腸結核 – 消化器の疾患

腸結核(Intestinal tuberculosis)とは、結核菌が腸管に侵入し炎症を起こす感染症です。

主に肺結核患者の喀痰を誤嚥することで発症しますが、血流を介して腸管に到達する場合もあります。

腸結核は消化管のあらゆる部位に発生するものの、特に回盲部(小腸と大腸の接合部)に好発する傾向です。

腹痛、下痢、発熱、体重減少などが主な症状で、進行すると腸閉塞や腸穿孔(腸に穴が開く状態)などにつながる恐れがあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

腸結核の主な症状

腸結核では、腹部不快感や下痢、体重減少などの症状が起こります。

腸結核の一般的な症状

腹部の不快感や痛みは持続的または断続的に現れ、食事の前後で悪化します。

また、下痢や便秘といった排便習慣の変化も頻繁に見られます。

腸結核の一般的な症状特徴
腹痛持続的または断続的
下痢水様性または血便を伴う
便秘腸管の狭窄による
発熱微熱から高熱まで様々

全身症状と消化器外症状

腸結核では、局所的な症状だけでなく、体重減少や倦怠感、食欲不振などの全身症状がみられる場合もあります。

慢性的な炎症や栄養吸収障害によって起こるもので、3ヶ月で10キロ以上体重が減少するようなケースもあります。

腸閉塞症状

腸結核が進行すると、腸管の狭窄や閉塞を引き起こす可能性があります。

腸閉塞は緊急性の高い状態であり、速やかな医療介入が必要です。

腸閉塞の主な症状

症状重症度
腹部膨満感軽度〜中等度
嘔吐中等度〜重度
激しい腹痛重度
排便・排ガスの停止重度

その他の症状

  • 腹部腫瘤(おなかにしこりができる)
  • リンパ節腫大
  • 肛門周囲の瘻孔形成
  • 腹水貯留(おなかに水がたまる)

症状の進行

腸結核の初期段階では軽微な症状しか現れないこともありますが、病状の進行に伴い、症状が顕著になっていきます。

また、合併症の発生により、新たな症状が加わることもあります。

段階主な症状
初期軽度の腹部不快感、微熱
中期持続的な腹痛、下痢、体重減少
後期腸閉塞症状、全身衰弱
合併症腹膜炎、瘻孔形成

腸結核の症状は個人差が大きく、全ての患者さんが同じ経過をたどるわけではありません。

持続する消化器症状や原因不明の体重減少がある場合は、専門医の診察を受けることが大切です。

腸結核の原因

腸結核の原因は、結核菌(マイコバクテリウム・ツベルクローシス)が腸管に侵入し、感染を引き起こすことです。

結核菌の感染経路

結核菌は、主に3つの経路を通じて腸管に到達します。

第一に、活動性肺結核患者が咳やくしゃみの際に放出する、結核菌を含んだ飛沫を他者が吸入することで感染します。

肺に定着した結核菌は咳とともに痰として排出されますが、この痰を無意識に嚥下することで菌が消化管へと到達します。

第二の経路として、結核菌に汚染された食品や水の摂取が挙げられます。

特に衛生環境が整っていない地域では、この経路による感染リスクが高くなります。

第三に、血行性経路を介して結核菌が腸管に到達することがあります。これは全身性の結核感染の一症状として発現します。

リスク因子

リスク因子影響
免疫機能低下結核菌に対する抵抗力が著しく低下
栄養不良免疫システムの機能が全般的に低下
HIV感染免疫系が根本的に損なわれる
糖尿病免疫機能の低下と血糖コントロールの悪化

このようなリスクがある方は、結核菌に対する身体の防御機能が脆弱化するため、腸結核の発症リスクが上昇します。

地域差と社会経済的要因

腸結核の発生率は、地域によって顕著な差異が認められます。

発展途上国や衛生状態が劣悪な地域では、腸結核の発生率が極めて高い傾向にあります。

一方、先進国では腸結核の発生率は比較的低水準に抑えられていますが、近年のグローバル化に伴い、輸入感染症としての重要性が増しています。

結核の流行地域への渡航を予定している場合は、現地の水や食品の安全性に注意が必要です。

診察(検査)と診断

腸結核の診察では、血液検査、内視鏡検査、画像検査などを実施し、病変部の組織を採取して結核菌を検出することで診断します。

血液検査・画像診断

血液検査では、体内の炎症の程度や栄養状態を評価します。

検査項目主な評価内容
CRP炎症の程度
赤沈炎症の程度
血算貧血の有無
アルブミン栄養状態

画像診断では、腹部X線検査、腹部CT検査、腹部超音波検査などを実施します。

特に腹部CT検査は、病変の範囲や程度を把握するために有用な検査です。

内視鏡検査と生検

大腸内視鏡検査では、病変を直接観察し、同時に組織を採取する生検が可能です。

典型的な内視鏡所見

  • 輪状潰瘍
  • 縦走潰瘍
  • 偽ポリポーシス
  • 粘膜の浮腫や発赤

生検で得られた組織は、病理学的検査と培養検査に提出します。

病理学的検査では、結核に特徴的な乾酪性肉芽腫(チーズのような壊死を伴う炎症性の組織変化)の有無、培養検査では結核菌が育つかどうかを確認します。

また、PCR法による結核菌DNAの検出も、迅速な診断に役立つことがあります。

鑑別診断の重要性

腸結核はその症状が他の消化器疾患と酷似していることから、しばしば困難を極めます。

特にクローン病との鑑別が難しく、複数の専門医による検討会を行う場合もあります。

鑑別すべき疾患主な特徴
クローン病非乾酪性肉芽腫、縦走潰瘍
腸管ベーチェット病深掘れ潰瘍、口腔内アフタ
感染性腸炎急性発症、病原体の検出
腸管癌腫瘤形成、狭窄

腸結核の治療法と処方薬、治療期間

腸結核の治療は、抗結核薬の組み合わせによる多剤併用療法が主体であり、通常6か月から9か月の治療期間が必要です。

抗結核薬による多剤併用療法

腸結核では、抗結核薬による多剤併用療法が標準的な治療法となっています。

複数の抗結核薬を組み合わる理由は、結核菌は非常に強固な細胞壁を持つため、単一の薬剤では十分な効果が得られないことがあるからです。

一般的に使用される抗結核薬

薬剤名主な作用
イソニアジド結核菌の細胞壁合成阻害
リファンピシンRNA合成阻害
エタンブトール細胞壁合成阻害
ピラジナミド細胞内pH低下による殺菌作用

治療期間と経過観察

腸結核の治療期間は、結核菌を完全に排除し、再発のリスクを最小限に抑えるために通常6か月から9か月程度必要です。

治療の初期2か月間は、4剤併用療法(イソニアジド、リファンピシン、エタンブトール、ピラジナミド)を行い、その後の4か月から7か月間は、2剤併用療法(イソニアジド、リファンピシン)を継続します。

治療効果の判定と再発予防

治療効果の判定は、臨床症状の改善や画像検査による病変の消失、細菌学的検査の陰性化などを総合的に評価して行います。

また、腸結核の場合、腹部症状の改善や体重の回復なども重要な指標です。

腸結核の治療における副作用やリスク

腸結核の治療には、抗結核薬の長期服用に伴う副作用や合併症のリスクがあります。

抗結核薬による副作用

副作用症状
肝機能障害倦怠感、黄疸
視神経障害視力低下、色覚異常
末梢神経障害手足のしびれ、痛み
消化器症状吐き気、腹痛

薬剤耐性菌の出現リスク

抗結核薬を正しく使用しなかったり、勝手に中断したりすると、薬剤耐性菌(薬が効きにくい菌)の出現につながります。

薬剤耐性菌の出現は治療をより困難にし、長期化させる要因となるため、医師の指示通りに服薬を継続することが大切です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

腸結核の治療費は、症状の重症度や治療期間によって変動します。保険適用により自己負担は軽減されますが、長期間の通院や入院が必要な際には治療費が高額になります。

治療費の概要

腸結核の治療費は、主に薬物療法、検査、入院費用などがかかります。

標準的な治療期間は6ヶ月から9ヶ月程度ですが、状態によってはさらに長期化する場合もあります。

薬物療法にかかる費用の目安

抗結核薬による標準的な治療では、イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトールの4剤を使用します。

薬剤費用は、1ヶ月あたり約8,000円から15,000円程度が目安です。

薬剤名1ヶ月あたりの概算費用
イソニアジド2,000円〜3,000円
リファンピシン3,000円〜5,000円
ピラジナミド2,000円〜4,000円
エタンブトール1,000円〜3,000円

検査費用の目安

  • 胸部X線検査(約4,000円)
  • 喀痰検査(約6,000円)
  • 血液検査(約8,000円〜12,000円)
  • 大腸内視鏡検査(約25,000円〜35,000円)
  • CT検査(約25,000円〜35,000円)

入院費用の目安

腸結核の治療は通常外来で行いますが、症状が重い場合や合併症がある場合は入院が必要です。

入院費用は病院や病室のタイプによって異なりますが、一般的な3割負担の場合、1日あたり6,000円から12,000円程度の自己負担が発生します。

入院タイプ1日あたりの自己負担額(3割負担の場合)
一般病棟6,000円〜9,000円
個室9,000円〜18,000円

以上

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