ウイルス性髄膜炎(viral meningitis)とは、脳や脊髄を取り巻く保護膜である髄膜に炎症が生じる疾患のことです。
エンテロウイルス(腸管ウイルス)やヘルペスウイルス、ムンプスウイルス(おたふくかぜの原因ウイルス)などの感染が原因となります。
ウイルスは、くしゃみや咳による飛沫感染、あるいは汚染された物を介した接触感染により体内に侵入します。
細菌性髄膜炎と比べると症状は比較的軽く、多くの患者さんは治療と休養により自然回復へと向かいます。
ウイルス性髄膜炎の主な症状
ウイルス性髄膜炎の症状は、発熱、激しい頭痛、首の硬直、さらに光に対する過敏反応や嘔吐を伴うことがあります。
ウイルス性髄膜炎で見られる代表的な症状
ウイルス性髄膜炎では脳や脊髄を覆う髄膜に炎症が生じることで、特徴的な症状、急激な高熱、これまでに経験したことがないほどの激しい頭痛、首の動きが硬くなる状態が起こります。
症状は、髄膜の炎症が神経系全体に影響を及ぼすことによって生じます。
発熱と頭痛の特徴的な様相
ウイルス性髄膜炎による発熱は、急激に体温が上昇し、38℃を超える高熱です。
頭痛については、患者さんの多くが「今まで経験したことのないような強烈な痛み」と表現するほど激しく、長時間にわたって持続します。
症状 | 特徴的な様相 |
発熱 | 急激な体温上昇、38℃以上の高熱 |
頭痛 | 極めて激しく持続する痛み |
首の硬直
首の硬直は、ウイルス性髄膜炎を特徴づける重要な症状の一つです。
患者さんが首を前に曲げようとすると、強い痛みや抵抗感を感じ、スムーズに動かすことが困難になります。
その他の症状
ウイルス性髄膜炎では主要な症状に加えて、以下のような随伴症状が現れます。
- 光に対する過敏反応
- 吐き気や嘔吐
- 食欲が低下する
- 倦怠感
- 筋肉や関節の痛み
症状は、体内でのウイルス感染に対する生体反応や、髄膜の炎症が脳や神経系全体に及ぼす影響が原因です。
随伴症状 | 症状が生じる仕組み |
光過敏 | 視神経系への炎症の波及 |
嘔吐 | 脳圧上昇や自律神経系の乱れ |
筋肉痛 | ウイルス感染に対する全身性の炎症反応 |
ウイルス性髄膜炎の原因
ウイルス性髄膜炎は、様々なウイルスが脳や脊髄を覆う髄膜に感染することで生じます。
主要な原因ウイルス
ウイルス性髄膜炎を起こすウイルスは多岐にわたり、その中でもエンテロウイルスは最も一般的な原因です。
エンテロウイルスは夏季から秋季にかけて多く見られ、小児から若年成人に頻発します。
また、ヘルペスウイルス科に属するウイルスも原因で、単純ヘルペスウイルスやサイトメガロウイルスなどが代表的な例です。
ウイルスは初めて感染したときだけでなく、体内に潜伏していたウイルスが再活性化することでも髄膜炎を起こします。
ウイルス群 | 代表的なウイルス | 特徴 |
エンテロウイルス | コクサッキーウイルス、エコーウイルス | 夏から秋に多い、小児に好発 |
ヘルペスウイルス | 単純ヘルペスウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス | 潜伏感染後の再活性化あり |
感染経路と発症メカニズム
ウイルス性髄膜炎の感染経路は、呼吸器や消化器からの飛沫感染や接触感染です。
ウイルスは血液脳関門(脳を守る特殊な構造)を通過し、髄膜に到達して炎症反応を起こします。
この過程で免疫系が活性化され、血管の透過性が高まることで、髄液中に白血球が遊走し、髄膜に浮腫が生じます。
季節性と年齢による傾向
ウイルス性髄膜炎の発症には季節や年齢が関係していて、エンテロウイルスによる髄膜炎は、夏から秋にかけて症例が増加します。
一方、ムンプスウイルス(おたふくかぜの原因ウイルス)による髄膜炎は、冬から春にかけて多く観察されます。
ウイルス性髄膜炎が多く見られるのは、乳幼児や学童期の子供、若年成人です。
年齢層 | 原因ウイルス | 発症の特徴 |
乳幼児 | エンテロウイルス、ヘルペスウイルス | 免疫系が発達途中のため感染しやすい |
学童期 | エンテロウイルス、ムンプスウイルス | 集団生活による感染機会の増加 |
成人 | エンテロウイルス、ヘルペスウイルス、HIV | ストレスや生活習慣による免疫低下が関与 |
免疫状態と発症リスク
免疫状態は、ウイルス性髄膜炎の発症リスクに影響を与える重要な要素です。
免疫機能が低下しているとウイルス感染に対する抵抗力が弱くなるため、髄膜炎を発症する可能性が高くなります。
注意が必要なのは、HIV感染者や臓器移植後に免疫抑制剤を服用している方、がん治療のために化学療法を受けている患者さんです。
また、慢性疾患を抱えている方や栄養状態が良くない方、日常的に強いストレスがある方も免疫機能に影響が出やすく、ウイルス性髄膜炎の発症リスクが上昇します。
免疫低下をもたらす要因
- HIV感染による免疫システムの機能不全
- 臓器移植後の免疫抑制剤使用による意図的な免疫抑制
- がん治療における化学療法の副作用
- 糖尿病などの慢性疾患による免疫機能の低下
- 不適切な食事や睡眠不足による栄養不良
- 長期的な精神的
- 身体的ストレス
診察(検査)と診断
ウイルス性髄膜炎の診断は、患者さんの症状や病歴の聞き取りから始まり、身体診察、髄液検査、画像診断を経て、原因ウイルスの特定による確定診断へと至ります。
初期の臨床評価
ウイルス性髄膜炎の診断では、高熱や激しい頭痛、首の硬直といった特徴的な症状がいつ頃からどのように現れたかの経過を確認します。
また、患者さんの年齢や過去の病歴、最近の感染症の有無なども、診断を進める上で重要な情報です。
神経学的診察
神経学的診察では、髄膜刺激徴候と呼ばれる症状の有無を確認します。
代表的な検査
検査名 | 方法 |
ケルニッヒ徴候 | 仰向けの状態で膝を曲げ、股関節を90度に曲げる |
ブルジンスキー徴候 | 仰向けの状態で首を前に倒す |
髄液検査
髄液検査は、ウイルス性髄膜炎の診断において最も重要な検査です。
腰の部分から細い針を刺して髄液を採取し、性質や成分を調べます。
ウイルス性髄膜炎の典型的な髄液所見
- 髄液圧がやや高い
- 髄液の見た目は透明
- 単核球という種類の細胞が増加
- タンパク質の量がわずかに上昇
- ブドウ糖の濃度は正常範囲内
画像検査
頭部CT検査やMRI検査は、髄膜炎の合併症や他の疾患との鑑別に役立ちます。
ただし、ウイルス性髄膜炎では多くの場合、特別な異常所見は認められません。
検査 | 目的 |
頭部CT | 脳の圧力上昇や浮腫の確認 |
頭部MRI | 脳の組織をより詳細に観察 |
確定診断
ウイルス性髄膜炎の確定診断には、原因となるウイルスの特定が必要です。
髄液中のウイルスDNAを検出するためにPCR法が用いられ、また、血液中のウイルスに対する特異的な抗体を調べることも、診断の補助となります。
ウイルス性髄膜炎の治療法と処方薬、治療期間
ウイルス性髄膜炎の治療は、対症療法と抗ウイルス薬の投与を中心です。
対症療法
対症療法は患者さんの苦痛を和らげ、体調の回復を促進することが目的です。
対症療法は十分な休養、こまめな水分補給、解熱鎮痛剤の投与などが含まれます。
対症療法の内容 | 目的 | 方法 |
十分な休養 | 体力回復の促進 | 静かな環境での安静、適度な睡眠 |
水分補給 | 脱水予防と改善 | 経口摂取、必要時は点滴 |
解熱鎮痛剤 | 発熱と頭痛の軽減 | アセトアミノフェンなどの投与 |
抗ウイルス薬の使用
抗ウイルス薬の投与は、ウイルス性髄膜炎の治療において中心的な役割を果たしますが、全てのウイルスに抗ウイルス薬があるわけではありません。
ステロイド薬の役割
ステロイド薬は一部の症例では、炎症を抑制し症状を緩和する効果が期待できるため、患者さんの苦痛を軽減するのに役立ちます。
ただし、ステロイド薬には免疫抑制作用があるためウイルスの増殖を促進してしまう可能性もあり、使用には十分な注意が必要です。
薬剤 | 使用目的 | 注意点 | 薬剤名 |
抗ウイルス薬 | ウイルスの増殖抑制 | ウイルスの種類に応じた選択 | アシクロビル、ガンシクロビル |
ステロイド薬 | 炎症抑制、症状緩和 | 慎重な使用判断が必要 | プレドニゾロン、デキサメタゾン |
治療期間と経過観察
ウイルス性髄膜炎の治療期間は、1週間から数週間です。
軽症例では外来での治療も可能ですが、重症例や合併症のリスクが高いと判断されると、入院治療が必要になります。
治療中は定期的に神経学的診察や血液検査を行い、必要に応じて髄液検査も実施しながら、病状の経過を観察していきます。
治療期間中の観察項目
- 体温の変化(発熱の推移)
- 頭痛の強さと頻度
- 意識レベルの変化
- 首の硬さ(髄膜刺激症状)の有無
- 血液検査値(炎症マーカーなど)の推移
- 髄液検査結果の改善状況
ウイルス性髄膜炎の治療における副作用やリスク
ウイルス性髄膜炎の治療は症状を和らげる対症療法が中心で、使用する薬剤や医療処置に伴い、様々な副作用やリスクが生じる可能性があります。
解熱鎮痛薬の副作用
解熱鎮痛薬は、発熱や頭痛などの不快な症状を緩和するために使用され、副作用があります。
薬剤名 | 副作用 |
アセトアミノフェン | 肝臓機能の低下 |
イブプロフェン | 胃腸の不調、腎臓機能の低下 |
抗ウイルス薬使用に伴うリスク
重症化した症例では抗ウイルス薬を使用することがありますが、効果が期待できる一方で、副作用にも十分な注意が必要です。
抗ウイルス薬による副作用
- 腎臓の機能が低下
- 肝臓の機能が悪化
- 血液成分の異常
- 皮膚症状
ステロイド薬の副作用
炎症を抑える目的でステロイド薬を使用する場合がありますが、短期間の使用でも副作用が生じます。
副作用 | 説明 |
血糖値の上昇 | 一時的に糖尿病のような状態になる |
消化性潰瘍 | 胃や十二指腸の内側に傷ができる |
骨粗鬆症 | 長期使用により骨がもろくなり、骨折のリスクが高まる |
腰椎穿刺に伴う合併症
ウイルス性髄膜炎の診断や治療過程で腰椎穿刺を行うことがあり、一定のリスクが伴います。
主な合併症
- 髄液が減少することによる激しい頭痛
- 穿刺部位からの細菌感染
- 穿刺部位周辺での出血
- 神経が損傷を受ける
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
入院費用の内訳
1日あたりの入院基本料は約1万円から1万5000円で、これに加えて、管理料や処置料が加算されます。
検査・処置にかかる費用
ウイルス性髄膜炎の診断と経過観察には、いろいろな検査が必要です。
髄液検査は約5,000円から8,000円、MRI検査は約20,000円から30,000円程度で、血液検査や脳波検査なども含めると、検査費用の合計は5万円から10万円になります。
検査項目 | 概算費用 |
髄液検査 | 5,000円~8,000円 |
MRI検査 | 20,000円~30,000円 |
投薬費用
治療に使用される薬剤の費用は抗ウイルス薬の種類や使用量により、一般的な抗ウイルス薬の場合、1日あたり3,000円から5,000円です。
以上
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