レンサ球菌感染症(streptococcal infections)とは、レンサ球菌という細菌が引き起こす感染症の総称です。
レンサ球菌は健康な人の皮膚や喉などに常在している細菌ですが、体の抵抗力が低下した際に感染を引き起こすことがあります。
レンサ球菌感染症には、咽頭炎、扁桃炎、肺炎、中耳炎、髄膜炎、猩紅熱などさまざまな種類があり、感染する部位によって症状や重症度が異なるのが特徴です。
レンサ球菌感染症の種類(病型)
レンサ球菌感染症には、咽頭炎と扁桃炎、中耳炎、猩紅熱、蜂窩織炎、壊死性筋膜炎、連鎖球菌性毒素性ショック症候群などの病型があります。
咽頭炎と扁桃炎
咽頭炎と扁桃炎は、のどの炎症を引き起こすレンサ球菌感染症の代表的な病型で、発熱やのどの痛み、嚥下困難などの症状が現れます。
中耳炎
中耳炎は、中耳に炎症が生じる病型です。
症状 | 特徴 |
耳の痛み | 激しい痛みを伴うことがある |
耳だれ | 膿性の分泌物が見られる |
難聴 | 一時的な聴力低下が起こりうる |
猩紅熱
猩紅熱は、レンサ球菌が産生する毒素により発症する病型です。 高熱や特徴的な発疹、いちご舌などの症状が現れます。
合併症として、リウマチ熱や急性糸球体腎炎を引き起こすリスクがあるため、注意が必要です。
蜂窩織炎と壊死性筋膜炎
蜂窩織炎は、皮膚の深層にまで炎症が及ぶ病型で、壊死性筋膜炎は、筋膜の壊死を伴う重篤な病型です。
壊死性筋膜炎では急速に進行し、死亡率が高く、早期の外科的デブリードマンが必要になります。
病型 | 重症度 | 死亡率 |
蜂窩織炎 | 中等度 | 低い |
壊死性筋膜炎 | 重篤 | 高い |
連鎖球菌性毒素性ショック症候群
連鎖球菌性毒素性ショック症候群は、レンサ球菌が産生する毒素により引き起こされる重篤な病型です。
集中治療を要する危険な病態であり、迅速な対応が求められます。
レンサ球菌感染症の主な症状
レンサ球菌感染症では、感染した部位や病型によって多様な症状が現れます。
咽頭炎・扁桃炎
咽頭炎や扁桃炎の症状は、 突然の高熱、激しい喉の痛み、飲み込む際の痛みなどです。
扁桃腺が赤く腫れ上がり、白い膿栓が付着しているケースもしばしば見受けられます。
症状 | 特徴 |
急性発熱 | 高熱が突然出現 |
喉の痛み | 強い痛みを伴う |
嚥下痛 | 飲み込む際の痛み |
中耳炎
中耳炎は、特に小児に多く見られ、 高熱が突然現れるのに加えて、耳の痛みや聞こえにくさ、耳漏などの症状が出てくることが特徴です。
鼓膜が赤く腫れ上がり、膨らんでいる様子が認められることもあります。
猩紅熱
猩紅熱では、高熱や喉の激しい痛みに加えて、特徴的な発疹が全身に広がっていきます。
この発疹は温かみを帯びており、ざらざらとした手触りが特徴的です。 また、舌が赤く腫れ上がる「いちご舌」と呼ばれる症状も見られることがあります。
症状 | 特徴 |
高熱 | 39度以上の発熱 |
咽頭痛 | 喉の強い痛み |
皮疹 | 全身に広がる特徴的な発疹 |
いちご舌 | 舌の発赤 |
リウマチ熱
リウマチ熱は、レンサ球菌感染症の後に現れる重篤な合併症の一つです。 心臓、関節、中枢神経系などに炎症が起こり、多彩な症状を引き起こします。
関節の腫れや痛み、心臓弁膜症、不随意運動などが代表的な症状です。
急性糸球体腎炎
急性糸球体腎炎は、レンサ球菌感染症に続発する腎臓の炎症性疾患です。 血尿、蛋白尿、浮腫などの症状が現れ、重症化すると腎不全に至ることもあります。
特に小児に多く見られる疾患であり、注意が必要です。
蜂窩織炎
蜂窩織炎は、レンサ球菌が皮膚や皮下組織に感染することで起こる感染症です。
感染部位の皮膚が赤く腫れ上がり、熱感や強い痛みを伴い、放置すると急速に拡大し、重症化するリスクがあります。
壊死性筋膜炎
壊死性筋膜炎は、レンサ球菌感染症の中でも特に重篤な病型の一つです。 皮膚が急速に赤く腫れ上がり、水疱を形成しながら急激に拡大していきます。
激しい痛みを伴い、壊死が進行すると致死率も高くなります。
連鎖球菌性毒素性ショック症候群
連鎖球菌性毒素性ショック症候群は、レンサ球菌が産生する毒素によって引き起こされる重篤な病態です。
急激な血圧低下、多臓器不全などを引き起こし、致死率の高い疾患として知られています。
発熱、発疹、低血圧などの症状が現れた場合は、速やかな治療が必要です。
レンサ球菌感染症の原因・感染経路
レンサ球菌感染症は、レンサ球菌という細菌によって引き起こされ、主に飛沫感染や接触感染によって広がります。
レンサ球菌とは
レンサ球菌は、連鎖状に並んだ球菌の一種で、グラム陽性菌に分類され、ヒトの口腔内や咽頭、皮膚などに常在菌として存在しています。
通常は無害ですが、免疫力の低下や外傷などをきっかけに感染症を引き起こす可能性があります。
レンサ球菌の特徴 | 説明 |
形態 | 連鎖状に並んだ球菌 |
グラム染色 | 陽性 |
病原性 | 通常は無害だが、感染症の原因となる |
飛沫感染
レンサ球菌感染症の主な感染経路の一つは、飛沫感染です。
感染者が咳やくしゃみをした際に、レンサ球菌を含む飛沫が飛散し、その飛沫を吸入したり、飛沫が付着した手で口や鼻を触ったりすることで感染が成立します。
接触感染
もう一つの感染経路は、接触感染です。 レンサ球菌に汚染された手や物品を介して、感染が広がります。
接触感染の具体例
- 感染者との直接的な接触
- 感染者が触れた物品(ドアノブ、タオルなど)との接触
- 感染者の傷口や皮膚病変との接触
感染リスクの高い状況
レンサ球菌感染症は、特定の状況下で感染リスクが高まります。 密閉された空間での長時間の滞在や、感染者との濃厚接触が代表例です。
感染リスクの高い状況 | 理由 |
密閉空間での長時間滞在 | 飛沫が拡散しやすく、吸入機会が増える |
感染者との濃厚接触 | 直接的な接触や飛沫の曝露機会が増える |
診察(検査)と診断
レンサ球菌感染症の正確な診断を下すためには、患者の臨床症状や身体所見、各種検査結果を総合的に評価し、判断します。
臨床症状と身体所見
レンサ球菌感染症が疑われるケースでは、まず患者さんの臨床症状や身体所見を詳しく観察することから始めます。
高熱、喉の痛み、扁桃腺の腫れや発赤、リンパ節の腫脹などの特徴的な所見がないかどうか調べることが重要です。
猩紅熱の場合は、特有の発疹や口の中の発赤なども重要な手がかりになります。
臨床症状 | 身体所見 |
発熱 | 扁桃腺の腫脹・発赤 |
咽頭痛 | リンパ節腫脹 |
皮疹(猩紅熱) | 口腔内の発赤(猩紅熱) |
迅速診断キット
迅速診断キットは、喉の奥から採取した分泌物を用いて短時間でレンサ球菌感染症の診断ができる検査法です。
イムノクロマト法などの原理を応用することで、簡単かつ迅速に結果を得ることができるため、外来診療では広く活用されています。
ただし、偽陰性・偽陽性の可能性もゼロではないため、結果の解釈には注意が必要です。
培養検査
レンサ球菌感染症の確定診断を下すには、培養検査が欠かせません。
喉の分泌物や膿などの検体を血液寒天培地などに植え付けて、レンサ球菌が存在するかどうかを確認します。
培養検査は感度・特異度ともに高く、抗菌薬の選択に役立つ薬剤感受性試験にも応用できるため、非常に重要な検査法です。
検査法 | 特徴 |
培養検査 | 感度・特異度が高い |
薬剤感受性試験 | 抗菌薬の選択に有用 |
血清学的検査
血清学的検査は、レンサ球菌感染症に伴う抗体価の上昇を測定する検査法です。
急性期と回復期の2回の血液検査を行い、ASO価やADNase B価などの抗体価の変化を見ていきます。
リウマチ熱や急性糸球体腎炎などの合併症の診断には有用ですが、抗体価が上がるまでには時間がかかるため、急性期の診断には適していません。
レンサ球菌感染症の治療法と処方薬、治療期間
レンサ球菌感染症の治療において中心となるのは、抗菌薬の投与です。
ペニシリン系抗菌薬
レンサ球菌感染症に対する第一選択薬は、ペニシリン系抗菌薬で、ペニシリンGやアモキシシリンなどです。
これらの抗菌薬は、レンサ球菌の細胞壁合成を阻害することにより、菌の増殖を抑制する働きを持っています。
抗菌薬名 | 投与方法 | 治療期間 |
ペニシリンG | 静脈内投与 | 10日間 |
アモキシシリン | 経口投与 | 10日間 |
マクロライド系抗菌薬
ペニシリンアレルギーを持つ患者さんには、マクロライド系抗菌薬が使用されます。
エリスロマイシンやクラリスロマイシンなどが代表的な薬剤です。
マクロライド系抗菌薬は、菌のタンパク質合成を阻害することによって、抗菌作用を発揮します。
治療期間
レンサ球菌感染症の治療期間は、感染部位や重症度によって異なりますが、一般的には10日間程度です。
ただし、症状が改善されない場合や再発を繰り返すようなケースでは、さらに長期の治療が必要となる可能性があります。
- 咽頭炎:10日間
- 肺炎:14日間
- 髄膜炎:14~21日間
外科的処置
重症感染症の場合、膿瘍形成や組織壊死を伴うことがあります。 このようなケースでは、外科的なドレナージや壊死組織のデブリードマンが必要です。
処置名 | 目的 |
ドレナージ | 膿瘍の排膿 |
デブリードマン | 壊死組織の除去 |
抗菌薬治療と並行して、感染巣に対する外科的処置を行うことで、感染症の早期改善が期待できます。
予後と再発可能性および予防
レンサ球菌感染症は、治療を施せば良好な経過をたどりますが、患者さんによっては再発や合併症を起こすリスクがあるため、十分な注意が必要です。
治療予後
レンサ球菌感染症の大半は、抗菌薬による治療で数日から1週間程度で改善に向かいます。
早期に発見し、治療を行った場合は、予後は非常に良好です。
しかし、治療が遅れたり、十分でなかったりすると、合併症を引き起こす危険性があります。
予後 | 条件 |
良好 | 早期診断・適切な治療 |
合併症リスク | 治療の遅れ・不十分な治療 |
再発リスク
患者さんの中には、治療後も再発を繰り返してしまうケースがあります。
特に免疫力の低下した人や、慢性疾患を抱えている人は、再発リスクが高くなる傾向にあります。
再発を防ぐために気を付ける点
- 抗菌薬の正しい使用と服用期間の遵守
- 感染源となる病巣の除去(扁桃腺摘出術など)
- 免疫力を高める生活習慣の実践
合併症リスク
レンサ球菌感染症では、治療を行ったとしても、一定の割合で合併症を発症してしまうことがあります。
リウマチ熱や急性糸球体腎炎などの合併症は、重い後遺症を残すこともあるため、細心の注意が必要です。
合併症 | リスク因子 |
リウマチ熱 | 遅れた治療、不十分な治療 |
急性糸球体腎炎 | 遅れた治療、不十分な治療 |
予防法
レンサ球菌感染症を予防するには、以下のような方法が効果的です。
- 手洗いやうがいなどの基本的な感染予防対策の実践
- 感染者との接触を避ける
- ワクチン接種(肺炎球菌ワクチンなど)
- 健康的な生活習慣の実践による免疫力の維持
特に集団生活を送る環境下では、感染予防対策を徹底することが何よりも大切です。
レンサ球菌感染症の治療における副作用やリスク
レンサ球菌感染症の治療では抗菌薬の投与が欠かせませんが、副作用やリスクもあります。
ペニシリン系抗菌薬の副作用
ペニシリン系抗菌薬は、アレルギー反応を起こすことがあります。
副作用 | 症状 |
発疹 | 皮膚の発赤、かゆみ、膨疹 |
アナフィラキシー | 呼吸困難、血圧低下、意識消失 |
腎機能障害
抗菌薬の中には、腎臓から排泄されるものがあります。
高齢者や腎機能が低下している患者さんでは、薬剤が体内に蓄積し、腎機能障害を引き起こす危険性が高いです。
腎機能障害のリスク因子 |
高齢 |
既存の腎疾患 |
脱水 |
耐性菌の出現
抗菌薬の乱用や長期投与は、耐性菌の出現を促進し、耐性菌が増加すると、感染症の治療がより困難になり、重症化するリスクも高まります。
- MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
- VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)
- PRSP(ペニシリン耐性肺炎球菌)
菌交代現象
抗菌薬の投与によって、本来の感染原因菌が抑制される一方で、他の細菌や真菌が異常増殖することがあります。
この現象を菌交代現象と呼び、日和見感染症を引き起こす危険性も。
日和見感染症の原因微生物 |
カンジダ属 |
クロストリジウム・ディフィシル |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
レンサ球菌感染症の治療費は、目安として初診料、検査費、投薬料、入院費などを含めると数万円から数十万円程度になります。
初診料・再診料
初診料は、医療機関を初めて受診する際に必要な費用で、再診料は、同じ医療機関を2回目以降に受診する際の費用です。
費用項目 | 金額 |
初診料 | 3,000円~5,000円 |
再診料 | 500円~1,500円 |
検査費
レンサ球菌感染症の診断には、血液検査や培養検査などが行われ、検査費用は、1回あたり数千円から1万円程度が一般的です。
処置費・投薬料
レンサ球菌感染症の治療では、抗菌薬の投与が中心です。また、点滴治療などの処置が必要な場合は、別途処置費が発生します。
費用項目 | 金額 |
抗菌薬(1週間分) | 数千円~1万円 |
点滴治療(1回) | 5,000円~1万円 |
入院費
重症のレンサ球菌感染症では、入院治療が必要となることがあります。 入院費は、1日あたり1万円から3万円程度です。
以上
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