手口感覚症候群 – 脳・神経疾患

手口感覚症候群(cheiro-oral syndrome)とは、脳の血管障害や腫瘍などによって起こる神経症候群です。

主に視床や脳幹部の病変が原因となって発症し、顔面片側(特に口周囲)と同側の手指(主に第1指から第3指)に感覚障害が生じ、しびれ感、異常感覚、感覚鈍麻などが症状として現れます。

脳の感覚伝導路における特定の部位の障害によって起きるため、症状の分布は解剖学的な神経支配領域に一致します。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

手口感覚症候群の主な症状

手口感覚症候群の特徴的な症状は、顔の片側と同じ側の手にしびれや異常感覚が現れ、症状が口周囲から手指にかけて広がることです。

感覚障害の基本的特徴と分布

神経学的所見として最も顕著なものは、顔面の片側から始まる特徴的な感覚障害であり、この症状は同側の上肢、特に手掌部に及ぶ形で進行していくという独特の臨床経過をたどることが知られています。

感覚障害の出現パターンとしては、多くの患者さんにおいて口周囲から頬部にかけての限局的な範囲に最初の症状が出現し、その後時間の経過とともに手掌や手指に似た症状が波及していくという段階的な進展を示すことが臨床所見です。

感覚障害の種類症状
表在感覚障害しびれ感、チクチク感、ピリピリ感
深部感覚障害手指の位置感覚低下、関節の動きの感覚鈍麻

三叉神経第二枝および第三枝の支配領域に一致する形で感覚障害が現れることが多いです。

これに伴って同側の手掌部、特に母指から小指にかけての領域に異常感覚が出現するという特徴的な症状分布を示すことが本症候群の重要な診断基準です。

症状の時間的推移と変動性

手口感覚症候群における感覚障害の特徴として、朝方に症状が強くなる傾向があり、日中の活動を通じて徐々に軽減していくという日内変動パターンを示すことが多くの臨床例で報告されています。

体調の変化や疲労度によって症状の強さが大きく変動し、特に起床直後や長時間の安静後に症状が増悪することから、患者さんの生活リズムと症状の変動に密接な関連があることが分かってきました。

随伴する神経学的症状

  • 温度覚の低下
  • 触覚の鈍麻
  • 痛覚の変調
  • 振動覚の障害
  • 二点識別覚の低下

神経学的症状は、大脳皮質の体性感覚野における神経回路の一時的な機能障害を反映していると考えられており、症状の出現パターンや強さには個々の症例によって顕著な違いが認められます。

感覚障害の特殊性と評価指標

評価項目臨床的特徴
感覚の質的変化自発的な異常感覚、アロディニア
感覚の量的変化感覚閾値の上昇、感覚強度の変調

神経学的所見の評価においては、定量的感覚検査を用いた客観的な評価手法を活用することで、感覚障害の程度や範囲を正確に把握することが診断精度の向上につながることが明らかです。

解剖学的な神経支配領域に一致した形で感覚障害が出現することは手口感覚症候群の特徴的な所見の一つで、この特徴は他の神経学的疾患との鑑別診断において非常に有用な情報となります。

神経学的診察においては、表在感覚と深部感覚の両方について詳細な評価を実施することで、症状の全容を正確に把握し、正しい診断につなげていくことが不可欠です。

感覚障害の範囲は、通常明確な境界を持って出現することが特徴的で、この所見は手口感覚症候群の診断における決定的な要素として認識されているとともに、他の神経疾患との区別において貴重な診断的価値を持ちます。

手口感覚症候群の原因

手口感覚症候群は、脳幹部や視床における血管障害、腫瘍性病変、脱髄性疾患などの器質的変化によって引き起こされる神経症候群で、特に中年以降の方々に発症することが多く見られる疾患です。

病変部位による発症メカニズム

手口感覚症候群の原因となる病変は、主に視床後外側部や脳幹部に位置しており、このような部位における微細な変化が複雑な神経症状を起こす要因です。

三叉神経系と上肢からの感覚情報を処理する神経核や伝導路が密集するこれらの領域では、わずかな損傷でも広範な感覚異常を引き起こす可能性があります。

特に視床後外側部における微小な血管障害は本症候群の発症に強く関連していることが、神経学的研究により明らかになってきました。

病変部位主な原因疾患
視床後外側部脳梗塞、脳出血
脳幹部多発性硬化症、脳幹部梗塞

血管障害による発症機序

脳血管障害は手口感覚症候群の最も一般的な原因であり、視床穿通枝領域や脳底動脈領域の微小血管障害が手口感覚症候群の発症に深く関与していることが、多くの臨床研究によって示されています。

高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を持つ患者さんでは、細小血管に動脈硬化性変化が生じやすく、結果として血流障害や微小梗塞が発生し、神経伝導路の機能不全を引き起こすメカニズムが解明されてきました。

腫瘍性病変の影響

原発性脳腫瘍や転移性脳腫瘍による圧迫や浸潤が感覚伝導路を障害することで手口感覚症候群を引き起こす可能性があり、腫瘍の急速な増大や周囲の浮腫形成は、神経症状の急激な発現や進行につながります。

腫瘍による手口感覚症候群の発症に関与する要因

  • 腫瘍による直接的な神経組織の圧迫
  • 腫瘍周囲の浮腫による間接的な圧迫
  • 腫瘍の浸潤による神経組織の破壊
  • 腫瘍に伴う血流障害
腫瘍の種類発症メカニズム
髄膜腫徐々に進行する圧迫性変化
神経膠腫浸潤性増殖による組織破壊
転移性腫瘍急速な圧迫と浮腫形成

脱髄性疾患と炎症性変化

多発性硬化症などの脱髄性疾患は、神経線維のミエリン鞘を選択的に障害することで感覚伝導路の機能を損なうことがあり、この過程で免疫系の異常が重要な役割を果たしています。

炎症性変化による神経伝導障害は、急性期には神経症状を呈することがありますが、免疫調整療法により症状の改善が期待できる病態であることから、早期の診断と治療方針の決定が非常に重要です。

脱髄性疾患による手口感覚症候群では、神経線維を覆うミエリン鞘の破壊が断続的に生じることにより、症状の変動や再発を繰り返し、この点は血管障害や腫瘍性病変による症例とは異なる経過をたどります。

診察(検査)と診断

手口感覚症候群の診断には、神経学的診察による感覚障害の詳細な評価と画像検査による病変の確認が必要です。

基本的な診察アプローチ

神経学的診察において最も基礎となるのは、顔面から手指にかけての感覚異常の範囲と程度を詳しく調べる過程で、この段階で得られる情報が診断の土台となることから、慎重に診察を実施します。

診察項目手技
表在感覚検査筆やモノフィラメントによる触覚検査
深部感覚検査関節位置覚、振動覚の確認

感覚検査の実施にあたっては、患側と健側の比較を綿密に行いながら、感覚障害の分布を正確に把握することで、より精度の高い診断につなげていくという考え方が神経内科領域における共通認識です。

画像診断の実施手順

画像診断の中核を担うMRI検査では、拡散強調像やFLAIR像を含む複数のシークエンスを組み合わせて撮影を実施することで、より詳細な病変の把握と質的診断の向上を目指すアプローチが標準的な手法です。

微細な病変の検出においては、薄いスライス厚での撮影と多方向からの観察が大切で、特に橋や視床といった部位の詳細な観察には、高度な撮影技術と読影経験が不可欠となってきます。

画像検査の種類観察のポイント
拡散強調画像急性期病変の確認
T2強調画像白質病変の評価

補助的検査の活用法

  • 体性感覚誘発電位検査
  • 定量的感覚検査
  • サーモグラフィー検査
  • 神経伝導検査
  • 自律神経機能検査

補助的検査は、感覚障害の客観的な評価と病態の詳細な解析に役立つものであり、感覚障害の範囲や程度を定量的に把握することで、より正確な診断根拠を得られることが利点です。

神経学的所見の記録方法

神経診察において得られた所見は、デルマトーム分布図を用いて感覚障害の範囲を視覚的に記録することにより、他の医療従事者との情報共有や経時的な変化の追跡を容易にできます。

患者さんの状態の変化を正確に追跡するためには、感覚障害の強さを数値化して記録することが重要で、定量的なアプローチによって、より客観的な経過観察が実現することが可能です。

手口感覚症候群の治療法と処方薬、治療期間

手口感覚症候群の治療は、原因疾患への対応と神経症状の緩和を目的とした薬物療法を組み合わせ、通常2〜3ヶ月の治療期間を要し、患者さんの状態や原因疾患によって個別の治療計画を立案します。

基本的な治療戦略

神経障害性疼痛治療薬を中心とした薬物療法が治療の基盤となり、薬剤は神経の異常な興奮を抑制することで、不快な感覚症状を和らげる効果が期待できます。

薬物療法では、患者さんの症状の程度や他の併存疾患の有無などを考慮しながら、複数の薬剤を組み合わせることで、より効果的な治療効果を目指すことが一般的です。

薬剤分類代表的な薬剤名
抗てんかん薬ガバペンチン、プレガバリン
三環系抗うつ薬アミトリプチリン
選択的セロトニン再取り込み阻害薬デュロキセチン

各薬剤には特徴的な作用機序があり、患者さんの症状パターンや重症度に応じて薬剤を選択していきます。

神経保護薬による治療

ビタミンB12製剤やメコバラミンなどの神経保護薬による治療は、神経機能の維持と回復において重要な役割を果たし、薬剤は神経細胞の代謝を改善し、損傷された神経の修復を促進する働きがあります。

神経保護薬は長期的な治療効果を期待して使用され、症状の安定化と再発予防に貢献する可能性があることが、多くの臨床研究により示されています。

投与方法

  • 経口投与による日常的な服用
  • 重症例における注射製剤の使用
  • 長期的な維持療法としての内服継続
  • 段階的な用量調整による治療効果の最大化

血流改善薬の使用

脳血管障害が原因の事例では、血流改善薬の投与が有効な治療選択肢となり、薬剤は脳内の血液循環を改善することで、神経組織への酸素や栄養の供給を促進し、神経機能の回復を支援する効果があります。

血流改善薬は、原因となっている血管障害の種類や程度に応じて選択され、その他の治療薬との相互作用も考慮しながら、慎重に投与量や投与期間を決定することが大切です。

治療薬の種類期待される効果
抗血小板薬血液凝固抑制
血管拡張薬局所血流増加

ステロイド療法

炎症性変化による神経障害に対してはステロイド療法を実施することがあり、この治療法は急性期の症状改善に特に効果的です。

ステロイド療法では、症状の重症度や患者さんの全身状態を考慮しながら、パルス療法や経口投与などの投与方法を選択し、治療効果を最大限に引き出すことを目指します。

炎症性変化に対するステロイド療法は、投与量や期間を慎重に設定する必要があり、治療効果と副作用のバランスを考慮しながら、段階的な減量計画を立てて実施します。

手口感覚症候群の治療における副作用やリスク

手口感覚症候群に対する薬物療法では、抗てんかん薬や神経障害性疼痛治療薬の使用に伴う眠気や浮動性めまいなどの副作用に注意が必要です。

薬物療法における一般的な副作用

抗てんかん薬による治療を開始する際には、患者さんの体調や基礎疾患の有無を十分に考慮しながら投与を進めていく必要があり、特に治療開始初期における副作用の出現には細心の注意を払います。

薬剤分類主な副作用
抗てんかん薬眠気、めまい、ふらつき
神経障害性疼痛治療薬口渇、便秘、体重増加

薬物療法を開始した後は、定期的な血液検査による肝機能や腎機能のモニタリングが不可欠で、特に投与開始から3ヶ月間は頻繁に検査を実施することで、早期に副作用の兆候を捉えることが可能です。

高齢者における投与上の注意点

高齢者においては加齢に伴う薬物代謝能力の低下が認められることから、若年者と比較してより慎重な投与量の設定と副作用モニタリングが求められ、複数の基礎疾患を持つ患者さんでは個々の状態に応じた投与計画の立案が重要です。

年齢層注意すべき事項
65歳以上低用量からの開始、緩徐な増量
75歳以上より慎重な投与量調整、頻回な観察

併用薬との相互作用

  • 降圧薬との併用による血圧低下
  • 睡眠薬との併用による過度の鎮静
  • 抗凝固薬との併用による出血傾向
  • 抗不整脈薬との併用による心機能への影響
  • 糖尿病治療薬との併用による血糖値変動

薬物相互作用については、患者さんの既往歴や現在服用中の薬剤を詳細に確認した上で、必要に応じて投与量の調整や使用薬剤の変更を検討します。

臓器機能障害時の投与リスク

肝機能障害や腎機能障害を有する患者さんに対する薬物投与においては、通常の投与量では副作用が出現しやすいことから、投与開始時から慎重な用量設定と頻回なモニタリングを行います。

定期的な血液検査による臓器機能の評価は、副作用の早期発見と重症化の予防において大きな役割を果たすものであり、特に投与開始初期における綿密な観察は、その後の治療経過に大きな影響を与えることが多いです。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

一般的な外来診療費用

MRI検査は保険適用で患者負担額が8,000円から15,000円程度となり、造影剤を使用する場合はさらに4,000円程度追加されます。

血液検査は基本的な項目で2,000円から3,000円程度の負担です。

診療項目患者負担額(3割負担の場合)
MRI検査(単純)8,000円~15,000円
MRI検査(造影)12,000円~19,000円
血液検査(基本)2,000円~3,000円
神経伝導検査4,000円~6,000円

投薬治療の費用

一般的な神経障害性疼痛治療薬による治療では、1ヶ月あたりの薬剤費の負担額は5,000円から10,000円です。

ビタミンB12製剤やその他の神経保護薬を併用する場合、追加で3,000円から6,000円程度の負担が発生します。

薬剤種類1ヶ月あたりの患者負担額
神経障害性疼痛治療薬5,000円~10,000円
神経保護薬3,000円~6,000円
血流改善薬4,000円~8,000円
ステロイド薬2,000円~5,000円

入院治療が必要な場合の費用

急性期の治療や症状が重い場合に必要となる入院治療では、以下の費用が発生します。

  • 入院基本料(1日あたり)7,000円~10,000円
  • 投薬・注射代 3,000円~8,000円/日
  • リハビリテーション料 2,000円~4,000円/回
  • 各種検査料 5,000円~15,000円/回

治療期間と総費用の目安

標準的な治療期間である2〜3ヶ月の場合、外来診療のみで総額30万円から50万円程度、入院治療を要する場合は60万円から100万円程度の医療費が発生します。

健康保険の自己負担割合(3割)を適用すると、外来診療の場合、患者負担額は9万円から15万円で、入院治療の場合、患者負担額は18万円から30万円程度となることが一般的です。

以上

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