帯状疱疹 – 感染症

帯状疱疹(herpes zoster)とは、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化によって引き起こされる疾患です。

水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)に初感染の際には水痘を発症しますが、治癒後もウイルスは神経節内に潜伏し続けます。

そして、免疫力が低下したときなどに再活性化が起こり、神経の走行に沿って片側性に特徴的な皮疹が現れます。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

帯状疱疹の種類(病型)

帯状疱疹は典型的な病型、播種性の病型、後遺症としての神経痛の3つに大別されます。

典型的な帯状疱疹

典型的な帯状疱疹の特徴は、神経の分布に沿って片側に発赤や水疱ができることです。

胸部に現れることが半分以上を占め、次いで顔面や腰・仙骨部にも1-2割の頻度で見られます。

好発部位割合
胸部50-60%
顔面(三叉神経第一枝領域)10-20%
腰仙部10-20%

播種性帯状疱疹

播種性帯状疱疹は全身に水疱が広がる重い病型です。 免疫力が低下している人に多く、内臓にも症状が出る可能性があります。

  • 全身の広い範囲に水疱
  • 免疫低下者に多い
  • 内臓症状の合併の可能性

帯状疱疹後神経痛

帯状疱疹後神経痛は水疱が治っても痛みが続く病型です。 高齢の方や重症だった方に起こりやすく、生活の質を大きく下げてしまいます。

リスク因子内容
高齢60歳以上でリスク上昇
重症広範な皮疹や強い痛み

帯状疱疹の主な症状

帯状疱疹の症状は、特徴的な皮疹と痛みが主体です。

前駆症状

帯状疱疹の発症前には、倦怠感や発熱などの全身症状に加え、皮疹が出現する部位に痛みや異常感覚が先行して現れることがあり、この前駆症状は、数日から1週間ほど続きます。

症状特徴
倦怠感体のだるさ、疲労感が現れる
発熱37〜38度程度の発熱が見られる
痛み皮疹部位に先行して痛みが出現
異常感覚皮疹部位にしびれや違和感を自覚

皮疹の特徴

帯状疱疹の最も特徴的な症状は、片側性に集団で現れる皮疹です。

皮疹は、神経の走行に沿って帯状に分布し、小水疱が集簇して生じます。

皮疹の経過

  1. 紅斑(赤い斑点)が出現
  2. 紅斑上に小水疱が多発
  3. 水疱は膿疱化し、痂皮(かさぶた)を形成
  4. 痂皮が落ち、色素沈着を残して治癒

皮疹の出現部位は、胸部や腹部に多く見られますが、顔面や四肢に生じることもあります。

部位頻度
胸部50%
腹部20%
顔面15%
四肢15%

痛みの特徴

帯状疱疹に伴う痛みは、皮疹の前駆症状として現れるほか、皮疹出現中や治癒後も持続します。

痛みの性質は、灼熱痛や電撃痛など、神経障害性疼痛です。 高齢者では、痛みが長期化し、帯状疱疹後神経痛へ移行するリスクが高くなります。

その他の症状

状況によっては、以下のような合併症状を伴うこともあります。

  • 眼症状(結膜炎、角膜炎、ぶどう膜炎など)
  • 顔面神経麻痺(ハント症候群)
  • 髄膜炎
  • 脳炎

帯状疱疹は特徴的な皮疹と痛みを主体とする感染症ですが、時に重篤な合併症を引き起こすこともあります。

帯状疱疹の原因・感染経路

帯状疱疹は、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化が原因で発症する感染症です。

初感染と潜伏

多くの人は、子供の頃に水痘(みずぼうそう)を通してVZVに初めて感染します。

その後、ウイルスは神経節に潜み、長い期間にわたって不活性な状態で存在します。

初感染時の病気潜伏場所
水痘神経節

再活性化のトリガー

潜伏していたVZVは、加齢や免疫力の低下などがきっかけとなって再活性化することがあり、再活性化したウイルスは、神経に沿って皮膚まで移動し、帯状疱疹を引き起こします。

  • ストレス
  • 疲労
  • 腫瘍
  • 免疫抑制剤の使用

感染経路

帯状疱疹の水疱から漏れ出た液には、感染力のあるウイルスが含まれていて、水疱液に直接触れたり、ウイルスを含んだ飛沫を吸い込んだりすることで、VZVに感染するおそれがあります。

感染源感染経路
帯状疱疹の水疱液直接接触、飛沫

感染のリスク

ただし、帯状疱疹に罹った人から直接VZVに感染する危険性は比較的低いと言われています。

多くの成人が既に水痘を経験しているため、ある程度の免疫を持っているからです。

診察(検査)と診断

帯状疱疹の診断には、特有の症状の観察と、状況に応じた検査の実施が求められます。

臨床症状による診断

帯状疱疹に特徴的なのは、片側に限局した痛みと皮疹の出現で、皮疹は時間とともに、紅斑、丘疹、水疱、膿疱、痂皮へと変化していきます。

これらの症状と皮疹の分布パターンを確認することで、臨床的に帯状疱疹と診断が可能です。

観察項目特徴
痛みの性質片側性、灼熱感、チクチク感
皮疹の種類紅斑、丘疹、水疱、膿疱、痂皮

検査による確定診断

臨床症状のみでは確定診断が難しいケースや、重症例では検査による確定診断が必要です。

主な検査法

  • 血清抗体価測定:ペア血清での抗体価の有意な上昇を確認
  • ウイルス分離:水疱内容物からウイルスを分離
  • PCR法:水疱内容物、血液、髄液などからウイルスDNAを検出
検査法検体の種類
血清抗体価測定血清
ウイルス分離水疱内容物
PCR法水疱内容物、血液、髄液

診断のポイント

帯状疱疹の診断において押さえるべきポイントは、次の4つです。

  1. 片側性の痛みと皮疹の有無を確認すること
  2. 皮疹の分布と経時的変化を観察すること
  3. 必要に応じて適切な検査を実施すること
  4. 重症例や合併症が疑われる際は専門医へ紹介すること

的確な診察と診断を行うことで、早期の治療開始と合併症の予防が可能となります。

帯状疱疹の治療法と処方薬、治療期間

帯状疱疹の治療は、抗ウイルス薬の投与が中心です。

抗ウイルス薬は、ウイルスの増殖を抑制し、症状をやわらげるために使用されます。

抗ウイルス薬の種類と特徴

代表的な抗ウイルス薬は、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルなどです。

これらの薬は、ウイルスのDNA合成を阻害することにより、ウイルスの増殖を抑制します。

薬剤名投与経路用量
アシクロビル経口1回800mg, 1日5回
バラシクロビル経口1回1000mg, 1日3回
ファムシクロビル経口1回500mg, 1日3回

早期に治療を開始することが重要で、発症から48時間以内に投与を開始することが推奨されています。

治療期間と注意点

抗ウイルス薬の治療期間は、通常7〜10日間ですが、患者さんの状態によっては、治療期間を延長する必要もあります。

治療中の注意点

  • 十分な休養をとること
  • 栄養バランスの取れた食事をとること
  • 皮膚の清潔を保つこと

鎮痛薬の使用

帯状疱疹では、神経痛による激しい痛みを伴うことがあり、鎮痛薬の使用も治療の一環です。

薬剤名投与経路用量
アセトアミノフェン経口1回500mg, 1日3〜4回
ロキソプロフェン経口1回60mg, 1日3回

鎮痛薬は、痛みをやわらげるために使用されますが、痛みの程度に応じて薬と用量を選択する必要があります。

合併症への対応

帯状疱疹では、帯状疱疹後神経痛、眼合併症、脳炎などの合併症を引き起こす可能性もあるので、注意が必要です。

予後と再発可能性および予防

帯状疱疹は正しい治療を行えば治る見込みは高いですが、再発するリスクもあるため、ワクチンによる発症予防が大切です。

帯状疱疹の治療と予後

帯状疱疹の治療は、抗ウイルス薬の投与が中心です。

早期に治療を開始することで、症状の緩和や治癒までの期間の短縮が期待でき、 多くの場合、2〜4週間で治癒します。

治療開始時期治癒までの期間
発症後72時間以内2〜3週間
発症後72時間以降3〜4週間

合併症である帯状疱疹後神経痛については、鎮痛薬などによる対症療法が行われ、大半のケースでは数ヶ月以内に良くなりますが、なかには長引く場合もあります。

帯状疱疹の再発リスク

帯状疱疹は再発することがあります。

再発率

  • 50歳未満:約5% – 50歳以上:約10%
  • 免疫抑制状態の患者:20〜30%

再発のリスク因子は、高齢、免疫抑制状態、初回発症時の重症度などです。

帯状疱疹ワクチンによる予防

帯状疱疹の予防には、ワクチン接種が有効です。 現在使用されているワクチンには以下の2種類があります。

ワクチンの種類対象年齢接種回数
生ワクチン50歳以上1回
不活化ワクチン50歳以上2回

ワクチン接種により、発症リスクを大幅に減らせます。 特に50歳以上の方や免疫抑制状態の方は、積極的にワクチン接種を検討してください。

帯状疱疹の治療における副作用やリスク

帯状疱疹の治療では、副作用やリスクに十分注意する必要があります。

抗ウイルス薬の副作用

抗ウイルス薬は、帯状疱疹の治療に用いられますが、副作用として以下のようなものがあります。

副作用症状
消化器症状悪心、嘔吐、下痢など
神経症状頭痛、めまい、眠気など

これらの副作用は、多くの場合、治療の継続に影響を与えるほど重篤ではありませんが、症状が強い場合は医師に相談してください。

帯状疱疹後神経痛の発症リスク

帯状疱疹の治療を行っても、一部の患者さんでは、帯状疱疹後神経痛を発症するリスクがあります。

帯状疱疹後神経痛は、帯状疱疹の痛みが治癒後も長期間持続する状態です。

帯状疱疹後神経痛の発症リスク

年齢発症リスク
50歳未満10%未満
50歳以上20%以上

高齢者ほど、帯状疱疹後神経痛の発症リスクが高くなることがわかります。

免疫抑制状態の患者さんへの影響

免疫抑制状態の患者さんは、帯状疱疹の重症化リスクが高いだけでなく、治療に伴う副作用のリスクも高くなります。

特に、次のような患者さんは注意が必要です。

  • がん治療中の患者さん
  • 臓器移植後の患者さん
  • HIV感染者

これらの患者さんでは、医師との綿密な連携のもと、慎重に治療を進めていくことが求められます。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

治療費の目安

帯状疱疹の治療費の目安

治療法費用
抗ウイルス薬の内服1万円〜3万円
痛み止めの処方数千円〜1万円

保険適用について

帯状疱疹の治療は、基本的に健康保険が適用されますが、自由診療で行われる治療や、先進医療に分類される治療は、保険適用外となる場合があります。

保険適用自由診療
抗ウイルス薬ワクチン接種
痛み止め漢方薬

高額療養費制度の利用

医療費が高額になった際は高額療養費制度の利用により自己負担額を抑制できます。

制度を利用するには事前申請が必要なので、医療機関や健康保険組合へ相談してください

以上

References

Dworkin RH, Johnson RW, Breuer J, Gnann JW, Levin MJ, Backonja M, Betts RF, Gershon AA, Haanpää ML, McKendrick MW, Nurmikko TJ. Recommendations for the management of herpes zoster. Clinical infectious diseases. 2007 Jan 1;44(Supplement_1):S1-26.

Yawn BP, Gilden D. The global epidemiology of herpes zoster. Neurology. 2013 Sep 3;81(10):928-30.

Patil A, Goldust M, Wollina U. Herpes zoster: a review of clinical manifestations and management. Viruses. 2022 Jan 19;14(2):192.

Schmader K. Herpes zoster in older adults. Clinical infectious diseases. 2001 May 15:1481-6.

Burgoon CF, Burgoon JS, Baldridge GD. The natural history of herpes zoster. Journal of the American Medical Association. 1957 May 18;164(3):265-9.

Donahue JG, Choo PW, Manson JE, Platt R. The incidence of herpes zoster. Archives of internal medicine. 1995 Aug 7;155(15):1605-9.

Hope-Simpson, R. Edgar. “The nature of herpes zoster: a long-term study and a new hypothesis.” (1965): 9-20.

Opstelten W, Eekhof J, Neven AK, Verheij T. Treatment of herpes zoster. Canadian Family Physician. 2008 Mar 1;54(3):373-7.

Schmader KE, Dworkin RH. Natural history and treatment of herpes zoster. The journal of pain. 2008 Jan 1;9(1):3-9.

Thomas SL, Hall AJ. What does epidemiology tell us about risk factors for herpes zoster?. The Lancet infectious diseases. 2004 Jan 1;4(1):26-33.

免責事項

当記事は、医療や介護に関する情報提供を目的としており、当院への来院を勧誘するものではございません。従って、治療や介護の判断等は、ご自身の責任において行われますようお願いいたします。

当記事に掲載されている医療や介護の情報は、権威ある文献(Pubmed等に掲載されている論文)や各種ガイドラインに掲載されている情報を参考に執筆しておりますが、デメリットやリスク、不確定な要因を含んでおります。

医療情報・資料の掲載には注意を払っておりますが、掲載した情報に誤りがあった場合や、第三者によるデータの改ざんなどがあった場合、さらにデータの伝送などによって障害が生じた場合に関しまして、当院は一切責任を負うものではございませんのでご了承ください。

掲載されている、医療や介護の情報は、日付が付されたものの内容は、それぞれ当該日付現在(又は、当該書面に明記された時点)の情報であり、本日現在の情報ではございません。情報の内容にその後の変動があっても、当院は、随時変更・更新することをお約束いたしておりませんのでご留意ください。