癜風(でんぷう)- 感染症

癜風(でんぷう )(tinea versicolor)とは、皮膚に常在する酵母の一種であるマラセチア菌によって引き起こされる感染症です。

癜風は全身の皮膚、特に胸や背中、上腕などに多く発生し、自覚症状がほとんどないため発見が遅れることがあります。

皮膚に現れる症状としては、境界明瞭な小さな斑点が特徴的で、色は白色、淡褐色、淡紅色などです。

癜風の感染力は弱く、他人にうつすことはほとんどありませんが、治療をせずに放置すると徐々に範囲がることがあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

癜風(でんぷう)の種類(病型)

癜風には、斑状小水疱型、斑状鱗屑型、小斑型の3つの主な病型があります。

斑状小水疱型

斑状小水疱型は、境界がはっきりとした淡褐色の斑紋が特徴的で、その上に細かい水疱が多数発生します。

特徴詳細
斑紋の色調淡褐色
斑紋の境界明瞭
水疱の発生多発

水疱は簡単に破れ、鱗屑を残すことがあります。

斑状鱗屑型

斑状鱗屑型も、斑状小水疱型と同じように境界明瞭な斑紋を呈しますが、水疱はあまり目立たず、細かい鱗屑が特徴です。

鱗屑は淡黄白色で、簡単に剥がれます。

特徴詳細
斑紋の境界明瞭
鱗屑の色調淡黄白色
鱗屑の剥がれやすさ容易

小斑型

小斑型は、他の2つの病型と比べて、斑紋のサイズが小さいです。

  • 直径2〜3mm程度の小斑点が多数発生
  • 斑点の色は淡褐色から淡紅色
  • 鱗屑は少ない

病型間の移行

これらの病型は、固定されたものではなく、移行することがあります。

斑状小水疱型から斑状鱗屑型への移行が最も多く見られますが、小斑型から他の病型への移行は比較的珍しいです。

癜風(でんぷう)の主な症状

癜風では、体幹や上肢、顔面などに境界のはっきりした色素脱失斑が現れます。

体幹や上肢に現れる色素脱失斑

癜風の最も典型的な症状は、体幹や上肢に現れる境界明瞭な色素脱失斑で、周りの健康な皮膚との色の差がはっきりしており、白色から薄い褐色を示すことが多いです。

色素脱失斑の形は、円形や楕円形であることが一般的ですが、時には不規則な形を示すこともあります。

部位特徴
体幹胸部、腹部、背部に好発
上肢肩、上腕、前腕に多い

顔面に出現する色素脱失斑

癜風の色素脱失斑は、顔面にも出現する場合があり、額、頬、鼻、あごなどに生じ、周囲との色の差が明らかです。

顔の色素脱失斑は、美容上の問題となることが多く、患者の生活の質を低下させる要因になることもあります。

色素脱失斑の自覚症状

癜風の色素脱失斑自体には、かゆみや痛みなどの自覚症状がないため、色素脱失斑が目立つ部位に現れないかぎり、患者さんが気づかないことも少なくありません。

  • 痒みを伴わない
  • 痛みを伴わない
  • 患者本人が気づかないことも多い
  • 拡大や新たな出現で不安を感じる

鑑別を要する他の疾患

癜風の色素脱失斑は、他の病気でも似たような症状を示す場合があるため、鑑別が必要です。

鑑別疾患特徴
尋常性白斑完全脱色素斑を呈する
炎症後色素脱失境界不明瞭で不整形
白皮症全身の広範な脱色素を呈する

癜風は、比較的よくみられる皮膚の病気ですが、症状がはっきりしない場合もあるため、皮膚科専門医の診察が欠かせません。

癜風(でんぷう)の原因・感染経路

癜風は、マラセチア菌が引き起こす皮膚感染症です。

癜風の原因となるマラセチア菌とは

マラセチア菌は、健康な人の皮膚にも常在しており、通常は問題を起こすことはありません。

しかし、皮脂の分泌が過剰になったり、皮膚の常在菌叢のバランスが崩れたりした場合、マラセチア菌が異常増殖し、癜風を引き起こす可能性があります。

マラセチア菌の増殖を促す要因

マラセチア菌の増殖を促進する主な要因

要因説明
高温多湿な環境汗をかきやすく、皮膚が湿った状態が続くと、菌の増殖に適した環境になります。
皮脂分泌の増加思春期やストレス、ホルモンバランスの変化などにより、皮脂分泌が増加すると、菌の栄養源となります。
免疫力の低下全身性の疾患や免疫抑制剤の使用などにより、皮膚の防御機能が低下すると、菌が増殖しやすくなります。

癜風の感染経路

癜風は、以下のような経路で感染が広がります。

  • 感染した人との直接的な皮膚接触
  • 感染した人が使用したタオルや衣類などを介した間接的な接触
  • 感染した人が使用した下着や寝具などを介した間接的な接触

ただし、癜風は人から人への感染力が弱く、感染者との接触があっても発症するとは限りません。

癜風の発症リスクを高める因子

因子説明
若年者思春期から20代にかけては、ホルモンの影響で皮脂分泌が旺盛になるため、発症リスクが高くなります。
肥満傾向皮膚の摩擦や汗をかきやすいことから、皮膚の状態が悪化しやすく、発症リスクが高まります。
糖尿病高血糖状態が続くと、皮膚の抵抗力が低下し、感染しやすくなります。

診察(検査)と診断

癜風を診察する際は、皮膚の状態を目で見る視診、特殊な紫外線を当てるWood灯検査、皮膚の一部を顕微鏡で調べるKOH法による直接鏡検が必要です。

視診による診察

視診では、特徴的な皮膚症状を確認します。 癜風の皮疹は、胸部、背部、上腕などに多く見られ、境界明瞭な淡褐色あるいは淡紅色の斑が特徴的です。

皮疹の色調特徴
淡褐色日光の当たる部位に多い
淡紅色日光の当たらない部位に多い

Wood灯検査

Wood灯は、特殊な紫外線を照射する検査器具です。 癜風の皮疹は、Wood灯照射下で黄金色の蛍光を発することがあり、診断の補助となります。

KOH法による直接鏡検

KOH法は、皮膚の角質を剥がし、カリウム水酸化物(KOH)で処理した後、顕微鏡で真菌の有無を確認する検査です。

癜風の場合、特徴的な菌糸と胞子の集団が観察されます。

KOH法の手順

  1. 皮疹部位の角質を軽く剥がす
  2. スライドガラスに剥がした角質を載せる
  3. 10~20%のKOH溶液を滴下する
  4. カバーガラスを被せ、10分程度放置する
  5. 顕微鏡で観察する

培養検査による確定診断

培養検査は、皮膚から採取した検体を特殊な培地で培養し、真菌の発育を確認する検査で、 マラセチア属の酵母が検出されれば、確定診断が可能です。

検査名目的
KOH法真菌の有無を確認する
培養検査真菌の種類を同定する

癜風(でんぷう)の治療法と処方薬

癜風の治療には抗真菌薬の使用が欠かせません。 さらに、再発を防ぐためには長期的な管理が必要です。

外用抗真菌薬

薬剤名特徴
イミダゾール系代表的な外用抗真菌薬。広範囲の真菌に効果あり
アリルアミン系イミダゾール系と同等の効果。刺激が少ない

内服薬を併用することにより治療効果がさらに高まることがあります。

内服抗真菌薬

よく使用される内服抗真菌薬

  • イトラコナゾール
  • フルコナゾール
  • テルビナフィン
薬剤名用法・用量
イトラコナゾール1日1回 100mg
フルコナゾール1週間に1回 150mg

内服薬の服用期間は通常1〜2週間ですが、症状に応じて調整されます。

外用薬と内服薬の組み合わせ

多くの場合、外用薬と内服薬を併用することで高い治療効果が得られ、組み合わせ療法は再発予防の観点からも有効です。

ただし、すべての患者さんに内服薬が処方されるわけではありません。 症状の重症度や範囲、既往歴などを考慮したうえで、医師が決定します。

治療に必要な期間と予後について

癜風は治療を受けることで、比較的早期に症状が改善し、再発のリスクも低い予後の良い疾患です。

癜風の治療期間

癜風の治療期間は、外用薬の抗真菌薬を使う場合、2〜4週間ほどで症状が良くなり、内服薬の場合は、1〜2週間ほどで効果が表れ始めます。

治療法治療期間
外用薬2〜4週間
内服薬4〜6週間

再発予防のための継続治療

癜風は再発しやすい疾患であるため、症状が改善した後も一定期間の継続治療が必要です。

  • – 外用薬の場合は、症状改善後も2〜4週間程度の継続使用が推奨。
  • – 内服薬の場合は、症状改善後も4〜6週間程度の継続使用が推奨。

継続治療を行うことで、再発のリスクを大幅に減らすことができます。

癜風の予後

治療を行えば、癜風の予後は良好で、大半のケースでは、症状は完全に消失し、日常生活に支障をきたすことはありません。

予後割合
良好90%以上
再発10%未満

癜風(でんぷう)の治療における副作用やリスク

癜風の治療には、いくつかの副作用やリスクが伴うことがあります。

抗真菌薬の副作用

癜風の治療に用いられる抗真菌薬には、いくつかの副作用が報告されています。

副作用症状
皮膚刺激発疹、かゆみ、赤み
消化器症状吐き気、下痢、腹痛

副作用は一般的に軽度であり、治療を続けるうちに自然に解消することが多いです。

薬剤耐性のリスク

抗真菌薬を長期間使用することで、薬剤耐性を持った真菌が出現する可能性があり、薬剤耐性が生じると、治療効果が低下し、症状が悪化するリスクが高くなります。

免疫力低下による合併症のリスク

癜風は、免疫力が低下している患者さんに発症しやすい傾向があります。

免疫力低下の原因詳細
ステロイド薬の長期使用免疫抑制作用により感染リスクが上昇
HIVなどの感染症免疫機能が低下し、日和見感染が増加

免疫力が低下している患者さんでは、癜風の治療中に他の感染症を併発するリスクが高くなります。

予防方法

癜風は、日常生活の中で予防できます。 皮膚の清潔を保ち、高温多湿な環境を避けることが予防の基本です。

皮膚の清潔を保つ

皮膚を清潔に保つことは、癜風の予防において欠かせません。 汗をかいたら、こまめに拭き取りましょう。

予防法
1毎日のシャワー
2汗を拭き取る

また、肌着は吸湿性の良い素材を選ぶと、汗がこもりにくくなり、 綿やリネンなどの天然素材が適しています。

高温多湿な環境を避ける

癜風の原因菌は、高温多湿な環境を好む傾向にあるので、蒸し暑い場所や、湿気の多い場所を避けることが予防につながります。

  • – サウナや温泉などの高温多湿な場所に長時間いない
  • – 濡れた衣服は速やかに着替える
  • – 湿気の多い部屋は除湿器を使う

日光浴も効果的

適度な日光浴は、癜風の予防に効果があります。 日光に含まれる紫外線には、殺菌作用があるためです。

注意点説明
時間日光に当たる時間は、1日15分程度が目安
紫外線対策日焼け止めを塗るなど、肌を守ることが大切

ただし、過度な日光浴は逆効果になるので注意が必要です。

免疫力を高める

癜風は、免疫力が低下すると発症しやすくなるので、日頃から免疫力を高めておくことが重要です。

免疫力アップ法
1バランスの取れた食事
2適度な運動
3十分な睡眠

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

健康保険適用の場合の自己負担額

健康保険が適用される場合、外来診療では1割から3割の自己負担となります。

健康保険の種類自己負担割合
国民健康保険3割
社会保険1割から3割

癜風の治療費の目安

癜風の治療費は、外用薬による治療では、1ヶ月あたり数千円から1万円程度の費用がかかり、内服薬を併用する場合は、さらに数千円から1万円程度の費用が上乗せされます。

先発医薬品と後発医薬品(ジェネリック医薬品)の選択

癜風の治療に用いられる医薬品には、先発医薬品と後発医薬品(ジェネリック医薬品)があり、ジェネリック医薬品は先発医薬品と同等の効果・安全性を持ちながら、価格が安いという特徴があります。

医師や薬剤師に相談し、ジェネリック医薬品を選択することで、治療費を抑えることが可能です。

以上

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