サポウイルス感染症(sapovirus infection)とは、サポウイルスが原因となって発症する急性胃腸炎のことです。
おもに嘔吐や下痢、腹痛といった消化器に関連する症状が現れます。
このウイルスは主に糞口経路を通じて感染し、汚染された食べ物や飲み物、または感染した人との直接的な接触によって広がっていきます。
乳幼児や高齢者では症状が重くなる可能性が高く、特に集団生活をする場所では集団感染が起こりやすいため、十分な注意が必要です。
サポウイルス感染症の主な症状
サポウイルス感染症は、嘔吐、下痢、腹痛など、主に消化器に関連する症状を引き起こします。
症状の概要
サポウイルス感染症は消化器系に影響を与え、感染から1〜2日後に症状が出始めることが多く、通常は1〜4日程度で回復しますが、長引くこともあります。
主要な症状
サポウイルス感染症の主な症状
症状 | 特徴 |
嘔吐 | 突然の吐き気を伴う |
下痢 | 水様性で頻繁 |
腹痛 | けいれん様の痛み |
発熱 | 軽度から中等度 |
これらの症状は急に始まり、人によって症状の強さや組み合わせが異なります。
年齢層による症状の違い
サポウイルス感染症の症状は、乳幼児や高齢者で重くなることがあるため、注意が必要です。
年齢層 | 主な特徴 |
乳幼児 | 嘔吐が目立つ、脱水のリスクが高い |
成人 | 下痢が主な症状、腹痛も伴う |
高齢者 | 症状が長引きやすい、合併症のリスクがある |
その他の関連症状
主な消化器症状に加えて、次のような症状が現れることもあります。
- 頭痛
- 筋肉痛
- 倦怠感
- 食欲不振
- めまい
症状の進行と注意点
サポウイルス感染症の症状は通常、自然に良くなっていきますが、重症化を防ぐのに気をつけるべきなのは脱水症状です。
嘔吐や下痢が頻繁に起こると、体内の水分やミネラルが急速に失われ、脱水状態になる可能性があります。
脱水症状のときに見られる兆候
- 口の渇き
- 尿の量が減る
- 皮膚の乾燥
- めまい
- 強い疲労感
これらの症状が出た場合、特に乳幼児や高齢者は、すぐに水分補給を行い、必要に応じて医療機関を受診してください。
また、免疫力が低下している人や持病のある人は、症状が悪化しやすいため、早めの対応が必要です。
サポウイルス感染症の原因・感染経路
サポウイルス感染症は、カリシウイルス科サポウイルス属に属するウイルスが引き起こす疾患で、主に糞口感染によって広がります。
サポウイルスの特徴
サポウイルスは、直径約30-38nmの小さなRNAウイルスで、遺伝子型によって複数の遺伝子群に分類され、環境中での耐性が比較的高く、低温や乾燥した状態でも長期間生き残れます。
サポウイルスの主な特徴
特徴 | 説明 |
ゲノム | 一本鎖プラス鎖RNA |
カプシド | 正二十面体構造 |
安定性 | 環境中で比較的安定 |
遺伝子型 | 複数の遺伝子群に分類 |
感染経路
サポウイルス感染症の主な感染経路は糞口感染です。
感染者の糞便中に排出されたウイルスが、直接的または間接的に口から体内に入ることで感染が成立します。
主な感染経路
- 汚染された食品や水の摂取
- 感染者との直接接触
- 汚染された物品や表面との接触
- 飛沫感染(まれ)
環境中での生存
サポウイルスは環境中で比較的安定性が高く、長期間生き残ることができ、この特性が、ウイルスの伝播を容易にしている一因です。
さまざまな環境条件下での推定生存期間
環境条件 | 推定生存期間 |
室温の水 | 数週間 |
乾燥表面 | 数日間 |
低温条件 | 数ヶ月 |
塩素処理 | 一定の抵抗性あり |
感染のリスク因子
サポウイルス感染症のリスクは、次のような要因によって高まる可能性があります。
- 年齢(特に乳幼児や高齢者)
- 免疫機能の低下
- 集団生活(保育施設、高齢者施設など)
- 衛生状態の悪い環境
- 汚染された食品や水の摂取
季節性と地理的分布
サポウイルス感染症は、温帯地域では冬季に感染が増加する傾向があり、熱帯地域ではより均一な分布を示し、衛生状態の悪い地域でより高い感染率が報告されています。
診察(検査)と診断
サポウイルス感染症の診断は、患者さんの症状を丁寧に観察することと、特殊な検査を組み合わせて行われます。
初期診察の重要性
患者さんの症状や経過、周りで感染が広がっていないかなどを細かく聞き取り、似たような他の感染症と区別したり、症状がどれくらい重いかを評価します。
臨床症状による判断
患者さんが示す症状は、診断するうえで重要な手がかりとなります。
主な臨床症状 | 特徴 |
嘔吐 | 突然起こり、何度も繰り返す |
下痢 | 水のような便が続く |
腹痛 | 急に起こり、けいれんのような痛み |
発熱 | 軽いものから中程度のもの |
症状は急に現れ、1〜4日ほど続きますが、他のウイルスが原因の胃腸炎でも見られるため、症状だけで確実に診断するのは難しいです。
検査による診断
サポウイルス感染症を確実に診断するには、特別な検査が必要です。
主に使われる検査方法
- RT-PCR法:ウイルスの遺伝子を見つける最も精度の高い方法
- 免疫クロマトグラフィー法:ウイルスの一部を素早く見つける検査法
- 電子顕微鏡検査:ウイルスの姿を直接見る方法
これらの検査は、患者さんの便や吐いたものを調べて行われます。
検査方法 | 特徴 | かかる時間 |
RT-PCR法 | とても正確 | 数時間〜1日 |
免疫クロマト法 | 早くて簡単 | 10〜30分 |
電子顕微鏡検査 | ウイルスの姿が見える | 数時間 |
診断後の対応
サポウイルス感染症と診断されたら、いくつかの対応が取られます。
- 体の水分が足りているかを確認し、必要な処置をする
- 症状がどれくらい重いかを判断する
- 他の病気を引き起こす危険がないか調べる
- 感染が広がらないよう、注意点を説明する
診断結果を元に、入院が必要か、自宅で休養できるかなどが決められます。
サポウイルス感染症の治療法と処方薬、治療期間
サポウイルス感染症の治療は主に対症療法と支持療法を中心に行われ、現在のところ抗ウイルス薬はありません。
対症療法
対症療法の中心は、脱水の予防と改善、電解質バランスの維持です。
主な対症療法
治療法 | 目的 |
経口補水療法 | 脱水の予防と改善 |
静脈内輸液 | 重度の脱水の改善 |
制吐剤 | 嘔吐の軽減 |
解熱剤 | 発熱の緩和 |
経口補水療法
軽度から中等度の脱水に対しては、経口補水液(ORS)の摂取が推奨されます。
ORSの種類と特徴
- 市販のORS製剤
- WHO推奨のORS組成
- 家庭で作れる代替ORS(砂糖と塩を用いたもの)
静脈内輸液療法
重度の脱水や経口摂取が困難な場合には、静脈内輸液が必要となることがあります。
輸液の種類
輸液の種類 | 使用状況 |
等張液 | 軽度から中等度の脱水 |
乳酸リンゲル液 | 中等度から重度の脱水 |
5%ブドウ糖液 | エネルギー補給 |
薬物療法
サポウイルス感染症では、症状をやわらげるための薬物療法が行われることがあります。
主な薬物療法
- 制吐剤(メトクロプラミド、オンダンセトロンなど)
- 解熱剤(アセトアミノフェン、イブプロフェンなど)
- 整腸剤(プロバイオティクスなど)
- 止痢薬(使用には注意が必要)
治療期間
サポウイルス感染症の治療期間は、通常3〜5日程度です。
多くの場合、ウイルスは自然に体外に排出され、症状も改善しますが、免疫不全患者さんでは治療期間が長引くことがあります。
一般的な治療経過の目安
- 軽症例:3〜5日
- 中等症例:5〜7日
- 重症例または免疫不全患者:1〜2週間以上
予後と再発可能性および予防
サポウイルス感染症は通常良い経過をたどりますが、予防策を取ることで再び感染したり、他の人に広めたりするのを防ぐことが大切です。
予後の一般的な傾向
サポウイルス感染症の予後は、多くの場合良好で、健康な大人であれば、普通1〜4日ほどで自然に回復します。
ただし、赤ちゃんや小さな子供、お年寄り、免疫力が弱っている人は回復に時間がかかることも。
年齢層 | 一般的な回復期間 |
健康な成人 | 1〜4日 |
乳幼児・高齢者 | 4〜7日 |
免疫不全者 | 1週間以上 |
症状が治まった後も、体の中のウイルスが2〜3週間出続けることがあるので、気をつけてください。
再発の可能性とリスク因子
サポウイルスに感染した後、しばらくの間は免疫ができますが、期間は人によって違います。
再び感染するリスク要因
- 免疫力が下がっている
- 栄養が足りていない
- 周りが清潔でない
- 新しい型のサポウイルスの発生
リスク因子 | 影響度 |
免疫力が下がる | 高い |
栄養が足りない | 中くらい |
周りが清潔でない | 中〜高い |
新しい型のウイルス | 高い |
効果的な予防策
サポウイルス感染症を予防するには、以下の対策が効果的です。
- 手をしっかり洗う:石鹸を使い、20秒以上かけてていねいに洗う
- 食べ物を正しく扱う:十分に熱を通す、生で食べるのを避ける ・周りを清潔に保つ:トイレや料理をする場所を定期的に消毒する
- 感染した人と接触しない:特に症状がある間は気をつける
- 免疫力を保つ:バランスの良い食事をとる、十分に睡眠をとる、適度に運動する
集団感染の予防
サポウイルス感染症は多くの人に一度に広がりやすいため、注意が必要です。
集団で生活する場所(保育園、学校、お年寄りの施設など)での対策
- 定期的に手を洗う
- 共通で使うものを消毒する
- 感染した人を早く見つけて、隔離する
- 部屋の空気を入れ替える
- 食事を出す時に清潔に気をつける
サポウイルス感染症の治療における副作用やリスク
サポウイルス感染症の治療は主に対症療法で行われるため、直接的な副作用は比較的少ないものの、治療に関して注意すべき点があります。
輸液療法に関するリスク
経口補水療法や静脈内輸液療法は、脱水の改善に効果を発揮しますが、過剰な輸液は、高齢者や心疾患患者において問題を引き起こすことがあります。
輸液療法に関する主なリスク
リスク | 影響 |
体液過剰 | 浮腫、心不全の悪化 |
電解質異常 | 低ナトリウム血症、高カリウム血症 |
血糖値の変動 | 高血糖、低血糖 |
静脈炎 | 静脈内輸液による局所の炎症 |
制吐剤の副作用
嘔吐を抑えるために使用される制吐剤の副作用は、高齢者や小児に見られることがあります。
主な制吐剤と副作用
- メトクロプラミド:錐体外路症状、眠気
- オンダンセトロン:頭痛、便秘、QT延長
- ドンペリドン:乳汁分泌、女性化乳房
解熱鎮痛剤の副作用
解熱鎮痛剤は、発熱や疼痛をやわらげるために使用されますが、一定のリスクを伴います。
主な解熱鎮痛剤と副作用
薬剤 | 主な副作用 |
アセトアミノフェン | 肝障害(大量投与時) |
イブプロフェン | 胃腸障害、腎機能障害 |
アスピリン | 胃腸出血、ライ症候群(小児) |
抗菌薬使用のリスク
サポウイルス感染症はウイルス性であるため、抗菌薬は通常必要なく、使用した場合にはリスクがあります。
抗菌薬の乱用に伴うリスク
- 耐性菌の出現
- 腸内細菌叢の乱れ
- アレルギー反応
- 薬剤性下痢(クロストリジウム・ディフィシル感染症など)
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
外来診療の費用
初診料は2,880円、2回目以降は730円が基本で、便を調べる検査料は、3,000円から5,000円くらいです。
入院治療の費用
症状がひどくなって入院する必要がある場合、1日の入院料は約10,000円から30,000円です。
点滴などの治療にかかる費用が、さらに5,000円から10,000円くらい加わります。
治療費の内訳
項目 | 費用(円) |
初診料 | 2,880 |
再診料 | 730 |
便検査 | 3,000-5,000 |
以上
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