くも膜下出血 – 脳・神経疾患

くも膜下出血(subarachnoid haemorrhage)は、脳を包む3層の膜のうち、くも膜と呼ばれる中間層の下に出血が生じる深刻な脳血管疾患です。

この疾患は、長年かけて徐々に成長した脳動脈瘤という脳血管の一部が瘤状に膨らんだものが破裂することが原因です。

くも膜下出血が発生すると劇的な頭痛に見舞われ、患者さんが経験したことのないほどの激しさで、嘔吐感や意識レベルの低下なども起こります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

くも膜下出血の主な症状

くも膜下出血の症状は突然の激しい頭痛が主で、随伴症状として嘔吐、意識障害、麻痺などが現れます。

典型的な症状

くも膜下出血の最も特徴的な症状は、突然襲ってくる激烈な頭痛で、この頭痛は、患者さんが今までに経験したことのないような激しさで、「頭が割れるような」「ハンマーで殴られたような」と表現されることが多いです。

頭痛の部位は全体的であることが多く、後頭部から首筋にかけて痛みが広がることもあります。

頭痛の発症は非常に急激で、数秒から数分のうちにピークに達し、多くの患者さんは、この頭痛の瞬間を明確に覚えています。

頭痛に続いて、あるいは同時に嘔吐を伴うことも多く、嘔吐は突然の頭蓋内圧上昇に対する生体反応として起こりますが、吐き気を感じることはありません。

意識障害と神経学的症状

くも膜下出血では、頭痛や嘔吐に加えて、意識障害が生じることがあり、意識障害の程度は軽度の錯乱から昏睡まで様々です。

軽度の場合、患者さんは眠気や混乱を感じ、質問に対する反応が遅くなったり、的確な返答が難しくなり、重度の場合、患者さんは完全に意識を失い、刺激に対する反応が見られなくなります。

また、くも膜下出血に伴って、片側の手足の麻痺や感覚障害、言語障害なども起こります。

症状特徴
頭痛突然発症、激烈な痛み、全頭性
嘔吐突然の嘔吐、吐き気を伴わないことも
意識障害軽度の錯乱から昏睡まで様々
神経学的症状麻痺、感覚障害、言語障害など

視覚症状と光過敏性

くも膜下出血では、視覚に関連する症状が現れることがあり、患者さんの中には、突然の視力低下や視野の欠損を訴える方がいます。

また、光に対する過敏性(羞明)も特徴的な症状の一つです。

患者さんは明るい光を不快に感じ、目を開けていることが困難になり、普段は気にならない程度の明るさでも、急に眩しく感じたり、目を開けていられなくなったりします。

特に、突然の視力低下や視野の変化が、激しい頭痛と同時に起こった場合は、くも膜下出血を疑う重要な手がかりです。

自律神経症状と全身症状

くも膜下出血では、自律神経系にも影響が及ぶことがあり、急激な血圧上昇や不整脈、発汗異常、体温調節障害などが起こります。

症状は、出血による脳幹部の圧迫や刺激が自律神経中枢に影響を与えることが原因です。

また、くも膜下出血の患者さんでは、首の硬直(項部硬直)が見られることがあり、首を前に曲げようとすると強い抵抗を感じ、出血後数時間から24時間以内に現れることが多いです。

全身症状としては、発熱や全身倦怠感、食欲不振なども報告されています。

自律神経症状全身症状
血圧上昇発熱
不整脈全身倦怠感
発汗異常食欲不振
体温調節障害項部硬直

くも膜下出血の原因

くも膜下出血の原因は、脳動脈瘤の破裂や外傷性の血管損傷などによる、くも膜下腔への出血です。

脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血

くも膜下出血の原因は、脳動脈瘤の破裂で脳動脈瘤とは、脳の血管壁が弱くなって膨らみ、風船のように膨らんだ状態です。

脳動脈瘤が形成される理由は高血圧や動脈硬化、喫煙、過度の飲酒などの生活習慣が関与して、また、遺伝的な要因もあります。

脳動脈瘤は、通常は無症状で経過することが多いため、破裂するまで気づかないことがありますが、大きな脳動脈瘤の場合は、破裂前に頭痛や視力障害などの症状が現れます。

脳動脈瘤のリスク因子影響
高血圧血管壁への負担増大
喫煙血管壁の弾力性低下
過度の飲酒血圧上昇、血管壁への負担
遺伝的要因血管壁の脆弱性

外傷性くも膜下出血

くも膜下出血のもう一つの重要な原因は、頭部外傷で、交通事故や転倒などによる強い衝撃で、脳表面の血管が損傷を受けると、くも膜下腔に出血が生じます。

高齢者や抗凝固薬を服用している方は、軽微な転倒でもくも膜下出血を起こすことがあるので、注意が必要です。

その他のくも膜下出血の原因

脳動脈瘤破裂と外傷以外にも、くも膜下出血を引き起こす原因があります。

  • 脳動静脈奇形(AVM) 先天的に脳の血管の構造が異常で、破裂しやすい状態
  • もやもや病 脳底部の主要な動脈が狭窄や閉塞を起こす疾患
  • 脳腫瘍 腫瘍内部の血管が破綻して出血する場合
  • 血管炎 血管の炎症により血管壁が脆弱化する疾患

くも膜下出血のリスク因子

くも膜下出血の発症には、さまざまなリスク因子が関与しています。

リスク因子影響度
高血圧
喫煙
過度の飲酒
年齢(50歳以上)
女性
家族歴

血圧が高いと、血管壁にかかる負担が増大し、動脈瘤の形成や破裂のリスクが高まります。

喫煙も重要なリスク因子で、たばこに含まれる有害物質が血管壁を傷つけ、動脈硬化を促進します。

また、過度の飲酒も注意が必要です。

年齢や性別も関係し、くも膜下出血は50歳以上で多く、また女性の方が男性よりもやや発症率が高くなっています。

家族歴もリスク因子の一つ、くも膜下出血や脳動脈瘤の家族歴がある方は、定期的な検診を受けてください。

診察(検査)と診断

くも膜下出血の診断には問診と神経学的診察に加え、画像検査や髄液検査などを合わせて行います。

問診と初期診察

くも膜下出血が疑われる患者さんに対しては、まず詳細な問診から始め、突然の激しい頭痛の有無や、その性質、随伴症状などについて聞き取ります。

また、既往歴や家族歴、生活習慣なども重要な情報です。

問診に続いて、神経学的診察を行い、瞳孔の大きさや対光反射、眼球運動、四肢の運動や感覚機能などを調べ、特に、項部硬直(首の硬直)の有無は重要な所見となります。

画像検査

画像検査でまず行われるのは、通常、頭部CT検査です。

CTはくも膜下出血の急性期では高い感度を持ち、くも膜下腔に出血があると、正常な脳脊髄液よりも高吸収域(白く)として描出されます。

検査法特徴診断能力
頭部CT迅速、高感度(発症24時間以内)くも膜下出血の検出に優れる
頭部MRI高解像度、軟部組織の描出に優れる亜急性期〜慢性期の出血検出に有用

ただしCTには限界があり、発症から時間が経過すると、出血の検出が難しくなるので、そのような場合、MRI検査が有用です。

また、出血源となる脳動脈瘤を調べるには、CT血管造影(CTA)やMR血管造影(MRA)を用います。

髄液検査

画像検査で出血が明確でない場合や、症状発症から時間が経過している場合には、髄液検査(腰椎穿刺)が診断の決め手となることがあります。

髄液検査で確認する項目

  • 初圧(髄液圧)
  • 外観(色調、混濁)
  • 細胞数(赤血球数、白血球数)
  • 生化学検査(蛋白、糖など)
  • キサントクロミーの有無

髄液検査は頭蓋内圧亢進がある場合や、出血部位によっては危険を伴うこともあるため、実施の判断には注意が必要です。

その他の補助的検査

くも膜下出血の診断精度を高め、病態をより詳細に把握するために、いくつかの補助的検査が行われることがあります。

検査名目的特徴
脳波検査てんかん発作リスクの評価、意識障害の客観的評価非侵襲的、繰り返し実施可能
経頭蓋ドップラー脳血管攣縮の早期発見と経過観察ベッドサイドで実施可能、リアルタイムの情報取得

さらに、血液検査も重要で、電解質バランス、凝固機能、炎症マーカーなどを評価することで、全身状態の把握や合併症の早期発見に役立ちます。

くも膜下出血の治療法と処方薬、治療期間

くも膜下出血の治療は、外科的処置や薬物療法を組み合わせて行い、急性期の集中治療から始まり、リハビリテーションを行います。

急性期の治療

くも膜下出血の急性期治療では、まず出血の原因となった脳動脈瘤を処置し、再出血を防ぐことが最優先で、主な治療法は、開頭クリッピング術と血管内治療です。

開頭クリッピング術は動脈瘤を完全に閉鎖できる点で信頼性が高く、大きな動脈瘤や複雑な形状の動脈瘤に対して効果的です。

一方、血管内治療は、カテーテルを用いてコイルで血栓を形成し、動脈瘤内部を閉塞します。

脳血管攣縮の予防と治療

くも膜下出血後の重要な合併症の一つに、脳血管攣縮があり、出血後3〜14日頃に起こりやすく、脳虚血を引き起こす危険な状態です。

脳血管攣縮の予防と治療

  • カルシウム拮抗薬の投与 ニカルジピンやシロスタゾールなどを用いて、血管を拡張させます。
  • トリプルH療法 循環血液量増加、血圧上昇、血液希釈の3つを組み合わせて脳血流を改善します。
  • バルーン血管形成術 カテーテルを用いて狭窄した血管を機械的に拡張します。

トリプルH療法は厳密な循環管理が必要で、集中治療室での綿密なモニタリングが不可欠です。

治療法適応特徴
開頭クリッピング術大型・複雑な動脈瘤確実な閉鎖が可能、侵襲性が高い
コイル塞栓術小〜中型の動脈瘤低侵襲、再発のリスクあり
カルシウム拮抗薬脳血管攣縮予防副作用に注意が必要
トリプルH療法脳血管攣縮治療厳密な管理が必要

水頭症への対応

くも膜下出血後には、急性期や慢性期に水頭症を合併することがあります。

水頭症は脳脊髄液の循環障害によって起こり、頭蓋内圧の上昇を引き起こし、治療には、一時的または永続的な脳脊髄液ドレナージが必要です。

急性期の水頭症に対しては、脳室ドレナージを行い過剰な脳脊髄液を体外に排出します。

慢性期の水頭症には、脳室腹腔シャント術を検討し、脳室から腹腔へ細いチューブを通して脳脊髄液を誘導します。

リハビリテーションと長期的なケア

くも膜下出血の急性期治療を乗り越えた後は、リハビリテーションが重要です。

リハビリテーションの目的は、失われた機能の回復や代償、日常生活動作の改善で、理学療法、作業療法、言語療法などを組み合わせて行います。

リハビリテーション目的主な内容
理学療法運動機能の回復歩行訓練、筋力強化
作業療法日常生活動作の改善食事、着替えの練習
言語療法言語機能の回復発声、構音訓練

くも膜下出血後の治療期間は通常3〜6か月程度ですが、リハビリテーションは退院後も継続します。

また、定期的な外来受診による経過観察も重要で、長期的には、再発予防のための生活習慣の改善や、高血圧などの基礎疾患の管理が大切です。

くも膜下出血の治療における副作用やリスク

くも膜下出血の治療は、生命を救う重要な医療行為ですが、同時に様々な副作用やリスクを伴います。

血管攣縮とその影響

くも膜下出血の治療後に最も懸念される合併症の一つが、脳血管攣縮で、出血後に脳血管が異常に収縮することで、脳への血流が減少し、二次的な脳梗塞を引き起こす可能性がある状態です。

血管攣縮は出血後3〜14日頃に発生しやすく、影響は患者さんの予後を大きく左右します。

血管攣縮の予防と治療には、カルシウム拮抗薬の投与や血圧管理が行われますが、血圧を上げすぎると再出血のリスクが高まるので注意が必要です。

血管攣縮の発生を早期に発見するため、経頭蓋ドップラー検査や脳血流シンチグラフィーなどの検査が定期的に行われます。

手術に関連するリスク

くも膜下出血の主な治療法である開頭クリッピング術やコイル塞栓術にも、それぞれ特有のリスクがあります。

開頭クリッピング術では、手術中の脳損傷や感染症のリスクがあり、また、術後の脳浮腫による頭蓋内圧上昇が問題となることがあります。

コイル塞栓術では、血管穿刺部位の出血や血栓形成、コイルの移動や脱落などのリスクがあり、また、まれに治療中に動脈瘤が破裂するケースもあり、その場合緊急の対応が必要です。

治療法主なリスク対策
開頭クリッピング術脳損傷、感染症、脳浮腫精密な手術技術、厳重な無菌操作、術後の頭蓋内圧モニタリング
コイル塞栓術血管穿刺部位の合併症、コイルの移動・脱落熟練した血管内治療技術、術後の画像検査による経過観察

薬物療法に伴う副作用

くも膜下出血の治療では、様々な薬物が使用されますが、副作用のリスクがあります。

脳保護薬として使用されるエダラボンには、重篤な肝機能障害や腎機能障害が報告されていて、てんかん発作の予防に使用される抗てんかん薬は、眠気や吐き気、めまいなどの副作用があります。

抗凝固薬や抗血小板薬は出血のリスクを高める可能性があるので、くも膜下出血後の患者さんでは、再出血のリスクとのバランスを慎重に考慮することが大切です。

水頭症と脳圧亢進

くも膜下出血後の合併症として水頭症の発症リスクがあり、治療には、脳室ドレナージや脳室腹腔シャント術などが行われますが、感染症や機械的トラブルなどのリスクが伴います。

脳圧亢進は、水頭症だけでなく、脳浮腫や再出血などによっても起こり、二次的な脳損傷を引き起こす危険性があるため、厳重な管理が重要です。

合併症主な症状治療法
水頭症頭痛、嘔吐、意識障害脳室ドレナージ、シャント術
脳圧亢進頭痛、意識レベル低下、瞳孔異常薬物療法、減圧開頭術

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

手術費用

くも膜下出血の主な手術治療には、開頭クリッピング術と血管内治療(コイル塞栓術)があります。

手術の種類概算費用 (保険適用後)特徴
開頭クリッピング術100万円〜200万円直接動脈瘤を処置、確実性が高い
コイル塞栓術150万円〜300万円低侵襲、コイルの数や種類で費用変動

入院費用

くも膜下出血の治療では、手術後の集中治療や経過観察のために、長期の入院が必要です。

入院種別1日あたりの費用平均期間
ICU管理5万円〜10万円1週間〜10日程度
一般病棟2万円〜3万円2〜4週間程度

リハビリテーション費用

入院でのリハビリテーション費用は、1日あたり約1万円から2万円程度です。これには理学療法、作業療法、言語療法などが含まれます。

退院後も外来でリハビリテーションを継続する場合、1回あたり約5000円から1万円です。

その他の関連費用

くも膜下出血の治療には、手術や入院費用以外にもさまざまな費用がかかります。

検査・処置概算費用(保険適用後)
CT検査5,000円〜10,000円/回
MRI検査10,000円〜20,000円/回
脳血管造影30,000円〜50,000円/回
脳波検査5,000円〜8,000円/回
血液検査2,000円〜5,000円/回
脳室ドレナージ50,000円〜100,000円(処置料)

薬剤費の目安

  • 脳血管攣縮予防薬 1日あたり約1,000円〜3,000円
  • 抗てんかん薬 1日あたり約500円〜2,000円

以上

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