エボラ出血熱 – 感染症

エボラ出血熱とは、エボラウイルスが原因で発症する危険な感染症の一種ですす。

このウイルスは、コウモリなどの動物から人に感染し、人から人へと感染が広がっていきます。

初期症状は発熱や頭痛で、その後は嘔吐や下痢、出血などの症状が現れるのが特徴で、致死率は非常に高く、感染予防対策を万全に行う必要があります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

エボラ出血熱の種類(病型)

エボラ出血熱には、いくつかの種類(病型)が存在します。

ザイール型エボラウイルス感染症

ザイール型エボラウイルスによる感染症は、最も致死率が高い病型です。

潜伏期間2〜21日
致死率50〜90%
主な症状発熱、頭痛、筋肉痛、嘔吐、下痢、出血

スーダン型エボラウイルス感染症

スーダン型エボラウイルスによる感染症は、ザイール型に次いで致死率が高い病型です。

  • 潜伏期間:2〜21日
  • 致死率:40〜60%
  • 主な症状:発熱、頭痛、筋肉痛、嘔吐、下痢

ブンディブギョ型エボラウイルス感染症

ブンディブギョ型エボラウイルスによる感染症は、比較的新しく発見された病型です。

項目内容
潜伏期間2〜21日
致死率約25%
主な症状発熱、頭痛、筋肉痛、嘔吐、下痢

タイフォレスト型エボラウイルス感染症

タイフォレスト型エボラウイルスによる感染症は、人への感染例が少ない病型です。

致死率は比較的低いと考えられていますが、まだ十分なデータが得られていない状況です。

エボラ出血熱の主な症状

エボラ出血熱の主な症状について解説いたします。

初期症状

エボラ出血熱の初期症状は、以下のようなものがあります。

  • 発熱(38℃以上)
  • 頭痛
  • 筋肉痛
  • 倦怠感
  • 咽頭痛

これらの症状は、インフルエンザなどの一般的な感染症と似ているため、早期発見が難しい場合があります。

消化器症状

エボラ出血熱が進行すると、消化器症状が現れます。

症状概要
嘔吐頻繁に吐き気を催し、嘔吐する
下痢水様性の下痢が続く
腹痛強い腹痛を伴うことがある

これらの症状により、脱水や電解質異常が引き起こされ、患者の全身状態が悪化します。

出血症状

エボラ出血熱の最も特徴的な症状は、全身の出血傾向です。

部位症状
皮膚紫斑、点状出血
粘膜歯肉出血、鼻出血
消化管吐血、下血

出血症状は、エボラ出血熱の後期に現れ、重症化の指標となります。

多臓器不全や播種性血管内凝固(DIC)を併発し、致死率が高くなります。

その他の症状

エボラ出血熱では、以下のような症状も見られることがあります。

  • 発疹
  • 眼球充血
  • リンパ節腫脹
  • 意識障害

これらの症状は、エボラ出血熱に特異的ではありませんが、重症度の評価や鑑別診断に役立つ場合があります。

エボラ出血熱の症状は多岐にわたり、急速に重症化するため、早期発見と適切な対応が求められます。

エボラ出血熱の原因・感染経路

エボラ出血熱の原因となるウイルスと、その感染経路について詳しく見ていきます。

エボラウイルスの特徴

エボラウイルスは、フィロウイルス科に属するウイルスで、以下のような特徴があります。

特徴概要
形状糸状のらせん形
大きさ長さ約800~1,000nm、直径約80nm
ゲノム一本鎖のマイナス鎖RNA

エボラウイルスには、以下の5つの種類が知られています。

  • ザイールエボラウイルス
  • スーダンエボラウイルス
  • ブンディブギョエボラウイルス
  • タイフォレストエボラウイルス
  • レストンエボラウイルス

このうち、ザイールエボラウイルスによる感染症の致死率が最も高くなっています。

動物からヒトへの感染

エボラウイルスは、本来、野生動物に潜伏しているウイルスです。以下のような動物が自然宿主と考えられています。

  • オオコウモリ
  • サル
  • ゴリラ
  • チンパンジー

これらの動物との直接的な接触や、感染動物の体液・排泄物との接触によって、ヒトへの感染が起こります。

ヒトからヒトへの感染

一度ヒトに感染すると、エボラウイルスはヒトからヒトへと感染を拡大させます。主な感染経路は以下の通りです。

感染経路概要
直接接触感染者の血液、体液、分泌物、排泄物との直接的な接触
間接接触感染者の体液などで汚染された環境表面やモノを介した接触
性行為感染者との性行為による感染

医療従事者が感染者の治療に当たる際や、家族が感染者を看護する際に、感染のリスクが高くなります。

その他の感染経路

エボラウイルスは、以下のような経路でも感染する可能性があります。

  • 感染動物の肉の解体、調理、喫食
  • 感染者の死体との接触
  • 感染者由来の血液製剤の使用

ただし、これらの感染経路については、まだ十分な証拠が得られていない部分もあります。

エボラウイルスは、ごく微量でも感染が成立するため、感染者との接触や、汚染された環境表面との接触には細心の注意が必要です。

診察(検査)と診断

エボラ出血熱の診察(検査)の方法と、臨床診断および確定診断の基準について説明します。

臨床診断

エボラ出血熱の臨床診断は、以下の条件を満たす場合に行われます。

条件詳細
疫学的リスク流行地域への渡航歴、感染者との接触歴など
臨床症状発熱、頭痛、筋肉痛、嘔吐、下痢、出血症状など

臨床診断では、患者の症状や経過、疫学的情報を詳しく確認し、他の感染症との鑑別を行います。

特に、マラリアやデング熱、腸チフスなどとの鑑別が大切です。

検査方法

エボラ出血熱の確定診断には、以下のような検査が用いられます。

  • 血液検査(RT-PCR法、ELISA法、ウイルス分離)
  • 血清学的検査(IgM抗体、IgG抗体の検出)
  • 免疫組織化学染色

これらの検査により、エボラウイルスの存在や抗体の産生を直接的または間接的に確認します。

検査法検出対象検査時期
RT-PCR法ウイルスRNA発症早期(発症1〜3日目)
ELISA法ウイルス抗原発症早期(発症1〜3日目)
ウイルス分離感染性ウイルス発症早期(発症1〜3日目)
IgM抗体検出IgM抗体発症後期(発症5日目以降)
IgG抗体検出IgG抗体回復期(発症10日目以降)

検査の実施にあたっては、適切な感染対策を講じた上で、専門の検査機関で行われる必要があります。

確定診断

エボラ出血熱の確定診断は、以下のいずれかの条件を満たす場合になされます。

  • 血液、体液、組織などからのウイルス分離
  • 血液、体液、組織などからのウイルス遺伝子(RNA)の検出
  • 血液中のウイルス特異的IgM抗体の検出
  • ペア血清でのIgG抗体の4倍以上の上昇

確定診断がなされた場合は、速やかに保健所に届け出るとともに、適切な感染対策と治療を開始することが求められます。

エボラ出血熱の治療法と処方薬

エボラ出血熱の治療法と、使用される主要な薬剤について説明します。

対症療法

エボラ出血熱の治療の中心は、対症療法です。 患者の症状に応じて、以下のような治療が行われます。

症状治療法
脱水輸液、電解質補正
出血輸血、止血剤投与
発熱解熱剤投与、冷却
呼吸不全酸素投与、人工呼吸管理

これらの治療により、患者の全身状態を維持し、合併症を防ぐことが大切です。

抗ウイルス薬

エボラ出血熱に対する特異的な治療薬は限られていますが、いくつかの抗ウイルス薬が使用されています。

  • レムデシビル(Remdesivir)
  • ファビピラビル(Favipiravir)
  • モノクローナル抗体(ZMapp、MAb114、REGN-EB3など)

これらの薬剤は、ウイルスの増殖を抑制したり、感染細胞を攻撃したりすることで、症状の改善や予後の向上に寄与すると考えられています。

回復者血漿療法

エボラ出血熱から回復した患者の血漿には、ウイルスに対する抗体が含まれています。

この血漿を患者に輸血することで、ウイルスを中和し、症状の改善を図る治療法が回復者血漿療法です。

治療法概要
回復者血漿療法エボラ出血熱から回復した患者の血漿を輸血する

回復者血漿療法は、他の治療法と併用されることが多く、早期に開始することで効果が期待できます。

支持療法

エボラ出血熱の患者に対しては、以下のような支持療法も重要です。

  • 栄養管理(経口摂取が困難な場合は経管栄養や中心静脈栄養)
  • 疼痛管理(鎮痛薬の投与)
  • 精神的ケア(不安や恐怖への対応)

これらの治療を適切に行うことで、患者の苦痛を和らげ、回復を促すことができます。

治療に必要な期間と予後について

エボラ出血熱の治療に必要とされる期間と、予後について説明します。

治療期間

エボラ出血熱の治療期間は、患者の症状や全身状態、合併症の有無などによって異なります。 一般的な治療期間は、以下の通りです。

症状治療期間
軽症1〜2週間
中等症2〜4週間
重症4週間以上

重症例では、合併症の治療や長期的な支持療法が必要となるため、治療期間が長期化する傾向にあります。

予後

エボラ出血熱の予後は、ウイルスの種類、患者の年齢、全身状態、合併症の有無などによって大きく異なり、 致死率は以下のような範囲となっています。

  • ザイール型エボラウイルス:40〜90%
  • スーダン型エボラウイルス:40〜60%
  • ブンディブギョ型エボラウイルス:25〜30%

特に、ザイール型エボラウイルスによる感染は、予後不良となる可能性が高くなります。

予後に影響する因子

エボラ出血熱の予後に影響する因子として、以下のようなものが挙げられます。

  • 感染したウイルスの種類
  • 診断の遅れ
  • 治療開始の遅れ
  • 患者の年齢(高齢者、乳幼児)
  • 基礎疾患の有無
  • 医療体制の整備状況

これらの因子を考慮し、迅速かつ適切な治療を行うことが、予後の改善につながります。

後遺症

エボラ出血熱から回復した患者の中には、以下のような後遺症を経験する方もいます。

後遺症症状
関節痛手足の関節痛、背部痛など
視力障害ぶどう膜炎、視力低下など
聴力障害難聴、耳鳴りなど
精神症状抑うつ、不安、PTSDなど

これらの後遺症に対しては、長期的なフォローアップと症状に応じた治療が必要となります。

エボラ出血熱の治療における副作用やリスク

抗ウイルス薬の副作用

エボラ出血熱の治療に用いられる抗ウイルス薬には、以下のような副作用が報告されています。

薬剤名主な副作用
レムデシビル肝機能障害、腎機能障害、低血圧、発疹など
ファビピラビル高尿酸血症、肝機能障害、消化器症状など

これらの副作用は、患者の状態によっては重篤なケースもあるため、慎重なモニタリングが必要です。

回復者血漿療法のリスク

回復者血漿療法は、エボラ出血熱から回復した患者の血漿を用いる治療法ですが、以下のようなリスクが伴います。

  • 感染症の伝播(HIV、肝炎ウイルスなど)
  • アレルギー反応
  • 循環過負荷

これらのリスクを最小限に抑えるため、厳格な供血者のスクリーニングと適切な輸血管理が求められます。

支持療法の合併症

エボラ出血熱の患者に対する支持療法では、以下のような合併症が起こる可能性があります。

治療法主な合併症
輸液療法電解質異常、浮腫、肺水腫など
人工呼吸管理人工呼吸器関連肺炎、気胸、肺塞栓症など
血液浄化療法低血圧、出血傾向、感染症など

これらの合併症を予防・早期発見するため、患者の全身状態を注意深く観察することが大切です。

医療スタッフの感染リスク

エボラ出血熱の治療に携わる医療スタッフは、感染のリスクにさらされています。 感染リスクを最小限に抑えるため、以下のような対策が必要です。

  • 適切な個人防護具(PPE)の着用
  • 厳格な感染対策手順の遵守
  • 曝露後の健康管理とモニタリング

医療スタッフの安全を確保することは、患者の治療を継続する上で欠かせない要素となります。

予防方法

エボラ出血熱の予防方法と、流行時の対策について説明します。

感染経路の遮断

エボラ出血熱の予防において、感染経路の遮断が最も重要な対策の一つです。 以下のような方法で、感染リスクを減らすことができます。

感染源予防方法
感染動物との接触感染動物(コウモリ、サル、森林性の動物)との接触を避ける
感染者との接触感染者の体液、分泌物、排泄物との接触を避ける
感染者の死体感染者の死体に直接触れることを避ける

特に、医療従事者や感染者の家族は、高度な感染予防対策を講じる必要があります。

個人防護具の使用

感染リスクの高い環境では、適切な個人防護具(PPE)の使用が欠かせません。 以下のようなPPEを正しく着用することで、感染を防ぐことができます。

  • 防護服
  • 手袋
  • ゴーグルまたはフェイスシールド
  • マスク(N95マスクなど)

PPEの着脱時は、手順を遵守し、汚染された部分に触れないよう注意が必要です。

手指衛生の徹底

手指を介した感染を防ぐため、手指衛生を徹底することが大切です。 以下のようなタイミングで、手洗いや手指消毒を行います。

タイミング手指衛生の方法
患者との接触前後石けんと水による手洗い、またはアルコール手指消毒剤の使用
PPEの着脱時石けんと水による手洗い、またはアルコール手指消毒剤の使用
体液、分泌物、排泄物に触れた後石けんと水による手洗い

正しい手洗いの手順を身につけ、実践することが重要です。

環境対策

エボラウイルスは、環境表面でも一定期間生存することが知られています。 感染拡大を防ぐため、以下のような環境対策が必要です。

  • 消毒剤による環境表面の清拭
  • 感染性廃棄物の適切な処理
  • リネンや衣類の適切な洗浄・消毒

特に、医療施設では、適切な環境管理を行うことが求められます。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

エボラ出血熱の治療にかかる費用は、患者の重症度や保険適用の有無によって大幅に変動します。

軽症のケースでは、対症療法を中心とした治療が行われ、比較的低コストで済むことがありますが、重症例では集中治療が必要となり、高額な医療費が発生する可能性があります。

また、エボラ出血熱に対する特異的な治療薬は限られており、多くの場合は保険適用外となるため、患者の自己負担が増えることになります。

以上

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