西ナイルウイルス感染症

西ナイルウイルス感染症とは、感染症の一種で、蚊を媒介してウイルスが伝播する疾患です。

このウイルスに感染しても、およそ80%の人は無症状ですが、残りの20%程度の人には、発熱や頭痛、筋肉の痛み、嘔吐などの症状が現れることがあります。

中でも、高齢者や免疫力が低下している人は、重症化するリスクが高く、脳炎や髄膜炎を発症する可能性があるため注意が必要です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

西ナイルウイルス感染症の種類(病型)

西ナイルウイルス感染症には、大きく分けていくつかの異なる病型が存在します。

病型割合
無症候性感染約80%
西ナイル熱約20%
神経侵襲型約1%

無症候性感染

西ナイルウイルスに感染しても、多くの人は無症状のまま経過することがあります。

西ナイル熱

西ナイルウイルスに感染した人のうち、約20%の人にこの病型が発症します。インフルエンザに似た症状が現れるのが特徴です。

症状詳細
発熱38℃を超える高い熱
頭痛我慢できないほどの頭痛
筋肉痛体中の筋肉が痛む
倦怠感強い だるさを感じる

神経侵襲型

感染者の約1%に発症する、非常に重い病型です。

  • 脳炎
  • 髄膜炎
  • 急性の弛緩性麻痺 など、神経系の症状を引き起こします。

神経侵襲型は、高齢の方や免疫力の低下している方で発症する可能性が高くなっています。

症状に合わせた適切な対症療法を行うことが大切ですが、残念ながらこの病型に特化した治療法はまだ確立されていないのが現状です。

西ナイルウイルス感染症の主な症状

西ナイルウイルスに感染しても、多くの人は無症状のまま経過するため、感染に気づかないことがよくあります。

しかし、中には重い症状が出てしまう人もいるのです。

発熱

西ナイルウイルス感染症でよく見られる症状の一つが、発熱です。

熱の高さ割合
38℃以上約60%
40℃以上約10%

頭痛・筋肉痛

熱が出ると同時に、頭が痛くなったり、筋肉が痛くなったりする人も少なくありません。

  • 頭痛:約50%
  • 筋肉痛:約40%

消化器症状

感染者の中には、お腹の調子が悪くなる人もいます。

症状割合
吐き気・嘔吐約20%
下痢約10%
腹痛約5%

神経症状

さらに症状が進むと、以下のような神経の症状が現れることがあります。

  • 意識がもうろうとする
  • 体が震える
  • 体が麻痺する
  • けいれん発作が起こる

神経症状が出た患者さんは、亡くなってしまう危険性が高まるため、十分な注意が必要です。

西ナイルウイルス感染症の原因・感染経路

西ナイルウイルス感染症の原因ウイルスと、ウイルスがどのように感染するのかについて、詳しく見ていきましょう。

西ナイルウイルスとは

西ナイルウイルスは、フラビウイルス属のウイルスの仲間です。

ウイルスの属属する主なウイルス
フラビウイルス属西ナイルウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス
トガウイルス属チクングニアウイルス、シンドビスウイルス

感染経路

西ナイルウイルスは、主に蚊を介して感染が広がります。

  • 蚊がウイルスを持っている鳥を吸血し、ウイルスを体内に取り込む
  • ウイルスを持った蚊が人を吸血することで、人にウイルスが感染する

ウイルスを持つ可能性のある鳥は、実にさまざまな種類に及びます。

鳥の分類具体例
スズメ目カラス、ヒヨドリ、スズメ
ハト目ドバト、キジバト
カモ目マガモ、カルガモ

ヒトからヒトへの感染

めったにありませんが、次のような場合には、人から人へ感染することがあります。

  • 母親から胎児へ感染する
  • 輸血を介して感染する
  • 臓器移植によって感染する

診察(検査)と診断

西ナイルウイルス感染症の診断に用いられる検査の種類や、臨床診断、確定診断の基準について解説していきます。

臨床診断

西ナイルウイルス感染症の臨床診断は、以下の条件を満たす場合に行われます。

  • 発熱、頭痛、筋肉痛などの症状がある
  • 流行地域への渡航歴や蚊刺されの既往がある
  • 他の感染症が除外される

血液検査

西ナイルウイルス感染症の診断に際しては、血液検査が重要な役割を果たします。

検査項目結果の解釈
白血球数増加(リンパ球優位)
血小板数減少
肝酵素(AST、ALT)上昇

ウイルス学的検査

確定診断には、ウイルス学的検査が必要です。

検査法検体検出対象
ウイルス分離血液、髄液ウイルス
抗体検査血清IgM抗体、中和抗体
遺伝子検査血液、髄液ウイルスRNA

確定診断

西ナイルウイルス感染症の確定診断は、以下のいずれかの条件を満たす場合になされます。

  • ウイルス分離により西ナイルウイルスが検出される
  • IgM抗体が検出される
  • ペア血清で中和抗体の有意な上昇がみられる
  • 血液や髄液からウイルスRNAが検出される

西ナイルウイルス感染症の診断では、臨床症状や検査所見を総合的に判断することが何より大切です。

確定診断にはウイルス学的検査が欠かせませんが、検査結果が出るまでには一定の時間がかかるため、まずは臨床診断に基づいて初期対応を行うことが求められます。

西ナイルウイルス感染症の治療法と処方薬

西ナイルウイルス感染症の治療は、主に症状に合わせた対症療法が中心となります。

重症の患者さんでは集中治療が必要になることもありますが、この病気に特化した治療薬はまだ開発されていないのが現状です。

対症療法

西ナイルウイルス感染症の治療は、症状に応じた対症療法が基本となります。

症状治療
発熱解熱剤(アセトアミノフェンなど)
頭痛鎮痛剤(非ステロイド性抗炎症薬など)
脱水輸液

重症例への対応

重症化した場合には、以下のような集中治療が必要となることがあります。

  • 人工呼吸管理
  • 血液浄化療法
  • 抗痙攣薬の投与
  • ステロイド投与

抗ウイルス薬

現時点では、西ナイルウイルス感染症に対する特異的な抗ウイルス薬は開発されていません。

一部の抗ウイルス薬が有効である可能性が示唆されていますが、臨床的なエビデンスは十分ではありません。

薬剤名作用機序
リバビリンRNAウイルスの複製を阻害
インターフェロンα抗ウイルス作用、免疫調節作用

治療に必要な期間と予後について

西ナイルウイルス感染症は適切な治療によって多くの患者が快方に向かいますが、まれに重篤化する可能性もあります。

治療期間は症状の重症度によって異なる

西ナイルウイルス感染症の治療期間は症状の重さによって大きく変わってきます。

軽症だと自然に症状が良くなり、1週間から10日ほどで回復することが多いですが、重症になると入院治療が欠かせなくなり、数週間から数ヶ月の治療期間が必要になることもあります。

治療法は対症療法が中心

現在、西ナイルウイルス感染症に特効薬はありません。

そのため、治療は主に対症療法が中心となり、症状に合わせて解熱鎮痛薬の投与や輸液などが実施されます。

重症例の場合は呼吸管理や血液浄化療法などの集中治療が欠かせなくなることもあります。

症状治療法
発熱、頭痛、筋肉痛解熱鎮痛薬の投与
嘔吐、下痢輸液による脱水の予防と改善
呼吸困難酸素投与、人工呼吸管理
意識障害、けいれん抗けいれん薬の投与、呼吸・循環管理

後遺症のリスクがある

西ナイルウイルス感染症は治療後も後遺症が残る可能性があります。 特に重症例では以下のような後遺症のリスクが高まるのです。

  • 記憶障害や認知機能低下
  • 手足のしびれや筋力低下
  • うつ症状や慢性疲労症候群

後遺症の発生率は報告によってばらつきがありますが、重症例の20〜50%程度に何らかの後遺症が認められるとされているのです。

西ナイルウイルス感染症の治療における副作用やリスク

西ナイルウイルス感染症の治療では副作用やリスクに細心の注意を払わなければなりません。

解熱鎮痛薬の副作用

西ナイルウイルス感染症の治療では発熱や頭痛、筋肉痛などの症状に解熱鎮痛薬が使われる可能性があります。

しかし、解熱鎮痛薬の使用には以下のような副作用のリスクが伴います。

副作用症状
胃腸障害胃痛、胃もたれ、吐き気、下痢など
肝機能障害肝酵素値の上昇、黄疸など
腎機能障害尿量減少、浮腫など
皮膚症状発疹、かゆみなど

ステロイド薬の副作用

重症例では炎症反応を抑えるためにステロイド薬が使われることがあります。

ステロイド薬の使用には以下のような副作用のリスクが存在します。

  • 感染症のリスク増加
  • 血糖値の上昇
  • 骨密度の低下
  • 精神症状の出現

抗けいれん薬の副作用

西ナイルウイルス感染症ではけいれんを伴うことがあり、抗けいれん薬が使われる場合があります。

抗けいれん薬の使用には以下のような副作用のリスクがあります。

副作用症状
中枢神経系の抑制眠気、ふらつき、めまいなど
肝機能障害肝酵素値の上昇、黄疸など
血液障害白血球減少、貧血など

治療による二次的な合併症のリスク

西ナイルウイルス感染症の治療では長期の入院や安静臥床が必要になることがあります。

そうした場合、以下のような二次的な合併症のリスクが高まります。

  • 深部静脈血栓症
  • 肺塞栓症
  • 褥瘡(じょくそう)
  • 廃用症候群

予防方法

西ナイルウイルス感染症を防ぐにはウイルスを媒介する蚊に刺されないようにすることが大切です。

蚊の発生源対策

西ナイルウイルスを媒介するのは主にイエカ属の蚊です。

蚊の発生源となる水たまりをなくすことが肝要であり、以下のような対策が有用です。

対策具体的な方法
水たまりの除去庭や周辺の水たまりを定期的に排水する
人工容器の管理バケツや植木鉢の水を週に1回程度入れ替える
雨水桝の清掃雨水桝に溜まった水や落ち葉を取り除く

蚊に刺されない工夫

蚊に刺されないようにするには肌の露出を減らすことが大切です。 以下のような工夫が効き目があります。

  • 長袖・長ズボンを着用する
  • 網戸やエアコンを使用し、室内への蚊の侵入を防ぐ
  • 蚊帳を使用する

また、虫除け剤を使うのも有効な予防法の一つです。

虫除け剤の種類特徴
ディート含有製品強力な忌避効果があるが、刺激臭が強い
ピカリジン含有製品ディートよりも低刺激性で、忌避効果も長持ち
ユーカリ油含有製品天然由来成分で、比較的低刺激性

屋外活動時の注意点

蚊が活発な時間帯や場所では特に注意が必要です。

  • 夕方から夜明けにかけては蚊の活動が活発になるため、不要な外出を控える
  • 公園や水辺など、蚊が多い場所では虫除け対策を徹底する

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

西ナイルウイルス感染症の治療費は症状の重さによって大幅に変動します。

軽症だと対症療法が中心となるため、わりと低額で済むことが多いのです。

それに対し、重症化すると入院治療や集中治療が欠かせなくなり、治療費が高額になる可能性があるのです。

また、保険適用の有無も治療費に大きく影響します。

保険適用となる際は自己負担額が軽減されますが、適用外だと全額自己負担となるため、多額の費用がかかることがあります。

以上

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