腸・腹膜疾患の一種である外ヘルニア(腹部のヘルニアの一種)とは、腹腔内の臓器や組織が、腹壁の脆弱な部分や隙間から体の外側に向かって飛び出してしまう状態のことを指します。
この症状は、日常生活での重い物の持ち上げや激しい運動、また加齢による筋力低下などが原因となって発症することが多く、特に中高年の方々に見られる疾患です。
外ヘルニアは、脱出した臓器が腹壁の外側から目視や触診で確認できることが特徴的で、腹部の膨らみや違和感、時には痛みを伴うこともあり、患者様の生活の質に大きな影響を及ぼす可能性があります。
外ヘルニア)の種類(病型)
外ヘルニアの病型は、発生部位と解剖学的特徴によって5つの主要なタイプに分類されます。
日本ヘルニア学会の統計によると、これらの病型の中で最も発生頻度が高いのは鼠径部ヘルニアで、全体の約65%を占めています。
鼠径部ヘルニア
鼠径部ヘルニアは、成人の外ヘルニアの中で圧倒的な頻度を誇る病型であり、その発生メカニズムと解剖学的特徴から内鼠径ヘルニアと外鼠径ヘルニアに大別されます。
内鼠径ヘルニアは深鼠径輪(腹腔内から鼠径管に至る入り口)から発生し、外鼠径ヘルニアは浅鼠径輪(鼠径管の出口)付近から発生するという特徴があります。
ヘルニアの種類 | 好発年齢 | 男女比 | 発生頻度 |
---|---|---|---|
内鼠径ヘルニア | 50歳以上 | 3:1 | 約40% |
外鼠径ヘルニア | 20-40歳 | 9:1 | 約60% |
大腿ヘルニア
大腿ヘルニアは、鼠径靭帯の下方に位置する大腿輪から腹腔内容物が脱出する病態です。
日本における発生頻度は全外ヘルニアの約5%と報告されており、特に高齢女性に多く見られます。
- 好発年齢:60歳以上
- 男女比:1:4(女性に多い)
- 年間発生率:人口10万人あたり約2-4例
臍ヘルニア
臍ヘルニアは、臍部の筋膜欠損を通じて腹腔内容物が脱出する病態で、成人の外ヘルニアの約7%を占めています。
臍ヘルニアの分類 | 欠損孔の大きさ | 発生頻度 |
---|---|---|
小型 | 2cm未満 | 約45% |
中型 | 2-4cm | 約35% |
大型 | 4cm以上 | 約20% |
腹壁瘢痕ヘルニア
腹壁瘢痕ヘルニアは、開腹手術後の瘢痕組織部分に発生する病態です。
手術創の大きさや位置によって様々な形態を示し、開腹手術後の約10-15%に発生すると報告されています。
- 発生時期:術後3か月〜数年
- 好発部位:正中切開創(約60%)
- 発生リスク:緊急手術後>待機手術後
閉鎖孔ヘルニア
閉鎖孔ヘルニアは、骨盤底の閉鎖孔を通過して発生する比較的稀な病型です。全外ヘルニアの約1%未満とされていますが、高齢やるい痩の女性では注意が必要です。
特徴 | 詳細データ |
---|---|
好発年齢 | 70歳以上 |
男女比 | 1:9 |
BMI | 18.5未満が多い |
外ヘルニアの各病型は、それぞれ特有の解剖学的特徴と発生頻度を持ち、年齢や性別によっても発生傾向が異なります。
外ヘルニアの主な症状
外ヘルニアは腹腔内の臓器が腹壁の脆弱部から飛び出す疾患で、その症状は発症部位や進行状態によって様々な特徴を示します。厚生労働省の統計によると、65歳以上の高齢者の約5%が何らかの外ヘルニアを経験しており、年齢や性別、生活環境による症状の個人差が顕著に表れることが臨床的に重要とされています。
外ヘルニアの一般的な症状
外ヘルニアの初期症状として最も特徴的なのは、腹部特定部位における膨隆(へいりゅう:腫れて盛り上がった状態)の出現です。この膨隆は体位変換や日内変動によって大きさが変化し、特に起立時や腹圧上昇時に顕著となります。臨床データによると、患者の約80%が立位での膨隆増大を経験し、横臥位では自然に還納(かんのう:元の位置に戻ること)する傾向がみられます。
症状の種類 | 発現頻度 | 特徴的な状況 |
---|---|---|
膨隆 | 95% | 立位・労作時に増大 |
疼痛 | 60% | 運動時に増強 |
違和感 | 85% | 継続的に自覚 |
圧迫感 | 70% | 活動時に増強 |
鼠径部ヘルニアと大腿ヘルニアの特徴的な症状
鼠径部および大腿部のヘルニアにおいては、足の付け根付近に特有の症状が出現します。
医学統計によると、男性患者の約75%が鼠径部の膨隆を主訴とし、そのうち約30%で陰嚢への進展がみられます。
一方、女性患者では大腿部の膨隆が主症状となり、下腹部の持続的な不快感を伴うケースが多くみられます。
性別 | 主な症状 | 発症率 |
---|---|---|
男性 | 鼠径部膨隆 | 75% |
女性 | 大腿部膨隆 | 65% |
共通 | 歩行時痛 | 55% |
臍ヘルニアの症状と特徴
臍ヘルニアでは、へそ周辺部の形状変化が顕著な症状として現れます。
臨床研究によると、成人の臍ヘルニア患者の90%以上が臍部の突出や変形を自覚し、約65%が腹圧上昇時の疼痛を経験しています。
特に肥満者や多産婦では症状が増強する傾向にあり、BMI30以上の患者では症状の重症度が1.5倍に上昇するというデータも報告されています。
- 臍部の形状異常(突出・陥没)
- 腹圧上昇時の疼痛増強
- 持続的な違和感
- 腹部膨満感の増強
腹壁瘢痕ヘルニアの症状
腹部手術後の瘢痕部位に発生する腹壁瘢痕ヘルニアは、手術創部の明確な膨隆を特徴とします。
医学文献によると、開腹手術後の患者の約10-15%に発症し、特に上腹部の正中切開後に頻発します。
腹筋運動時の疼痛は患者の約70%が経験し、日常生活動作の制限につながることが報告されています。
閉鎖孔ヘルニアの症状
閉鎖孔ヘルニアは75歳以上の高齢女性に多発し、特徴的なHowship-Romberg徴候(大腿内側の疼痛)を呈します。
臨床統計では、患者の約80%が女性で、そのうち85%が痩せ型の高齢者です。
歩行時や座位での症状増悪が特徴的で、坐骨神経痛様の放散痛を伴うことから、整形外科を初診することも少なくありません。
外ヘルニアの症状は、患者の生活の質に直接的な影響を与えるため、早期の医療機関受診が推奨されます。
外ヘルニアの原因
外ヘルニアの発生メカニズムには、解剖学的特徴と環境因子が密接に関連しています。
日本外科学会の統計によると、年間約15万件の外ヘルニア手術が実施され、その背景には加齢による組織変性、先天的要因、後天的要因など、複数の危険因子が存在することが明らかになっています。
鼠径部ヘルニアの発生要因
鼠径部ヘルニアは、解剖学的な脆弱部位である鼠径管(そけいかん:下腹部から陰嚢に至る管状の通路)を介して発生します。
医学統計によると、40歳以上の男性の約8%が罹患し、特に喫煙者では非喫煙者と比較して1.5倍の発症リスクを示します。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者における発症率は一般人口の2倍以上に達し、これは持続的な咳嗽による腹圧上昇が主たる要因とされています。
リスク要因 | 相対リスク | 特記事項 |
---|---|---|
喫煙 | 1.5倍 | 禁煙で低下 |
COPD | 2.0倍以上 | 咳嗽が主因 |
重労働 | 1.8倍 | 職業性要因 |
大腿ヘルニアの発生機序
大腿ヘルニアは、大腿輪(だいたいりん:骨盤と大腿部の境界にある間隙)を通じて発生し、女性の発症率は男性の3倍に達します。
特に出産歴のある女性では、妊娠・出産による骨盤底筋群への負荷が蓄積し、組織の脆弱化を招きます。
研究データでは、3回以上の経産婦における発症リスクは未産婦の2.5倍に上昇することが示されています。
性別・経産回数 | 発症リスク |
---|---|
未産婦 | 基準値1.0 |
経産婦(1-2回) | 1.8倍 |
経産婦(3回以上) | 2.5倍 |
臍ヘルニアの原因分析
臍ヘルニアの発生には、BMI30以上の重度肥満が顕著な影響を与え、発症リスクを通常の2.3倍まで上昇させます。
妊娠中の女性では、妊娠後期に約15%が臍部の突出を経験し、この数値は多胎妊娠では25%まで上昇します。
先天的要因として、臍輪部の筋膜欠損が約40%の症例で確認されています。
- 重度肥満(BMI30以上):発症リスク2.3倍上昇
- 妊娠関連:単胎15%、多胎25%の発症率
- 先天的筋膜欠損:40%の症例で確認
- 腹水貯留:発症リスク3倍上昇
腹壁瘢痕ヘルニアの発生原因
腹壁瘢痕ヘルニアは、開腹手術後の合併症として発生率が高く、特に緊急手術後では待機手術と比較して2倍の発症リスクを示します。
術後感染症の併発は発症リスクを4倍に増加させ、低アルブミン血症(血清アルブミン値3.5g/dL未満)の存在は、治癒遅延を通じて発症率を2.5倍に上昇させます。
閉鎖孔ヘルニアの発生要因
閉鎖孔ヘルニアは、80歳以上の女性に特に多く、BMI18.5未満の低体重者での発症が顕著です。
骨盤内脂肪組織の減少が主因となり、特にBMI16未満の症例では発症リスクが通常の5倍に達します。
多産婦では骨盤底の脆弱化も重要な要因となり、経産回数が増えるほどリスクは上昇することが明らかになっています。
外ヘルニアの発生要因は複雑に絡み合っており、個々の患者の背景因子を総合的に評価することが重要です。
診察(検査)と診断
外ヘルニアの診断プロセスにおいて、医師は視診・触診による詳細な身体診察と複数の画像検査を組み合わせて総合的な評価を実施します。
診断精度の向上には、超音波検査やCTなどの画像診断が欠かせず、これらの結果を統合的に分析することで、より正確な診断へと導きます。
身体診察の基本と手順
医師による診察は、立位と臥位の両姿勢で実施し、各体位での所見を丁寧に記録していきます。視診では腫脹の程度や左右差、皮膚の色調変化、表在血管の怒張などを細かく観察します。
触診時には、腫脹部位の硬さや弾性、圧痛の有無に加え、還納性(押し戻せるかどうか)を評価し、特に鼠径部ヘルニアでは、バルサルバ法(息んだ時の腹圧上昇)による腫脹の変化も重要な診断材料となります。
診察手技 | 観察項目 | 診断的意義 |
---|---|---|
視診 | 腫脹・左右差・皮膚変化 | 病変の局在と進行度 |
触診 | 還納性・圧痛・硬さ | 内容物の状態評価 |
バルサルバ法 | 腫脹の変化・疼痛 | ヘルニアの活動性 |
画像診断の種類と特徴
画像診断技術の進歩により、外ヘルニアの診断精度は飛躍的に向上しています。超音波検査では、リアルタイムでの観察が可能で、腹圧をかけた際のヘルニア内容の動きも確認できます。
CTでは、ヘルニア門の三次元的な位置関係や大きさ、内容物の詳細な評価が可能となり、特に閉鎖孔ヘルニアの診断において威力を発揮します。
画像検査 | 所要時間 | 被曝量 | 空間分解能 |
---|---|---|---|
超音波 | 15-20分 | なし | 0.5-1mm |
CT | 5-10分 | あり | 0.3-0.5mm |
MRI | 30-40分 | なし | 1-2mm |
病型別の診断ポイント
- 鼠径部ヘルニア:内鼠径輪と外鼠径輪の解剖学的位置関係を確認
- 大腿ヘルニア:鼠径靭帯下方の膨隆と還納性を評価
- 臍ヘルニア:臍輪の開大度と腹圧による変化を観察
- 腹壁瘢痕ヘルニア:手術痕周囲の筋膜欠損を評価
- 閉鎖孔ヘルニア:内転筋群の圧痛とCT所見を総合判断
鑑別診断の重要性
外ヘルニアの鑑別診断には、特に腹部腫瘤を形成する疾患との区別が求められます。
医師は患者さんの年齢や性別、既往歴などの背景因子も考慮しながら、総合的な判断を下していきます。
疾患名 | 特徴的所見 | 鑑別のポイント |
---|---|---|
軟部腫瘍 | 固定性腫瘤 | 還納性なし |
リンパ節炎 | 圧痛・発赤 | 多発性腫脹 |
脂肪腫 | 弾性軟 | 可動性あり |
診断確定までの流れ
診断の精度を高めるため、問診から始まり身体診察、画像検査へと段階的に進めていきます。
各段階で得られた情報を統合し、総合的な判断のもとで診断を確定させます。この過程では、患者さんの症状や身体所見の経時的変化も重要な判断材料となります。
外ヘルニアの正確な診断には、綿密な身体診察と画像検査の結果を総合的に判断することが必要です。
外ヘルニアの治療法と処方薬、治療期間
外ヘルニアに対する治療戦略は、手術による根治的治療を基本としており、患者さんの年齢や全身状態、ヘルニアの大きさなどを総合的に評価して方針を決定します。
手術方法には従来からの前方アプローチと、近年普及している腹腔鏡手術があり、それぞれの特性を考慮しながら選択します。
治療後の経過は個人差がありますが、多くの患者さんが予定通りの回復を遂げています。
手術療法の種類と特徴
外ヘルニアに対する根治手術には、従来の前方アプローチと腹腔鏡手術という2つの主要な方法があり、それぞれに独自の利点を持っています。
前方アプローチでは、3〜5センチメートルの皮膚切開を通じてヘルニア門に直接アプローチし、メッシュ(ポリプロピレン製の人工補強材)を用いて修復を行います。
腹腔鏡手術では、0.5〜1センチメートルの小さな穴を3か所程度作成し、特殊な手術器具を用いて腹腔内からヘルニアを修復します。
手術方法 | 手術創の大きさ | 手術時間 | 術後疼痛 |
---|---|---|---|
前方アプローチ | 3-5cm | 45-90分 | 中等度 |
腹腔鏡手術 | 0.5-1cm×3か所 | 60-120分 | 軽度 |
病型別の手術方法と特性
- 鼠径部ヘルニア:メッシュプラグ法やKugel法など、術式選択の幅が広い
- 大腿ヘルニア:McVay法やプラグ法が標準的で、再発率は5%未満
- 臍ヘルニア:2cm未満は直接縫合、それ以上はメッシュ使用が推奨
- 腹壁瘢痕ヘルニア:欠損部の大きさに応じてメッシュのサイズを決定
- 閉鎖孔ヘルニア:腹腔鏡下修復で95%以上の成功率を達成
術後管理と回復期間
手術直後から始まる術後管理は、創部の状態観察と疼痛コントロールを中心に進めていきます。
腹腔鏡手術では術後6時間程度で歩行を開始し、翌日から食事を再開します。前方アプローチでも術後24時間以内に歩行を開始します。
入院期間は手術方法によって異なり、腹腔鏡手術では2〜4日、前方アプローチでは3〜5日が一般的です。
回復指標 | 前方アプローチ | 腹腔鏡手術 | 備考 |
---|---|---|---|
歩行開始 | 術後12-24時間 | 術後6-12時間 | 個人差あり |
食事開始 | 術後24時間 | 術後12時間 | 段階的に開始 |
入浴可能 | 術後4-7日 | 術後3-5日 | 創部の状態による |
術後の経過観察とフォローアップ
術後の経過観察は、手術部位の治癒状態と再発の有無を確認する重要な機会となります。
初回の外来受診は術後7〜10日目に行い、その後1か月、3か月、6か月、1年と定期的に診察を実施します。
メッシュを使用した症例では、感染や違和感の有無についても慎重に確認します。
観察時期 | 確認項目 | 観察のポイント |
---|---|---|
術後7-10日 | 創部治癒 | 感染兆候の有無 |
1か月 | 日常生活 | 違和感の程度 |
6か月-1年 | 再発確認 | ヘルニアの有無 |
治療後の生活指導
手術後の良好な経過を維持するため、以下の生活指導を実施します。
- 腹圧上昇を伴う動作は術後3週間は控える
- 軽作業は術後2週間から徐々に開始
- 重量物(10kg以上)の挙上は1か月以降に制限解除
- 定期的な経過観察は必ず受診する
外ヘルニアの治療成績は手術手技の向上により著しく改善し、再発率は5%未満となっています。
外ヘルニアの治療における副作用やリスク
外ヘルニアの手術治療では、一般的な手術合併症に加え、使用する手術材料や術式特有のリスクが存在します。
手術部位感染症(SSI)や術後出血などの短期的な合併症から、慢性疼痛症候群のような長期的な問題まで、様々な副作用について理解を深めることが治療において重要な要素となります。
手術に伴う一般的なリスク
手術部位感染症は、全症例の2〜3%で発生し、38度以上の発熱や創部の発赤、腫脹などの症状を伴います。
特に糖尿病患者や喫煙者では感染リスクが1.5〜2倍に上昇するため、周術期の血糖コントロールや禁煙指導が欠かせません。
術後出血は1,000例中5〜8例程度の頻度で発生し、血腫(術後出血が溜まった状態)形成や再手術の原因となります。
合併症 | 発生頻度 | リスク因子 | 対処法 |
---|---|---|---|
創部感染 | 2-3% | 糖尿病・喫煙 | 抗生剤投与 |
術後出血 | 0.5-0.8% | 抗凝固薬服用 | 圧迫・再手術 |
血腫形成 | 1-2% | 高血圧 | 経過観察・穿刺 |
メッシュ関連の合併症
メッシュ(人工補強材)使用に関連する合併症は、短期的なものから長期的なものまで様々な形で現れます。
メッシュ感染は0.1〜1%と比較的稀ですが、一旦発生すると難治性となり、メッシュ除去が必要となる場合もあります。
慢性疼痛は5〜10%の患者さんに発生し、特に若年者や女性で発生率が高くなる傾向にあります。
合併症タイプ | 発生時期 | 発生率 | 特徴的な症状 |
---|---|---|---|
急性感染 | 術後2週以内 | 0.5% | 発熱・発赤 |
慢性感染 | 3ヶ月以降 | 0.3% | 瘻孔形成 |
慢性疼痛 | 6ヶ月以降 | 5-10% | 運動時痛 |
病型別の特徴的なリスク
鼠径部ヘルニアでは、精管や腸骨鼠径神経の損傷が0.5%未満の頻度で発生し、男性の場合は不妊や射精障害の原因となります。
大腿ヘルニアでは大腿動静脈の損傷リスクがあり、出血性ショックを引き起こす危険性があります。
閉鎖孔ヘルニアでは、閉鎖神経損傷による大腿部内側の疼痛や知覚異常が問題となります。
病型 | 特異的合併症 | 発生率 | 後遺症 |
---|---|---|---|
鼠径部 | 精管損傷 | 0.3% | 不妊リスク |
大腿 | 血管損傷 | 0.1% | 出血性ショック |
閉鎖孔 | 神経損傷 | 0.8% | 慢性疼痛 |
長期的な合併症
術後3ヶ月以上持続する慢性疼痛症候群は、患者のQOL(生活の質)に大きな影響を与えます。
6ヶ月の時点で10%、1年後でも5%の患者さんが何らかの痛みを訴えており、特に若年層での発生率が高くなっています。
これらの患者さんの15〜20%は日常生活に支障をきたすレベルの症状を呈します。
高リスク患者への対応
75歳以上の高齢者や、複数の基礎疾患を持つ患者さんでは、周術期の合併症発生率が1.5〜2倍に上昇します。
循環器系合併症(不整脈、心不全)や呼吸器系合併症(無気肺、肺炎)の発生率は、一般の患者さんと比較して有意に高く、術後せん妄の発生率は高齢者で15〜20%に達します。
外ヘルニアの手術治療は、全体として安全性の高い手術ですが、個々の患者さんの状態に応じたリスク評価と対策が必要となります。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
外ヘルニアの治療費は、選択する手術方法(前方アプローチまたは腹腔鏡手術)と入院期間によって大きく変動します。
手術費用には、手術室使用料、麻酔管理料、手術材料費(メッシュなど)が含まれ、入院費用は病室のグレードと滞在日数で決定されます。
処方薬の薬価
周術期に使用する薬剤には、術後感染予防のための抗生物質と疼痛管理のための鎮痛剤が中心となり、使用期間や種類によって費用が異なります。
第一世代セフェム系抗生物質は1日あたり450〜600円、第二世代では600〜800円の薬価となっています。
非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)は1日200〜500円程度です。
薬剤分類 | 1日薬価 | 使用期間 |
---|---|---|
第一世代抗生剤 | 450-600円 | 3-5日 |
第二世代抗生剤 | 600-800円 | 3-5日 |
鎮痛剤 | 200-500円 | 5-7日 |
1週間の治療費
手術を含む入院期間中の基本的な費用構成は以下の通りです。
- 入院基本料(一般病棟):5,000〜8,000円/日
- 食事療養費(標準食):460円/食×3食
- 処方薬(抗生剤・鎮痛剤):1,000〜2,000円/日
- 術後検査料(血液・画像):15,000〜25,000円/週
1か月の治療費
保険診療における一般的な総額は、術式や入院期間によって異なりますが、3割負担の場合、以下のような費用配分となります。
手術料には執刀医や助手の技術料、手術室使用料、麻酔料が含まれ、15〜25万円が標準的な金額です。
入院費用は平均7〜10日の入院で8〜12万円、処方薬と検査料を合わせて1〜2万円程度となります。
費用区分 | 金額(3割負担) | 備考 |
---|---|---|
手術関連費用 | 15-25万円 | 術式により変動 |
入院費用 | 8-12万円 | 病室により変動 |
薬剤・検査費 | 1-2万円 | 使用量により変動 |
外ヘルニアの標準的な治療では、手術方法や入院期間に応じて総額30〜40万円程度の医療費が発生します。
以上
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