マイコプラズマ肺炎 – 感染症

マイコプラズマ肺炎(Mycoplasma pneumoniae pneumonia)とは、マイコプラズマという細菌の仲間が引き起こす肺炎のことです。

マイコプラズマは細胞壁を持たない非常に小さな微生物であり、一部の抗生物質が効きづらいという性質を持っています。

このマイコプラズマ肺炎は、主に学童期から青年期にかけての年代で多く見られ、秋から冬にかけての時期に流行しやすいです。

症状は、発熱や咳、頭痛、倦怠感などの呼吸器に関連した症状が中心ですが、重症化すると呼吸困難や胸水が溜まるなどの合併症を引き起こす可能性もあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

マイコプラズマ肺炎の種類(病型)

マイコプラズマ肺炎は大きく分けると4つの病型に分類できます。

病型ごとに主な症状や臨床経過が異なるので、正確に病型を把握することが診断と治療に欠かせません。

上気道炎型

上気道炎型はマイコプラズマ肺炎の中でも比較的軽症な病型の1つとされています。 鼻咽頭炎や咽頭炎など上気道の炎症症状が主体となるのが特徴です。

発熱や咳嗽などの全身症状が伴うこともありますが、多くの場合は軽度で済みます。

上気道炎型のマイコプラズマ肺炎は自然に軽快することも少なくありません。

病型主な症状重症度
上気道炎型鼻咽頭炎、咽頭炎など軽症〜中等症
気管支炎型咳嗽、喀痰など中等症

気管支炎型

気管支炎型は気管支の炎症が主体となるマイコプラズマ肺炎の病型で、 咳嗽や喀痰など気管支炎の症状が前面に立つことが多いです。

発熱や全身倦怠感なども伴うことがあり、中等症の経過をたどるケースが少なくありません。

気管支炎型のマイコプラズマ肺炎は治療を行わないと、遷延化や重症化のリスクがあります。

肺炎型

肺炎型はマイコプラズマ肺炎の中で最も頻度が高く、重症化しやすい病型で、肺胞の炎症を伴い、明らかな肺炎の症状を示します。

  • 高熱
  • 激しい咳嗽
  • 呼吸困難
  • 全身倦怠感
  • 胸部X線での肺野の異常陰影

などの症状や所見がみられることがあります。 重症例では呼吸不全に陥ることもあり、入院治療が必要となるケースも少なくありません。

病型主な症状重症度
肺炎型高熱、激しい咳嗽、呼吸困難など中等症〜重症
間質性肺炎型乾性咳嗽、呼吸困難など中等症〜重症

間質性肺炎型

間質性肺炎型は肺胞ではなく肺間質の炎症が主体となるやや珍しい病型で、 乾性咳嗽や呼吸困難など間質性肺炎の症状を示すことが多いです。

発熱や全身症状を伴うこともあり、中等症〜重症の経過をたどるケースがあります。

間質性肺炎型のマイコプラズマ肺炎は診断と治療が遅れると、予後不良となるリスクがあります。

マイコプラズマ肺炎の主な症状

マイコプラズマ肺炎は、発熱、咳、頭痛、倦怠感、などの症状を引き起こします。

発熱

マイコプラズマ肺炎の初発症状として最も頻繁に見られるのは発熱で、患者さんの大半が38度を超える高熱を発します。

症状発生頻度
38度以上の発熱90%以上
37度台の微熱10%未満

発熱は数日から1週間程度持続することが多く、解熱剤を使っても完全に下がらないことがあります。

マイコプラズマ肺炎の症状の中でも、咳は非常に特徴的です。 発症初期は空咳が主ですが、次第に痰を伴うようになります。

  • 空咳から始まり、徐々に痰が出るようになる
  • 夜間や早朝に咳が激しくなることが多い
  • 咳は2週間以上続くことがある

咳は病状の回復に伴って徐々に良くなっていきますが、完治までに時間がかかります。

頭痛

マイコプラズマ肺炎患者さんの多くが頭痛を訴え、頭痛は発熱に伴って現れることが多く、時にかなり強い症状となります。

部位痛みの種類
前頭部ズキズキする痛み
側頭部締め付けられるような痛み

頭痛は解熱とともに改善傾向を示しますが、症状が長引くこともあります。

倦怠感

マイコプラズマ肺炎に感染すると、全身の倦怠感を強く感じることがあります。

この倦怠感は病状の回復に伴って徐々に和らいでいきますが、完全に改善するまでには数週間かかることも。

マイコプラズマ肺炎の原因・感染経路

マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマ属の細菌、特にマイコプラズマ・ニューモニエが原因です。

マイコプラズマ属の細菌とは

マイコプラズマ属の細菌は、細胞壁を持たない最小の微生物であり、自己増殖能力を有しています。 このため、抗生物質の一部が効きにくいです。

マイコプラズマ属の特徴説明
細胞壁を持たない一般的な細菌とは異なる構造を持つ
最小の微生物非常に小さいサイズ
自己増殖能力あり宿主細胞内で増殖可能

マイコプラズマ・ニューモニエによる感染

マイコプラズマ肺炎の主な原因菌であるマイコプラズマ・ニューモニエは、ヒトの気道粘膜に付着し、炎症を起こします。

この炎症が気道の線毛運動を低下させ、細菌の排除を難しくすることで、感染が成立します。

マイコプラズマ・ニューモニエによる感染の特徴

  • 潜伏期間は2〜3週間程度
  • 咳や発熱などの症状が徐々に出現
  • 抗菌薬に対する反応性が乏しい
マイコプラズマ・ニューモニエ特徴
宿主ヒトのみ
感染部位主に上気道・下気道
病原性気道粘膜の炎症を引き起こす

感染経路

マイコプラズマ肺炎は、主に飛沫感染によって人から人へ伝播します。

感染者の咳やくしゃみ、会話などで生じた飛沫に含まれる菌を、他の人が吸入することで感染が成立します。

また、感染者との濃厚接触や、汚染された手指を介しての接触感染も感染経路として重要です。

感染リスクが高い場合

マイコプラズマ肺炎の感染リスクが高い状況

  • 感染者との濃厚接触がある
  • 人込みや密閉空間に長時間いる
  • 免疫力が低下している
  • 適切な手洗いや咳エチケットを実践していない

マイコプラズマ肺炎の原因であるマイコプラズマ属の細菌は、独特の構造と性質を持ち、飛沫感染や接触感染によりヒトからヒトへ伝播し、気道粘膜に炎症を起こすことで感染します。

感染リスクを減らすためには、感染予防対策の徹底が不可欠です。

診察(検査)と診断

マイコプラズマ肺炎の診断においては、患者さんの症状や身体所見、検査結果を総合的に判断することが大切です。

臨床診断では特徴的な所見から本疾患が疑われますが、確実な診断のためには各種検査が必要となります。

病歴聴取と身体診察

診察ではまず、詳細な問診を行い、マイコプラズマ肺炎に特有の症状の有無を確認し、感染リスクのある環境にいたことがないかどうかを聞き取ります。

身体所見では聴診により肺の異常音を調べ、呼吸状態や全身の様子をチェックします。

血液検査

マイコプラズマ肺炎では、白血球数や CRP などの炎症反応が高くなる傾向にあります。

加えて、特異的な血清抗体価の測定によって感染の有無を調べることも可能です。

検査項目結果の解釈
白血球数軽度上昇
CRP中等度上昇

画像検査

胸部レントゲン写真や CT 検査を用いて、肺炎の有無やその広がりを評価します。

マイコプラズマ肺炎の場合、気管支周囲の浸潤影や斑状影が特徴的な所見です。

ただし、画像だけでは他の肺炎との区別が難しいため、総合的な判断が求められます。

確定診断のための検査

確定診断のための特異的検査

  • PCR 法を用いたマイコプラズマの遺伝子検出
  • 咽頭スワブや喀痰サンプルからの菌体分離培養
  • ペア血清による抗体価の有意な上昇の確認
検査方法検体
PCR 法咽頭スワブ、喀痰
菌体分離咽頭スワブ、喀痰
血清抗体価急性期と回復期

これらの検査結果を踏まえ、最終的な診断が下されます。

マイコプラズマ肺炎の治療法と処方薬、治療期間

マイコプラズマ肺炎の治療の中心は、抗菌薬投与です。

抗菌薬治療

マイコプラズマは細菌の一種なので、抗菌薬が効果的です。

第一選択薬として、マクロライド系抗菌薬(エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)やテトラサイクリン系抗菌薬(ミノサイクリンなど)が使われます。

抗菌薬投与量(成人)投与期間
エリスロマイシン1日800〜1,200mg分3〜410〜14日
クラリスロマイシン1日400mg分210〜14日
アジスロマイシン初日500mg、2〜5日目250mg分15日

ニューキノロン系抗菌薬(レボフロキサシン、モキシフロキサシンなど)も有効ですが、小児や妊婦への使用は慎重を要します。

抗菌薬投与量(成人)投与期間
レボフロキサシン1日500mg分17〜14日
モキシフロキサシン1日400mg分17〜14日

治療期間

一般的な治療期間

  • マクロライド系抗菌薬:10〜14日間
  • テトラサイクリン系抗菌薬:10〜14日間
  • ニューキノロン系抗菌薬:7〜14日間

症状が良くなっても、再発防止のため決められた日数は服用し続けることが大切です。

治療効果の判定

治療開始から48〜72時間経っても症状の改善がみられない時や、症状が悪くなる時は、抗菌薬の変更や他の病気の可能性について検討します。

また、治療が終わった後も咳が残ることがありますが、多くの場合は時間の経過で良くなります。

入院治療

重症の方や合併症のリスクが高い方は、入院治療が必要です。 入院治療では、抗菌薬の点滴や呼吸管理、全身管理などが行われます。

予後と再発可能性および予防

マイコプラズマ肺炎は正しい治療を行えば良い経過をたどることが多いですが、再び発症する危険性も少なからずあります。

予後について

多くの場合、マイコプラズマ肺炎の予後は良好です。 抗菌薬治療を行うことで、大半の患者さんは1週間から数週間程度で回復に向かいます。

ただし、ご高齢の方や免疫力の低い方、何らかの基礎疾患がある方などは重症化しやすいです。

合併症を発症した際には、入院での治療が必要になるケースもあります。

予後良好の要因予後不良の要因
若年者高齢者
基礎疾患なし免疫力低下
早期診断・治療基礎疾患あり

再発の可能性

マイコプラズマ肺炎に一度感染しても完全な免疫が獲得できるわけではないので、再発することがあります。

特にお子様の場合、再発リスクが高いです。

予防方法

マイコプラズマ肺炎の予防法

  • 手洗いの徹底
  • 人込みを避ける
  • 十分な休養とバランスの取れた食事
  • 適度な湿度の維持
予防方法具体的な対策
手洗い石鹸でこまめに手を洗う
人込み回避感染流行時は不要不急の外出を控える
健康管理免疫力を高めるため十分な睡眠と栄養を取る
湿度調整加湿器などで適度な湿度を保つ

マイコプラズマ肺炎の治療における副作用やリスク

マイコプラズマ肺炎の治療は、抗菌薬が中心となりますが、副作用やリスクについても十分に理解しておくことが大切です。

抗菌薬の副作用

抗菌薬の副作用は、消化器症状、アレルギー反応、肝機能障害などです。

副作用の種類主な症状
消化器症状吐き気、嘔吐、下痢など
アレルギー反応皮疹、かゆみ、呼吸困難など

抗菌薬耐性菌の出現リスク

抗菌薬の不適切な使用や長期使用は、耐性菌の出現につながるリスクがあります。

耐性菌が現れると、従来の抗菌薬が効果を示さなくなり、治療が難しくなる可能性があります。

リスクの内容影響
抗菌薬耐性菌の出現従来の抗菌薬が効かなくなる事態
治療期間の長期化入院期間の延長や合併症の発生

副作用のモニタリングと早期対応

副作用のモニタリングを実施し、異常が見られた際には速やかに医療機関に相談してください。

  • 発疹や呼吸困難などのアレルギー症状の有無
  • 持続する消化器症状の確認
  • 黄疸などの肝機能障害の兆候の観察

抗菌薬の適正使用

抗菌薬の適正使用は、副作用やリスクを最小限に抑えるために欠かせません。

医療機関の指示に従い、適切な用法・用量で使用することが求められます。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

マイコプラズマ肺炎の治療費は、初診料、再診料、検査費、処置費、入院費などの項目から成り立っています。

初診料と再診料

初診料は、初めて医療機関を受診した際に支払う費用のことで、 再診料は、2回目以降の受診時に支払う費用です。

項目費用
初診料2,820円
再診料720円

検査費

マイコプラズマ肺炎の診断に必要な血液検査や画像検査などの費用です。

検査項目費用
血液検査3,000円~5,000円
胸部X線検査2,000円~3,000円
CT検査10,000円~20,000円

処置費

点滴や注射などの処置に関する費用が含まれます。

入院費

重症化した際には入院治療が必要となることがあり、その際には入院費が発生します。 入院費は、1日あたり数万円程度が目安です。

以上

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