薬剤性パーキンソニズム – 脳・神経疾患

薬剤性パーキンソニズム(drug-induced parkinsonism)とは、様々な医薬品の副作用として生じる神経系の運動障害で、パーキンソン病に似た症状を起こす状態です。

統合失調症やうつ病の治療に使用する向精神薬、胃腸の運動を改善する消化器系の薬剤、めまいの治療薬など、日常的に処方される医薬品によって生じ、高齢者や女性において発症リスクが高まります。

手のふるえや体の動きの鈍さ、筋肉のこわばり、姿勢の変化といった症状が、薬剤の使用開始から数週間から数か月の間に徐々に現れ、早期に気づくことが大切です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

薬剤性パーキンソニズムの主な症状

薬剤性パーキンソニズムの症状は、手足の震え、筋肉のこわばり、動作の緩慢化、姿勢の変化など、パーキンソン病に類似した運動機能の障害として現れます。

初期からみられる特徴的な症状

手のふるえや筋肉のこわばりといった初期症状は、多くの場合両側に見られます。

振戦(震え)は手指において安静時に目立ちやすく、物を持ち上げる際や精密な作業を行う時により顕著になることから、書字やお箸の使用などの基本的な動作に影響を及ぼすことが多いです。

症状の特徴詳細
両側性の出現左右対称に症状が出現することが多く、片側性の症状から始まるパーキンソン病とは異なる特徴がある
発症の時期原因となる薬剤の使用開始から数週間から数か月以内に症状が出現する

運動機能の変化と姿勢への影響

歩行時には、小刻みな歩行や突進歩行が見られ、腕の振りが少なくなることで独特な歩き方となります。

姿勢の変化は前傾姿勢が特徴的で、体幹が前かがみになり、肘や膝が軽度屈曲位となることで、全体的な身体バランスに影響を与えます。

運動症状表現形態
歩行障害小刻み歩行、すり足歩行、方向転換時のふらつきなど
姿勢異常前傾姿勢、体幹の硬直化、バランスの不安定性など

その他の随伴症状

以下の症状も薬剤性パーキンソニズムでよく見られます。

  • 表情が乏しくなる仮面様顔貌
  • 発語が不明瞭になる構音障害
  • 唾液の分泌過多による流涎
  • 手指の細かい動作の困難さ
  • 起き上がりや寝返りなどの動作の鈍化

筋強剛と呼ばれる筋肉のこわばりは、上肢や下肢の関節を他動的に動かした際に、歯車を回すような独特の抵抗感として認められます。

動作緩慢は、動作を開始する際の遅れ(無動)と、動作の実行速度が遅くなる(運動緩慢)ことから構成されます。

微細な手の動き(手指の巧緩運動)の障害は、ボタンかけや財布からの小銭の取り出しなど、繊細な動作を必要とする場面で顕著です。

声量の低下や話し方の単調化といった発声・発語の変化は、コミュニケーションに影響を与えます。

薬剤性パーキンソニズムの原因

薬剤性パーキンソニズムは、特定の医薬品の使用によって起こる神経伝達物質ドーパミンの機能低下や阻害が主な原因です。

医薬品による発症の仕組み

神経伝達物質ドーパミンは、脳内で運動機能の制御に重要な役割を担っており、ドーパミンの働きが薬剤によって阻害されることで、パーキンソン病に似た症状が起きます。

医薬品の中でも、向精神薬や消化器系の薬剤が原因となるケースが多いです。

薬剤がドーパミン受容体をブロックすることで、基底核と呼ばれる脳の深部にある神経核の機能が低下します。

原因となる主な薬剤

薬剤分類使用目的
定型抗精神病薬統合失調症や幻覚・妄想の治療
非定型抗精神病薬気分障害や不安障害の治療
消化器系薬剤胃腸の運動改善や制吐
抗てんかん薬てんかん発作の予防と制御

薬剤は、それぞれの本来の治療目的のために処方されますが、同時にドーパミン受容体に作用することで、意図せずパーキンソニズムを起こす可能性があるのです。

定型抗精神病薬は、投与量が増えるほどドーパミン受容体の遮断作用が強くなり、薬剤性パーキンソニズムの発症リスクが高まります。

発症リスクを左右する要因

高齢者や女性は薬剤性パーキンソニズムの発症リスクが高く、加齢に伴う代謝機能の低下や、性ホルモンの違いが関係していると考えられています。

遺伝的な要因も発症リスクに影響を与え、特定の遺伝子多型を持つ患者さんでは、より少ない投与量でも発症する傾向があります。

リスク要因影響を与えるメカニズム
加齢薬物代謝機能の低下と血液脳関門の透過性変化
性別女性ホルモンとドーパミン系の相互作用
遺伝的背景特定の遺伝子多型による薬剤感受性の違い
併用薬剤複数の薬剤による相乗効果

薬剤性パーキンソニズムの原因となる要素

  • 薬剤の投与量と血中濃度の関係
  • 患者の年齢や性別による感受性の違い
  • 併用薬剤との相互作用
  • 基礎疾患の有無と重症度
  • 代謝機能の個人差

診察(検査)と診断

薬剤性パーキンソニズムの診断では、問診と神経学的診察を基本として、服薬歴の確認や各種検査データの分析を組み合わせながら、判断を進めていきます。

問診による情報収集

問診では、症状の発現時期と服薬開始時期との関連性について、系列を追って確認することが大切です。

患者さんから、症状が現れるまでの経過、服用している全ての薬剤の種類と使用期間、症状の左右差の有無などについて、聞き取ります。

問診での確認項目内容
服薬情報使用中の全薬剤、服用開始時期、用量変更歴
症状の経過初発症状、進行の速さ、日内変動の有無

神経学的診察の実際

神経学的診察では、運動機能を中心とした複数の検査を実施し、症状の種類や程度を評価します。

歩行観察で患者さんに一定の距離を歩いてもらい、歩幅や歩行速度、上肢の振りなどを観察することで、パーキンソニズムの特徴的な所見を調べることが重要です。

筋強剛の評価においては、上肢や下肢の関節を他動的に動かしながら、筋肉の抵抗感や歯車現象の有無を確認していきます。

神経学的検査項目評価のポイント
振戦検査安静時や姿勢時の震えの有無、左右差
筋トーヌス検査筋肉の硬さ、抵抗感の性質
姿勢反射検査バランス機能、突進現象の有無

画像検査による鑑別

画像検査を組み合わせることで、他の神経疾患との鑑別を行っていきます。

  • MRI検査による脳の構造的変化の確認
  • SPECT検査によるドーパミン系神経伝達の評価
  • DATスキャンによる線条体でのドーパミン取り込みの測定
  • CT検査による脳萎縮や血管性変化の確認
  • PET検査による脳の代謝活性の評価

脳血流SPECTやDATスキャンなどの画像検査では、パーキンソン病との鑑別に有用です。

頭部MRI検査では、脳の器質的疾患の除外と同時に、特徴的な画像所見の有無を確認します。

血液検査

血液検査では、肝機能や腎機能、甲状腺機能などの基本的な項目に加え、ビタミンB12や銅などの微量元素も確認することで、二次性パーキンソニズムの原因となる代謝性疾患の有無を調べます。

薬物血中濃度の測定は、向精神薬などの薬剤使用において、過剰投与の有無を判断する際の参考になります。

薬剤性パーキンソニズムの治療法と処方薬、治療期間

薬剤性パーキンソニズムの治療では、原因となった薬剤の段階的な減量や中止を基本とし、必要に応じて抗パーキンソン病薬を併用します。

基本的な治療アプローチ

原因となっている薬剤を突然中止することは避け、慎重な減量スケジュールを組み立てながら治療を進めることが重要です。

中止や減量が困難な状況では、代替薬への切り替えも考慮に入れて、定型抗精神病薬から非定型抗精神病薬への変更なども検討します。

治療薬の選択と投与方法

薬剤分類主な作用機序と特徴
抗コリン薬アセチルコリンの作用を抑制し、ドーパミンとのバランスを改善
ドパミン作動薬不足したドーパミンを補充し、神経伝達を正常化
アマンタジンドーパミンの放出促進と再取り込み阻害により神経伝達を改善
L-ドーパ製剤脳内でドーパミンに変換され、神経伝達物質を補充

抗パーキンソン病薬の投与に際しては、次のような点に留意しながら治療を進めていきます。

  • 低用量から開始し、効果を見ながら徐々に増量
  • 薬剤の組み合わせによる相乗効果の活用
  • 患者の年齢や腎機能に応じた投与量の調整
  • 定期的な効果判定による投与量の微調整
  • 長期的な服薬継続による治療効果の維持

治療期間と経過管理

薬剤性パーキンソニズムの治療期間は、約3か月から半年です。

治療段階期間の目安と留意点
初期治療期2〜4週間、原因薬剤の漸減開始
主治療期2〜3か月、代替療法の導入と調整
維持期1〜2か月、症状安定化の確認
終了判定期2〜4週間、治療効果の最終評価

薬物治療の開始から3か月程度で多くの患者さんに改善が見られますが、中には6か月以上の治療期間を必要とするケースもあります。

治療効果は原因となった薬剤の投与期間や量に比例する傾向があり、長期間服用していた場合には、それだけ回復までの時間を要します。

治療開始から1か月程度で症状の改善が認められない時には、治療方針の見直しを行い、薬剤の組み合わせや投与量の調整を検討することが大切です。

また、複数の薬剤を組み合わせて使用する際には、各薬剤の相互作用について十分な注意を払い、投与量や投与タイミングを調整します。

治療効果の判定には2〜3週間程度の観察期間を必要です。

薬剤性パーキンソニズムの治療における副作用やリスク

薬剤性パーキンソニズムへの治療では、原因薬剤の調整や中止に伴う様々な副作用とリスクがあります。

投薬調整に伴う急性期の副作用

原因となっている薬剤の急な中止や減量は、悪性症候群や離脱症候群などの重篤な合併症を起こすことがあります。

急性期の副作用特徴
悪性症候群高熱、意識障害、筋強直、自律神経症状など重篤な症状が出現
離脱症候群不眠、不安、振戦増強、発汗、血圧変動などが急激に発現

併存疾患への影響

向精神薬の調整に際しては、基礎疾患である精神症状の再燃や増悪に十分な注意が必要です。

薬剤調整中は、血圧低下や起立性低血圧といった循環器系の問題が生じやすく、特に高齢者では転倒のリスクが高まります。

併存疾患への影響注意点
精神症状不安・焦燥感の増強、幻覚・妄想の再燃
自律神経症状起立性低血圧、発汗異常、便秘の悪化

薬物相互作用に関連するリスク

薬物相互作用に関する問題点

  • 降圧薬との相互作用による血圧変動
  • 抗凝固薬との相互作用による出血傾向
  • 制吐薬との併用による錐体外路症状の増強
  • 睡眠薬との相互作用による過鎮静
  • 抗不安薬との併用による認知機能低下

代替薬への切り替え時には新たな薬剤による副作用を考慮し、高齢者では、肝機能や腎機能の低下により、薬物の代謝や排泄が遅延することで、副作用が長引きます。

複数の薬剤を使用している患者さんでは、薬物動態の変化や相互作用により、予測困難な副作用が現れることがあります。

消化管運動の低下は、薬物の吸収に影響を与え、血中濃度の変動を引き起こす要因です。

体重減少や低栄養状態は、薬物の分布容積や代謝に影響を及ぼし、通常量でも副作用が出ます。

また、抗精神病薬の減量や中止に伴い、錐体外路症状以外にも、不眠や食欲不振といった全身症状が一時的に悪化することがあります。

向精神薬の調整時には、セロトニン症候群のリスクについても考慮し、慎重な経過観察が必要です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外来診療の費用

外来診察と血液検査を合わせた基本的な診療費用は、保険診療3割負担で1回あたり3,000円から4,000円です。

診療内容費用(3割負担)
基本診察900円
血液検査2,100円
神経学的検査750円
薬剤処方料210円

薬物療法にかかる費用

主な治療薬の費用

薬剤名月額費用(3割負担)
アマンタジン2,400円
トリヘキシフェニジル1,800円
レボドパ製剤3,600円
ブロモクリプチン4,200円

治療に必要な検査費用

薬剤性パーキンソニズムの診断と経過観察にはいくつかの検査が必要です。

  • MRI検査(3割負担)15,000円
  • 血液生化学検査 2,100円
  • 薬物血中濃度測定 3,000円
  • 脳波検査 3,900円
  • 筋電図検査 4,500円

以上

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