群発頭痛(cluster headache)とは、激烈な頭痛が周期的に襲ってくる神経系の疾患です。
この疾患では、頭痛が特定の期間に集中して発生し、痛みは眼窩(がんか:目の周囲の骨で囲まれた部分)や側頭部に限局し、激痛を起こします。
発作は数週間から数ヶ月続く「群発期」と呼ばれる時期に集中して生じ、その後しばらくの間症状が消失する「寛解期」が訪れます。
群発頭痛の主な症状
群発頭痛の症状は、片側の激しい頭痛と自律神経症状を伴う発作的な痛みです。
痛みの特徴と部位
群発頭痛の痛みは片側の目の周囲や側頭部に集中して現れ、多くの方が「目の奥を鋭い刃物でえぐられるような」感覚と表現し、強さは一般的な頭痛とは比較にならないほど強烈です。
痛みの特徴 | 説明 |
強度 | 非常に激しい |
部位 | 片側(主に目の周囲や側頭部) |
性質 | 鋭い、刺すような |
発作の持続時間と頻度
群発頭痛の発作は15分から180分持続し、この間痛みの強さはほぼ一定で、徐々に和らぐことはありません。
発作は1日に1回から8回程度発生することが多く、夜間や早朝に起こりやすいです。
自律神経症状
群発頭痛では、頭痛に加えて自律神経症状が伴い、症状は頭痛と同じ側に現れ、患者さんの外見にも変化をもたらします。
自律神経症状
- 流涙(涙が自然に出る)
- 鼻づまりや鼻水
- 結膜充血(白目が赤くなる)
- まぶたの腫れ
- 額や顔面の発汗
症状は痛みとほぼ同時に始まり、頭痛の持続時間中続きます。
自律神経症状 | 発現部位 | 患者への影響 |
流涙 | 目 | 視界の妨げ、不快感 |
鼻づまり・鼻水 | 鼻 | 呼吸困難、不快感 |
結膜充血 | 目 | 見た目の変化、眼の違和感 |
まぶたの腫れ | 目 | 視界の妨げ、見た目の変化 |
発汗 | 額・顔面 | 不快感、衛生面の懸念 |
その他の随伴症状
主要な症状に加え、群発頭痛の発作時には他の随伴症状も現れることがあります。
同側の瞳孔が縮小したり、まぶたが下がったりする症状(ホルネル症候群)が見られ、また、痛みのあまりの強さに耐えきれず、落ち着きがなくなり、歩き回ったり体を揺すったりする行動が見られます。
吐き気を伴うこともありますが、片頭痛ほど頻繁ではありません。
発作パターンの特徴
群発頭痛の名前の由来となっている特徴的な発作パターンがあります。
発作は数週間から数ヶ月間続く「群発期」に集中して起こり、ほぼ毎日のように発作が繰り返されることが特徴です。
群発期が終わると、数ヶ月から数年間にわたって発作が全く起こらない「寛解期」が訪れます。
時期 | 特徴 | 影響 |
群発期 | 発作が頻繁に起こる | 日常生活の大幅な制限、仕事や社会生活への支障 |
寛解期 | 発作が全く起こらない | 比較的平穏な日々、長期的な計画が立てやすい |
群発頭痛の原因
群発頭痛の原因は、視床下部の機能異常と三叉神経血管系の過敏化が複雑に絡み起きます。
視床下部の関与
群発頭痛の発症メカニズムに関係している脳の部位は、視床下部(脳の深部にある部位で、体内時計や自律神経系の調節を行う)です。
視床下部は体内時計の中枢で、群発頭痛の周期性や発作の時間帯に関連していると推測されています。
視床下部の機能 | 群発頭痛との関連 |
体内時計の調整 | 発作の周期性 |
自律神経の制御 | 随伴症状の出現 |
三叉神経血管系の過敏化
群発頭痛における激しい痛みの発生には、三叉神経血管系(顔面や頭部の感覚を司る神経系)の過敏化が関わっています。
三叉神経は、顔面や頭部の感覚を担う重要な神経であり、三叉神経の血管周囲に分布する神経終末が過敏になることが、群発頭痛特有の激烈な痛みの原因です。
過敏化のプロセスには、様々な神経伝達物質やペプチド(タンパク質の一種)が関与していることが明らかになってきました。
特に、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)という物質が群発頭痛の発症に重要な役割を果たしていると考えられており、この物質を標的とした新しい治療法の開発が進められています。
遺伝的要因の影響
群発頭痛の発症には、遺伝的な要因も少なからず関与しています。
家族歴のある患者さんでは、群発頭痛を発症するリスクが高くなる傾向が見られ、遺伝的背景の可能性を示唆しています。
ただし、現時点では特定の遺伝子が群発頭痛の直接的な原因であるとは断定されていません。
環境要因とトリガー
群発頭痛の発作を誘発する環境要因やトリガー(引き金)は、季節の変わり目や日照時間の変化などです。
また、アルコールの摂取や急激な気圧の変化、強い香りなどが発作のきっかけとなることも報告されています。
環境要因 | 影響の可能性 |
季節の変化 | 発症リスクの上昇 |
アルコール摂取 | 発作の誘発 |
気圧の変動 | 痛みの増強 |
神経伝達物質の不均衡
セロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質のバランスが崩れることで、脳内にある痛みの制御システムに異常が生じる可能性が指摘されています。
神経伝達物質は痛みの知覚や情動反応に関わっており、その不均衡が群発頭痛特有の激しい痛みや随伴症状(眼の充血や鼻づまりなど)を起こると考えられています。
診察(検査)と診断
群発頭痛の診断は、問診と神経系の機能を確認する神経学的診察を基本として行われ、MRIやCTなどの画像検査を組み合わせることで、他の頭痛の病気と鑑別しながら最終的な診断に至ります。
問診の重要性
群発頭痛の診断において、患者さんからお話を伺う問診は最も大切な部分です。
患者さんから症状の説明を聞き取り、頭痛の性質や一緒に起こる症状、発作がどのようなパターンで起こるかを把握します。
痛みの強さ、どのくらい続くか、どのくらいの頻度で起こるか、どの部分が痛むか、目が充血したり鼻水が出たりするような自律神経の症状が一緒に起こるかなどが、診断する上で欠かせない情報です。
問診のポイント | 確認内容 | 診断における意義 |
痛みの特徴 | 強さ、部位、性質 | 群発頭痛特有の激しい痛みを特定 |
発作の特徴 | 持続時間、頻度 | 他の頭痛との区別に重要 |
随伴症状 | 流涙、鼻づまりなど | 群発頭痛に特徴的な自律神経症状を確認 |
発作パターン | 群発性、寛解期の有無 | 群発頭痛の典型的な経過を把握 |
神経学的診察
問診の後は、体の動きや感覚を確認する神経学的診察を行います。
この診察では脳や神経の働きを確認し、群発頭痛以外の神経の病気の可能性がないかを調べることが目的です。
群発頭痛の場合、発作が起きている時には痛みと同じ側の目の瞳が小さくなったり、まぶたが下がったりする症状(ホルネル症候群)が見られることがあります。
また、頭の中の圧力が高くなっている兆候や、体の特定の部分だけに現れる神経の症状がないかを調べ、他の原因で起こる二次性の頭痛の可能性を除外します。
画像検査
MRIやCTなどの画像検査は、他の病気の可能性を除外するために行われます。
検査により、脳腫瘍や血管の形が異常に発達している血管奇形などの、脳の中に目に見える異常がないかを確認します。
また、まれに下垂体(脳の下部にあるホルモンを分泌する器官)に腫瘍ができると、群発頭痛によく似た症状を起こすことがあるため、下垂体がある場所を調べることが重要です。
画像検査 | 目的 | 患者さんへの負担 |
MRI | 脳の組織を詳しく観察 | 騒音が大きい、閉所恐怖症の方は苦手 |
CT | 頭の中の急な変化を素早く確認 | 放射線被ばくがある |
その他の補助的検査
状況に応じて、追加の検査が行われることもあります。
- 血液検査:体の中の炎症や、ホルモンの働きを調べる
- 脳波検査:脳の電気的な活動を記録し、てんかんなどの可能性を除外
- 眼科的検査:目の神経(視神経)や網膜の状態を調べる
検査は群発頭痛そのものを診断するためというより、他の病気の可能性を除外したり、別の病気が一緒に起きていないかを確認するために必要です。
国際頭痛分類に基づく診断
群発頭痛の最終的な診断は、国際頭痛分類第3版(ICHD-3)という、世界共通の診断基準に基づいて行われます。
基準は、発作の回数、どのくらい続くか、痛みの特徴、一緒に起こる症状が決められています。
ICHD-3診断基準の主な項目 | 内容 | 診断における意義 |
発作回数 | 5回以上 | 一過性の頭痛との区別 |
痛みの強さ | 重度 | 群発頭痛特有の激しい痛みを確認 |
発作持続時間 | 15-180分 | 他の頭痛疾患との区別に重要 |
随伴症状 | 1つ以上の自律神経症状 | 群発頭痛に特徴的な症状を確認 |
特に、片頭痛や三叉神経痛(さんさしんけいつう:顔の神経に起こる激しい痛み)などの他の頭痛の病気と鑑別することが重要です。
また、他の病気が原因で起こる二次性の群発頭痛によく似た頭痛の可能性も考えます。
群発頭痛の治療法と処方薬、治療期間
群発頭痛の治療法は、急性期治療と予防的治療に大別され、処方薬や酸素吸入などを組み合わせながら行われます。
急性期治療の方法
群発頭痛の急性期治療では、発作時の激しい痛みを速やかに緩和することが最優先の目標です。
最も効果的とされる方法の一つが高流量酸素吸入療法です。
酸素吸入は、専用のマスクを使用して100%酸素を15リットル/分の高流量で15〜20分間吸入することで即効性のある効果が現れ、副作用も比較的少ないことから安全性の高い治療法として評価されています。
薬物療法は、トリプタン製剤(セロトニン受容体作動薬)の皮下注射や点鼻薬が広く用いられており、発作発現後できるだけ早期に投与することが重要です。
急性期治療法 | 特徴 |
酸素吸入 | 副作用が少なく即効性がある |
トリプタン | 選択的に血管を収縮させ痛みを抑える |
予防的治療の重要性
群発頭痛の治療において、予防的治療は患者さんの生活の質を大きく左右します。
予防的治療の目的は、発作の頻度や強度を軽減し、日常生活への影響を最小限に抑えることです。
群発期の開始時もしくは開始直後から開始し、群発期が終了するまで継続します。
予防薬として使用されるは、カルシウムチャネルブロッカーの一種であるベラパミルです。
予防薬 | 作用機序 |
ベラパミル | 血管平滑筋の収縮を抑制 |
リチウム | 神経伝達物質のバランスを調整 |
ステロイド薬の短期使用
群発頭痛の治療初期段階では、ステロイド薬の短期使用が有効なケースがあり、激しい発作が連続する場合に考慮されます。
プレドニゾロンなどの経口ステロイド薬を高用量から開始し、徐々に減量していく方法が採られ、副作用のリスクを最小限に抑えつつ効果を最大化することが目標です。
ステロイド薬は急速に効果を発揮し、群発期の早期終了や発作頻度の減少させます。
ただし、長期使用による副作用のリスクを考慮し、2〜3週間程度の短期間で使用します。
- 開始用量例60mg/日
- 3〜4日ごとに10mgずつ減量
- 総投与期間は2〜3週間程度
非薬物療法の活用
群発頭痛の治療においては、薬物療法だけでなく非薬物療法も積極的に活用されています。
神経刺激療法の一つである迷走神経刺激療法は、難治性群発頭痛患者さんに対して有用です。
また、後頭神経ブロックも、一部の患者さんに効果があることがわかっており、頭皮後部の神経に局所麻酔薬を注射することで痛みの軽減を図ります。
治療期間
群発頭痛の治療は、群発期が終了するまで、もしくは発作が完全に消失するまで継続し、数週間から数か月です。
群発頭痛の治療における副作用やリスク
群発頭痛の治療に使われる薬や治療法には、それぞれ特有の副作用やリスクがあります。
急性期治療の副作用とリスク
群発頭痛の発作時の治療ではトリプタンや酸素吸入方法が用いられ、それぞれに副作用があります。
トリプタンは血管を縮める作用があるため、心臓や脳の血管に問題がある患者さんでは使用が制限されます。
また、頻繁に使用すると、かえって頭痛が増えてしまう「薬物乱用頭痛」を起こすことがあるので注意が必要です。
酸素吸入は比較的安全な治療法ですが、長時間にわたって使用すると、肺の働きに影響を与えます。
治療法 | 副作用・リスク | 注意が必要な患者さん |
トリプタン | 血管の収縮、薬物乱用頭痛 | 心臓病や脳卒中の既往がある方 |
酸素吸入 | 長期使用での肺機能への影響 | 肺疾患がある方、喫煙者 |
予防療法の副作用とリスク
群発頭痛の予防のために、カルシウムチャネルブロッカーや抗てんかん薬などが使用され、長期間飲み続ける必要があるため、副作用に注意して管理することが重要です。
カルシウムチャネルブロッカーの副作用には、血圧が下がりすぎてしまうことや、手足のむくみがあります。
抗てんかん薬では、めまいや眠気、体重が増えてしまうなどの副作用が報告されています。
薬剤 | 副作用 | 注意点 |
カルシウムチャネルブロッカー | 低血圧、むくみ | 定期的な血圧測定、体重管理 |
抗てんかん薬 | めまい、眠気、体重増加 | 自動車の運転に注意、食事管理 |
ステロイド薬の使用に関するリスク
群発頭痛の治療では短い期間ステロイド薬を使うと効果的ですが、ステロイド薬の使用は慎重に行います。
主な副作用
- 血糖値が上がる
- 胃や腸に負担がかかる
- 骨がもろくなるリスクが高まる
- 体の抵抗力が下がり、感染症にかかりやすくなる
長期間使用することは避け、必要最小限の期間と量で使用することが大切です。
神経ブロック療法のリスク
群発頭痛の治療には時に神経ブロックという方法が用いられ、痛みを伝える神経に局所麻酔薬を注射して痛みを遮断できるものの、リスクがあります。
- 注射した部分に感染が起こる可能性
- 神経を傷つけてしまう可能性
- 注射した部分に血の塊ができてしまう可能性
- 一時的に顔の筋肉が動かなくなる可能性
新しい治療法のリスク
群発頭痛の治療には、迷走神経を刺激する方法や、視床下部に電極を入れて刺激する方法もありますが、比較的新しい治療法のため、長期的な安全性や効果に関する情報がまだ十分ではありません。
迷走神経を刺激する方法では、皮膚がピリピリしたり、一時的に頭痛が悪くなることがあります。
脳に電極を入れる方法は手術を伴うため、感染や出血、機械の故障などのリスクに注意が必要です。
新しい治療法 | リスク | 効果 |
首の神経刺激 | 皮膚刺激、頭痛の一時的悪化 | 薬を使わずに発作を抑える |
脳深部刺激 | 感染、出血、機器不具合 | 難治性の群発頭痛に効果 |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
外来診療にかかる費用
群発頭痛の外来診療では、薬物療法と酸素吸入療法が行われます。
薬物療法の中心となるトリプタン製剤の費用は、1回の処方で3,000円から5,000円です。
酸素吸入療法に使用する酸素ボンベのレンタル料は、月額5,000円から10,000円ほどかかります。
治療法 | 概算費用 |
トリプタン製剤 | 3,000円~5,000円/回 |
酸素ボンベレンタル | 5,000円~10,000円/月 |
入院治療にかかる費用
重症例や薬物療法の調整が必要な患者さんは、入院治療を受けることがあります。
入院期間は1週間から2週間程度で、1日あたりの入院費用は15,000円から20,000円です。
入院費に加えて薬剤費や処置費が発生するため、1回の入院で10万円から30万円程度の費用がかかります。
予防的治療にかかる費用
群発頭痛の予防的治療には、ベラパミルやリチウムなどの薬剤が使用されます。
薬剤費は月額5,000円から10,000円程度で、長期的な服用が必要になることが多いです。
- ベラパミル 月額約3,000円
- リチウム 月額約5,000円
- プレドニゾロン(短期使用) 月額約2,000円
非薬物療法にかかる費用
一部の患者さんには、神経ブロック療法や神経刺激療法などの非薬物療法が行われます。
神経ブロック療法は1回あたり5,000円から10,000円で、必要に応じて複数回実施されます。
より高度な治療である神経刺激療法は、機器の植込みなどを含めると100万円以上です。
非薬物療法 | 概算費用 |
神経ブロック療法 | 5,000円~10,000円/回 |
神経刺激療法 | 100万円以上 |
以上
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