狂犬病(rabies)とは、狂犬病ウイルスの感染によって発症する急性脳炎です。
感染源の多くはイヌやアライグマ、コウモリなどの感染動物であり、これらの動物に咬まれたり引っかかれたりすることで感染します。
発症すると、初期には発熱や頭痛、倦怠感などの症状が現れ、徐々に不安感、錯乱、恐水症などの神経症状が出現。
最終的には全身の麻痺や昏睡状態となり、呼吸不全などにより死に至ることがあります。
狂犬病の種類(病型)
狂犬病には、主に古典的(狂躁型)狂犬病、麻痺型狂犬病、非古典型狂犬病の3つの病型があります。
古典的(狂躁型)狂犬病
古典的(狂躁型)狂犬病は、狂犬病の中で最も一般的な病型です。
特徴 | 説明 |
錯乱 | 意識障害や見当識障害を伴います |
興奮 | 激しい興奮状態や攻撃的行動が見られます |
恐水 | 水を恐れ、飲水が困難になります |
唾液分泌過多 | 多量の唾液分泌があり、泡を吹くこともあります |
この病型では、ウイルスが脳に広範に感染し、重篤な神経症状を引き起こします。
麻痺型狂犬病
麻痺型狂犬病は、古典的狂犬病とは異なる特徴を示します。
- 四肢の麻痺が主症状となります
- 髄膜炎症状を伴うことがあります
- 錯乱や興奮などの症状は目立ちません
特徴 | 説明 |
四肢麻痺 | 手足の麻痺が進行し、運動障害を引き起こします |
髄膜炎症状 | 髄膜の炎症により、頭痛や発熱などが見られます |
麻痺型狂犬病では、ウイルスが脊髄に感染し、運動機能の障害を引き起こします。
非古典型狂犬病
非古典型狂犬病は、古典的狂犬病や麻痺型狂犬病とは異なり、特異的な症状が現れます。
この病型では、脳炎症状のみが前面に現れ、狂犬病に特徴的な症状が見られず診断が困難な場合があり、注意が必要です。
病型による予後の違い
古典的(狂躁型)狂犬病や麻痺型狂犬病では、発症後の生存期間が短く、ほとんどの場合、数日から1週間程度で死に至ります。
一方、非古典型狂犬病では、比較的緩徐な経過をたどることがあり、数週間から数ヶ月の生存期間が見られる場合もあります。
ただし、いずれの病型においても、現時点では有効な治療法がなく、予後は極めて不良であることに変わりはありません。
狂犬病の主な症状
狂犬病は死亡率の高い感染症であり、その症状は特徴的で重篤なものが多くあります。
初期症状
狂犬病の初期症状
症状 | 概要 |
発熱 | 38度以上の高熱が続く |
倦怠感 | 全身の脱力感や疲労感が強い |
頭痛 | 激しい頭痛が生じる |
食欲不振 | 食べる気力がなくなる |
これらの症状は風邪などと似ているため、狂犬病の可能性に気づきにくいことがあります。
しかし、狂犬病ウイルスに感染した動物に咬まれたり引っかかれたりしたときは、たとえ軽い症状でも狂犬病を疑って速やかに医療機関を受診することが大切です。
神経症状
狂犬病が進行すると、中枢神経系にさまざまな症状が現れます。
部位 | 症状 |
脳 | 錯乱、昏睡、けいれん |
脊髄 | 麻痺、知覚異常 |
このような神経症状が現れると、狂犬病の予後は極めて不良となります。
早期に集中治療を行えば助かる可能性もありますが、発症から数日以内に呼吸停止などで亡くなるケースがほとんどです。
恐水症・恐風症
狂犬病に特徴的な症状として、水や風に対する極端な恐怖心があります。
喉や呼吸筋の麻痺により、水を飲み込むことができなくなり、わずかな水しぶきや風にでさえ激しく反応してしまう状態になります。
最終段階
狂犬病の最終段階では、全身の麻痺が進行し、意識障害も深刻化します。
呼吸筋の麻痺により自発呼吸が停止し、人工呼吸器による管理が必要となりますが、多臓器不全により救命は極めて困難です。
発症から死亡までの期間は通常1週間以内とされ、狂犬病が非常に予後不良な疾患であることがわかります。
狂犬病の原因・感染経路
狂犬病は、狂犬病ウイルスの感染によって引き起こされる人獣共通感染症です。
このウイルスは、主に感染動物の唾液に含まれており、感染動物に咬まれたりひっかかれたりすることによって感染が成立します。
狂犬病ウイルスの特徴
狂犬病ウイルスは、ラブドウイルス科に属するウイルスで、弾丸型の形状をしています。
このウイルスは、非常に感染力が強く、感染後の致死率は約100%と極めて高いのが特徴です。
ウイルス名 | 属する科 | 形状 |
狂犬病ウイルス | ラブドウイルス科 | 弾丸型 |
感染動物と感染経路
狂犬病ウイルスは、主に哺乳類の動物に感染します。 感染動物は、犬、猫、アライグマ、コウモリなどです。
感染経路
- 感染動物に咬まれる
- 感染動物にひっかかれる
- 感染動物の唾液が粘膜や傷口に付着する
感染動物 | 感染経路 |
犬、猫 | 咬まれる、ひっかかれる |
アライグマ、コウモリ | 咬まれる、ひっかかれる、唾液の付着 |
狂犬病ウイルスの潜伏期間と感染力
狂犬病ウイルスに感染してから発症するまでの潜伏期間は、通常1~3ヶ月程度ですが、まれに1年以上に及ぶこともあります。
この潜伏期間中は、感染動物であっても症状を示さないことがあるため、注意が必要です。
また、狂犬病ウイルスは感染力が非常に強く、わずかな量のウイルスでも感染が成立する可能性があります。
診察(検査)と診断
狂犬病を診察する際は、患者さんの症状や発症するまでの経過、動物と接触した履歴などを詳しく聞き取り、神経学的な所見を確認します。
臨床診断では、特徴的な症状や検査所見から総合的に判断しますが、確定診断を行うにはウイルスを分離したり、遺伝子を検査したりする特殊な検査が必要です。
病歴聴取と身体診察
狂犬病の可能性がある患者さんでは、発症するまでの経過や動物と接触した履歴を詳しく聞き取ることが重要です。
特に、狂犬病が流行している地域に渡航したことがあるか、犬やコウモリなどの動物に咬まれたり引っかかれたりしたことがないかを確認します。
身体診察では、神経学的な所見をしっかりと観察することが大切です。
観察項目 | 所見 |
意識レベル | 清明から昏睡までさまざま |
脳神経症状 | 眼振、複視、顔面神経麻痺など |
運動症状 | 不随意運動、筋強剛、痙攣など |
感覚症状 | 異常感覚、知覚過敏など |
臨床検査
狂犬病の診断に役立つ検査としては、以下のようなものがあります。
ただし、これらの検査所見は特異的ではなく、確定診断とはなりません。
臨床症状と検査所見から総合的に判断して、狂犬病の可能性が高いと考えられる場合は、速やかに保健所に報告し、確定診断のための検査を行う必要があります。
ウイルス学的検査
狂犬病の確定診断を行うには、ウイルスを分離したり、遺伝子を検査したりする特殊な検査が必要です。
検査法 | 検体 | 備考 |
ウイルス分離 | 唾液、髄液、脳組織 | 発症後早期に検出可能 |
蛍光抗体法 | 皮膚生検(毛根部)、角膜印象塗抹標本 | 発症後1週間以降に検出可能 |
RT-PCR法 | 唾液、髄液、脳組織 | 高感度で早期診断に有用 |
これらの検査は、専門の検査機関で行われます。
鑑別診断
狂犬病は、初期症状が特異的ではないため、他の疾患との鑑別が必要です。
鑑別が必要な疾患としては、以下のようなものがあります。
- 破傷風
- ボツリヌス中毒
- ギラン・バレー症候群
- 脳炎(ヘルペス脳炎など)
- 髄膜炎
- 脳腫瘍
- 精神疾患(パニック障害など)
これらの疾患との鑑別を行うには、詳しい病歴聴取と身体診察、さまざまな検査を総合的に判断することが大切です。
狂犬病の治療法と処方薬、治療期間
狂犬病は、致死率が非常に高い感染症ですが、感染後すぐに治療を開始することで、救命が可能となります。
治療の中心は、狂犬病ウイルスに対する受動免疫療法と積極的な対症療法です。
受動免疫療法
受動免疫療法とは、狂犬病ウイルスに対する抗体を含む免疫グロブリン製剤を投与する治療法です。
この治療は、感染初期の段階で行うことが肝心で、感染部位への局所投与と筋肉内投与を併用します。
投与方法 | 投与量 |
局所投与 | 感染部位に可能な限り多く投与 |
筋肉内投与 | 体重に応じて計算 |
ワクチン接種
受動免疫療法と並行して、狂犬病ワクチンの接種が必要です。感染後可能な限り早期に接種を開始し、以下のスケジュールで接種します。
- 感染後0日目、3日目、7日目、14日目、28日目に接種
対症療法
狂犬病の症状に対しては、積極的な対症療法を行います。
- 呼吸管理
- 循環管理
- 疼痛管理
- 感染管理
症状 | 治療法 |
呼吸不全 | 人工呼吸管理 |
循環不全 | 輸液、昇圧剤投与 |
疼痛 | 鎮痛剤投与 |
二次感染 | 抗菌薬投与 |
治療期間と予後
狂犬病の治療期間は、症状の重症度によって異なりますが、通常は数週間から数ヶ月に及びます。
ただし、治療を行っても、狂犬病の致死率は依然として高く、予後は非常に不良です。
予後と再発可能性および予防
狂犬病は死亡率の高い感染症である一方で、治療と予防を行うことで発症や再発を防止できます。
狂犬病の治療予後
狂犬病は発症するとほぼ100%の死亡率となる危険性の高い感染症です。
しかしながら、発症する前にワクチンと抗狂犬病免疫グロブリンによる治療を受けることによって、生存率を大幅に高められます。
治療開始時期 | 生存率 |
発症前 | 90%以上 |
発症後 | ほぼ0% |
狂犬病の再発可能性
一度発症した狂犬病が治癒できた場合、再発する可能性はほとんどないとされています。
その理由は、狂犬病ウイルスに対する免疫が獲得されるからです。
ただ、免疫が不完全であったり、新たな狂犬病ウイルスに感染したりした場合は、再発する可能性が残されます。
狂犬病の予防法
狂犬病の予防法
- ワクチン接種
- 咬傷後の適切な処置
- 狂犬病の流行地域への渡航前のワクチン接種
予防法 | 効果 |
ワクチン接種 | 発症リスクを大幅に下げる |
咬傷後の処置 | ウイルスの増殖を抑え、発症リスクを下げる |
渡航前の接種 | 流行地域での感染リスクを下げる |
狂犬病の治療における副作用やリスク
狂犬病の治療では、ワクチンや免疫グロブリンの投与が行われますが、これらの治療には副作用のリスクがあることを認識しておく必要があります。
ワクチンの副作用
ワクチン接種後、接種部位の痛み、発赤、腫れなどの局所反応や、発熱、頭痛、倦怠感などの全身反応が現れることがあります。
これらの副作用は通常軽度で自然に回復しますが、まれにアナフィラキシーショックなどの重篤な副作用が起こる可能性も。
副作用 | 症状 |
局所反応 | 接種部位の痛み、発赤、腫れ |
全身反応 | 発熱、頭痛、倦怠感 |
免疫グロブリンの副作用
免疫グロブリンの投与後、アレルギー反応や血栓症などの副作用が生じる可能性があります。
また、ヒト由来の血液製剤であるため、感染症のリスクも完全には排除できません。
免疫グロブリン投与による主な副作用
副作用 | リスク |
アレルギー反応 | 中 |
血栓症 | 低 |
ウイルス感染症 | 極低 |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
治療費の内訳
狂犬病に感染した際は、ワクチンの接種と免疫グロブリンの投与が必要です。
狂犬病の治療にかかる費用の目安
治療内容 | 費用 |
ワクチン接種 | 1回につき約2万円 |
免疫グロブリン投与 | 1回につき約10万円 |
感染後の治療では、ワクチン接種と免疫グロブリン投与を複数回行う必要があるため、治療費の総額が数十万円に達することもあります。
予防接種の費用
狂犬病の予防接種は、感染リスクがある人にとって大変重要です。
予防接種にかかる費用
- 初回接種(3回):約1万5千円
- 追加接種(1回):約5千円
予防接種を受けることにより、感染リスクを大幅に下げられます。
接種回数 | 費用 |
1回目 | 約5千円 |
2回目 | 約5千円 |
3回目 | 約5千円 |
公的支援制度
狂犬病の治療費は高額になるため、公的支援制度の活用が欠かせません。
- 感染症法に基づく公費負担制度
- 高額療養費制度
- 自立支援医療制度(精神通院医療)
これらの制度を利用すれば、自己負担額を大幅に減らせます。
以上
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