リフトバレー熱(RVF) – 感染症

リフトバレー熱(RVF Rift Valley fever)とは、リフトバレーウイルスによって引き起こされる人獣共通感染症です。

この感染症は主にアフリカ大陸で流行しており、感染経路の多くは蚊によって媒介されます。

また、ウイルスに感染した動物との直接的な接触や、それらの動物の体液・排泄物との接触によっても感染が成立することも。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

リフトバレー熱(RVF)の種類(病型)

リフトバレー熱(RVF)の病型は、不顕性感染、非特異的発熱性疾患、重症型の大きく3つに分けられます。

不顕性感染

多くの感染者は不顕性感染であり、症状を示さずに経過します。

病型特徴
不顕性感染症状を示さずに経過する

非特異的発熱性疾患

一部の感染者では、非特異的な発熱性疾患が現れます。

  • 発熱
  • 頭痛
  • 筋肉痛
  • 関節痛

重症型

重症型は、出血熱型、脳炎型、網膜炎型に細分化されます。

重症型特徴
出血熱型重篤な出血症状を伴う
脳炎型意識障害や神経症状を示す
網膜炎型視力低下や視野欠損などの眼症状を呈する

重症型は致死率が高く、迅速な対応が必要で、特に出血熱型と脳炎型は予後不良となる危険性が高いです。

リフトバレー熱(RVF)の主な症状

リフトバレー熱の症状は、発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛、消化器症状など、さまざまです。

発熱

リフトバレー熱に罹患すると、38度を超える発熱が数日間続き、熱の出方としては、急性のパターンと亜急性のパターンがあります。

急性型の熱型亜急性型の熱型
39度以上の高熱38度前後の発熱
3〜4日程度で解熱1週間以上続くことも

全身倦怠感

リフトバレー熱では、強い全身倦怠感が現れるのも特徴の一つです。

日常生活に支障をきたすほどの強い疲労感やだるさを感じることがあり、発熱と同時に現れやすい傾向にあります。

頭痛・筋肉痛

リフトバレー熱では頭痛や筋肉痛もよく見られる症状です。 頭痛は激しいことが多く、鎮痛薬が必要になるケースもあります。

筋肉痛は全身に広がることが特徴で、関節の痛みを伴うこともしばしばあります。

  • 頭痛の部位:前頭部、側頭部、後頭部など
  • 筋肉痛の好発部位:背中、腰、大腿部など

消化器症状

リフトバレー熱では消化器症状が起こる可能性があります。

主な消化器症状

症状頻度
食欲不振比較的多い
悪心・嘔吐時に見られる
下痢稀だが重症例で起こり得る

これらの症状は、発熱や倦怠感と同じ時期に現れやすいです。

リフトバレー熱(RVF)の原因・感染経路

リフトバレー熱は、RVFウイルスによって引き起こされる人獣共通感染症で、RVFウイルスは、主にヌカカという蚊を介して媒介されます。

ヌカカによるRVFウイルスの媒介

ヌカカは吸血の際に、ウイルスに感染した動物の血液を吸い込むことでウイルスを保有するようになります。

そして、別の動物やヒトを吸血する時に、唾液腺からウイルスを注入することで感染を広げていくのです。

ヌカカの種類ウイルス媒介能
アカイエカ高い
キンイロヤブカ中程度

感染動物との接触による感染

RVFウイルスに感染した家畜と直接触れることでも感染が起こることがあり、感染動物の血液や体液、組織などに含まれるウイルスが、傷口や粘膜から体内に侵入することで感染が成立します。

感染リスクが高いと考えられる接触の例

  • 感染動物の解体・処理
  • 感染動物由来の生乳の摂取
  • 流産した感染動物の処置
感染源リスクレベル
血液非常に高い
体液高い
組織高い

自然環境中でのウイルスの存続

RVFウイルスは乾燥に強く、土壌中で長期間生存することが可能です。

感染動物の死骸や排泄物などを介して環境中に放出されたウイルスが、新たな感染源となることもあり得ます。

また、ヌカカの卵内でウイルスが受け継がれ、孵化した成虫がウイルスを保有しているケースも。

診察(検査)と診断

リフトバレー熱は、臨床症状と検査結果を組み合わせることにより診断が下されます。

臨床診断においては、患者の症状や病歴、危険因子などを総合的に評価することが大切です。

リフトバレー熱に特徴的な症状としては、発熱、筋肉痛、関節痛、頭痛などが挙げられ、重症例においては出血症状や神経症状を呈する場合もあります。

臨床診断

評価項目内容
症状発熱、筋肉痛、関節痛、頭痛など
病歴流行地域への渡航歴、動物との接触歴など
危険因子医療従事者、実験室勤務者など

臨床診断でリフトバレー熱が疑われた際には、確定診断のために特異的な検査が実施されます。

ウイルス分離・同定

リフトバレー熱ウイルスを血液や組織から直接分離・同定する方法です。

ウイルス分離には、以下のような検体が用いられます。

  • 急性期の血液
  • 肝臓、脾臓などの組織
  • 髄液

血清学的診断

リフトバレー熱ウイルスに対する抗体を血清から検出する方法です。

よく用いられる検査法

検査法特徴
ELISA法感度・特異度が高い
中和試験特異度が高いが、実施に時間がかかる
蛍光抗体法迅速だが、特異度がやや低い

遺伝子診断

リフトバレー熱ウイルスの遺伝子を検出する方法です。

  • RT-PCR法
  • リアルタイムPCR法
  • LAMP法

これらの検査法は、感度・特異度が高く、迅速に結果が得られるというメリットがあります。

また、検体の採取時期や種類によっては、偽陰性となる可能性があるため注意が必要です。

リフトバレー熱(RVF)の治療法と処方薬、治療期間

リフトバレー熱の治療は、主に症状をやわらげる対症療法と、支持療法が中心です。

ただし、重症の場合は集中治療が必要になることもあり、治療期間は症状の重さによって変わってきます。

対症療法について

対症療法では、解熱鎮痛剤や制吐剤などの薬を投与することで、発熱や嘔吐などの症状をやわらげます。

薬の名前効果
アセトアミノフェン熱を下げ痛みを和らげる
ロペラミド下痢を止める

支持療法について

支持療法では、脱水症状に対して点滴で水分を補給したり、肝臓の機能が低下した場合は肝臓を保護する治療を行ったりします。

治療法目的
点滴療法脱水を改善する
肝臓を保護する療法肝臓の機能を守る

重症の場合は、以下のような集中治療が必要となることがあります。

  • 人工呼吸器をつける管理
  • 血液を浄化する療法
  • 血漿を交換する療法

抗ウイルス薬について

現時点では、リフトバレー熱に特化した抗ウイルス薬はまだ開発されていませんが、一部の抗ウイルス薬がリフトバレー熱の治療に効果がある可能性が示唆されています。

薬の名前効果
リバビリンウイルスの増殖を抑える
ファビピラビルウイルスの増殖を抑える

治療期間について

リフトバレー熱の治療期間は、軽症の場合は1〜2週間程度で回復しますが、重症の場合は数週間から数ヶ月にわたって入院治療が必要になることもあります。

予後と再発可能性および予防

リフトバレー熱の治療終了後の経過は比較的順調で、治療を受けた患者さんの多くは回復していきます。

ただし、再発の可能性もあるので、注意が必要です。

治療後の予後

RVFの治療後、大部分の患者さんは後遺症なく回復します。

予後割合
後遺症なし80-90%
軽度の後遺症5-15%
重度の後遺症1-5%

再発の可能性

RVFは一度治癒しても、再発する可能性があり、再発のリスクは初回感染から数年間は高く、徐々に低下していきます。

  • 初回感染から1年以内の再発率: 5-10%
  • 初回感染から3年以内の再発率: 2-5%
  • 初回感染から5年以内の再発率: 1-2%
経過年数再発率
1年以内5-10%
3年以内2-5%
5年以内1-2%

再発予防の重要性

RVFの再発を防ぐためには、治療後も定期的な検査を受け、ウイルスの再活性化を早期に発見することが大切です。

また、再発のリスクが高い時期は、免疫力を保つための生活習慣を心がけてください。

ワクチンによる予防

RVFの予防にはワクチン接種が有効で、ワクチンは感染リスクの高い地域の住民や、職業上のリスクがある人に推奨されています。

定期的なワクチン接種により、感染や重症化のリスクを大幅に下げることが可能です。

RVFは治療と予防措置によって、良好な経過をたどることが期待できます。

リフトバレー熱(RVF)の治療における副作用やリスク

リフトバレー熱の治療では、薬物療法による副作用、治療の遅れに起因する合併症のリスク、ワクチン接種に伴う副反応などの問題点があります。

薬物療法の副作用

薬剤名主な副作用
リバビリン貧血、白血球減少、血小板減少
インターフェロンインフルエンザ様症状、うつ病

抗ウイルス薬のリバビリンやインターフェロンは、ウイルスの増殖を抑える一方で、正常な細胞にも影響を及ぼすことがあります。

そのため、貧血や白血球減少、血小板減少などの血液障害や、インフルエンザ様症状、うつ病などの精神症状が現れることも。

治療の遅れによる合併症のリスク

リフトバレー熱の治療開始が遅れると、重篤な合併症を発症するリスクが高まります。

  • 脳炎
  • 網膜炎
  • 出血性熱

これらの合併症は、時に生命にかかわる事態を引き起こすこともあるため、早期の診断と治療の開始が必要です。

治療の遅れは、合併症のリスクを高めるだけでなく、回復までの期間も長引かせる要因となります。

ワクチンの副反応

ワクチンの種類副反応の頻度
不活化ワクチン比較的まれ
弱毒生ワクチン比較的多い

リフトバレー熱のワクチンは、不活化ワクチンと弱毒生ワクチンの2種類です。

不活化ワクチンは安全性が高く、副反応の発生頻度は比較的低いですが、弱毒生ワクチンではまれに重篤な副反応を引き起こすことがあります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

リフトバレー熱の治療費用は、症状の重さや合併症の有無によって大きく変動します。

軽症の場合

軽症であれば、治療にかかる費用は比較的安価で済みます。

治療内容費用
診察費5,000円
投薬費10,000円

重症の場合

重症になると、集中治療室でのケアが必要になることがあり、治療費は非常に高額です。

治療内容費用
集中治療室管理費1日あたり50,000円
人工呼吸器管理費1日あたり30,000円

重症患者の平均在院日数は14日間であり、総治療費が100万円以上になるケースもあります。

治療費の負担

リフトバレー熱の治療費は、以下のような方法で負担が軽減されます。

  • 公的医療保険による負担軽減
  • 自治体による公費負担制度の活用
  • 民間医療保険の利用

以上

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