副腎白質ジストロフィー(ALD) – 脳・神経疾患

副腎白質ジストロフィー(ALD)とは、遺伝子の変異によって超長鎖脂肪酸が体内に蓄積し、脳の白質や副腎に重大な影響を及ぼす遺伝性の神経疾患です。

この病気はX連鎖性の遺伝形式を取り主に男児が発症しますが、女性は保因になることもあります。

脳の髄鎖(ミエリン)が徐々に失われていく脱髄という現象が特徴的です。

知能低下や視覚障害、聴覚障害、運動機能の低下などの神経症状が進行性に現れ、また、副腎機能低下により、全身の代謝にも影響が出ます。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

副腎白質ジストロフィー(ALD)の種類(病型)

副腎白質ジストロフィー(ALD)は発症年齢や主な症状によって、小児大脳型、思春期大脳型、成人大脳型、副腎脊髄ニューロパチー型などの複数の病型があります。

発症年齢による分類

副腎白質ジストロフィーの病型分類において、発症年齢は診断の重要な指標です。

小児期から成人期までの広い年齢層で発症し、各年齢層における臨床像には特徴的な違いが認められます。

小児型ALDの特徴と分類

小児型ALDは3歳から12歳までの男児に見られる病型で、神経学的な症状の進行が早く、特に大脳白質における変化が顕著に表れることが多いです。

病型名好発年齢主な特徴
小児大脳型3-10歳大脳白質の広範な変性
思春期大脳型10-21歳進行性の神経症状

成人型ALDの特徴と分類

成人型ALDは21歳以降に発症する病型の総称で、小児型とは異なり、脊髄や末梢神経系の症状が前面に出ることが多く、また症状の進行も比較的緩やかです。

成人型分類発症時期臨床的特徴
成人大脳型21歳以降認知機能の変化
副腎脊髄ニューロパチー型成人期脊髄症状中心

副腎白質ジストロフィー(ALD)の主な症状

副腎白質ジストロフィー(ALD)は、進行性の神経変性疾患であり、大脳白質の広範な脱髄と副腎機能不全を主症状とし、運動機能障害や認知機能低下などの神経学的症状を起こします。

発症形式による神経症状の違い

小児大脳型ALDは6歳から12歳の間に発症することが多く、初期段階では学習能力の低下や視覚障害が見られ、発症から2年以内に重度の障害をきたすことがあり、早期発見が重要です。

成人型ALDでは、20歳以降に歩行障害や排尿障害などが徐々に現れます。

発症形式主な初期症状進行速度
小児大脳型視覚・聴覚障害、学習能力低下急速(2年以内)
思春期型認知機能障害、行動異常中程度(2-5年)
成人型歩行障害、排尿障害緩徐(5-10年)

副腎機能障害に関連する症状

副腎皮質機能低下症はALDにおける特徴的な症状の一つで、皮膚の色素沈着や全身倦怠感、血圧低下などの多彩な症状を起こします。

副腎皮質ホルモンの分泌不全により、体内の電解質バランスが崩れ、血中のナトリウムが減少し、カリウムが上昇する代謝異常が生じます。

代謝異常の症状は、筋力低下や疲労感、食欲不振などです。

症状カテゴリー症状関連する検査値異常
皮膚症状色素沈着、乾燥ACTH上昇
全身症状倦怠感、食欲低下コルチゾール低下
循環器症状血圧低下、めまい電解質異常

神経学的症状の進行パターン

大脳白質の脱髄は、両側後頭葉から始まり、徐々に前方に広がることが特徴です。

視覚障害や聴覚障害などの感覚器症状が初期に現れ、その後、運動障害や協調運動障害などの運動系症状が加わってきます。

進行期には、嚥下障害や構音障害などの脳幹機能障害も生じ、複合的な神経症状を呈するようになります。

初期症状から進行期までの症状変化

以下に、典型的な症状の進行パターンを示します。

  • 初期症状として現れる視覚障害や聴覚障害は、大脳白質の後頭葉領域における脱髄変化を反映
  • 運動障害は、錐体路症状として上肢や下肢の痙性や筋力低下として出現
  • 認知機能障害は、記憶力低下や注意力障害として表れ、学習や作業効率に影響を与える
  • 言語障害は、構音障害や失語症として現れ、コミュニケーション能力に支障をきたす
  • 自律神経症状として、排尿障害や体温調節障害が現れる

副腎白質ジストロフィー(ALD)の原因

副腎白質ジストロフィー(ALD)は、X染色体上のABCD1遺伝子の変異によって起こり、遺伝子変異により超長鎖脂肪酸の代謝異常が生じることで発症します。

遺伝子変異のメカニズム

ABCD1遺伝子は、ペルオキシソームという細胞内小器官で働くABCD1タンパク質の設計図となる遺伝子であり、遺伝子に変異が起こることで、超長鎖脂肪酸の分解に重要な働きを持つタンパク質の機能が失われていきます。

遺伝子情報詳細
遺伝子名ABCD1
染色体位置X染色体Xq28
遺伝形式X連鎖性劣性遺伝
遺伝子産物ATPase結合カセット輸送体

遺伝子変異は、母親から男児へと伝わるX連鎖性劣性遺伝の形式を取り、遺伝カウンセリングにおいて大切な情報です。

細胞内での生化学的異常

ABCD1遺伝子の変異により、超長鎖脂肪酸のペルオキシソームへの輸送が障害され、脂肪酸が細胞内に蓄積していく過程が、副腎白質ジストロフィー(ALD)の根本的な原因です。

生化学的異常影響する細胞内過程
超長鎖脂肪酸の蓄積ミエリン形成障害
ペルオキシソーム機能低下脂質代謝異常
酸化ストレス増加細胞障害

細胞内での異常な脂肪酸の蓄積は、神経系の細胞に対して強い影響を及ぼすことが明らかになっており、これが神経症状の発現につながっていきます。

遺伝的背景の影響

遺伝子変異の影響は以下のような特徴を持っています。

  • 男性患者さんでは症状が現れやすく、発症年齢も早い
  • 女性保因者でも軽度の症状が現れることがあり、加齢とともに症状が進行
  • 同じ家系内でも症状の現れ方に違いが生じる
  • 遺伝子変異の種類によって、症状の重症度に違いが見られる
  • 環境因子との相互作用により、症状の発現パターンが変化する可能性

環境因子との相互作用

遺伝子変異に加えて、様々な環境因子が疾患の発症や進行に影響を与えることが示唆されており、このことは発症時期や重症度の個人差を説明する要因の一つです。

環境因子には、食事内容、ストレス、身体活動量など、生活習慣に関連する要素が含まれており、遺伝的背景と組み合わさることで、病態の特徴が形作られます。

診察(検査)と診断

副腎白質ジストロフィー(ALD)の診断は、血液検査による極長鎖脂肪酸分析を基本検査とし、画像診断や遺伝子検査などの複数の検査手法を組み合わせて行います。

初診時の診察手順

初診では、まず問診と神経学的診察を実施し、このとき母方の親族における類似症状の有無や、発症時期、進行の経過などについて聞き取ることが大切です。

身体診察では、皮膚の色素沈着や神経学的所見を観察しながら、副腎不全の徴候や中枢神経症状の有無を確認していくとともに、年齢に応じた発達段階との比較を行います。

診察項目確認内容診察のポイント
問診家族歴、発達歴、現病歴遺伝形式を考慮した詳細な聴取
身体診察皮膚所見、神経学的所見全身状態の把握と局所所見の確認
発達評価運動機能、認知機能年齢相応の発達状況の確認

血液検査

血液検査では、極長鎖脂肪酸分析が診断の中心です。

C26やC24などの脂肪酸の測定と併せて、血中コルチゾールやACTH値の測定を実施することで、脂質代謝異常と副腎機能の両面から病態の把握を進めていきます。

一般的な血液生化学検査についても、電解質バランスや肝機能、腎機能などの全身状態を確認することが必要です。

画像診断による脳病変の評価

MRI検査は特にT2強調画像やFLAIR画像での白質病変の検出が診断の手がかりとなる一方で、造影MRI検査を併用することで、炎症病変の存在や進行状態をより詳細に把握することが不可欠です。

MRスペクトロスコピーによる代謝物質の分析も補助的な検査として用い、通常のMRI画像では判断が難しい代謝異常の状態を評価できます。

画像検査検査目的観察対象
T2強調MRI白質病変の検出大脳白質の信号変化
造影MRI活動性病変の評価造影効果の有無と分布
MRスペクトロスコピー代謝異常の検出脳内代謝物質の変化

遺伝子検査による確定検査

ABCD1遺伝子の変異解析は分子遺伝学的な確定診断の基礎となるものであり、検査の実施にあたっては事前に十分な遺伝カウンセリングを行うことが大切です。

新生児スクリーニングの実施

新生児スクリーニングを段階的に実施することで、早期発見と早期介入の機会を確保します。

  • 血中極長鎖脂肪酸の測定による一次スクリーニング
  • リゾホスファチジルコリン分析による二次スクリーニング
  • 遺伝子解析による三次スクリーニング
  • 画像検査による病変確認
  • 副腎機能検査による内分泌学的評価

副腎白質ジストロフィー(ALD)の治療法と処方薬、治療期間

副腎白質ジストロフィー(ALD)の治療には、造血幹細胞移植療法、副腎皮質ホルモン補充療法、ロレンツォオイル療法などの治療法があります。

造血幹細胞移植療法

造血幹細胞移植療法は、大脳型ALDに対する治療法として重要な位置づけにあり、HLAが一致したドナーから健常な造血幹細胞を移植することで、進行を抑制することが目標です。

移植の種類主な特徴
骨髄移植骨髄から幹細胞を採取
臍帯血移植臍帯血から幹細胞を採取
末梢血幹細胞移植末梢血から幹細胞を採取

移植前処置として、化学療法や放射線療法を組み合わせて実施することで、移植後の生着率を高められます。

移植後は免疫抑制剤の投与を継続しながら、定期的な血液検査や画像検査を実施して経過を観察することが重要です。

副腎皮質ホルモン補充療法

副腎皮質ホルモン補充療法では、いくつかの薬剤を使用します。

  • ヒドロコルチゾン(コートリル)を1日2〜3回に分けて服用
  • フルドロコルチゾン(フロリネフ)で電解質バランスを調整
  • デキサメタゾンを状態に応じて併用
  • プレドニゾロンを朝夕で分けて服用
  • DHEA製剤を補充療法として使用

ロレンツォオイル療法

ロレンツォオイルは、グリセロールトリオレイン酸とグリセロールトリエルカ酸を4対1の割合で配合した油性の薬剤であり、超長鎖脂肪酸の合成を抑制する働きがあります。

投与量投与期間
導入期1-2ヶ月間で漸増
維持期継続的に投与

ロレンツォオイルは食事と一緒に服用することで吸収率が高まり、1日の総投与量を3〜4回に分けて摂取することが大切です。

副腎白質ジストロフィー(ALD)の治療における副作用やリスク

副腎白質ジストロフィー(ALD)の治療では、造血幹細胞移植、副腎皮質ホルモン補充、ロレンツォオイル投与などの治療法において、それぞれ特有の副作用やリスクがあります。

造血幹細胞移植に伴うリスク

造血幹細胞移植では、前処置として行う化学療法や放射線療法による一時的な骨髄抑制が起こり、感染症や出血のリスクが高まります。

時期主なリスク
移植直後急性GVHD、感染症
移植後3ヶ月以降慢性GVHD、二次性がん

移植片対宿主病(GVHD)は移植後の深刻な合併症であり、皮膚、肝臓、消化管などに症状が現れます。

免疫系の再構築には時間を要するため、この期間中は様々な感染症に対する脆弱性が増すので注意が必要です。

移植に用いる前処置の強度によっては、不妊や成長障害などの晩期合併症が現れる可能性もあります。

副腎皮質ホルモン補充療法における注意点

副腎皮質ホルモン補充における副作用には次のようなものがあります。

  • 長期投与による骨密度低下や骨粗鬆症のリスク増加
  • 免疫機能の低下による感染症への抵抗力低下
  • 消化管潰瘍や出血性胃炎の発症リスク上昇
  • インスリン抵抗性の増大による血糖値上昇
  • 電解質バランスの乱れによる浮腫や高血圧

ロレンツォオイル療法の副作用

ロレンツォオイルの投与には特有の副作用が伴うことがあり、綿密な経過観察が重要です。

副作用発生頻度
消化器症状比較的多い
血小板減少まれに発生

消化器症状として投与初期に吐き気や腹部不快感が現れやすく、症状は投与量の調整により軽減できることが多いです。

血小板の減少は、定期的なモニタリングを行うことで、副作用の早期発見に努めます。

免疫抑制剤使用に関連するリスク

移植後の免疫抑制剤の使用に伴い、日和見感染症や二次性悪性腫瘍の発症リスクが上昇し、特にサイトメガロウイルスやアスペルギルスなどによる感染症には注意が必要です。

免疫抑制剤の減量や中止のタイミングは慎重に判断し、急激な変更は移植片の拒絶反応を起こす危険性があります。

感染症予防と対策

移植後の患者さんは感染症に対する抵抗力が低下しているため、予防的な抗生物質や抗真菌薬の投与を行うことがあります。

感染予防薬の使用にあたっては、薬剤耐性菌の出現や腸内細菌叢への影響なども考慮しながら、投与期間や薬剤の選択をすることが大切です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

造血幹細胞移植に関わる費用

造血幹細胞移植は、前処置から移植後の管理まで、高度な医療技術と設備を必要とする治療法です。

移植の種類概算費用(3割負担の場合)
骨髄移植300-400万円
臍帯血移植350-450万円
末梢血幹細胞移植250-350万円

ホルモン補充療法の費用

副腎皮質ホルモンの補充は、生涯にわたって継続する必要がある治療です。

薬剤名月額費用(3割負担の場合)
ヒドロコルチゾン2-3万円
フルドロコルチゾン1-2万円

その他の治療に関わる費用

主な費用項目には以下のようなものがあります。

  • MRI検査 2-3万円/回
  • 血液検査 5,000-8,000円/回
  • 尿検査 1,000-2,000円/回
  • 遺伝子検査 10-15万円
  • ロレンツォオイル 15-20万円/月

以上

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