膣トリコモナス症 – 感染症

膣トリコモナス症(trichomoniasis)とは、原虫の一種である膣トリコモナスによって引き起こされる性感染症です。

膣トリコモナスに感染すると、膣の粘膜に炎症が生じ、さまざまな不快感を伴う症状が現れます。

代表的な症状は、膣からの異常な分泌物や、外陰部のかゆみ、痛み、発赤などです。

膣トリコモナス症は性的接触を介して感染が拡大するため、予防の観点から性行為の際にコンドームを使用することが重要となります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

膣トリコモナス症の種類(病型)

感染症の一種である膣トリコモナス症には、無症候性感染、症候性感染、合併症を伴う感染の3つの病型があります。

それぞれの病型で症状や合併症の有無が異なるため、各病型の特徴を把握しておくことが大切です。

無症候性感染

無症候性感染は、感染しているにもかかわらず症状が現れない病型で、感染者本人は自覚症状がないため、知らないうちに感染を広げてしまうことがあります。

無症候性感染の特徴概要
症状の有無感染しているが症状が現れない
感染拡大の危険性自覚症状がないため感染を広げる可能性あり

症候性感染

症候性感染は、感染によりさまざまな症状が現れる病型です。

帯下の増加や異臭、外陰部の炎症、排尿時の不快感、性交時の疼痛などの症状が単独または複数組み合わさって現れることがあります。

合併症を伴う感染

合併症を伴う感染は、感染が進行し他の疾患を引き起こしてしまう病型です。

  • 骨盤内炎症性疾患
  • 不妊症
  • 流早産
合併症の種類概要
骨盤内炎症性疾患子宮や卵管、卵巣などに炎症が波及する疾患
不妊症妊娠しにくくなる状態
流早産妊娠22週未満での流産や早産

合併症を発症すると治療がより複雑になり、完治までに時間を要します。

膣トリコモナス症の主な症状

膣トリコモナス症は、さまざまな不快な症状を引き起こします。

膣からの異常な分泌物

膣トリコモナス症の最も一般的な症状は、膣からの異常な分泌物で、この分泌物は、黄緑色や灰色を呈し、泡立ちや悪臭を伴うことがあります。

分泌物の量には個人差があり、多いこともあれば、少ないケースもあります。

分泌物の色特徴
黄緑色泡立ちを伴うことがある
灰色不快な臭いを伴うことがある

外陰部の症状

膣トリコモナス症は、外陰部にも症状が現れます。

  • かゆみ
  • 痛み
  • 発赤
  • 腫れ

性交時の症状

膣トリコモナス症は、性交時にも症状を引き起こすことがあります。

症状詳細
出血性交中または性交後に出血が起こる可能性がある
痛み性交時に痛みを感じるケースがある

性交時の出血や痛みは、膣トリコモナス症の特徴的な症状の一つです。

その他の症状

膣トリコモナス症では、排尿時の痛みや頻尿などの症状が起こったり、感染が進行すると、下腹部の痛みや発熱などの全身症状が現れることもあります。

膣トリコモナス症の原因・感染経路

膣トリコモナス症は、トリコモナス原虫が原因となり、主に性的接触によって感染が広がります。

原因となる微生物

膣トリコモナス症の原因となるのは、トリコモナス属に分類される原虫の一種「トリコモナス・バジナリス」です。

原因微生物分類
トリコモナス・バジナリス原虫類

この原虫が、膣や尿道などの粘膜に寄生し、炎症を引き起こします。

主な感染経路

膣トリコモナス症の主な感染経路は、性行為による感染で、感染者との性的接触により、原虫が伝播されることで感染が成立します。

感染経路概要
性行為による感染感染者との性的接触で原虫が伝播
母子感染(出産時の感染)感染した母親から新生児へ感染

また、感染した母親から出産時に新生児へ感染が起こる母子感染のケースもあります。

感染リスクを高める要因

膣トリコモナス症の感染リスクを高める要因

  • 多数のパートナーとの性交渉
  • コンドームの不使用
  • 他の性感染症に罹患している場合

特に、複数のパートナーとの性的接触や予防措置を講じない性行為は、感染リスクを大きく上昇させます。

感染が判明したら、パートナーへも通知することが感染拡大防止につながります。

診察(検査)と診断

膣トリコモナス症の診断では、臨床症状の観察と検査結果を総合的に判断します。

臨床診断

膣トリコモナス症の臨床診断では、特徴的な症状を確認します。

  • 膣からの異常な分泌物(黄緑色や灰色、泡立ちや悪臭を伴う)
  • 外陰部のかゆみ、痛み、発赤、腫れ
  • 性交時の出血や痛み

これらの症状が見られた場合、膣トリコモナス症を疑う必要があります。

症状特徴
膣分泌物黄緑色や灰色、泡立ちや不快な臭いを伴う
外陰部かゆみ、痛み、発赤、腫れ

顕微鏡検査

膣トリコモナス症の確定診断には、膣分泌物の顕微鏡検査が不可欠で、膣分泌物を採取し、顕微鏡で観察することで、膣トリコモナスの有無を確認します。

膣トリコモナスは、特徴的な形状と動きを示すため、経験豊富な検査技師であれば容易に同定することが可能です。

検査方法目的
顕微鏡検査膣トリコモナスの有無を確認
培養検査膣トリコモナスの存在を確定

培養検査

顕微鏡検査で膣トリコモナスが確認できないケースや、確定診断が必要な場合には、培養検査を実施します。

膣分泌物を特殊な培地で培養し、膣トリコモナスの増殖を確認。培養検査は感度が高く、膣トリコモナス症の確定診断に有用です。

その他の検査

診断に際しては、淋菌感染症やクラミジア感染症などの性感染症を併発していることがあるため、他の性感染症の合併の有無も確認する必要があります。

膣トリコモナス症の治療法と処方薬

感染症の一種である膣トリコモナス症の治療は、抗原虫薬の投与が中心です。

感染者だけでなくパートナーも同時に治療を受けることが大切で、再感染予防のためにも欠かせません。

治療の基本方針

膣トリコモナス症の治療は、原因となるトリコモナス原虫を排除することが目的です。

治療方針概要
抗原虫薬の投与トリコモナス原虫を殺滅するための薬剤を投与する
パートナーの同時治療感染者のパートナーも同時に治療を受ける

主な処方薬

膣トリコモナス症の治療に用いられる主な抗原虫薬は、二つあります。

  • メトロニダゾール
  • チニダゾール

これらの薬剤は、トリコモナス原虫のDNA合成を阻害することで殺滅効果を発揮し、通常、経口投与で1回または数日間の服用で、治療が完了します。

薬剤名投与方法投与期間
メトロニダゾール経口投与1〜7日間
チニダゾール経口投与1〜3日間

症状の程度や患者さんの状態に応じて、薬剤と投与方法を選択します。

注意点

抗原虫薬の服用にあたっては、注意点がいくつかあります。

注意点概要
アルコールとの併用禁忌治療中のアルコール摂取は避ける
服用時期と性交渉の制限治療完了まで性交渉は控える
副作用のモニタリング吐き気や味覚障害などの副作用がないか注意する

特に、アルコールとの併用により重篤な副作用が起こる可能性があるため、服薬中は厳禁です。

また、治療完了までは性交渉を控えるようパートナーとも話し合いましょう。

治療に必要な期間と予後について

膣トリコモナス症は治療を行うことで、比較的短期間で治癒が可能な感染症です。

治療期間

膣トリコモナス症の治療には、メトロニダゾールやチニダゾールなどの抗原虫薬が用いられ、通常、7日間程度服用することで、膣トリコモナスを排除できます。

ただし、症状の改善や膣トリコモナスの消失を確認するために、治療終了後に再度検査を行うこと不可欠です。

再発の可能性

膣トリコモナス症は治療を行えば治癒しますが、再感染によって再発する可能性があります。

特に、性的パートナーが治療を受けていない場合、再感染のリスクが高くなるので、性的パートナーも同時に治療を受けることが重要です。

再発のリスク因子対策
性的パートナーが未治療パートナーも同時に治療を受ける
治療後の再感染コンドームの使用などで予防

合併症のリスク

膣トリコモナス症を放置すると、合併症を引き起こすこともあるので、早期治療が大切になってきます。

  • 骨盤内炎症性疾患(PID)
  • 早産や低出生体重児出産のリスク増加
  • HIV感染のリスク増加

予後

膣トリコモナス症は適切な治療を行えば良好な予後が期待でき、治療開始から1週間程度で症状が改善し、膣トリコモナスが消失します。

膣トリコモナス症の治療における副作用やリスク

感染症の一種である膣トリコモナス症の治療では、抗原虫薬の投与により副作用が起こることがあります。

主な副作用

膣トリコモナス症の治療に用いられる抗原虫薬には、以下のような副作用が報告されています。

副作用の種類具体的な症状
消化器症状吐き気、嘔吐、腹痛、下痢など
神経系症状頭痛、めまい、味覚障害、しびれ感など
皮膚症状発疹、かゆみ、じんま疹など

副作用は多くの場合、一過性で治療終了後に自然に回復しますが、症状が重篤だったり長期化する際は、医師に相談することが大切です。

アルコールとの相互作用

膣トリコモナス症の治療薬であるメトロニダゾールやチニダゾールは、アルコールとの相互作用により副作用が起こることがあります。

  • ジスルフィラム様反応(顔面紅潮、頭痛、嘔吐、動悸など)
  • 中枢神経系の抑制

治療中はアルコールを完全に避け、服薬終了後もしばらくは控えましょう。

薬剤名アルコール摂取制限期間
メトロニダゾール服薬終了後48時間
チニダゾール服薬終了後72時間

妊婦への投与リスク

膣トリコモナス症の治療薬は、妊娠中の使用で胎児に悪影響を及ぼす可能性があります。

特に妊娠初期における投与は避けるべきとされ、代替薬の選択や治療時期の調整が必要です。

妊娠時期リスクと対応
妊娠初期胎児への悪影響のリスクが高いため、投与は避ける
妊娠中期以降リスクとベネフィットを考慮し、医師と相談の上で投与を検討

妊婦や妊娠の可能性がある女性は、治療開始前に医師に相談し、対応を検討します。

耐性菌の出現リスク

抗原虫薬の長期的な使用により、トリコモナス原虫が薬剤耐性を獲得するリスクも。

耐性菌が出現すると、治療効果が低下し、感染が遷延化する恐れがあります。

  • 不必要な抗原虫薬の使用を避ける
  • 処方された用量と期間を遵守する
  • 治療効果が乏しい際は医師に相談する

予防方法

膣トリコモナス症を予防するには、性行為における感染予防策が大切です。

コンドームの使用

膣トリコモナス症は主に性的接触によって感染が広がるため、コンドームの使用が最も効果的な予防法です。

コンドームを正しく使用することで、感染のリスクを大幅に減らせます。

コンドームの種類特徴
ラテックス製最も一般的で、感染予防効果が高い
ポリウレタン製ラテックスアレルギーの人に適している

性的パートナーの限定

性的パートナーを限定し、複数のパートナーとの性的接触を避けることも感染予防に有効で、特に、パートナーの感染状況が不明な場合は注意が必要です。

パートナーの感染状況対策
感染の有無が不明コンドームを使用する
感染が確認された性的接触を避ける

定期的な検査

定期的に性感染症の検査を受けることで、自身の感染状況を把握し、早期発見・早期治療につなげることができます。

特に、以下のような場合は検査を検討してください。

  • 新しい性的パートナーができた場合
  • コンドームを使用せずに性的接触があった場合
  • 膣トリコモナス症の症状が現れた場合

衛生管理

性器を清潔に保ち、性的接触の前後に性器を洗浄することで、感染のリスクを減らせます。

ただし、膣内洗浄は逆に感染のリスクを高める可能性があるため、避けるべきです。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

膣トリコモナス症は健康保険の適用対象となる疾患ですが、治療内容や医療機関によって患者負担額が異なります。

膣トリコモナス症の保険適用

保険適用の範囲は治療に必要な診察・検査・投薬に限られ、予防目的の検査などは対象外となる場合があります。

保険適用の対象保険適用外の可能性がある項目
診察予防目的の検査
検査自由診療での治療
投薬

保険適用の可否の詳細は、診察時に担当医師に確認してください。

膣トリコモナス症の一般的な治療費

膣トリコモナス症の治療費

  • 初診料
  • 再診料
  • 検査費用(顕微鏡検査、培養検査など)
  • 投薬費用(メトロニダゾール、チニダゾールなど)
治療内容自己負担額の目安
初診+検査+投薬5,000円~10,000円
再診+投薬2,000円~5,000円

ただし、医療機関によって費用は異なるため、上記はあくまでも目安です。

高額療養費制度などを利用することで、自己負担額を抑えられるケースもあります。

治療費に関する注意点

膣トリコモナス症の治療費は、以下のような際に高額になることがあります。

  • ・保険適用外の検査や治療を行う場合
  • ・合併症の治療が必要な場合
  • ・再発を繰り返し、長期の治療が必要になる場合

上に記載した治療費より高くなることもありますので予めご了承ください。

以上

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