好酸球性食道炎(Eosinophilic esophagitis:EoE)とは、食道に好酸球(白血球の一種)が異常に蓄積することで炎症を起こす、慢性的なアレルギー性疾患です。
食道の内壁に影響を与え、食べ物を飲み込む際の困難さや胸焼け、胸部の痛み、食物が喉に詰まったような不快感などの症状が現れます。
アレルギー疾患や喘息の既往歴がある方に多く見られますが、なぜ発症するのか、詳しい原因はまだ完全には解明されていません。
好酸球性食道炎(EoE)の主な症状
好酸球性食道炎(EoE)では、嚥下困難(飲み込みにくさ)や胸焼けなどの食道に関連する症状が起こります。
EoEにおける年齢層別の特徴的な症状
好酸球性食道炎(EoE)の症状は、年齢や病気の進行度によって異なります。
成人の患者さんでは、食物が喉につかえる感覚(嚥下困難)が最も代表的な症状です。
一方、小児の患者さんでは、食べ物を拒否したり、成長が遅れたりするといった症状が主に観察されます。
年齢層 | 主な症状 | 潜在的な影響 |
成人 | 嚥下困難 | 食事の質の低下 |
小児 | 食事拒否、成長遅延 | 栄養不足のリスク |
食道関連の症状
食事中や食後に胸やけや胸の痛みが強く現れ、食事の時間が苦痛になります。
また、食べ物が食道に詰まる感覚(食物のつかえ感)も、EoEの特徴的な症状の一つです。
症状 | 特徴 | 患者さんへの影響 |
胸やけ・胸痛 | 食事中や食後に症状が悪化 | 食事時の不快感、食欲低下 |
食物のつかえ感 | 固形物摂取時に特に顕著 | 食事時間の延長、栄養摂取不足 |
全身への影響と症状
- 食欲不振
- 体重減少
- 疲労感
- 睡眠障害
好酸球性食道炎(EoE)の原因
好酸球性食道炎(EoE)は、食道に好酸球と呼ばれる白血球の一種が異常に増え、慢性的な炎症を起こす病気です。
この病気の詳しい原因はまだ完全には解明されていませんが、アレルギー反応や免疫系の異常によって起こると考えられています。
環境因子(EoE発症のトリガー)
EoEは、日常的に摂取する食物に含まれるアレルゲンが主要な引き金となることが多いです。
EoEの原因となりやすい食物アレルゲン
- 牛乳(乳タンパク質)
- 小麦(グルテン)
- 卵(オボアルブミンなど)
- 大豆(大豆タンパク)
- ナッツ類(木の実アレルゲン)
- 魚介類(パルブアルブミンなど)
また、環境中に存在する吸入アレルゲン(花粉や家塵ダニなど)も、EoEの発症や症状の悪化に関係していると考えられています。
免疫系の過剰反応
通常、好酸球は寄生虫感染などに対する生体防御機能を持っていますが、EoEでは何らかの理由により食道組織に過剰に蓄積してしまいます。
この過剰な好酸球の集積が食道粘膜の慢性的な炎症や組織の損傷を引き起こし、症状の発生につながっているとされます。
免疫細胞 | EoEにおける役割 | 影響 |
好酸球 | 過剰蓄積による炎症 | 組織損傷、線維化 |
T細胞(Th2) | サイトカイン産生 | 好酸球活性化、粘膜バリア機能低下 |
また、T細胞、特にTh2細胞が産生するサイトカイン(インターロイキン4、5、13など)が好酸球の活性化や遊走を促進させ、バリア機能の低下や粘液産生の異常を引き起こすことがあります。
外的刺激とEoEの関連性
食道裂孔ヘルニアや胃食道逆流症(GERD)などの併存疾患は、食道粘膜へのストレスを増大させ、EoEの発症リスクを高める可能性があります。
これまでにも、重度のGERDの治療後にEoEが顕在化したケースがありました。
外的刺激 | EoEへの影響 | 考えられるメカニズム |
機械的刺激 | 粘膜ストレス増大 | バリア機能の低下、炎症の惹起 |
化学的刺激(胃酸など) | 炎症反応の促進 | 粘膜障害、免疫細胞の活性化 |
診察(検査)と診断
好酸球性食道炎(EoE)の診断では、内視鏡検査、組織生検などを行い、食道組織中の好酸球浸潤を確認することで確定診断となります。
段階 | 内容 |
1 | 問診と症状評価 |
2 | 内視鏡検査と組織生検 |
3 | 病理学的検査(好酸球数の確認) |
4 | 他疾患の除外と鑑別診断 |
内視鏡検査
内視鏡検査では、食道粘膜の縦走溝や輪状溝、白斑など、EoEの特徴的な所見を確認していきます。
ただし、内視鏡所見だけでは確定診断には不十分であり、組織生検と併せた評価が必要です。
内視鏡所見 | 特徴 |
縦走溝 | 食道壁に縦方向の溝が見られる |
輪状溝 | 食道壁に輪状の溝が見られる |
白斑 | 食道粘膜に白色の斑点が見られる |
組織生検による確定診断
EoEの確定診断では、内視鏡を用いて食道の複数箇所から組織を採取し、病理学的検査を実施します。
診断基準では、高倍率視野で15個以上の好酸球浸潤が観察されることが条件となっています。
臨床診断と鑑別のポイント
EoEの臨床診断では、類似した症状を示す他の食道疾患との鑑別が欠かせません。特に、胃食道逆流症(GERD)との区別を慎重に行います。
EoEとGERDの鑑別ポイント
- EoEは食物アレルギーとの関連性が高い傾向がある
- GERDは制酸薬に反応するが、EoEは反応が乏しいことが多い
- EoEでは食道の上部から中部にかけて病変が見られる傾向がある
食道の機能評価
近年、EoEの診断技術は進歩しており、食道内圧測定や機能的内視鏡検査など、食道の機能評価も診断の一助となっています。
診断技術 | 特徴 |
食道内圧測定 | 食道の運動機能を評価する |
機能的内視鏡 | リアルタイムでの粘膜評価が可能 |
好酸球性食道炎(EoE)の治療法と処方薬、治療期間
好酸球性食道炎(EoE)の治療は、主に薬物療法と食事療法を組み合わせて行います。
症状の程度や患者さんの状態に応じて、3〜12ヶ月程度の期間をかけて進めていきます。
薬物療法の基本方針
EoEの薬物療法の中心となるのはプロトンポンプ阻害薬(PPI)と局所ステロイド薬で、炎症を抑制し、症状の緩和と食道組織の修復を促進する効果があります。
薬剤名 | 主な作用機序 | 期待される効果 |
プロトンポンプ阻害薬 | 胃酸分泌抑制 | 食道への酸による刺激軽減、炎症抑制 |
局所ステロイド薬 | 抗炎症作用 | 食道の炎症抑制、組織修復促進 |
治療の経過に伴い、薬剤の用量調整や他の薬剤との併用療法を検討していきます。
食事療法の重要性と実践方法
薬物療法と並行して、食事療法も行っていきます。
食事療法ではアレルギー反応を引き起こす可能性のある食品(アレルゲン)を特定し、除去することで症状の改善を図ります。
- 6種類の食品除去療法(6-food elimination diet):牛乳、小麦、卵、大豆、ナッツ類、魚介類を除去
- 経験的除去食療法:患者さんの症状や経験に基づいて特定の食品を除去
- アレルゲン特異的除去食療法:アレルギー検査結果に基づいて特定のアレルゲンを除去
治療期間
EoEの治療は、3〜12ヶ月程度継続します。治療開始後、定期的に内視鏡検査と生検を実施し、食道粘膜の状態や好酸球の浸潤程度を評価し効果を確かめます。
治療段階 | 評価項目 | 主な目標 |
初期(2〜4週間) | 自覚症状の変化 | 嚥下困難や胸やけなどの症状改善 |
中期(2〜3ヶ月) | 内視鏡所見の変化 | 食道粘膜の炎症や浮腫の軽減 |
長期(6〜12ヶ月) | 組織学的改善 | 好酸球浸潤の減少、粘膜構造の正常化 |
症状が改善し、内視鏡所見や生検結果が良好になった場合、徐々に薬剤の減量や食事制限の緩和を検討していきます。
ただし、EoEは再発の可能性が高い疾患であるため、長期的な経過観察と自己管理指導が重要となります。
好酸球性食道炎(EoE)の治療における副作用やリスク
好酸球性食道炎(EoE)の治療では、薬物療法に伴う全身性の影響や局所的な不快感、内視鏡的拡張術による合併症などの副作用・リスクがあります。
薬物療法の副作用
ステロイド薬を長期間使用すると、骨密度の低下や免疫機能の抑制などの全身性の影響が生じる恐れがあります。
また、局所的には口腔カンジダ症(口の中に発生するカビの一種による感染症)や喉の違和感といった症状が現れることがあります。
薬剤 | 主な副作用 |
ステロイド薬 | 骨密度低下、免疫抑制、口腔カンジダ症 |
酸抑制薬 | 腸内細菌叢の変化、骨折リスク増加、ビタミンB12吸収低下 |
内視鏡的拡張術のリスク
内視鏡的拡張術のリスクで最も問題となるものは、食道穿孔(食道に穴が開くこと)です。
また、術後の胸痛や出血、一時的な嚥下困難(飲み込みにくさ)なども起こることがあります。
合併症 | 頻度 | 重症度 | 対処法 |
食道穿孔 | 低い | 高い | 緊急手術が必要な場合あり |
術後胸痛 | 中程度 | 軽度〜中程度 | 鎮痛剤の投与、経過観察 |
一時的嚥下困難 | 比較的高い | 軽度 | 食事指導、経過観察 |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
好酸球性食道炎(EoE)慢性疾患であるため、長期的な管理が必要です。一時的な費用ではなく、継続的に治療費用がかかります。
症状や治療効果を調べるため、年に1〜2回の内視鏡検査を行うほか、合併症の予防や早期発見のための検査も必要になります。
診断にかかる費用
検査項目 | 概算費用 |
上部消化管内視鏡検査 | 15,000円〜30,000円 |
生検 | 5,000円〜10,000円 |
病理診断 | 10,000円〜20,000円 |
薬物療法の費用
- プロトンポンプ阻害薬月額4,000円〜8,000円
- 局所ステロイド薬月額6,000円〜12,000円
- 全身性ステロイド薬月額2,000円〜5,000円
食事療法にかかる費用
項目 | 概算費用 |
アレルギー検査 | 10,000円〜30,000円 |
栄養指導 | 5,000円〜10,000円/回 |
特殊食品 | 月額10,000円〜30,000円 |
以上
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