目次
- 声帯ポリープという病気
- 声帯ポリープが発生するメカニズム
- 声がかすれる以外にもある症状
- 喉頭ストロボスコピーで何がわかるか
- 声の安静と音声治療で治ることもある
- 手術が必要になるケース
- 術前に音声治療を行う意味
- 手術後の声はどうなるのか
- 再発させないための生活習慣
- 喫煙が声帯に与えるダメージ
- 声帯結節やのう胞との見分け方
- よくある質問
- 参考文献
「先生、もう1ヶ月以上声がかすれてるんですけど、風邪はとっくに治ったはずなんです」。こんな相談を受けることが外来では少なくありません。風邪をひいた後にしばらく声のかすれが続いて、市販のトローチをなめても良くならない。そんなとき、原因のひとつとして考えたいのが「声帯ポリープ」です。声帯ポリープは決して珍しい病気ではなく、声を日常的に酷使する方だけでなく、風邪や咳をきっかけに誰にでも起こりうる疾患です。僕の外来にも「歌手でもないのにポリープなんてできるんですか?」と驚く患者さんがよくいらっしゃいます。声帯ポリープは正しく対処すれば治せる病気ですし、再発を防ぐ方法もあります。今回はその全体像について、僕が日々の診療で感じていることも交えながらお話ししていきます。
声帯ポリープという病気
声帯というのは、喉の奥にある左右一対のひだ状の組織で、呼吸するときは開き、声を出すときは閉じて振動します。1974年にHiranoが提唱した「カバー・ボディ理論」によれば、声帯の粘膜(カバー)と筋肉(ボディ)の相互作用によって「粘膜波動」が生まれ、これが声の元になるわけです[6]。声帯ポリープとは、この声帯の粘膜にできる良性の腫瘤で、多くの場合は片側の声帯に発生します[2]。ポリープができると粘膜波動が乱れるため、声がかすれたり、出しにくくなったりするのです。ポリープの大きさや形状はさまざまで、茎のある有茎性のものから、べったりと付着した広基性のものまであります。ただ、良性の病変ですから、がんのように転移する心配はありません。ではなぜこんなものができてしまうのか。そこが大事なところです。
声帯ポリープが発生するメカニズム
声帯ポリープの発生には「声の使いすぎ」が大きく関わっています。医学的には「フォノトラウマ(phonotrauma)」と呼ばれるもので、要するに声帯の粘膜に繰り返し機械的なストレスがかかることで組織が損傷し、そこに血管の拡張や浮腫が起きてポリープが形成されるわけです[2]。ではどんな人がなりやすいのか?教師、歌手、営業職、コールセンターのスタッフなど、声を「商売道具」にしている方はリスクが高いとされています。でもそれだけではありません。風邪をひいたときに無理に声を出し続けたり、スポーツの応援で叫んだり、カラオケで何時間も歌い続けたりといった「一時的な声の酷使」でも発生します。僕が酒田の外来で診てきた患者さんの中にも、冬場に風邪が長引いて咳が止まらず、その後から声が戻らなくなったという方が何人もいます。庄内地方は冬が長いですから、風邪をこじらせやすい環境でもあるのです。そして喫煙や胃酸の逆流(逆流性食道炎)も声帯粘膜を慢性的に刺激する因子として知られています。
声がかすれる以外にもある症状
声帯ポリープの代表的な症状は「嗄声(させい)」、つまり声のかすれです。ただ、嗄声と一口に言っても、その程度には幅があります。軽い場合は「ちょっとハスキーになった」程度で、重い場合は「息が漏れるような声しか出ない」こともあります。ではそれ以外にどんな症状があるか?まず「声が途切れる」という訴えがあります。話している途中で急に声が出なくなる、いわゆる「声のひっかかり」です。そして「声を出すのに力がいる」という感覚。普通に会話するだけなのに喉に力を入れないと声が出せない状態です。ポリープが大きくなると「喉の異物感」を感じる方もいます。「何か喉に引っかかっている感じがする」と表現する患者さんも少なくありません。ちなみに、痛みを伴うことはほとんどなく、飲み込みにも影響しません。だからこそ「痛くないから大丈夫だろう」と放置してしまう方が多いのです。声のかすれが2週間以上続くようであれば、一度耳鼻咽喉科を受診することをお勧めします。特に喫煙者の方で声がかすれている場合は、ポリープ以外の疾患を除外する意味でも早めの受診が望ましいです。
喉頭ストロボスコピーで何がわかるか
声帯ポリープの診断には、まず喉頭内視鏡検査を行います。鼻から細いカメラを入れて声帯を直接観察するもので、これだけでポリープの有無はおおよそ分かります。でも、より詳しく声帯の状態を評価するには「喉頭ストロボスコピー」という検査が非常に有用です。これは声帯の振動をスローモーション映像のように映し出す検査で、粘膜波動の左右差や振幅の異常を細かく観察できます。ポリープがある側の声帯は振動が弱まっていたり、反対側の声帯にも影響が及んでいたりすることがあるのですが、通常の内視鏡ではそこまで見えません[6]。ストロボスコピーがあってこそ、ポリープの性状を正確に把握でき、治療方針を立てられるわけです。声帯ポリープの診断では、正確な問診、ストロボスコピー所見、音声治療への反応性、そして場合によっては術中所見を総合的に判断することが重要とされています[2]。音声の検査も診断の重要な要素で、最大発声持続時間(MPT)の測定や、音声の「ゆらぎ」を示すジッターやシマーといった音響分析も行われます。正常な方のMPTは15秒から25秒程度ですが、ポリープのある方では10秒を切ることも珍しくありません。こうした客観的なデータは、治療効果の判定にも使われます。
声の安静と音声治療で治ることもある
「声帯ポリープ=即手術」と思っている方が多いのですが、実はそうではありません。東京ボイスセンターでの大規模な調査では、声帯ポリープと診断された644人の患者さんのうち、132人が保存的治療を受け、そのうち55人(約42%)で平均5.1ヶ月の経過観察中にポリープが完全に消失したと報告されています[3]。つまり全体の約9.7%は手術なしで治る可能性があるということです。ではどんなポリープが保存的治療で消えやすいかというと、①サイズが小さいもの、②発症からの期間が短いもの、③女性に多い傾向があるとされています[3]。音声治療とは、言語聴覚士の指導のもとで正しい発声方法を学ぶリハビリテーションのことです。声の出し方のクセを修正し、声帯への負担を減らすことで、ポリープの縮小や消失を促します。JeongらのJAMAに掲載された研究でも、保存的治療は一定の割合で有効であることが示されています[4]。もちろん、すべてのポリープが保存的治療で消えるわけではありませんし、数ヶ月かかるという時間的なコストもあります。でも「手術しか選択肢がない」と思い込んでいる方が多い中で、こうした選択肢があることを知っておくのは大事なことです。
手術が必要になるケース
保存的治療で改善しない場合や、ポリープが大きい場合には手術が検討されます。声帯ポリープの手術は「喉頭微細手術(ラリンゴマイクロサージェリー)」と呼ばれるもので、全身麻酔下に顕微鏡を使って声帯のポリープを丁寧に切除します。口から喉頭鏡を挿入し、顕微鏡で拡大しながら手術用の微細な器具でポリープを除去するわけです。手術時間は通常30分から1時間程度で、入院期間は施設によりますが数日から1週間ほどです。Kanekoらの研究では、従来のマイクロフラップ法とレーザー手術の比較が行われており、どちらも良好な音声改善が得られたと報告されています[7]。最近では局所麻酔下にファイバースコープを使って行うオフィス手術も一部の施設で実施されていますが、全身麻酔下のマイクロサージェリーの方がより確実で安全性が高いとされています。手術自体は安全性の高いものですが、声帯は非常に繊細な組織ですから、経験豊富な耳鼻咽喉科医に相談することが大切です。
術前に音声治療を行う意味
「手術するなら音声治療は必要ないのでは?」と思われるかもしれません。でも実は、手術前に音声治療を行うことには大きな意味があります。Sahinらの研究では、211人の声帯ポリープ患者を対象に、手術のみのグループ、音声治療後に手術を行ったグループ、音声治療のみのグループを比較しています[5]。その結果、術前に音声治療を受けたグループでは、最終的な治療成績がより良好であったことが分かりました。ではなぜそうなるのか?それは音声治療によって「声の出し方の悪いクセ」が矯正されるからです。ポリープができた根本原因が声の使い方にある場合、その原因を放置したまま手術だけ行っても、同じことの繰り返しになりかねません。2023年に発表されたシステマティックレビューでも、音声治療と手術を組み合わせた「併用治療」が、嗄声の改善度、音声パラメータの改善、Voice Handicap Indexの改善において最も高い効果を示したと報告されています[1]。だからこそ、手術と音声治療はセットで考えることが重要なのです。
手術後の声はどうなるのか
手術後に多くの患者さんが気にされるのが「声はちゃんと元に戻るのか」ということです。結論から言えば、ほとんどの方で声質は改善します。ただし、手術直後から良い声が出るわけではありません。術後はまず約1週間の「沈黙期間」が設けられます。この期間は声を出すことを極力控え、声帯の傷を癒す時間にあてます。筆談やスマートフォンのメモ機能を使ってコミュニケーションをとることになります。その後、徐々に発声を再開しますが、ここでも言語聴覚士による音声リハビリテーションが重要です。術後の声帯はまだデリケートな状態ですから、正しい発声方法で少しずつ声を慣らしていきます。完全に声が安定するまでには1ヶ月から3ヶ月ほどかかるのが一般的です。以前、ある学校の先生がポリープの手術を受けた後、「1週間も声を出せないなんて仕事にならない」と不安そうにしていましたが、術後2ヶ月で「手術前より声が楽に出るようになった」と喜んでいたことを覚えています。焦らずにしっかりリハビリを続けることが大事です。ちなみに、術後の音声改善率について、ある研究では85%の患者さんで声が正常範囲に回復したと報告されています。残りの方でも多くは軽度の嗄声が残る程度で、日常生活に支障が出るレベルの方はごくわずかです。
再発させないための生活習慣
声帯ポリープは治療して終わりではありません。根本的な原因に対処しなければ、再発のリスクがあります。ではどうすれば再発を防げるか。まず一番大切なのは「声の衛生管理(ボイスハイジーン)」です。具体的には、長時間にわたる大声での会話や叫び声を避けること、適度に声を休ませること、そして十分な水分を摂ることです。声帯の粘膜は乾燥すると損傷しやすくなりますから、1日に1.5リットルから2リットルの水分摂取を心がけてください。そしてカフェインやアルコールは利尿作用があるため、声帯の保湿という観点からは控えめにした方がよいです。また、逆流性食道炎がある方は、胃酸が喉まで上がってきて声帯を刺激しますので、その治療も並行して行う必要があります。寝る前の食事を控える、脂っこいものを減らす、就寝時に上体を少し高くするといった生活指導も再発予防には欠かせません。職業的に声を使う方であれば、マイクを活用する、授業や会議の合間に声を休ませる時間を意識的に作るといった工夫も有効です。
喫煙が声帯に与えるダメージ
喫煙が声帯ポリープのリスク因子であることは、複数の研究で明らかになっています[2]。タバコの煙に含まれる化学物質は声帯の粘膜上皮を直接傷害し、炎症を慢性化させます。喫煙者のポリープは非喫煙者のものと比べてサイズが大きく、組織学的にも角化(粘膜が硬くなること)が喫煙者で82%、非喫煙者で43%と有意に多いことが報告されています。さらに言えば、喫煙者のポリープでは基底膜の菲薄化やヒアリン変性といった組織の変化も多く見られます。つまり喫煙は、ポリープができやすいだけでなく、できたポリープの質も悪くなるということです。声帯ポリープの治療を受けるのであれば、禁煙は必須と考えてください。「本数を減らせばいい」と思う方もいますが、声帯への影響を考えると、減煙ではなく完全な禁煙が望ましいです。禁煙外来を利用すれば、ニコチンパッチやバレニクリンといった薬剤の力を借りて無理なく禁煙に取り組むことができます。
声帯結節やのう胞との見分け方
声帯にできる良性の病変は、ポリープだけではありません。似たような症状を引き起こすものとして「声帯結節」と「声帯のう胞(嚢胞)」があります。ではこれらはどう違うのか。声帯結節はポリープと違って「両側性」に発生することが多く、声帯の前方3分の1の位置に左右対称にできます。いわゆる「ペンだこ」のようなもので、声の使いすぎによって粘膜が硬くなった状態です。子どもや若い女性の歌手に多く、音声治療で改善することが多いのが特徴です。一方、声帯のう胞は粘膜の下に液体がたまった袋状の病変で、ポリープと見た目が似ていることがあります。ただ、のう胞は音声治療では改善しにくく、手術が必要になることが多いです。ストロボスコピーで粘膜波動の状態を詳しく観察することが、これらの鑑別に役立ちます[6]。ポリープでは病変のある部位の波動が低下しますが、粘膜の柔軟性はある程度保たれています。のう胞では粘膜波動がほぼ消失していることが多いのです。正確な診断があってこそ適切な治療方針が立てられますから、専門医による評価が欠かせません。「声がかすれただけで大げさな」と思われるかもしれませんが、声は「生活の質」に直結するものです。声の不調で仕事に支障が出たり、人との会話が億劫になったりすることは、想像以上に生活全体に影響を及ぼします。
声帯ポリープは、原因を理解し、適切なタイミングで適切な治療を受ければ、しっかり治せる病気です。「声がかすれたくらいで病院なんて」と思わずに、気になることがあれば気軽に耳鼻咽喉科に相談してみてください。
よくある質問
Q1. 声帯ポリープは放置するとがんになりますか?
声帯ポリープは良性の病変であり、がん化することはありません。ただし、声のかすれが長期間続く場合、ポリープではなく喉頭がんである可能性もゼロではありませんので、2週間以上嗄声が続くようであれば耳鼻咽喉科での検査を受けてください。
Q2. 声帯ポリープの手術は日帰りでできますか?
施設によりますが、全身麻酔下の喉頭微細手術の場合は通常2泊3日から1週間程度の入院が必要です。局所麻酔下のオフィス手術を実施している施設では日帰りが可能な場合もありますが、すべてのポリープに適応があるわけではありません。
Q3. 手術後、どのくらいで普通に話せるようになりますか?
術後約1週間は声の安静が必要です。その後、徐々に発声を再開しますが、声が安定するまでには1ヶ月から3ヶ月ほどかかります。職業的に声を使う方は、復職時期について主治医と相談することをお勧めします。
Q4. 声帯ポリープは子どもにもできますか?
声帯ポリープは成人に多い疾患で、子どもにはまれです。子どもの場合は「声帯結節」の方が圧倒的に多く、大声で遊ぶ活発な男の子に多い傾向があります。子どもの声帯結節は成長とともに自然に消失することも少なくありません。
Q5. 市販の喉スプレーやトローチで声帯ポリープは治りますか?
残念ながら、市販の喉スプレーやトローチでポリープそのものを消失させることはできません。これらは喉の粘膜の炎症を一時的に鎮める効果はありますが、ポリープという「できもの」に対して直接的な効果は期待できません。
Q6. 声帯ポリープになりやすい職業はありますか?
教師、保育士、歌手、アナウンサー、コールセンタースタッフ、営業職など、日常的に長時間声を使う職業の方はリスクが高いとされています。騒がしい環境で働く方も、声を張り上げることが多くなるためリスクが上がります。
Q7. 声帯ポリープの手術後に再発することはありますか?
あります。手術でポリープを除去しても、声の使い方が以前と同じであれば再発する可能性があります。だからこそ、術後の音声リハビリテーションと生活習慣の見直しが重要なのです。禁煙、逆流性食道炎の治療、正しい発声方法の習得が再発予防の三本柱です。
Q8. 酒やカラオケは声帯ポリープに悪いですか?
アルコールには利尿作用があり、声帯の乾燥を招きます。乾燥した状態で声帯を振動させると粘膜が傷つきやすくなります。そしてカラオケでは大声を長時間出し続けることになりますから、声帯への負担は非常に大きいです。お酒を飲みながらカラオケという組み合わせは、声帯にとってはかなり過酷な環境と言えます。
参考文献
[1] Mus LA, et al. The Efficacy of Different Voice Treatments for Vocal Fold Polyps: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Clin Med. 2023;12(10):3451.
[2] de Vasconcelos D, et al. Vocal Fold Polyps: Literature Review. Int Arch Otorhinolaryngol. 2019;23(1):e116-e124.
[3] Nakagawa H, et al. Resolution of Vocal Fold Polyps With Conservative Treatment. J Voice. 2012;26(3):e107-e110.
[4] Jeong WJ, et al. Conservative Management for Vocal Fold Polyps. JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. 2014;140(5):448-452.
[5] Sahin M, et al. Effect of Voice Therapy on Vocal Fold Polyp Treatment. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2018;275(10):2537-2546.
[6] Hirano M. Morphological Structure of the Vocal Cord as a Vibrator and Its Variations. Folia Phoniatr (Basel). 1974;26(2):89-94.
[7] Kaneko M, et al. Comparison of Vocal Outcomes After Angiolytic Laser Surgery and Microflap Surgery for Vocal Polyps. Auris Nasus Larynx. 2015;42(6):448-452.
