ブドウ球菌性食中毒 – 感染症

ブドウ球菌性食中毒(staphylococcal food poisoning)とは、黄色ブドウ球菌が産生する毒素による食中毒のことです。

この細菌は、健康な人の鼻腔内や皮膚表面に常在菌として存在しています。

黄色ブドウ球菌は熱に強いことが特徴で、食品中で増殖しやすく、手指の傷や化膿巣から食品に混入し、室温で放置されると毒素が産生され、食中毒を引き起こします。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

ブドウ球菌性食中毒の主な症状

ブドウ球菌性食中毒の主な症状は、毒素型食中毒と急性胃腸炎という2つのタイプがあります。

毒素型食中毒の症状

症状発症までの時間
吐き気1~6時間
嘔吐1~6時間
腹痛1~6時間
下痢1~6時間

毒素型食中毒は、ブドウ球菌が産生する毒素であるエンテロトキシンが原因で引き起こされる症状のことです。

食事を摂ってから1~6時間程度で吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などの症状が突然現れます。

通常、発熱を伴うことは少なく、多くの場合は24時間以内に症状が改善に向かいます。

ただし、症状が重症化すると脱水症状を引き起こしてしまう可能性もあるため、注意が必要です。

急性胃腸炎の症状

症状発症までの時間
発熱2~4時間
頭痛2~4時間
吐き気2~4時間
腹痛2~4時間
下痢2~4時間

一方、急性胃腸炎は、ブドウ球菌が腸管内で増殖することにより炎症を引き起こし生じる症状のことで、毒素型食中毒との違いは、発熱や頭痛を伴うことが多い点です。

急性胃腸炎の症状は、食後2~4時間ほどで現れ始め、数日間続くこともあります。

急性胃腸炎の症状の特徴

  • 多くの場合、発熱や頭痛を伴う
  • 下痢は水様性で、血液や粘液が混ざることもある
  • 腹痛は主に下腹部で認められる
  • 重症化すると激しい痛みを伴う

ブドウ球菌性食中毒の原因・感染経路

ブドウ球菌性食中毒は、黄色ブドウ球菌が産生するエンテロトキシンによって引き起こされる食中毒です。

黄色ブドウ球菌とは

ブドウ球菌性食中毒の原因菌である黄色ブドウ球菌は、自然界に広く見つけられるグラム陽性の球菌です。

この菌は、ヒトや動物の皮膚や粘膜に常在菌として存在し、健康な個体では通常は問題を引き起こすことはありません。

しかし、黄色ブドウ球菌が食品中で増殖し、エンテロトキシンを産生した際には、食中毒の原因となります。

エンテロトキシンは、熱に強い毒素で、食品の加熱調理では死滅しません。

菌名特徴
黄色ブドウ球菌グラム陽性の球菌
黄色ブドウ球菌ヒトや動物の皮膚や粘膜に常在

感染経路

ブドウ球菌性食中毒の主な感染経路

  • 汚染した食品:手指や調理器具を介した食品の汚染
  • 間違った温度で保存された食品:長時間の室温放置や冷蔵庫内での汚染拡大
  • 感染者からの二次汚染:感染者の手指や咳、くしゃみによる食品汚染

特に、手指や調理器具を介した食品汚染が、ブドウ球菌性食中毒の主要な感染経路です。

黄色ブドウ球菌は、ヒトの手指に付着しやすく、不完全な手洗いや調理器具の洗浄によって食品中に混入し、増殖する可能性があります。

ブドウ球菌性食中毒の発生要因

ブドウ球菌性食中毒の発生には、いくつかの要因が関与しています。

要因内容
食品の汚染黄色ブドウ球菌による食品の汚染
温度管理の不備食品の長時間の室温放置や不適切な冷蔵
調理者の不衛生手洗いの不徹底や調理器具の汚染

これらの要因が重なることで、黄色ブドウ球菌が食品中で増殖し、エンテロトキシンを産生する機会が増大し、その結果、ブドウ球菌性食中毒のリスクが高まるのです。

診察(検査)と診断

ブドウ球菌性食中毒の診察と診断では、症状や発症までの時間、食事歴などを総合的に判断します。

問診と身体所見

ブドウ球菌性食中毒が疑われる患者さんに対しては、まず詳細な問診を行い、 発症までの時間や、症状の種類、程度などを確認します。

同じ食事を摂取した人の中で、他に同様の症状を呈している人がいないかどうかも重要なポイントです。

ブドウ球菌性食中毒の際は、原因となる食品を摂取してから比較的短時間で症状が現れます。

身体所見では、発熱の有無や、腹部の圧痛、筋性防御などを確認します。

脱水症状がみられることもあるため、皮膚の張りや粘膜の乾燥具合にも注意が必要です。

確認事項内容
発症までの時間原因食品摂取から短時間(通常6時間以内)で発症
症状嘔吐、下痢、腹痛が主症状。発熱は軽度

検査

ブドウ球菌性食中毒の確定診断には、原因食品や患者さんの便からブドウ球菌やエンテロトキシンを検出することが必要です。

  • 原因食品の細菌検査
  • 患者便の細菌検査
  • 血液検査(白血球数、CRP値など)

ただし、原因食品が特定できなかったり、検査に時間がかかることもあります。

そのような状況では、症状や発症までの時間などから総合的に判断することに。

検査項目目的
原因食品の細菌検査食品中のブドウ球菌やエンテロトキシンの検出
患者便の細菌検査患者便中のブドウ球菌の検出

鑑別診断

ブドウ球菌性食中毒と似た症状が現れる疾患には、ウイルス性胃腸炎や他の細菌性、食中毒などがあり、問診や検査結果から、鑑別していく必要があります。

特に、発症までの時間や症状の違いに注目することが大切です。

診断のポイント

ブドウ球菌性食中毒の診断のポイント

  1. 原因食品摂取から短時間で発症
  2. 嘔吐、下痢、腹痛が主症状
  3. 原因食品や患者便からブドウ球菌やエンテロトキシンを検出
  4. 他の食中毒やウイルス性胃腸炎との鑑別

これらの点を総合的に評価し、的確な診断を下すことが求められます。

ブドウ球菌性食中毒の治療法と処方薬、治療期間

ブドウ球菌性食中毒の治療は、主に対症療法が中心となり、必要に応じて抗菌薬が使用されます。

対症療法

ブドウ球菌性食中毒の治療において、最も重要なのは対症療法です。

この食中毒では、嘔吐や下痢などの消化器症状が主要な症状であるため、脱水や電解質バランスの補正が治療の中心となります。

行われる対症療法

  • 輸液療法:脱水の補正と電解質バランスの是正のために行われる
  • 制吐薬:嘔吐の抑制を目的として使用される
  • 整腸剤:腸管の運動を調整し、下痢を改善するために用いられる
治療法目的
輸液療法脱水の補正と電解質バランスの是正
制吐薬嘔吐の抑制
整腸剤腸管の運動調整と下痢の改善

抗菌薬の使用

ブドウ球菌性食中毒では、症状が重症である際や合併症のリスクが高い際には、抗菌薬が使用されることがあります。

ただし、ブドウ球菌性食中毒の多くは自然治癒が期待できるため、抗菌薬の使用は必ずしも必要ではありません。

抗菌薬の使用目的使用される場合
原因菌の排除症状が重症である場合
感染拡大の防止合併症のリスクが高い場合

治療期間

ブドウ球菌性食中毒は、多くの場合、対症療法のみで数日から1週間程度で症状は改善します。

ただし、抗菌薬を使用したり合併症を発症した際には、治療期間が長引く可能性も。

予後と再発可能性および予防

ブドウ球菌性食中毒は、治療を行い、予防対策を講じることで、予後は良好であり、再発の可能性も低いです。

ブドウ球菌性食中毒の治療の予後

予後詳細
良好多くの場合、数日で回復
重症化のリスク乳幼児、高齢者、免疫力低下者

ブドウ球菌性食中毒は、多くのケースで数日で症状が改善し、予後は良好です。

ただし、乳幼児や高齢者、免疫力が低下している人では、重症化するリスクがあります。

合併症として、脱水症状や電解質異常が起こる可能性があり、輸液管理が必要です。

重症化してしまった場合には、入院治療が必要になることもあります。

ブドウ球菌性食中毒の再発可能性

再発可能性詳細
低い適切な予防対策で再発を防げる
要因不適切な食品管理、個人の衛生管理不足

ブドウ球菌性食中毒は、予防対策を取ることによって、再発の可能性を低く抑えられます。

再発の主な要因は、不適切な食品管理や個人の衛生管理の不足です。

ブドウ球菌性食中毒の予防対策

ブドウ球菌性食中毒の予防対策

  • 食品の温度管理(10℃以下または65℃以上)
  • 調理器具の洗浄・消毒の徹底
  • 手洗いの習慣づけ
  • 調理従事者の健康管理の徹底
  • 食品の正しい保存・管理の実践

ブドウ球菌性食中毒を予防するためには、食品の温度管理が欠かせません。食品は10℃以下または65℃以上で保存し、室温での放置は避けてください。

また、調理器具の洗浄・消毒を徹底し、手洗いを習慣づけることも重要です。

ブドウ球菌性食中毒の治療における副作用やリスク

ブドウ球菌性食中毒の治療では、対症療法や抗菌薬の使用に伴う副作用やリスクを考慮する必要があります。

対症療法における副作用やリスク

ブドウ球菌性食中毒の対症療法では、輸液療法、制吐薬、整腸剤などが用いられますが、副作用やリスクがあります。

治療法副作用やリスク
輸液療法電解質バランスの乱れ、浮腫、感染症のリスク
制吐薬眠気、倦怠感、口渇、便秘などの副作用
整腸剤腹部膨満感、腹痛、下痢などの消化器症状の悪化

特に、輸液療法では、電解質バランスの乱れや感染症のリスクに注意が必要です。

抗菌薬使用における副作用やリスク

ブドウ球菌性食中毒の治療で抗菌薬を使用する際は、薬剤特有の副作用やリスクを知っておくことが大切です。

抗菌薬の副作用

  • 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢など)
  • アレルギー反応(発疹、掻痒感、呼吸困難など)
  • 肝機能障害や腎機能障害
  • 菌交代現象(抗菌薬によって本来の常在菌が抑制され、他の病原体が増殖すること)

また、抗菌薬の乱用は、薬剤耐性菌の出現リスクを高めるため、慎重な判断が求められます。

抗菌薬の副作用リスク
消化器症状悪心、嘔吐、下痢など
アレルギー反応発疹、掻痒感、呼吸困難など
臓器障害肝機能障害、腎機能障害
菌交代現象他の病原体の増殖

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

初診料と再診料

初診料は2,820円から4,350円ぐらい、再診料は800円から1,450円ぐらいが一般的な金額です。

検査費と処置費

ブドウ球菌性食中毒の診断をするためには、検査が必要です。

検査項目金額目安
便培養検査3,000円~5,000円
血液検査1,000円~3,000円

脱水の症状がみられるときは点滴治療が行われることもあり、処置費は1回につき1,000円から3,000円程度です。

入院費

症状が重いケースでは入院治療が必要になることもあり、その際の入院費は1日あたり10,000円から30,000円程度が目安になります。

以上

References

Argaw S, Addis M. A review on staphylococcal food poisoning. Food Science and Quality Management. 2015;40(2015):59-72.

Le Loir Y, Baron F, Gautier M. [i] Staphylococcus aureus [/i] and food poisoning. Genetics and molecular research: GMR. 2003;2(1):63-76.

Wieneke AA, Roberts D, Gilbert RJ. Staphylococcal food poisoning in the United Kingdom, 1969–90. Epidemiology & Infection. 1993 Jun;110(3):519-31.

Hennekinne JA, Ostyn A, Guillier F, Herbin S, Prufer AL, Dragacci S. How should staphylococcal food poisoning outbreaks be characterized?. Toxins. 2010 Aug 10;2(8):2106-16.

Holmberg SD, Blake PA. Staphylococcal food poisoning in the United States: new facts and old misconceptions. Jama. 1984 Jan 27;251(4):487-9.

Johler S, Stephan R. Staphylococcal Food Poisoning. Archiv für Lebensmittelhygiene. 2010;61(6):197-236.

Do Carmo LS, Cummings C, Roberto Linardi V, Souza Dias R, Maria De Souza J, De Sena MJ, Aparecida Dos Santos D, Shupp JW, Karla Peres Pereira R, Jett M. A case study of a massive staphylococcal food poisoning incident. Foodbourne Pathogens & Disease. 2004 Dec 1;1(4):241-6.

Seo KS, Bohach GA. Staphylococcal food poisoning. Pathogens and Toxins in Foods: Challenges and Interventions. 2009 Oct 9:119-30.

Casman EP. Staphylococcal food poisoning. Selected Technical Publications. 1967(6):51.

Danielsson-Tham ML. Staphylococcal food poisoning. Food associated pathogens. 2013 Sep 25;250.

免責事項

当記事は、医療や介護に関する情報提供を目的としており、当院への来院を勧誘するものではございません。従って、治療や介護の判断等は、ご自身の責任において行われますようお願いいたします。

当記事に掲載されている医療や介護の情報は、権威ある文献(Pubmed等に掲載されている論文)や各種ガイドラインに掲載されている情報を参考に執筆しておりますが、デメリットやリスク、不確定な要因を含んでおります。

医療情報・資料の掲載には注意を払っておりますが、掲載した情報に誤りがあった場合や、第三者によるデータの改ざんなどがあった場合、さらにデータの伝送などによって障害が生じた場合に関しまして、当院は一切責任を負うものではございませんのでご了承ください。

掲載されている、医療や介護の情報は、日付が付されたものの内容は、それぞれ当該日付現在(又は、当該書面に明記された時点)の情報であり、本日現在の情報ではございません。情報の内容にその後の変動があっても、当院は、随時変更・更新することをお約束いたしておりませんのでご留意ください。