ロタウイルス感染症

ロタウイルス感染症(rotavirus infection)とは、ロタウイルスが原因となって発症する感染性胃腸炎です。

主に乳幼児に多く見られ、激しい下痢や嘔吐、高熱などの症状が現れます。

ロタウイルス感染症は世界的に流行しており、発展途上国においては乳幼児の死亡原因の上位を占めている疾患の一つです。

ロタウイルスの感染力は非常に強く、感染者の便中に排出されたウイルスを介して感染が広がっていきます。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

ロタウイルス感染症の種類(病型)

ロタウイルス感染症は、無症候性感染、軽症胃腸炎、重症胃腸炎の3つの主な病型に分類され、それぞれの病型によって症状の有無や重症度が異なります。

無症候性感染

無症候性感染は、ロタウイルスに感染しているにもかかわらず、明らかな症状が現れない病型です。

感染者本人は自覚症状がないことが多いため、感染に気づかないことがあります。

ただし、無症候性感染者からの二次感染の可能性があるため、注意が必要です。

病型症状の有無
無症候性感染なし
軽症胃腸炎あり(軽度)
重症胃腸炎あり(重度)

軽症胃腸炎

軽症胃腸炎は、ロタウイルス感染による比較的軽度の消化器症状を示す病型で、下痢(水様便)、嘔吐、発熱、腹痛などの症状が見られます。

多くのケースでは自然治癒が期待できる病型ですが、脱水などの合併症には注意してください。

重症胃腸炎

重症胃腸炎は、ロタウイルス感染による重篤な消化器症状を伴う病型で、特に乳幼児において注意が必要です。

頻回の水様便や嘔吐、高熱などの症状が見られ、急速に脱水が進行する可能性があります。

入院治療を要することもあり、電解質バランスの是正や点滴などの処置が必要になるケースも。

合併症としては、脱水のほか、けいれんや脳症などの神経症状をきたすこともあるため、慎重な経過観察が求められます。

病型主な症状重症度
無症候性感染なし軽度
軽症胃腸炎下痢、嘔吐、発熱、腹痛中等度
重症胃腸炎頻回の水様便、嘔吐、高熱、脱水重度

ロタウイルス感染症の主な症状

ロタウイルスに感染すると、下痢や嘔吐、発熱といった消化器症状が主に現れます。

下痢

ロタウイスに感染した場合、水のような下痢が特徴的に見られ、下痢の回数は1日あたり10回以上になることもあります。

下痢の症状は普通3日から8日ほど続きます。

症状頻度
下痢90%以上
嘔吐80%程度

嘔吐

ロタウイルスに感染すると、嘔吐もよく見られる症状です。

多くの場合、嘔吐は下痢より先に起こり、特に乳幼児では何度も嘔吐を繰り返すことで脱水が急速に進んでしまうこともあり、嘔吐は1日から3日ほど続きます。

年齢嘔吐の頻度
乳児90%以上
幼児80%程度

発熱

ロタウイルスに感染した患者の半数以上で、38℃を超える発熱が見られ、通常2、3日間続き、39℃以上の高熱が出ることもあります。

  • 発熱の特徴
  • 発症の初期に高熱が出ることが多い
  • 解熱剤が良く効く
  • 発熱によって体がだるくなったり食欲がなくなったりする

その他の症状

ロタウイルスに感染すると、主要な症状以外にも以下のような症状が現れる場合があります。

  • 腹痛
  • お腹が張った感じ
  • 軟便や水様便
  • 便に粘液や血液が混ざる

ただし、これらの症状は特徴的ではなく、他の消化器感染症でも見られるため、ロタウイルス感染症の診断にはあまり役立ちません。

ロタウイルス感染症の原因・感染経路

ロタウイルスは、乳幼児に多くみられる下痢症の原因ウイルスで、二本鎖RNAをゲノムとして持ち、非常に感染力が強いのが特徴です。

わずかなウイルス量でも感染が成立してしまうため、注意してください。

ロタウイルスの感染経路

ロタウイルスの主な感染経路は、経口感染です。

感染者の便には大量のウイルスが排出されているため、汚染された手指や物品を介して感染が広がっていきます。

また、ロタウイルスは環境中で長期間生存できることから、汚染された物品からの間接的な感染も起こり得ます。

感染経路詳細
経口感染感染者の便に汚染された手指や物品を介して感染
間接感染汚染された物品から間接的に感染

ロタウイルスの感染リスク因子

ロタウイルス感染のリスクが高くなる因子

  • 乳幼児であること
  • 集団生活を送っていること(保育所、幼稚園など)
  • 衛生環境が不十分であること

特に、免疫機能が未発達な乳幼児は、ロタウイルスに感染しやすく、重症化するリスクも高いです。

診察(検査)と診断

ロタウイルス感染症の診察では、医師が患者さんの臨床症状や身体所見を詳しく確認し、必要に応じて各種検査を実施します。

臨床診断は症状や身体所見から行われますが、ロタウイルス感染症であることを確実に診断するには検査が欠かせません。

臨床症状と身体所見の確認

医師は患者の症状や身体所見を詳しく確認します。 ロタウイルス感染症に特徴的な症状は、下痢、嘔吐、発熱などです。

これらの症状の有無や程度を評価することが臨床診断の第一歩となります。

症状確認内容
下痢回数、性状、期間
嘔吐回数、量、頻度
発熱体温、持続期間

検査の実施

ロタウイルス感染症の確定診断に行われる検査

  • – 便検査:ロタウイルス抗原の検出
  • – 血液検査:電解質異常や脱水の評価
  • – 画像検査:腸管の炎症や合併症の評価

中でも便検査でのロタウイルス抗原の検出は、確定診断に欠かせません。迅速診断キットを使用することで、短時間で結果を得ることが可能です。

検査方法検出対象
酵素免疫測定法(EIA)ロタウイルス抗原
イムノクロマトグラフィー法ロタウイルス抗原

臨床診断と確定診断

ロタウイルス感染症の診断は、臨床症状や身体所見から行われる臨床診断と、検査結果に基づく確定診断の2段階で行われます。

臨床診断で、特徴的な症状の組み合わせから疑いを持ったら、 確定診断では検査結果を基に、ロタウイルス感染症であることを確認します。

ロタウイルス感染症の治療法と処方薬、治療期間

ロタウイルス感染症の治療では、症状をやわらげ脱水を防ぐことが目標です。

多くの場合、自宅で十分な休養と水分補給を行うことで回復に向かいますが、症状が重い場合は入院治療を要することもあります。

治療期間は個人差がありますが、およそ1週間が目安です。

症状に応じた治療

ロタウイルス感染症の治療は、症状に応じて行われ、軽症の場合は、自宅での安静と経口補水療法(ORT)が中心です。

経口補水液を飲んで脱水を予防・治療します。

現在、ロタウイルス感染症に対する特異的な抗ウイルス薬はありません。

症状治療法
軽症自宅安静、経口補水療法
中等症自宅安静、経口補水療法、必要に応じて制吐剤・整腸剤

中等症の場合は、経口補水療法に加えて、嘔吐が激しい場合は制吐剤(ドンペリドンなど)、下痢が続く場合は整腸剤(ビオフェルミンなど)が処方されることがあります。

入院治療

重症の脱水を伴う場合や、経口補水療法が困難な乳幼児の場合は、入院治療が必要で、入院治療では、点滴による輸液療法が行われます。

治療法内容
輸液療法点滴による水分・電解質の補給
経鼻胃管経口摂取が困難な場合の栄養補給

入院期間は、通常、数日から1週間程度です。

治療期間と予後

ロタウイルス感染症の治療期間は、通常1週間程度です。治療を行えば、ほとんどの場合は後遺症なく回復します。ただし、次のような場合は注意が必要です。

  • 乳幼児や高齢者などの脱水を起こしやすい患者
  • 免疫力が低下している患者

これらの患者さんでは、重症化のリスクが高いため、慎重な経過観察が必要です。

予後と再発可能性および予防

ロタウイルス感染症の治療は、適切な支持療法により治療成績は良好であり、再発リスクは低く、また、ワクチン接種による予防が有効です。

ロタウイルス感染症の治療の予後

ロタウイルス感染症の治療は、主に脱水に対する輸液療法が中心です。

適切な輸液療法により、多くの場合、数日で症状は改善します。

重症化するケースはまれで、治療が行われれば予後は良好です。

治療法予後
輸液療法良好
対症療法良好

ロタウイルス感染症の再発可能性

ロタウイルス感染症は、一度罹患すると免疫が獲得されるため、同じ型のウイルスによる再感染の可能性は低いとされています。

ロタウイルス感染症の予防

ロタウイルス感染症の予防法

  • ワクチン接種
  • 手洗いの徹底
  • 環境衛生の維持

特に、ワクチン接種は非常に有効な予防手段です。

予防法有効性
ワクチン接種高い
手洗い中程度
環境衛生中程度

ロタウイルス感染症の治療における副作用やリスク

ロタウイルス感染症の治療で用いられる薬や治療法には、副作用やリスクが伴う可能性があります。

経口補水療法の副作用とリスク

経口補水療法は、ロタウイルス感染症の治療の基本となる方法ですが、副作用やリスクがあります。

副作用・リスク内容
電解質異常ナトリウムやカリウムの過剰摂取による高ナトリウム血症や高カリウム血症
腹部膨満感大量の液体摂取による腹部の不快感や膨満感

これらの副作用やリスクを防ぐための注意点

  • 適切な濃度の経口補水液を使用する
  • 飲み過ぎないように注意する
  • 症状に応じて医師の指示に従う

制吐剤・整腸剤の副作用とリスク

制吐剤や整腸剤は、ロタウイルス感染症の症状緩和に用いられることがあります。

制吐剤や整腸剤の副作用やリスク

薬剤副作用・リスク
制吐剤眠気、倦怠感、錐体外路症状(ジスキネジアなど)
整腸剤アレルギー反応、腹部膨満感、便秘

輸液療法の副作用とリスク

重症の脱水を伴う場合には、点滴による輸液療法が行われます。

輸液療法の副作用やリスク

  • 電解質異常(高ナトリウム血症、低ナトリウム血症、高カリウム血症など)
  • 感染症(カテーテル関連血流感染症など)
  • 点滴部位の腫れや痛み

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

ロタウイルスに感染した場合の治療費は、軽い症状であれば数万円で済むこともありますが、重症化して入院が必要になると、数十万円の費用がかかるケースもあります。

初診料と再診料

ロタウイルス感染症の治療で受診する際、初診料は1,500円程度、再診料は800円程度が一般的ですが、医療機関ごとに料金が異なるため、事前に確認してください。

検査費と処置費

ロタウイルス感染症と診断するには、便の検査を行う必要があります。 この検査の費用は、おおむね数千円程度です。

さらに、点滴などの処置が必要となった場合は、処置費が上乗せされます。

検査名費用目安
便検査3,000円~5,000円
血液検査5,000円~10,000円

入院費

症状が重くなり、入院治療が必要となったケースでは、1日あたり数万円の入院費がかかります。

数日から数週間の入院が必要になることもあり、かなりの費用負担となることも珍しくありません。

入院期間費用目安
1週間20万円~30万円
2週間40万円~60万円

以上

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