風疹 – 感染症

風疹(rubella)とは、風疹ウイルスを原因とする非常に感染力の強い、急性の発疹性疾患で、主な症状として発熱、リンパ節の腫脹、特徴的な赤い発疹です。

妊娠初期の女性が罹患した際には、胎児に対する悪影響が懸念されます。

ただし、風疹は予防接種によって予防することが可能です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

風疹の種類(病型)

風疹は先天性風疹症候群と後天性風疹の2つの病型に分類されます。

先天性風疹症候群は妊娠中の女性が風疹に感染した場合に発症し、胎児に重大な影響を及ぼす可能性があります。

先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome, CRS)

先天性風疹症候群は、妊娠初期(特に妊娠20週までの感染)の女性が風疹ウイルスに感染した場合に発症する先天性の疾患です。

感染時期が妊娠初期であるほど、胎児への影響が大きくなります。

感染時期先天性風疹症候群のリスク
妊娠4週以内50-90%
妊娠8週以内10-20%
妊娠12週以内5-10%
妊娠16週以内1-5%

先天性風疹症候群の主な特徴

  • 先天性心疾患(動脈管開存症、心室中隔欠損症など)
  • 難聴(感音性難聴)
  • 白内障や緑内障などの眼疾患
  • 精神運動発達遅滞
  • 低出生体重児
  • 血小板減少性紫斑病
  • 肝脾腫
  • 間質性肺炎

これらの症状は、感染時期が早いほど重症化しやすい傾向があります。

先天性風疹症候群は、出生後も長期的な影響を及ぼすことがあり、定期的な経過観察が必要です。

後天性風疹(Postnatal Rubella)

後天性風疹は、生後に風疹ウイルスに感染した場合に発症する疾患です。

潜伏期間は14~21日で、ウイルス血症の時期を経て発症し、多くの場合、軽症で自然治癒しますが、時に重症化することがあります。

年齢後天性風疹の症状
乳幼児発疹、発熱、リンパ節腫脹
学童期発疹、発熱、リンパ節腫脹、関節痛
成人発疹、発熱、リンパ節腫脹、関節痛、関節炎

後天性風疹の一般的な経過

  1. 前駆期(1~5日間):軽度の上気道炎症状、倦怠感、食欲不振など
  2. 発疹期(3~7日間):全身性の紅斑性丘疹、リンパ節腫脹、発熱
  3. 回復期:発疹の消退、症状の改善

後天性風疹の合併症

  • 脳炎、髄膜炎
  • 血小板減少性紫斑病
  • 肝機能障害
  • 急性肺炎
  • 急性関節炎(成人女性に多い)

風疹の主な症状

風疹の主な症状は発熱、発疹、リンパ節の腫れなどです。

発熱

風疹に感染した場合、まず発熱が現れるケースが多く、38度程度の発熱が数日間続きます。

発疹

発熱の後に、発疹が出るのが風疹の特徴の一つです。

特徴説明
ピンク色や赤色
大きさ直径2〜4mmの小さな斑点状
出現部位顔面、体幹、四肢に広がる

発疹は数日で消えますが、強いかゆみを伴うことがあります。

リンパ節の腫れ

風疹に感染すると、リンパ節が腫れることがあります。

特に腫れやすいリンパ節

リンパ節腫れやすさ
耳の後ろ
首の後ろ
後頭部

※◎:非常に腫れやすい、○:腫れやすい

その他の症状

風疹では、上記の主な症状以外にも、以下のような症状が出る可能性があります。

  • 倦怠感
  • 関節痛
  • 筋肉痛
  • 目の充血

これらの症状は風疹に特有ではありませんが、風疹に感染した時に見られることがあります。

風疹は感染力が強く、ワクチン接種や過去の感染歴がない人は感染リスクが高くなります。

妊娠初期の女性が風疹に感染すると、胎児に先天性風疹症候群を引き起こす危険性があるため、特に注意が必要です。

風疹の原因・感染経路

風疹はルベラウイルスによって引き起こされる感染症で、主に飛沫感染や接触感染によって伝播されます。

ルベラウイルスとは

ルベラウイルスはトガウイルス科に属する一本鎖RNAウイルスです。

ウイルス属性詳細
分類トガウイルス科ルビウイルス属
ゲノム一本鎖RNAウイルス
感染宿主ヒトのみ

飛沫感染と接触感染

風疹ウイルスの感染経路

  1. 飛沫感染:感染者のくしゃみや咳、会話などで生じる飛沫に含まれるウイルスを吸い込むことで感染。
  2. 接触感染:ウイルスに汚染された手や物品などを介して、口や鼻、目の粘膜からウイルスが侵入し感染。

特に感染初期の発症前から発疹出現後数日間は感染力が強いため、この時期の感染者との接触は感染リスクが高くなります。

感染経路リスク
飛沫感染高い
接触感染比較的高い

母子感染

妊娠初期の女性が風疹に感染すると、経胎盤感染により胎児が先天性風疹症候群を発症する可能性があります。

胎児への影響は妊娠週数が早いほど大きく、妊娠20週以降の感染では先天性風疹症候群のリスクは低くなります。

そのため、妊娠を希望する女性や妊娠初期の女性は風疹の感染に十分注意することが必要です。

ウイルスの排泄と感染力

風疹ウイルスは感染者の咽頭や血液、尿中に排泄され、それらを介しても感染が広がる可能性があります。

しかし、これらの経路による感染力は飛沫感染や接触感染と比べると低いです。

また、発症後の回復期には徐々にウイルス排泄量が減少し、感染力も低下していきます。

診察(検査)と診断

風疹を診断するには、特徴的な症状を確認し、検査で確定診断を行うことが重要です。

風疹の特徴的な症状

風疹の特徴的な症状には、発熱、リンパ節腫脹、発疹などがあります。

風疹の検査方法

風疹の確定診断を行うには、血液検査や遺伝子検査が用いられます。

検査方法検査内容
血液検査風疹ウイルスに対する抗体の有無を調べる
遺伝子検査風疹ウイルスの遺伝子を検出する

風疹の臨床診断

風疹の臨床診断は、特徴的な症状と検査結果を総合的に判断して行われます。

  • 発熱の有無と程度
  • リンパ節腫脹の部位と大きさ
  • 発疹の形状と分布

風疹の確定診断

風疹の確定診断は、血液検査や遺伝子検査の結果に基づいて行われます。

診断方法診断基準
血液検査風疹ウイルスに対するIgM抗体の検出
遺伝子検査風疹ウイルスの遺伝子の検出

風疹の治療法と処方薬、治療期間

風疹を治療する際は、主に症状をやわらげる対症療法が中心となり、十分な休養と医師が処方する薬で症状改善を目指します。

多くの場合、特殊な治療は必要なく、自然治癒するケースがほとんどです。

対症療法による治療

風疹の治療では、発熱や発疹などの症状をやわらげるための対症療法が主に行われます。

アセトアミノフェンやイブプロフェンといった解熱鎮痛剤が処方されるケースが多いです。

また、発疹によるかゆみがある場合は、抗ヒスタミン薬が処方されることもあります。

抗ウイルス薬の使用

一般的に、風疹に対する特異的な抗ウイルス薬はありません。

ただし、免疫力が低下している患者や合併症のリスクが高い患者さんについては、医師の判断で抗ウイルス薬が処方される場合があります。

代表的な抗ウイルス薬は、リバビリンです。

リバビリンの使用は慎重に検討される必要があり、副作用のリスクと治療効果のバランスを考慮したうえで決定されます。

薬剤名主な効果
アセトアミノフェン解熱鎮痛
イブプロフェン解熱鎮痛・抗炎症
抗ヒスタミン薬かゆみの緩和
リバビリンウイルスの増殖抑制

治療期間と経過観察

風疹の治療期間は、通常1〜2週間程度です。 この間、患者さんは安静を保ち、体調の変化に注意を払う必要があります。

風疹の治療において、医師が特に注意を払うポイント

  • 症状の緩和と患者さんの不快感の軽減
  • 合併症の早期発見
  • 免疫力の低下した患者さんへの慎重な対応
  • 妊婦への影響の評価と管理
診察項目内容
症状の確認発熱、発疹、リンパ節腫脹などの確認
検査血液検査、ウイルス学的検査など
合併症の評価肺炎、脳炎などの合併症の有無を確認
治療方針の決定対症療法、抗ウイルス薬の使用など

予後と再発可能性および予防

風疹から回復した後の経過は良好で、再発リスクは低いですが、予防策を講じることが大切です。

風疹の予後

風疹は一般的に予後良好な疾患で、合併症がなければ、自然に治癒することがほとんどです。

予後内容
良好合併症がない場合、自然治癒する
注意が必要合併症がある場合、後遺症が残る可能性がある

ただし、妊婦が感染した場合は、胎児に先天性風疹症候群を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。

風疹の再発可能性

風疹は一度感染すると、生涯免疫を獲得するため、再発することはほとんどありません。

再発可能性理由
低い一度感染すると生涯免疫を獲得する
ほとんどない免疫が長期間持続する

ただし、免疫が低下した場合は、まれに再感染することがあります。

風疹の予防方法

風疹の予防には、ワクチン接種が求められます。

  • – 定期予防接種として、1歳と小学校就学前の2回接種
  • – 妊娠を希望する女性は、風疹抗体検査を受け、必要に応じて予防接種

風疹の治療における副作用やリスク

風疹の治療および予防において、副作用やリスクを十分に理解することが欠かせません。

風疹治療薬の副作用

風疹の治療に用いられる抗ウイルス薬には、いくつかの副作用が報告されています。

薬剤名主な副作用
リバビリン貧血、白血球減少、血小板減少
インターフェロンα発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛

これらの副作用は、患者さんの状態によっては重篤な合併症につながる恐れがあるため、医師による綿密なモニタリングが欠かせません。

患者さんの年齢や基礎疾患、合併症の有無などを考慮し、副作用のリスクと治療効果のバランスを慎重に評価することが必要です。

免疫抑制状態における風疹感染のリスク

免疫抑制状態にある患者が風疹に感染した際は、重症化するリスクが高くなります。

以下のような免疫抑制状態では特に注意が必要です。

  • 悪性腫瘍に対する化学療法中の患者
  • 臓器移植後の免疫抑制療法中の患者
  • HIV感染者

これらの患者さんでは、風疹感染による合併症のリスクを十分に考慮し、予防接種が推奨されます。

妊婦における風疹感染のリスク

妊娠初期の女性が風疹に感染した場合、先天性風疹症候群のリスクが高くなります。

感染時期先天性風疹症候群のリスク
妊娠0〜12週50〜90%
妊娠13〜16週10〜20%

先天性風疹症候群は、難聴、心疾患、白内障などの重篤な合併症を引き起こす恐れがあるため、妊婦における風疹感染は特に注意が必要となります。

妊娠前のワクチン接種による予防が最も有効な対策です。

ワクチン接種の副反応

風疹ワクチンの接種により、一部の人では副反応が生じる可能性があります。

主な副反応

  • 接種部位の発赤、腫脹、疼痛
  • 発熱
  • 発疹
  • リンパ節腫脹

ただし、これらの副反応は一般的に軽度であり、自然に回復することがほとんどです。

極めてまれではありますが、アナフィラキシーショックなどの重篤な副反応が生じる可能性もあるため、ワクチン接種後は一定期間の観察が欠かせません。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

初診料と再診料

風疹の診療には、初診料と再診料がかかります。

診療種別費用
初診料2,820円
再診料720円

初診時には、病歴聴取や身体診察などが行われるため、再診時よりも費用が高くなります。

検査費

風疹の診断には、血液検査が必要です。

検査項目費用
風疹IgM抗体検査2,000円~3,000円
風疹IgG抗体検査2,000円~3,000円

処置費

風疹の治療では、対症療法が中心です。

発熱に対しては解熱剤、発疹に対してはかゆみ止めの薬が処方されることがあります。

これらの処置費は、薬剤費として数百円から数千円程度かかります。

入院費

重症の風疹や合併症がある場合は、入院治療が必要となることがあります。

入院費は、1日あたり数万円から十数万円程度です。

以上

References

Banatvala JE, Brown DW. Rubella. The Lancet. 2004 Apr 3;363(9415):1127-37.

Lambert N, Strebel P, Orenstein W, Icenogle J, Poland GA. Rubella. The Lancet. 2015 Jun 6;385(9984):2297-307.

Best JM. Rubella. InSeminars in fetal and neonatal medicine 2007 Jun 1 (Vol. 12, No. 3, pp. 182-192). WB Saunders.

Winter AK, Moss WJ. Rubella. The Lancet. 2022 Apr 2;399(10332):1336-46.

Robertson SE, Featherstone DA, Gacic-Dobo M, Hersh BS. Rubella and congenital rubella syndrome: global update. Revista Panamericana de salud publica. 2003;14:306-15.

Best JM, Banatvala JE. Rubella. Principles and practice of clinical virology. 1999 Oct 28:387-418.

Cooper LZ. The history and medical consequences of rubella. Clinical Infectious Diseases. 1985 Mar 1;7(Supplement_1):S2-10.

Dontigny L, Arsenault MY, Martel MJ, Biringer A, Cormier J, Delaney M, Gleason T, Leduc D, Penava D, Polsky J, Roggensack A. Rubella in pregnancy. Journal of Obstetrics and Gynaecology Canada. 2008 Feb 1;30(2):152-8.

Cooper LZ, Ziring PR, Ockerse AB, Fedun BA, Kiely B, Krugman S. Rubella: clinical manifestations and management. American journal of diseases of children. 1969 Jul 1;118(1):18-29.

Witte JJ, Karchmer AW, Case G, Herrmann KL, Abrutyn E, Kassanoff I, Neill JS. Epidemiology of rubella. American Journal of Diseases of Children. 1969 Jul 1;118(1):107-11.

免責事項

当記事は、医療や介護に関する情報提供を目的としており、当院への来院を勧誘するものではございません。従って、治療や介護の判断等は、ご自身の責任において行われますようお願いいたします。

当記事に掲載されている医療や介護の情報は、権威ある文献(Pubmed等に掲載されている論文)や各種ガイドラインに掲載されている情報を参考に執筆しておりますが、デメリットやリスク、不確定な要因を含んでおります。

医療情報・資料の掲載には注意を払っておりますが、掲載した情報に誤りがあった場合や、第三者によるデータの改ざんなどがあった場合、さらにデータの伝送などによって障害が生じた場合に関しまして、当院は一切責任を負うものではございませんのでご了承ください。

掲載されている、医療や介護の情報は、日付が付されたものの内容は、それぞれ当該日付現在(又は、当該書面に明記された時点)の情報であり、本日現在の情報ではございません。情報の内容にその後の変動があっても、当院は、随時変更・更新することをお約束いたしておりませんのでご留意ください。