角膜ヘルペス(herpetic keratitis)とは、単純ヘルペスウイルス(HSV)が眼に感染することで発症する眼疾患です。
HSVは、口唇ヘルペスや性器ヘルペスの原因ウイルスとして知られていますが、眼への感染も起こり得ます。
角膜ヘルペスの場合、HSVが角膜に感染し炎症や潰瘍を引き起こすことで発症し、目の痛みや充血、かすみ目、視力の低下といった症状が現れるのが特徴です。
角膜ヘルペスを放置すると最悪の場合失明につながる恐れもあります。
角膜ヘルペスの種類(病型)
角膜ヘルペスには、上皮型、実質型、内皮型、混合型の4つのタイプがあり、タイプによって症状や重症度が異なります。
上皮型角膜ヘルペス
上皮型角膜ヘルペスは、角膜の最も表面にある上皮層に感染が起こるタイプです。
初期症状として、眼の異物感や流涙、羞明などがみられます。 角膜上皮に樹枝状の病変を形成するのが特徴的です。
病型 | 感染部位 |
上皮型 | 角膜上皮 |
実質型 | 角膜実質 |
実質型角膜ヘルペス
実質型角膜ヘルペスは、角膜の中間層である実質に感染が及ぶタイプです。 炎症が強く、角膜の混濁や浮腫を引き起こし、視力低下や眼痛を伴います。
内皮型角膜ヘルペス
内皮型角膜ヘルペスは、角膜の最も内側の内皮層に感染が生じるタイプです。
内皮細胞の機能低下により、角膜の透明性が失われ、 角膜浮腫による視力低下が見られます。
- 上皮型:角膜上皮に感染
- 実質型:角膜実質に感染
- 内皮型:角膜内皮に感染
混合型角膜ヘルペス
混合型角膜ヘルペスは、上皮型、実質型、内皮型のうち複数のタイプが合併する病型のことです。
複数の層に感染が及ぶため、重症化しやすい傾向にあります。
病型 | 主な症状 |
内皮型 | 角膜浮腫、視力低下 |
混合型 | 複雑な症状、重症化リスク高い |
角膜ヘルペスの主な症状
角膜ヘルペスは、目の表面を覆っている角膜に単純ヘルペスウイルスが感染することによって発症し、さまざまな眼症状を引き起こします。
角膜ヘルペスの代表的な症状
角膜ヘルペスの症状は、ウイルスの感染部位や感染の程度によって異なりますが、以下のような症状が代表的です。
- 目の痛み・不快感
- 眼の充血
- 目やにの増加
- かすみ目・視力低下
- 羞明(眩しさを感じる)
こうした症状は、単純ヘルペスウイルスが角膜表面で増殖することによって引き起こされます。
感染初期においては軽度の症状のみですが、感染が進行するにつれて症状は悪化の一途を辿ることに。
症状 | 説明 |
目の痛み・不快感 | 眼球や眼瞼に触れるだけで痛みを感じる |
眼の充血 | 眼球結膜や眼瞼結膜が赤く腫れる |
角膜の炎症と潰瘍形成
角膜ヘルペスが進行すると、角膜の炎症が悪化し、角膜に潰瘍が形成されることがあります。
角膜潰瘍は、角膜の実質が融解・欠損してくぼみができた状態のことです。
角膜潰瘍ができると、強い眼痛や視力低下を引き起こします。
重症化すると、角膜穿孔や失明につながる危険性もあるため注意が必要です。
角膜知覚低下と角膜混濁
角膜ヘルペスの再発を繰り返すと、角膜の知覚神経が障害され、角膜知覚の低下が起こります。
角膜知覚の低下があると、異物感や目の乾燥感が減弱するため、眼表面の異常に気づきにくくなることも。
また、炎症の繰り返しにより角膜の透明性が失われ、角膜混濁が生じることがあります。
角膜混濁は、角膜が白く濁った状態を指し、視力の大幅な低下の原因です。
病態 | 症状 |
角膜知覚低下 | 異物感や乾燥感の減弱 |
角膜混濁 | 視力の大幅な低下 |
角膜ヘルペスの原因・感染経路
角膜ヘルペスは口唇ヘルペスの原因ウイルスでもある、単純ヘルペスウイルスHSV-1型の感染によって引き起こされます。
HSV-1型ウイルスによる感染
HSV-1型ウイルスへの感染は、感染者との直接的な接触や、ウイルスに汚染された物品を介して起こります。
感染経路
- 感染者とのキス
- 感染者との性的接触
- 感染者が使用したタオルやコンタクトレンズの共有
ウイルスの潜伏と再活性化
HSV-1型ウイルスは初感染後、神経節に潜伏し、潜伏しているウイルスは特定の要因により再活性化することがあります。
再活性化要因 | 説明 |
ストレス | 心理的・身体的ストレスにより免疫力が低下し、ウイルスが再活性化する |
発熱 | 高熱により免疫力が低下し、ウイルスが再活性化する |
紫外線 | 過度な日光暴露により、ウイルスが再活性化する |
再活性化したウイルスは神経を介して角膜に到達し、角膜ヘルペスを引き起こします。
初感染と再発
角膜ヘルペスはHSV-1型ウイルスの初感染により発症する場合もありますが、多くは潜伏しているウイルスの再活性化にる再発です。
再発は初感染から数年後に起こるケースもあります。
感染タイプ | 特徴 |
初感染 | ウイルスに初めて感染することにより発症する |
再発 | 潜伏しているウイルスが再活性化することにより発症する |
診察(検査)と診断
角膜ヘルペスの診断には、問診、視力検査、細隙灯顕微鏡検査、角膜知覚検査、眼圧測定などが実施され、さらに、確定診断のためにPCR検査や抗原検出検査が用いられることもあります。
問診と視力検査
問診では、症状の発現時期や経過、既往歴、薬剤使用歴などを詳しく聞き、 視力検査では、感染によってどの程度視力が低下しているのかを評価します。
細隙灯顕微鏡検査
細隙灯顕微鏡検査では、角膜の状態を詳細に観察し、 角膜上皮の欠損、実質の浮腫や混濁、血管新生などの所見を確認します。
所見 | 意味 |
上皮欠損 | ウイルスによる上皮細胞の破壊 |
実質の浮腫・混濁 | 炎症による角膜の透明性低下 |
角膜知覚検査と眼圧測定
角膜知覚検査では、角膜の感覚が低下していないかを調べます。 眼圧測定は、続発する可能性がある緑内障の有無を確認するための検査です。
確定診断のための検査
確定診断には、以下のような検査が行われることがあります。
検査法 | 特徴 |
PCR検査 | 高感度でウイルスの型まで判別可能 |
抗原検出検査 | 迅速に結果が得られる |
角膜ヘルペスの治療法と処方薬、治療期間
角膜ヘルペスの治療では、抗ウイルス薬の使用が非常に大切です。
抗ウイルス薬はウイルスの増殖を抑制し、感染拡大を防ぐ効果があります。
抗ウイルス薬の種類
角膜ヘルペスの治療に使用される主な抗ウイルス薬は次のようなものがあります。
薬剤名 | 投与経路 |
アシクロビル | 経口 |
バラシクロビル | 経口 |
ファムシクロビル | 経口 |
ガンシクロビル | 点眼 |
これらの薬剤はウイルスのDNA合成を阻害することで、ウイルスの増殖を抑制します。
抗ウイルス薬の投与期間
抗ウイルス薬の投与期間は症状の重症度や患者さんの状態によって異なりますが、一般的には次のような期間が目安です。
– 初発感染の場合は2〜3週間
– 再発感染の場合は1〜2週間
ただし重症例や合併症を伴う場合は、より長期の投与が必要になることもあります。
その他の治療法
抗ウイルス薬以外の治療法が用いられる場合があります。
治療法 | 目的 |
ステロイド点眼薬 | 炎症抑制 |
抗菌点眼薬 | 二次感染予防 |
眼圧下降薬 | 緑内障治療 |
定期的な経過観察の必要性
角膜ヘルペスの治療では定期的な経過観察が重要です。
治療中は症状の改善状況や副作用の有無などを確認するため、定期的な通院が必要で、治療終了後も再発リスクが高いことから、定期的な検診を受けてください。
予後と再発可能性および予防
感染症の一種である角膜ヘルペスの治療予後は概ね良好ですが、再発リスクがあるため予防対策を講じることが大切です。
治療の予後
角膜ヘルペスの治療は主に抗ウイルス薬の点眼・内服、ステロイド点眼薬の使用などが中心です。
早期の診断と治療開始により、多くの症例で症状改善と視力回復が見込めます。
一方で重症化したり治療が遅れたりすると角膜混濁や血管新生などの合併症により視力低下や失明のリスクが生じ得ます。
治療開始時期 | 予後 |
早期 | 良好 |
遅延 | 視力低下や失明のリスク |
再発のリスク
角膜ヘルペスは一度の感染でウイルスが神経節に潜伏し再発を繰り返す可能性があります。
再発リスクを高める要因
- ストレス
- 疲労
- 紫外線曝露
- 免疫力の低下
再発リスク因子 | 対策 |
ストレス | ストレス管理 |
疲労 | 十分な休養 |
紫外線曝露 | サングラスの着用 |
免疫力低下 | バランスの取れた食事と適度な運動 |
予防対策
角膜ヘルペス予防に有効な対策
- 衛生的な手洗いの徹底
- コンタクトレンズの適切な使用と管理
- 目薬の衛生的な使用
- 体調管理とストレス対策
- 定期的な眼科検診
これらの予防対策を日常的に実践することで角膜ヘルペスの感染や再発リスクを下げられます。
早期発見と治療の重要性
角膜ヘルペスの予後改善と再発防止には早期発見と治療が欠かせません。
目の異常や違和感を感じたらすぐに眼科医の診察を受け適切な診断と治療を受けることが必要です。
定期的な眼科検診も角膜ヘルペスの早期発見に役立ちます。
角膜ヘルペスの治療における副作用やリスク
角膜ヘルペスの治療を行う際は、副作用やリスクが生じる可能性があります。
抗ウイルス薬の副作用
抗ウイルス薬は角膜ヘルペスの治療に用いられますが、いくつかの副作用があります。
副作用 | 症状 |
消化器症状 | 悪心、嘔吐、下痢など |
皮膚症状 | 発疹、かゆみなど |
副作用は治療を続けることで徐々に改善することが多いですが、重篤な場合は医師への相談が必要です。
また、抗ウイルス薬の長期使用により、薬剤耐性ウイルスが出現するリスクがあります。
定期的な経過観察を行い、必要に応じて治療薬を変更することが大切です。
ステロイド点眼薬の副作用
角膜ヘルペスによる炎症を抑えるために、ステロイド点眼薬が使用されることがありますが、ステロイド点眼薬の使用には注意が必要です。
生じる可能性がある副作用
- 眼圧上昇
- 白内障の進行
- 感染症の悪化
ステロイド点眼薬を使用する際は、医師の指示に従い、定期的な眼圧検査を受けます。
検査項目 | 検査間隔 |
眼圧検査 | 2〜4週間ごと |
細隙灯顕微鏡検査 | 1〜3ヶ月ごと |
手術療法のリスク
重症の角膜ヘルペスでは、角膜移植などの手術療法が検討されることがあります。
手術療法には、以下のようなリスクが伴います。
- 感染症
- 拒絶反応
- 移植片脱落
- 術後の屈折異常
手術療法を選択する際は、リスクとベネフィットを十分に検討し、術後の定期的な経過観察が不可欠です。
治療後の再発リスク
角膜ヘルペスは、治療後も再発するリスクがあります。
再発を予防するための注意点
- ストレス管理
- 睡眠不足の解消
- 紫外線対策
- 眼の過度の使用を避ける
再発を早期に発見し、治療を行うことで、角膜への悪影響を最小限に抑えられます。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
初期治療費用
初期の治療では、抗ウイルス薬を点眼したり内服したり、あるいはステロイドの点眼などが実施されます。
治療内容 | 費用目安 |
抗ウイルス薬点眼 | 5,000円~10,000円/月 |
抗ウイルス薬内服 | 10,000円~20,000円/月 |
再発予防費用
角膜ヘルペスというのは再発しやすいので、再発を予防するために抗ウイルス薬を投与することがあります。
再発予防の薬にかかる費用は、1ヶ月あたり1万円前後です。
手術費用
症状が重かったり再発を繰り返したりする患者さんの場合、角膜を移植する手術が検討されることがあります。
角膜移植の手術にかかる費用
- 角膜移植手術そのもの:150万円~200万円
- 手術後に使用する薬:5万円~10万円(1年間分)
- 手術後の定期検査:1回3万円~5万円
手術内容 | 費用目安 |
全層角膜移植 | 1,500,000円~2,000,000円 |
深層表層角膜移植 | 1,200,000円~1,800,000円 |
公的助成制度
角膜ヘルペスの治療費用は高額になることがありますが、医療保険の高額療養費制度を使ったり、自治体が行っている医療費助成制度を利用したりすることにより、自己負担を減らせます。
以上
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