重症急性呼吸器症候群(SARS) – 感染症

重症急性呼吸器症候群(SARS)(severe acute respiratory syndrome)とは、SARSコロナウイルスが原因の深刻な呼吸器感染症です。

この病気は2002年から2003年にかけて流行が起き、多くの国々に影響を与えました。

高熱や咳、呼吸困難などの症状を特徴とし、重症化すると肺炎や呼吸不全を引き起こす可能性があります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

重症急性呼吸器症候群の種類(病型)

重症急性呼吸器症候群(SARS)は軽症、中等症、重症の3つに分類されます。

軽症型SARS

軽症型SARSは、比較的軽い症状が現れる病型であり、患者さんの生活への影響は小さいです。

外来での経過観察や自宅療養が可能で、症状が悪化しない限り入院の必要性はありません。

特徴詳細
呼吸状態ほぼ正常
酸素投与不要
日常生活ほぼ支障なし

中等症型SARS

中等症型SARSは、軽症型よりも症状が進行した状態で、入院して専門的な医療を受ける必要があることが多いです。

呼吸機能の低下が見られるため、酸素投与が必要になる場合もあり、患者さんの呼吸状態を注意深く観察することが求められます。

中等症型SARSの主な特徴

  • 呼吸困難の増悪
  • 発熱の持続
  • 全身倦怠感の増強
  • 酸素飽和度の低下

重症型SARS

重症型SARSは、最も深刻な病状を示す病型であり、患者さんの生命に関わる危険性が高まる段階にあります。

この病型の患者さんは、集中治療室(ICU)での管理が必要となることが多く、24時間体制での厳重な監視が必要です。

呼吸不全や多臓器不全のリスクがあるため、高度な医療介入が求められ、人工呼吸器管理や体外式膜型人工肺(ECMO)などの生命維持装置が使用されることもあります。

症状対応
重度の呼吸困難人工呼吸器管理
循環不全昇圧剤投与
多臓器不全集中的な全身管理

重症急性呼吸器症候群の主な症状

重症急性呼吸器症候群(SARS)の症状は、発熱、咳、息切れがあり、重症化すると肺炎や呼吸不全を引き起こします。

SARSの一般的な症状

SARSに感染した場合、多くの患者さんに共通して見られる症状があります。

主な症状

  • 38℃以上の高熱(ほぼ全ての患者さんに見られる)
  • 乾いた咳
  • 息切れや呼吸困難
  • 筋肉痛 ・倦怠感(だるさ)
  • 頭痛

これらの症状は、感染後2〜7日程度の潜伏期間を経て現れることが多いです。

軽症の症状

軽症のSARS患者さんは、風邪やインフルエンザに似た症状を呈することがあります。

この段階では、重症化のリスクが比較的低いものの、経過観察が大切です。

症状特徴
発熱38℃前後の高熱
軽い乾咳
倦怠感軽度から中等度
筋肉痛軽度

中等症の症状

中等症のSARS患者さんでは、症状がより顕著になり、日常生活に支障をきたす程度まで進行することがあります。

中等症の特徴的な症状

  • 持続する高熱(39℃以上)
  • 激しい咳込み
  • 息切れの悪化
  • 胸部不快感や胸痛
  • 食欲不振
  • 下痢(約20〜25%の患者さんに見られる)

重症の症状

重症のSARS患者さんは、急速に状態が悪化し、集中治療を要することが多いです。

肺炎や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの深刻な合併症が発生するリスクが高まります。

症状特徴
呼吸困難著しい息切れ、酸素吸入が必要
肺炎両側性の肺炎像
低酸素血症血中酸素濃度の低下
多臓器不全腎不全、肝不全など

重症患者さんの中には、人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)などの高度な医療支援を必要とする方もいます。

重症急性呼吸器症候群の原因・感染経路

重症急性呼吸器症候群(SARS)は、SARS-CoVというコロナウイルスが原因です。

主に飛沫感染と接触感染によって伝播し、特定の状況下では空気感染の可能性もあります。

SARSの原因ウイルス

SARSの原因となるウイルスは、SARS-CoVと呼ばれるコロナウイルスの一種です。

SARS-CoVは、動物由来のウイルスが変異したもので、2002年に初めて人間に感染したことが確認されました。

特徴詳細
ウイルス名SARS-CoV
分類コロナウイルス科
遺伝子一本鎖RNAウイルス

SARSの感染源

SARSの主な感染源は、症状が顕著な感染者です。

感染者の呼吸器系分泌物や体液に含まれるウイルスが、他の人に感染する原因で、日常生活での濃厚接触が感染リスクを高める要因となります。

また、一部の動物もSARS-CoVの保有元となる可能性があり、人獣共通感染症の側面も持っているため、動物との接触にも注意が必要です。

SARSの感染源となり得る動物

  • コウモリ(自然宿主と考えられている)
  • ハクビシン
  • タヌキ
  • イタチアナグマ

SARSの主な感染経路

SARSの主な感染経路は、飛沫感染と接触感染です。

飛沫感染は、感染者のくしゃみや咳、会話などによって放出されたウイルスを含む飛沫を、近距離で他の人が吸い込むことで起こります。

接触感染は、ウイルスが付着した物体や表面に触れた後、自分の目や鼻、口を触ることで感染する経路です。

感染経路特徴
飛沫感染1-2m以内の近距離で起こりやすい
接触感染汚染された表面からの間接的な感染

空気感染の可能性

一部の状況下では、SARSの空気感染の可能性も指摘されており、従来の飛沫感染や接触感染とは異なるメカニズムで感染が広がる可能性を示唆しています。

空気感染は、ウイルスを含む微小な粒子が空気中を漂い、長時間・長距離にわたって感染力を保持する現象で、通常の呼吸によっても感染する可能性があるので注意が必要です。

感染リスクの高い環境

SARSの感染リスクは、密閉・密集・密接の「3密」環境で、高まります。

また、医療機関や介護施設など、感染者と接触する機会の多い場所でも感染リスクが高いです。

診察(検査)と診断

重症急性呼吸器症候群(SARS)の診断は、臨床症状の評価、疫学的情報の確認、および検査結果の総合的な判断に基づいて行われます。

臨床診断のプロセス

SARSの臨床診断は、患者さんの症状、渡航歴、および疫学的情報を総合的に評価することから始まります。

医療機関で行われる情報収集と評価

  • 詳細な問診(症状の発症時期、経過、渡航歴、接触歴など)
  • 身体診察(体温測定、呼吸音の聴診、酸素飽和度の測定など)
  • 胸部X線検査や CT検査(肺炎像の有無を確認)
  • 血液検査(白血球数、CRP値などの炎症マーカーを評価)

確定診断のための検査方法

SARSの確定診断には、ウイルスの遺伝子を直接検出する検査が用いられ、主な検査方法は、リアルタイムRT-PCR法です。

検査方法特徴
リアルタイムRT-PCR法高感度、短時間で結果が得られる
ウイルス分離培養確実だが時間がかかる

検査の実施タイミングと注意点

SARSの検査を実施するタイミングは、症状の発現時期や接触歴などを考慮して決定されます。

検査が考慮される状況

  • SARSが疑われる症状がある
  • SARS流行地域への渡航歴がある
  • SARS患者との濃厚接触歴がある

重症急性呼吸器症候群の治療法と処方薬、治療期間

重症急性呼吸器症候群(SARS)の治療は、主に対症療法と支持療法が中心となり、患者さんの状態に応じて総合的なアプローチが取られます。

抗ウイルス薬や免疫調整薬などの薬物療法も試みられていますが、特効薬は確立されていないのが現状です。

SARSの治療アプローチ

SARS治療の主な目的は、呼吸機能の維持と全身状態の安定化です。

重症度に応じて、在宅療養から集中治療室での管理まで、さまざまな対応が必要となります。

重症度主な治療場所
軽症自宅療養
中等症一般病棟
重症集中治療室(ICU)

対症療法と支持療法

SARSの治療の中心となるのが、対症療法と支持療法です。

対症療法では、発熱や咳などの症状を緩和することを目指し、患者さんの苦痛を軽減するとともに、体力の消耗を防ぐことを目的としています。

支持療法では、呼吸機能の維持や全身状態の安定化を図ります。

主な対症療法と支持療法

  • 解熱鎮痛薬の投与
  • 酸素療法
  • 人工呼吸器管理
  • 輸液療法
  • 栄養管理

薬物療法

SARSに対する特効薬は確立されていませんが、いくつかの薬物療法が試みられており、病態の改善や合併症の予防を目的として使用されます。

  • 抗ウイルス薬 ウイルスの増殖を抑制することを目的として使用され、発症早期での投与が効果的とされていますが、効果については更なる研究が必要です。
  • 免疫調整薬 過剰な免疫反応を抑制するために用いられることがあり、重症例において炎症反応を抑制し、臓器障害を予防する目的で使用されることがあります。
薬剤分類主な目的
抗ウイルス薬ウイルス増殖抑制
免疫調整薬過剰免疫反応の抑制

呼吸管理

SARSは、軽症例では酸素投与で対応可能なこともありますが、重症例では人工呼吸器管理が必要となる場合があります。

最重症例では、体外式膜型人工肺(ECMO)が用いられることもあり、これは、通常の人工呼吸器では対応が困難な重度の呼吸不全に対して適用される高度な生命維持装置です。

治療期間

SARSの治療期間は、発症から2〜3週間程度です。

ただし、重症例では、さらに長期の治療や回復期のリハビリテーションが必要で、人工呼吸器管理やECMOを要した患者さんでは、集中治療後の長期的なフォローアップが重要となります。

予後と再発可能性および予防

重症急性呼吸器症候群(SARS)の予後は、年齢、基礎疾患、治療開始時期によって違ってきます。

SARSの予後

SARSの予後に影響のある因子

予後因子影響
高齢予後不良のリスク増加
基礎疾患あり重症化リスク上昇
早期発見・対応予後改善の可能性

若年者や基礎疾患のない患者の予後は比較的良好ですが、高齢者や慢性疾患を有する患者さんでは、重症化のリスクが高くなる傾向があります。

死亡率と回復の見込み

SARSの死亡率は約9.6%とされており、他の呼吸器感染症と比較して高い値を示しています。

回復の見込みに影響がある要因

  • 発症からの経過時間
  • 合併症の有無
  • 医療機関のケア体制

早期に医療を受けられた場合、回復の見込みは向上します。

再発のリスクと可能性

SARSの再発リスクは比較的低いものの、再発の可能性もあります。

再感染のリスクを最小限に抑えるためには、感染リスクの高い環境への不要な立ち入りを避けることがが必要です。

予防策と感染対策

SARSの予防には、個人レベルでの対策と社会レベルでの対策が重要です。

個人レベルでの主な予防策

  • こまめな手洗いと手指消毒
  • マスクの着用
  • 咳エチケットの徹底
  • 密閉・密集・密接の「3密」を避ける

社会レベルでの対策

  • 感染者の早期発見と隔離
  • 接触者のトレーシングと経過観察
  • 渡航者に対する健康観察と情報提供

重症急性呼吸器症候群の治療における副作用やリスク

重症急性呼吸器症候群(SARS)の治療では、抗ウイルス薬や免疫調整薬の使用による副作用、人工呼吸器関連合併症、長期入院に伴う身体機能低下などがあります。

薬物療法に伴う副作用

抗ウイルス薬は、消化器症状や肝機能障害などの副作用を引き起こす可能性があり、特に長期使用や高用量投与時にはリスクが高くなります。

免疫調整薬は、感染リスクの上昇や代謝異常などの副作用が懸念され、高齢者や基礎疾患を持つ患者さんでは注意深いモニタリングが必要です。

薬剤主な副作用
抗ウイルス薬消化器症状、肝機能障害
免疫調整薬感染リスク上昇、代謝異常

呼吸管理に関連するリスク

人工呼吸器関連肺炎(VAP)は、最も懸念される合併症の一つで、二次感染による重症化や治療期間の延長につながります。

また、長期の人工呼吸器使用は、気道損傷や筋力低下などを引き起こすことがあります。

ステロイド使用に関連するリスク

重症SARS患者さんに対してステロイド治療が行われることがあり、高血糖や骨粗鬆症、消化性潰瘍などの副作用が懸念されます。

長期使用や高用量投与時には注意が必要です。

ステロイド使用のリスク対策
高血糖血糖モニタリング
骨粗鬆症カルシウム・ビタミンD補充
消化性潰瘍胃粘膜保護薬の併用

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

治療費の概要

SARSの治療費は、入院費、検査費、薬剤費などから構成されます。

治療内容概算費用
一般病棟入院(1日)3〜5万円
ICU入院(1日)10〜15万円
胸部CT検査1.5〜2万円

軽症例の治療費

軽症例では、短期間の入院や外来治療で済むことが多いです。

  • 一般病棟入院(7日間)21〜35万円
  • 血液検査(複数回)5〜8万円
  • 抗ウイルス薬 10〜15万円

重症例の治療費

重症例では、長期の ICU入院や人工呼吸器の使用が必要となる場合があり、治療費が高額になります。

治療内容概算費用
ICU入院(30日間)300〜450万円
人工呼吸器使用(1日)5〜7万円
ECMO使用(1日)10〜15万円

以上

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