乳房Paget病(Paget’s disease of the breast)とは、高齢の方に見られる乳頭や乳輪に発生する皮膚がんです。
初期段階では、乳頭や乳輪の皮膚に湿疹に似た変化が生じます。
病気が進行すると、乳頭の形が変わったり、分泌物が出たりするなどの症状が現れます。
乳房Paget病の主な症状
乳房Paget病では、乳頭や乳輪に発生する皮膚の変化から始まります。
乳頭・乳輪の皮膚変化
乳房Paget病の最もよく見られる徴候は、乳頭や乳輪の皮膚に現れる病変です。
初期段階では、湿疹や皮膚炎に似た軽微な症状として現れることが多く、患者さん自身が気づきにくいこともありますが、時間の経過とともに症状は進行し、より明確になっていきます。
初期症状 | 進行症状 |
軽度の発赤 | 顕著な発赤・腫脹 |
掻痒感 | 疼痛・灼熱感 |
乾燥・落屑 | びらん・潰瘍 |
乳頭の形態変化
疾患の進行に伴い乳頭内部の組織に癌細胞が浸潤することで、乳頭の形態に変化が生じます。
- 乳頭の肥大や腫大
- 乳頭の陥没や扁平化
- 乳頭の硬化や可動性の低下
分泌物の出現
乳房Paget病では、乳頭から異常な分泌物が認められることもあります。
分泌物の特徴 | 詳細 |
色調 | 黄色、緑色、血性 |
性状 | 粘稠、漿液性、膿性 |
量 | 少量から多量まで |
頻度 | 断続的または持続的 |
乳房全体の変化
乳房Paget病は乳頭や乳輪から始まりますが、症状が進むと乳房の形状や硬度に変化が生じたり、皮膚に陥凹や隆起が現れたり、乳房の一部に硬結を触知することがあります。
乳房全体の変化 | 説明 |
形態の変化 | 部分的な膨隆、陥凹など |
皮膚の変化 | 橙皮様変化、発赤 |
触診所見 | 硬結、全体的な硬度変化 |
50代の女性患者さんが「通常の皮膚保湿では改善しない湿疹様症状」として来院されたケースがありました。
診察をすると乳頭に限局した皮膚変化が認められ、生検の結果、乳房Paget病と診断されたことがあります。
一見軽微に見える症状でも、専門医による診断が必要です。
乳房Paget病の原因
乳房Paget病の原因は、遺伝要因、環境要因、免疫要因、年齢が挙げられます。
乳房Paget病の主な原因
乳房Paget病は、乳管(乳汁を運ぶ管)の中にある悪性の細胞が、表皮(皮膚の一番外側の層)に入り込むことです。
この過程でがん細胞が乳頭や乳輪の表面に広がっていき、特徴的な症状が起こります。
多くの場合、乳房の中に隠れるようにある乳がんが、乳頭の方向に進んでいくことで発症すると考えられています。
遺伝的要因の関与
遺伝子の影響も、乳房Paget病が発症する原因の一です。
BRCA1(ビーアールシーエーワン)やBRCA2(ビーアールシーエーツー)という遺伝子の変異(突然変化)があると、乳がん全般にかかりやすくなりますが、乳房Paget病でも同じような傾向が見られます。
遺伝子 | リスク上昇率 |
BRCA1 | 中程度 |
BRCA2 | 高度 |
環境要因と生活習慣の影響
長い間ホルモン補充療法(更年期症状をらやわげるために女性ホルモンを補う治療)を受けていたり、肥満だったり、たばこを吸っているとリスクが高いです。
また、出産経験や母乳で育てた経験があるかどうかも、発症のしやすさに影響を与える要素です。
免疫系の関与
通常、免疫系はがん細胞ができたり増えたりするのを抑える役割を果たしていますが、免疫系が正常に働かなくなると、がん細胞が増えるのを止められなくなります。
リスクが高くなる状態
- 免疫力が低下した状態
- 自分の体を攻撃してしまう病気(自己免疫疾患)にかかったことがある
- 長期間続く炎症性の病気がある
年齢の影響
乳房Paget病は、閉経(月経が完全に止まること)を過ぎた女性に多く見られる疾患です。
年齢が上がるにつれてリスクは高くなりますが、若い人でも発症します。
年齢層 | 発症リスク |
30-40代 | 低 |
50-60代 | 中 |
70代以上 | 高 |
診察(検査)と診断
乳房Paget病の診断は視診や触診といった基本的な診察から始まり、画像検査、組織を採取して顕微鏡で調べる病理検査を経て、最終的な確定診断に至ります。
視診と触診
乳房Paget病の診断は、患者さんの乳房を診察することから始まります。
視診のポイント | 触診のポイント |
乳頭・乳輪の色の変化 | しこりの有無 |
皮膚の異常(ただれ、傷) | 乳房の硬さの変化 |
乳頭の形の変化 | リンパ節の腫れ |
画像を使った検査
診察の次の段階では、マンモグラフィ(乳房専用のレントゲン撮影)、超音波検査、MRI(強い磁石を使って体内の様子を撮影する方法)を用い、乳房の内部の状態を調べます。
検査の種類 | 何がわかるか |
マンモグラフィ | 乳房の中の小さな石灰化や腫れ |
超音波検査 | 乳房の組織の性質や血液の流れ |
MRI | 乳房全体の構造と病変の範囲 |
病理検査
画像検査で異常が疑われる場合、確定診断のために組織を採取して顕微鏡で調べる病理検査が行われます。
乳房Paget病に特徴的な細胞(パジェット細胞)があるかどうかを確認することで、最終的な診断することが可能です。
- 針生検 局所麻酔をして細い針で組織を採取する方法
- 切除生検 小さな切り口を作って組織を採取する方法
- 免疫組織化学染色 特殊な染色方法でパジェット細胞を見分ける方法
他の病気との鑑別
乳房Paget病は、湿疹、乾癬(かんせん)、皮膚炎などの良性の皮膚の疾患と症状が似ているため、鑑別が必要です。
見分けが必要な病気 | 特徴 |
湿疹 | かゆみが強い、ステロイド軟膏で良くなる |
乾癬 | かさぶたのようなものができる、体の他の部分にも出る |
皮膚炎 | 原因となるものを避けると良くなる |
40代の患者さんが「長い間治らない乳頭の湿疹がある」と来院されたことがあります。
一見すると普通の湿疹のように見えましたが、ステロイド軟膏による治療で良くならず、マンモグラフィでも小さな石灰化が見つかったため、組織を採取して調べたところ、ぺジェット細胞が確認され乳房Paget病と診断されました。
乳房Paget病の治療法と処方薬、治療期間
乳房Paget病の治療は、手術による治療と、薬を使う治療を組み合わせて行います。
外科的治療
乳房Paget病の治療の基本は、手術で病変を取り除くことです。
乳房温存術か乳房切除術のどちらかを選びます。
乳房温存術は乳頭と乳輪を含む病気の部分を切り取り、健康な乳房の組織をできるだけ残す方法です。
乳房切除術は乳房全体を取り除く方法で、病気が広い範囲に広がっていたり再び出てくる危険性が高い場合に行われます。
手術方法 | どんな時に行うか | 特徴 |
乳房温存術 | 病気が小さい範囲の時 | 見た目が良い |
乳房切除術 | 病気が広い範囲の時 | 病気が再び出てくる危険性が低い |
放射線療法
乳房温存術をした後には、放射線を使う治療(放射線療法)も行います。
放射線療法は手術をして4~6週間経って始め、1日に1回、週に5回のペースで行います。
治療期間は約3~6週間です。
薬物療法
乳房Paget病の治療には、薬物療法もあります。
- ホルモン療法:女性ホルモン(エストロゲン)の受容体(受け取り口)がある場合
- 化学療法:病気が進んでいたり、再び出てくる危険性が高いときに使う
- 分子標的薬:HER2(がん細胞の増殖に関わるたんぱく質)が多い場合
薬物療法の治療は数か月から数年かかります。
経過観察と追加治療
最初の治療が終わった後も、定期的に病院に通い状態を確認することがとても大切です。
病院に通う頻度は治療が終わってから1~2年の間は3~6か月ごと、その後は6~12か月ごとになります。
乳房Paget病の治療における副作用やリスク
乳房Paget病の治療は、手術を中心に、放射線治療や抗がん剤治療を組み合わせることもあります。
手術による副作用とリスク
手術は乳房Paget病の主な治療方法ですが、いくつかの副作用やリスクがあります。
手術後の痛みや腫れはよく見られる副作用で、多くの場合時間とともに良くなります。
ただし、長く続く問題として、乳房の形が変わったり感覚が変化したりすることも。
副作用 | 頻度 |
手術後の痛み | よく起こる |
乳房の形の変化 | ときどき起こる |
感覚の変化 | ときどき起こる |
また、リンパ節を取り除く手術をした場合、腕が腫れたり痛んだりするリンパ浮腫(腕のむくみ)が起こるリスクがあります。
放射線治療の副作用
放射線治療はがんの再発リスクを減らすために行われ、以下のような副作用が報告されています。
- 皮膚が赤くなったり、乾燥したりする
- 疲れやすくなる
- 放射線を当てた部分の皮膚が長期的に変化する
副作用の多くは一時的なものですが、中には長く続くものもあります。
副作用 | 持続期間 |
皮膚が赤くなる | 短期間 |
疲れやすさ | しばらく続く |
皮膚の色が変わる | 長期間 |
抗がん剤治療に伴うリスク
抗がん剤治療はさまざまな全身症状を起こします。
よく見られる副作用は、吐き気、嘔吐、脱毛です。
また、血液を作る働きが弱くなることで感染しやすくなったり、手足がしびれることもあります。
副作用 | 症状 |
吐き気・嘔吐 | 中程度 |
髪の毛が抜ける | 軽度 |
血液を作る働きが弱くなる | 重度 |
ホルモン治療のリスク
ホルモンの影響を受けやすい乳房Paget病ではホルモン治療が選ぶことがあり、比較的副作用は少ないですが、いくつかのリスクがあります。
- ほてりや汗をかきやすくなるなど、更年期に似た症状
- 骨がもろくなる
- 血液が固まりやすくなる
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
手術費用
手術費用は、乳房温存術の場合約30万円から50万円で、乳房切除術では50万円から80万円ほどかかります。
手術の種類 | 概算費用 |
乳房温存術 | 30-50万円 |
乳房切除術 | 50-80万円 |
放射線療法の費用
放射線療法は外来で行われ、1回あたりの費用は1万円から1.5万円程度です。
標準的な治療では20-30回行われるため、総額で20万円から45万円ほどになります。
薬物療法の費用
薬物療法の費用は、使用する薬剤や治療期間によって大きく変動します。
- ホルモン療法:月額1-3万円程度
- 化学療法:1クール(3-4週間)あたり20-50万円
- 分子標的薬:月額30-100万円程度
追加的な費用
治療に伴う検査や画像診断の費用もあります。
MRIやCTスキャンなどの画像検査は、1回あたり2-5万円程度です。
また、乳房再建を選択する場合は、追加で100万円以上かかります。
検査の種類 | 概算費用 |
MRI | 2-3万円 |
CT | 1-2万円 |
以上
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