合併症 | 特徴 | リスク因子 |
慢性呼吸器障害 | 肺機能の低下 | 重症肺炎、遅延治療 |
心臓弁膜症 | 心臓弁の損傷 | 全身性感染、高齢 |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
外来治療の費用
外来での治療費は、初診料、再診料、検査費、薬剤費などから構成されます。
項目 | 概算費用 |
初診料 | 2,820円 |
再診料 | 730円 |
血液検査 | 5,000〜10,000円 |
胸部X線 | 2,500円 |
入院治療の費用
重症例では入院が必要で、一日10,000~30,000円ほどかかります。
抗生物質治療の費用
オウム病の主な治療法である抗生物質療法の費用
- テトラサイクリン系:1,000〜2,000円/日
- マクロライド系:2,000〜3,000円/日
以上
Stewardson AJ, Grayson ML. Psittacosis. Infectious Disease Clinics. 2010 Mar 1;24(1):7-25.
Gregory DW, Schaffner W. Psittacosis. InSeminars in respiratory infections 1997 Mar 1 (Vol. 12, No. 1, pp. 7-11).
Chu, J., Yarrarapu, S.N.S., Vaqar, S. and Durrani, M.I., 2019. Psittacosis.
Meyer KF. The ecology of psittacosis and ornithosis. Medicine. 1942 May 1;21(2):175.
Yung AP, Grayson ML. Psittacosis—a review of 135 cases. Medical journal of Australia. 1988 Mar;148(5):228-33.
McPhee SJ, Erb B, Harrington W. Psittacosis. Western Journal of Medicine. 1987 Jan;146(1):91.
Isaacs D. Psittacosis. British Medical Journal (Clinical research ed.). 1984 Sep 9;289(6444):510.
Hutchison R, Rowlands RA, Simpson SL. A study of psittacosis. British Medical Journal. 1930 Apr 4;1(3613):633.
Meyer, K.F. and Eddie, B., 1948. Psittacosis and ornithosis.
Morais J, Coelho AC, dos Anjos Pires M. Psittacosis. InInsights from Veterinary Medicine 2013 Feb 27. IntechOpen.