コレラ – 感染症

コレラとは、コレラ菌が原因で発症する急性の下痢症のことを指します。

コレラ菌に汚染された水や食品を口にすることで感染が成立し、激しい水様性の下痢と嘔吐が特徴的な症状として現れます。

重症化が進むと脱水症状が悪化の一途をたどり、最悪の場合は死に至ってしまう可能性もある危険な感染症だと言えるでしょう。

衛生環境が不十分な地域で流行する傾向にあり、感染拡大を防ぐためにも迅速な対応が求められる疾患です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

コレラの種類(病型)

コレラには複数の病型が存在しており、それぞれ特徴が異なります。

古典型コレラ

古典型コレラは、重篤な下痢と嘔吐を引き起こす病型です。

感染力が強く、急速に脱水症状が進行してしまう可能性があるため、迅速な対応が求められます。

特徴説明
下痢大量の水様性下痢
嘔吐頻回の嘔吐
脱水急速に進行する脱水症状

エルトールコレラ

エルトールコレラは、古典型コレラと比較すると症状が軽度な傾向にあります。

しかし、感染力が高く、集団発生を引き起こすことがあるため注意が必要です。

重症脱水型

重症脱水型は、コレラの中でも最も重篤な病型の一つです。

激しい下痢と嘔吐により急速に脱水が進行し、適切な処置がなされないと、最悪の場合は死に至ってしまう可能性もあります。

  • 大量の水様性下痢
  • 頻回の嘔吐
  • 急速に進行する脱水症状
  • ショック症状
症状重症度
下痢+++
嘔吐+++
脱水+++
ショック++

非重症脱水型

非重症脱水型は、重症脱水型と比較すると症状が軽度ですが、適切な対応を怠ると重症化してしまう可能性があります。

下痢と嘔吐は認められるものの、脱水の程度は比較的軽度です。

胃腸炎型

胃腸炎型は、コレラの中では最も軽症な病型です。

下痢と嘔吐は認められるものの、脱水症状は軽度であり、多くの場合は自然治癒が期待できます。

ただし、他の病型に移行してしまう可能性もあるため注意が必要です。

コレラの主な症状

コレラは激しい下痢と嘔吐を主な症状とする急性の感染症です。

重症化すると脱水症状が急速に進行し、生命を脅かしてしまう可能性があります。

水様性下痢

コレラの最も特徴的な症状は、大量の水様性下痢です。

下痢は突然始まり、1日に数リットルに及ぶこともあります。

下痢便は淡黄色で水様性であり、コメ汁のような外観を呈します。

特徴説明
色調淡黄色
性状水様性
大量(数リットル/日)

嘔吐

コレラでは頻回の嘔吐も特徴的な症状の一つです。

嘔吐は下痢と同時に認められることが多く、大量の体液喪失を引き起こします。

  • 頻回の嘔吐
  • 大量の体液喪失
  • 脱水症状の進行

脱水症状

激しい下痢と嘔吐により、コレラ患者は急速に脱水症状が進行します。

脱水症状が重症化すると、ショック状態に陥ってしまう危険性があります。

脱水症状説明
口渇著明な口渇感
皮膚皮膚のツルゴール低下
尿量尿量減少
血圧血圧低下

その他の症状

上記の主要な症状以外にも、コレラ患者では以下のような症状が認められる場合があります。

  • 筋肉痙攣
  • 衰弱感
  • 腹痛

これらの症状は、脱水や電解質異常に伴って出現します。

コレラの原因・感染経路

コレラはコレラ菌による感染症であり、主に汚染された水や食品を介して感染が拡大します。

コレラの原因菌

コレラの原因となるのは、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae)と呼ばれる細菌です。

コレラ菌は、水や食品中で増殖し、ヒトの小腸に定着することで感染を引き起こします。

コレラ菌の特徴説明
分類ビブリオ属
形状コンマ状、わん曲した桿菌
運動性極べん毛を有する

感染経路

コレラは、以下のような経路で感染が拡大します。

  • 汚染された水の飲用
  • 汚染された食品の摂取
  • 感染者の糞便による環境汚染
  • 不衛生な手指を介した経口感染

特に、衛生環境が不十分な地域での集団発生が問題となります。

感染リスクの高い要因

以下のような要因がある場合、コレラの感染リスクが高まります。

要因説明
不衛生な水の使用下水や汚染された水の飲用
不適切な食品管理汚染された食材の使用、不十分な加熱
個人衛生の不徹底手洗いの不徹底、糞便処理の不備

診察(検査)と診断

コレラが疑われる患者に対しては、臨床症状と疫学的情報に基づいて速やかに診断を行い、確定診断のための検査を実施することが重要となります。

臨床症状と疫学的情報の確認

コレラの診察では、まず特徴的な臨床症状の有無を確認します。

  • 突然の水様性下痢
  • 頻回の嘔吐
  • 脱水症状(口渇、皮膚ツルゴールの低下、尿量減少など)

また、流行地域への渡航歴や汚染された水・食品への曝露歴などの疫学的情報も重要な手がかりとなります。

臨床診断

臨床症状と疫学的情報から、コレラの可能性が高いと判断された場合、臨床診断が下されます。

ただし、確定診断のためには、検査による病原体の証明が必要です。

臨床診断の根拠説明
特徴的な症状水様性下痢、嘔吐、脱水症状
疫学的情報流行地域への渡航歴、感染源への曝露歴

確定診断のための検査

コレラの確定診断には、以下のような検査が実施されます。

検査法説明
細菌培養検査糞便からのコレラ菌の分離・同定
迅速診断キット糞便中のコレラ菌抗原を検出
PCR法コレラ菌の遺伝子を検出

診断後の対応

コレラと診断された患者に対しては、速やかに治療を開始するとともに、感染拡大防止のための措置を講じる必要があります。

また、保健所への届け出も必要です。

コレラの治療法と処方薬

コレラの治療では、脱水症状の改善と電解質バランスの是正が最も重要となります。

また、抗菌薬の投与により症状の改善と感染拡大の防止を図ります。

輸液療法

コレラの治療の中心は、輸液療法による脱水症状の改善と電解質バランスの是正です。

重症度に応じて、経口補水液や点滴による輸液を行います。

重症度輸液方法
軽症経口補水液
中等症経口補水液 + 点滴輸液
重症大量の点滴輸液

抗菌薬治療

抗菌薬の投与は、症状の改善と感染拡大の防止に有効です。

以下のような抗菌薬が使用されます。

  • テトラサイクリン系抗菌薬
  • ニューキノロン系抗菌薬
  • マクロライド系抗菌薬

ただし、耐性菌の存在にも注意が必要です。

支持療法

重症例では、以下のような支持療法が行われることがあります。

治療法目的
輸液療法脱水症状の改善、電解質バランスの是正
抗菌薬治療症状の改善、感染拡大の防止
支持療法重症例の全身管理

集中治療室での管理が必要となる場合もあります。

治療に必要な期間と予後について

コレラの治療期間は、早期に適切な治療が開始された場合、比較的短期間で済むことが多いです

一方で、重症例や合併症を伴う場合は、治療に長期間を要することがあり、予後は、治療開始までの時間と重症度に大きく左右されます。

軽症例の治療期間

軽症のコレラ患者の場合、輸液療法と抗菌薬治療により、数日で症状が改善することが多いです。

入院期間は、症状の改善状況によって異なりますが、通常は1週間程度で退院可能となります。

重症度治療期間
軽症数日〜1週間程度
中等症1〜2週間程度
重症2週間以上

重症例の治療期間

重症のコレラ患者では、集中治療を要する場合があり、治療期間が長期化することがあります。

特に、以下のような合併症を伴う場合は、治療に数週間以上を要することもあります。

  • 急性腎不全
  • 電解質異常
  • 敗血症

重症例では、後遺症が残る可能性もあります。

予後を左右する因子

コレラの予後は、以下のような因子に大きく影響されます。

  • 治療開始までの時間
  • 重症度
  • 合併症の有無
  • 患者の年齢や基礎疾患

特に、治療開始までの時間が予後を大きく左右するため、早期診断と迅速な治療開始が重要となります。

予後良好因子予後不良因子
早期の治療開始治療開始の遅れ
軽症重症
合併症なし合併症あり
若年高齢

コレラの治療における副作用やリスク

コレラの治療では、輸液療法と抗菌薬治療が中心となりますが、これらの治療に伴う副作用やリスクについても理解しておく必要があります。

輸液療法の副作用とリスク

輸液療法は、脱水症状の改善と電解質バランスの是正に不可欠ですが、以下のような副作用やリスクがあります。

  • 点滴部位の腫れや痛み
  • 感染症(カテーテル関連血流感染症など)
  • 電解質異常(過剰補正による高ナトリウム血症など)

これらの副作用やリスクを防ぐためには、無菌操作の徹底と電解質濃度の慎重な調整が求められます。

副作用・リスク予防策
点滴部位の腫れや痛み適切な穿刺手技、固定
感染症無菌操作、カテーテル管理
電解質異常電解質濃度の慎重な調整

抗菌薬治療の副作用とリスク

抗菌薬治療は、症状の改善と感染拡大の防止に有効ですが、以下のような副作用やリスクがあります。

  • アレルギー反応(発疹、掻痒感など)
  • 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢など)
  • 耐性菌の出現

特に、耐性菌の出現は大きな問題であり、抗菌薬の適正使用が求められます。

合併症に関連するリスク

重症例では、以下のような合併症を伴うことがあり、これらが治療のリスクを高める要因となります。

合併症対応策
急性腎不全輸液管理、透析療法
電解質異常電解質補正
敗血症抗菌薬治療、全身管理

合併症を早期に発見し、適切に対応することが重要です。

リスク管理の重要性

コレラの治療における副作用やリスクを最小限に抑えるためには、以下のようなリスク管理が重要です。

  • 患者の全身状態の適切な評価
  • 治療方針の慎重な決定
  • 副作用やリスクの早期発見と対応
  • 感染管理の徹底

医療スタッフ間の連携と、患者・家族への十分な説明も欠かせません。

予防方法

コレラの予防には、安全な水の確保と衛生的な環境の維持が大切となります。

個人の衛生管理とワクチン接種も重要な予防策となります。

安全な水の確保

コレラ菌は、汚染された水を介して感染が拡大するため、安全な水の確保が予防の基本となります。

  • 飲料水の衛生管理(濾過、塩素消毒など)
  • 調理や手洗いに使用する水の衛生管理
水の用途衛生管理方法
飲料水濾過、塩素消毒
調理用水煮沸、濾過
手洗い用水石鹸の使用、流水での手洗い

衛生的な環境の維持

下水処理や廃棄物管理など、衛生的な環境の維持も重要です。

  • 下水処理システムの整備
  • 適切な廃棄物処理
  • トイレ設備の改善

特に、流行地域では、これらの環境整備が予防対策の中心となります。

個人の衛生管理

個人レベルでの衛生管理も欠かせません。

個人の衛生管理具体的な方法
手洗い石鹸の使用、流水での手洗い
食品選択十分に加熱された食品の選択
調理器具洗浄、熱湯消毒

ワクチン接種

コレラワクチンは、流行地域への渡航者や高リスク集団に推奨されています。

  • 経口コレラワクチン(OCV)
  • 2回接種(1週間から6週間の間隔)

ただし、ワクチンの効果は完全ではないため、他の予防策との組み合わせが重要です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

コレラの治療費は、重症度や合併症の有無、治療を受ける医療機関によって大きく異なります。

基本的な治療費は比較的安価ですが、重症例や合併症を伴う場合は、高額になることがあります。

また、流行地域では、公的な支援や国際的な援助が行われることもあります。

基本的な治療費

コレラの基本的な治療である輸液療法と抗菌薬治療は、比較的安価です。

治療法費用の目安
経口補水液数百円〜数千円
点滴輸液数千円〜数万円
抗菌薬数千円〜数万円

ただし、これらの費用は医療機関によって異なります。

重症例や合併症の治療費

重症例や合併症を伴う場合は、集中治療を要することがあり、治療費が高額になる可能性があります。

  • 集中治療室(ICU)での管理
  • 人工呼吸器管理
  • 透析療法

これらの治療は、数十万円から数百万円に及ぶこともあります。

公的支援と国際援助

流行地域では、公的な支援や国際的な援助が行われることがあります。

  • 政府による医療費の補助
  • 国際機関(WHO, UNICEF等)による支援
  • NGOによる医療活動

これらの支援により、患者の経済的負担が軽減される場合があります。

支援の種類内容
政府による補助医療費の一部または全額を補助
国際機関による支援医療物資の提供、医療スタッフの派遣
NGOによる医療活動無料または低価格での治療の提供

以上

References

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