結核 – 感染症

結核(tuberculosis)とは、結核菌が引き起こす慢性的な細菌感染症です。

結核菌は空気感染によって広がり、主に肺に感染しますが、肺以外の臓器に感染する場合もあります。

結核には、咳や発熱、体重減少、倦怠感などの症状が現れますが、症状が軽度であれば、自覚症状がないことも少なくありません。

治療せずに放置すると重症化し、最悪の場合、死に至ることもあります。

結核は世界的に流行しており、日本でも年間新規患者数が約1万人報告されていて、過去の病気と思われがちですが、現在でも注意が必要な感染症です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

結核の種類(病型)

結核の病型は、肺結核、肺外結核、粟粒結核、結核性髄膜炎、潜在性結核感染症の5つです。

結核菌は空気感染により伝播し、主に肺に感染しますが、血流に乗って全身のさまざまな臓器に感染が広がることもあります。

肺結核

肺結核は結核菌が肺に感染することで発症する、結核の最も一般的な病型で、結核患者の約80%が肺結核です。

肺結核では、結核菌が肺の末梢にある肺胞に到達し、増殖し、感染が進行すると肺の組織が壊死し、空洞を形成することがあります。

この空洞内には多数の結核菌が存在し、咳などによって空気中に飛散することで他者への感染源に。

病型感染部位感染経路
肺結核空気感染
肺外結核肺以外血行性感染

肺外結核

肺外結核は肺以外の臓器や組織に結核菌が感染することで発症する結核です。

感染が広がる部位は、リンパ節、胸膜、腹膜、骨、関節、腎臓、生殖器などが挙げられます。

肺外結核は血行性感染によって発症することが多く、初感染巣である肺から血流に乗って全身に散布されることで起こります。

粟粒結核

粟粒結核は結核菌が血流に乗って全身に広がり、粟粒大の小結節が多発する重篤な病型です。

この病型は免疫力が低下している人、特にHIV感染者や高齢者、乳幼児などに多く見られます。

粟粒結核では、肺、肝臓、脾臓、骨髄などの全身の臓器に無数の小結節が形成。

早期の診断と強力な化学療法が必要で、治療が行われないと致死率の高い病型です。

病型特徴リスク因子
粟粒結核全身に小結節が多発免疫力低下
結核性髄膜炎髄膜に感染乳幼児、HIV感染者

結核性髄膜炎

結核性髄膜炎は結核菌が脳や脊髄の髄膜に感染することで発症する重篤な病型です。結核性髄膜炎は血行性に髄膜に感染が広がることで起こります。

乳幼児やHIV感染者に多く見られ、治療が行われないと後遺症や死亡につながる可能性が高い病型です。

診断には髄液検査が必要であり、抗結核薬による長期の化学療法が必要とされます。

潜在性結核感染症

潜在性結核感染症は結核菌に感染しているものの、活動性の結核を発症していない状態のことです。

感染者の約90%が潜在性結核感染症の状態にあると推定されています。 潜在性結核感染症では結核菌は体内で休眠状態にあり、症状は現れません。

しかし、免疫力が低下すると活動性結核を発症する可能性があります。

  • 肺結核:結核の最も一般的な病型。肺に初感染巣を形成。
  • 肺外結核:肺以外の臓器や組織に血行性に感染が広がる。
  • 粟粒結核:全身に粟粒大の小結節が多発する重篤な病型。
  • 結核性髄膜炎:髄膜に感染が広がり、重篤な症状を呈する。
  • 潜在性結核感染症:活動性結核を発症していない感染状態。

結核の主な症状

結核は、症状が多岐にわたり、病型によって異なります。

肺結核の症状

肺結核は、結核感染症の中で最も一般的な病型です。

主な症状

  • 2週間以上続く咳
  • 痰(時に血痰)
  • 発熱
  • 寝汗
  • 体重減少
  • 倦怠感

これらの症状は非特異的で他の呼吸器疾患でも見られ、また、早期の肺結核では、症状が軽微なこともあり、診断には注意が必要です。

症状特徴
2週間以上続く
時に血痰を伴う
発熱微熱から高熱まで

肺外結核の症状

肺外結核は、肺以外の臓器に結核菌が感染した状態で、感染部位によって、さまざまな症状が現れます。

感染部位主な症状
リンパ節リンパ節腫脹、圧痛
胸膜胸痛、呼吸困難
腸管腹痛、下痢、体重減少
腎臓血尿、頻尿、腰痛

肺外結核は、部位特異的な症状を示すため、早期発見が難しく、結核感染を疑った場合でも、肺外結核の可能性も考慮する必要があります。

粟粒結核の症状

粟粒結核は、結核菌が血流に乗って全身に広がり、多臓器に感染する病型です。

主な症状

  • 高熱
  • 重度の倦怠感
  • 急速な体重減少
  • 意識障害(進行例)

粟粒結核は、急速に進行し、致死的となる可能性があるため、早期診断と迅速な治療開始が不可欠です。

結核性髄膜炎の症状

結核性髄膜炎は、結核菌が中枢神経系に感染した状態です。

主な症状

  • 頭痛
  • 発熱
  • 意識障害
  • 髄膜刺激症状(項部硬直、Kernig徴候など)

結核性髄膜炎は、治療が行われないと、重篤な後遺症や死亡につながる可能性があります。

潜在性結核感染症の症状

潜在性結核感染症は、結核菌に感染しているものの、活動性の結核を発症していない状態です。

潜在性結核感染症では、症状は現れず、ツベルクリン反応検査やIGRAなどの検査で診断されます。

結核の原因・感染経路

結核の原因は結核菌で、この細菌に感染することで結核が発症します。

結核菌は主に空気感染によって人から人へと伝播し、多くの場合、肺に感染が成立します。

結核菌とは

結核菌は抗酸菌属に属する細菌の一種で、抗酸菌は細胞壁に多くの脂質を含むため、一般的な染色法では染まりにくいのが特徴です。

結核菌は特にミコール酸と呼ばれる脂質を多く含んでおり、これが結核菌の病原性に関与していると考えられています。

細菌名属名特徴
結核菌抗酸菌属ミコール酸を多く含む
らい菌抗酸菌属皮膚や末梢神経に感染

結核菌の感染経路

結核菌は患者の咳やくしゃみ、会話などによって飛沫核として空気中に放出されます。

飛沫核は非常に小さく、空気中を長時間浮遊し、他の人がこの飛沫核を吸入することで、結核菌が肺に到達し、感染。

感染経路感染源感染部位
空気感染患者の飛沫核主に肺
経口感染結核菌に汚染された食物腸管

初感染結核と二次結核

結核菌の初感染では肺の末梢にある肺胞に結核菌が到達し、増殖します。 この初感染巣から所属リンパ節へと感染が広がり、初期変化群を形成します。

多くの場合、初感染結核は自然治癒しますが、一部の人では初感染巣から血行性に全身に散布され、粟粒結核などの重篤な病態を引き起こすことも。

一方、初感染後に結核菌が体内に潜伏し、後年になって再活性化することで発症するのが二次結核です。

二次結核は初感染巣とは異なる部位に感染巣を形成することが多く、空洞形成を伴います。

  • 飛沫核感染:患者の咳やくしゃみなどで放出された飛沫核を吸入することで感染
  • 初感染結核:結核菌の初感染によって発症する結核
  • 二次結核:初感染後に潜伏していた結核菌が再活性化することで発症する結核

結核の感染リスク因子

結核菌に感染しても、すべての人が結核を発症するわけではありません。 結核の発症には宿主の免疫状態が大きく関与しています。

HIV感染者、糖尿病患者、免疫抑制剤使用者など、免疫力が低下している人では結核を発症するリスクが高いです。

また、結核患者との濃厚接触や、結核の蔓延している地域への渡航なども感染リスクを高める因子として知られています。

診察(検査)と診断

結核の診察と診断は、単一の検査だけでは難しく、さまざまな検査を組み合わせ、総合的に判断します。

結核は感染力が強く、重症化すると命に関わる病気であるため、正確な診断と早期発見が何より大切です。

問診と理学的所見 – 患者の症状と状態の詳しい評価

結核の診察では、まず患者さんの症状や既往歴、接触歴などを詳しく聞き取ります。

結核特有の症状である長引く咳や微熱、体重減少などがないか確認し、結核患者との接触歴がある場合は特に注意が必要です。

また、聴診器を使った呼吸音の確認や、全身状態の評価も診断に欠かせません。

画像検査 – 肺結核の特徴的所見の確認

胸部X線検査や胸部CT検査は、肺結核の診断に重要です。

肺結核に特徴的な空洞影や浸潤影、肺門リンパ節腫脹などの所見があれば、結核を強く疑う根拠となります。

検査名特徴
胸部X線空洞影や浸潤影、肺門リンパ節腫脹など
胸部CTより詳細な病変の評価が可能

ただし、画像所見だけでは確定診断とはならず、他の検査結果と合わせて総合的に判断します。

細菌学的検査 – 結核菌の直接的な証明

痰や気管支洗浄液などの検体を使って、結核菌がいるかどうかを直接的に確認する検査が細菌学的検査です。

塗抹検査や培養検査、PCR法などがあり、それぞれ特徴や感度が異なります。

  • 塗抹検査:検体を特殊な染色液で染め、顕微鏡で結核菌の有無を確認する方法。 迅速に結果が得られるが、感度は培養検査やPCR法に劣る。
  • 培養検査:検体を特殊な培地で2~8週間培養し、結核菌の増殖があるかどうかを確認する方法。 感度が高く、確定診断に必須だが、結果を得るまでに時間がかかる。
  • PCR法:結核菌のDNAを増幅し、感度よく検出する方法。 迅速性と感度に優れるが、死菌も検出してしまうため、感染性の判断は難しい。
検査法所要日数感度
塗抹検査1日
培養検査2~8週間
PCR法1~2日非常に高

細菌学的検査は結核の確定診断に必須であり、特に培養検査で結核菌が証明されれば、確定診断となります。

ツベルクリン反応検査 – 結核菌に対する免疫反応の評価

ツベルクリン反応検査は、結核菌に対する免疫反応があるかどうかを調べる検査です。

結核菌の抗原を皮内に注射し、48~72時間後の発赤や硬結の大きさを測定します。

結核感染の診断に使われますが、BCGの影響を受けるため、結果の解釈には注意が必要です。

結核の治療法と処方薬、治療期間

結核の治療には、複数の抗結核薬を組み合わせた化学療法が用いられ、治療期間は通常6から9か月です。

抗結核薬の種類と作用機序

結核治療に用いられる主な抗結核薬

薬剤名作用機序
イソニアジド結核菌の細胞壁合成を阻害
リファンピシン結核菌のRNA合成を阻害
ピラジナミド結核菌の代謝を阻害
エタンブトール結核菌の細胞壁合成を阻害

これらの薬剤は結核菌に対してさまざまな作用機序を持っており、併用することで高い殺菌効果を発揮します。

標準的な治療レジメンと服薬期間

結核治療の標準的なレジメンは以下の2つのフェーズから成り立っています。

  1. 初期強化療法(2か月間):イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトールの4剤を併用
  2. 継続療法(4から7か月間):イソニアジドとリファンピシンの2剤を併用

初期強化療法では強力な殺菌作用によって体内の結核菌を速やかに減少させ、継続療法では残存する結核菌を根絶することが目的です。

治療期間は患者さんの状態や治療反応性によって調整されることもありますが、再発リスクを最小限に抑えるためには少なくとも6か月間の服薬が推奨されています。

フェーズ治療期間使用薬剤
初期強化療法2か月間イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトール
継続療法4から7か月間イソニアジド、リファンピシン

服薬アドヒアランスの重要性

抗結核薬は長期間にわたって規則正しく服用しなければならず、服薬アドヒアランス(服薬遵守)の維持が治療成功の鍵を握っています。

服薬アドヒアランスが不良だと高まるリスク

  • 治療失敗や再発
  • 薬剤耐性結核菌の出現
  • 治療期間の延長

患者さんに対する服薬指導やモニタリング、副作用管理などの支援が服薬アドヒアランス向上に重要な役割を果たします。

多剤耐性結核の治療

多剤耐性結核(MDR-TB)は、イソニアジドとリファンピシンの両方に耐性を示す結核菌に対する感染症です。

MDR-TBの治療は、感受性のある抗結核薬を用いたものが基本で、18から24か月と長期間に及びます。

ただし、MDR-TBの治療は通常の結核治療と比べて副作用のリスクが高く、専門医による慎重な管理が必要です。

予後と再発可能性および予防

結核は治療を受ければ完治が可能な疾患ですが、再発のリスクもあるため、予防が大切です。

結核の治療の予後

結核は抗結核薬による治療を実施することで、大半のケースで完治が見込めます。

治療期間は一般的に6ヶ月から9ヶ月ほどです。

結核の種類治療期間
肺結核6〜9ヶ月
肺外結核9〜12ヶ月

結核の再発可能性

結核は一度完治しても、再発するリスクがあり、治療終了後の5年間が最も高いです。

再発を防止するためには、治療終了後も定期的な検診を受けてください。

再発リスクが高い期間再発リスクが低い期間
治療終了後5年間治療終了後5年以降

結核の予防

結核の予防に有効な対策

  • BCG接種の実施
  • 感染者との接触を避ける
  • 換気の良い環境を保つ
  • 免疫力を高める生活習慣を心がける

特にBCG接種は、結核の発症を予防するうえで極めて有効な手段で、乳児期にBCG接種を行うことが推奨されています。

結核の治療における副作用やリスク

結核の治療には、副作用やリスクも伴います。

抗結核薬の副作用

抗結核薬は結核治療に不可欠ですが、副作用のリスクもあります。

副作用の種類具体的な症状
肝機能障害皮膚や白目の黄染、倦怠感
末梢神経障害手足のしびれや痛み

副作用が現れた場合、薬剤の変更や減量が必要となるケースがあります。

薬剤耐性結核のリスク

結核治療中に薬剤の服用を中断したり、不規則に服用したりすると、薬剤耐性結核のリスクが高まります。

薬剤耐性結核の種類治療期間
多剤耐性結核18〜24ヶ月
超多剤耐性結核24ヶ月以上

薬剤耐性結核を防止するためには、患者が治療を中断せず、規則正しく薬を服用することが肝心です。

結核治療中の生活上の注意点

結核治療中に注意する点

  • 飲酒は控える
  • バランスの取れた食事を心がける
  • 過度なストレスを避ける
  • 十分な休養を取る

生活上の注意点を守ることにより、副作用のリスクを下げ、治療効果を高めることが可能です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

初診料と再診料

医療機関を初めて受診する際には初診料が、2回目以降の受診時には再診料が必要です。

種類金額
初診料2,820円
再診料720円

検査費と処置費

結核の診断や経過観察には検査が必要で、主な検査は、胸部X線検査(2,400円程度)、喀痰検査(1,500円程度)、CTスキャン(10,000円程度)などです。

加えて、服薬指導などの処置費用も発生します。

入院費

結核の治療では、感染力が高い初期には入院が必要になることがあります。

項目概算費用
個室料金10,000円/日
食事代1,500円/日

以上

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