クレブシエラ感染症(Klebsiella infection)とは、クレブシエラ属細菌によって引き起こされる感染症の総称です。
クレブシエラ属菌は、腸内細菌科に分類されるグラム陰性桿菌の一種で、通常はヒトの腸管内に常在菌として生息
しかし、病原性を獲得したクレブシエラ菌が体内に侵入し増殖することによって、尿路感染症、肺炎、肝膿瘍、敗血症などを引き起こすこともあります。
特に医療関連感染としての発症が問題視されており、基礎疾患を抱える患者さんや高齢者など免疫力の低下した方では重症化のリスクが高いです。
クレブシエラ感染症の種類(病型)
クレブシエラ感染症は、いくつかの異なる病型に分類できます。
肺炎
クレブシエラ菌による肺炎は、市中肺炎と院内肺炎の両方で見られる感染症です。
高齢者や免疫力の低下した人に多く発症し、重症化すると、呼吸不全や敗血症を引き起こすこともあります。
病型 | 特徴 |
市中肺炎 | 一般的に軽症 |
院内肺炎 | 重症化しやすい |
尿路感染症
クレブシエラ菌は、尿路感染症の主要な原因菌の一つで、特に、カテーテルを使用している患者さんや尿路に異常のある患者さんに多く見られます。
膀胱炎や腎盂腎炎を引き起こすことがあります。
敗血症
クレブシエラ菌が血流に侵入し、全身に感染が広がった状態が敗血症で、生命を脅かす重篤な病態であり、迅速な治療が必要です。
病型 | 死亡率 |
敗血症 | 20-40% |
敗血症性ショック | 50%以上 |
軟部組織感染症
クレブシエラ菌は、皮膚や軟部組織の感染症も引き起こし、 糖尿病患者さんや免疫抑制状態の患者さんに多く見られます。
- 蜂窩織炎
- 壊死性筋膜炎
- ガス壊疽
などの重篤な感染症に進展する可能性があります。
肝膿瘍
クレブシエラ菌による肝膿瘍は、東アジアで多く報告されていて、糖尿病患者さんに好発し、単発性または多発性の膿瘍を形成します。
髄膜炎
クレブシエラ菌は、髄膜炎の原因菌の一つです。 早産児や新生児、免疫抑制状態の患者さんに多く見られます。
病型 | 特徴 |
新生児髄膜炎 | 予後不良 |
成人髄膜炎 | まれ |
クレブシエラ感染症の主な症状
クレブシエラ感染症の症状は、感染部位や感染の重症度によって大きく異なります。
肺炎
クレブシエラ肺炎の症状は、発熱、咳嗽、膿性痰、胸痛などの呼吸器症状に加え、全身倦怠感や食欲不振などです。
重症例では、呼吸困難や低酸素血症が進行し、人工呼吸管理が必要となる場合もあり、高齢者や基礎疾患を有する患者さんでは、特に重症化のリスクが高くなります。
症状・所見 | 詳細 |
発熱 | 38度以上の高熱が遷延し、解熱剤に反応しにくいことがある |
膿性痰 | 黄色や緑色の膿性痰が特徴的で、血液が混じることもある |
尿路感染症
クレブシエラによる尿路感染症の症状は、頻尿、排尿時痛、残尿感などの膀胱刺激症状や、血尿、混濁尿などの尿所見異常です。
腎盂腎炎では、発熱、悪寒、背部痛などの全身症状を伴い、重症化すると敗血症や腎膿瘍に至ることもあります。
尿道カテーテル留置患者や神経因性膀胱患者さんでは、無症候性細菌尿から症候性感染症への進展に注意が必要です。
敗血症
クレブシエラ敗血症では、高熱、悪寒、頻呼吸、頻脈、血圧低下などの全身症状が急速に進行し、重篤な状態に陥ります。
播種性血管内凝固症候群(DIC)や多臓器不全を合併し、致死率が高くなる危険があるので、早期の抗菌薬治療と全身管理が重要です。
症状・所見 | 詳細 |
高熱 | 39度以上の高熱が持続し、解熱剤に反応しない |
意識障害 | 見当識障害や昏睡状態に至ることがある |
軟部組織感染症
クレブシエラによる軟部組織感染症の症状は、発赤、腫脹、熱感、疼痛などの局所炎症症状です。
外傷や手術創からの感染では、創部の発赤・腫脹や排膿が見られ、壊死性筋膜炎などの重症感染症では、急速に感染が拡大します。
全身状態が悪化すると、緊急の外科的デブリードマンが必要です。
- 発赤・腫脹:感染部位を中心に拡大する
- 熱感・疼痛:感染部位の圧痛や自発痛を伴う
- 排膿:膿瘍形成や創部からの排膿を認めることがある
- 壊死:重症例では皮膚や軟部組織の壊死を伴う
肝膿瘍
クレブシエラ肝膿瘍では、発熱、悪寒、右上腹部痛などの全身症状に加え、黄疸や肝腫大などの肝胆道系の所見を呈します。
画像検査では、肝臓内に単発または多発性の膿瘍形成が見られ、 膿瘍が破裂すると、腹膜炎や敗血症を引き起こすことがあります。
髄膜炎
クレブシエラ髄膜炎の症状は、発熱、頭痛、項部硬直、意識障害などの典型的な髄膜炎症状です。
乳児や高齢者では、症状が非典型的である場合もあり、髄液検査では、多核球優位の細胞数増加や糖低下、蛋白増加などの所見が認められます。
抗菌薬の髄腔内投与と全身管理が予後を左右します。
クレブシエラ感染症の原因・感染経路
クレブシエラ感染症は、クレブシエラ菌が原因で、医療機器や器具、医療従事者の手指を介して感染します。
クレブシエラ菌とは
クレブシエラ菌はグラム陰性桿菌の一種で、ヒトの腸内や環境中に広く存在し、通常は無害です。
ただし、免疫力が低下した状態や医療処置で体内に入り込んだ際に感染症を起こすことがあります。
クレブシエラ菌の分類 | 特徴 |
クレブシエラ・ニューモニエ | 肺炎の原因となる主要な菌種 |
クレブシエラ・オキシトカ | 医療関連感染の原因菌の一つ |
感染経路
クレブシエラ菌による感染症の主な感染経路
- 医療機器や器具を介した感染
- 医療従事者の手指を介した感染
- 患者同士の接触による感染
特に、カテーテルや気管内チューブなどの医療機器を長期間使用する際、クレブシエラ菌が定着し、感染のリスクが高まります。
感染リスクの高い患者さん
以下のような条件に当てはまる患者さんは、クレブシエラ菌による感染のリスクが高くなります。
- 免疫力が低下している患者
- 長期入院が必要な患者
- 抗菌薬を長期間使用している患者
- 侵襲的な医療処置を受けている患者
感染リスクの高い医療処置 | 理由 |
人工呼吸器の使用 | 気管内チューブを介した感染のリスクが高い |
中心静脈カテーテルの留置 | カテーテル関連血流感染のリスクが高い |
診察(検査)と診断
クレブシエラ感染症の診断では、患者さんの症状や病歴の聴取、身体所見の確認、検査結果の総合的な評価が欠かせません。
病歴聴取と身体所見
クレブシエラ感染症が疑われる場合、まず患者さんの病歴を詳細に聴取することが重要です。
感染のリスク因子や基礎疾患の有無、症状の出現時期や経過などを確認します。
また、身体所見では、発熱、呼吸困難、咳嗽、腹痛などの感染症状の有無を確認するとともに、感染部位に応じた局所所見を丁寧に観察します。
感染部位 | 主な身体所見 |
肺炎 | 呼吸音の異常、胸部X線での浸潤影 |
尿路感染症 | 腰背部痛、腹部圧痛、尿検査での膿尿 |
検査による診断
クレブシエラ感染症の確定診断には、微生物学的検査が重要な役割を果たします。
感染が疑われる部位から検体を採取し、培養検査を行うことで、クレブシエラ菌の分離同定が可能です。
検査方法 | 目的 |
血液培養 | 菌血症の診断 |
喀痰培養 | 肺炎の原因菌の同定 |
尿培養 | 尿路感染症の原因菌の同定 |
また、感受性試験により、分離されたクレブシエラ菌に対する抗菌薬の感受性を評価し、治療薬を選択します。
臨床診断と確定診断
クレブシエラ感染症の診断には、臨床所見と検査結果を総合的に判断します。
- 臨床診断:症状、身体所見、画像検査などから感染症を疑う
- 確定診断:微生物学的検査でクレブシエラ菌を分離同定する
臨床診断で感染症が疑われた場合、速やかに確定診断を行い、早期の治療開始につなげることが患者さんの予後改善に寄与します。
クレブシエラ感染症の治療法と処方薬、治療期間
クレブシエラ感染症の治療には、感受性試験の結果に基づいた抗菌薬の選択と十分な治療期間が必要です。
抗菌薬治療の基本方針
クレブシエラ感染症の治療は、抗菌薬治療が中心です。 感染症の重症度や患者さん背景を考慮し、広域スペクトラムの抗菌薬を選択します。
感染症の種類 | 経験的治療で用いる抗菌薬 |
市中肺炎 | セフトリアキソン、レボフロキサシン |
院内肺炎 | ピペラシリン/タゾバクタム、メロペネム |
感受性試験の結果が判明した後は、検出されたクレブシエラ菌に感受性を示す抗菌薬に変更し、ターゲット治療を行います。
主な処方薬
クレブシエラ感染症の治療に用いられる主な抗菌薬
- セファロスポリン系薬:セフトリアキソン、セフォタキシム
- カルバペネム系薬:メロペネム、イミペネム/シラスタチン
- フルオロキノロン系薬:シプロフロキサシン、レボフロキサシン
- アミノグリコシド系薬:ゲンタマイシン、アミカシン
抗菌薬の種類 | 特徴 |
セファロスポリン系薬 | グラム陰性菌に広い抗菌スペクトラムを持つ |
カルバペネム系薬 | 多剤耐性グラム陰性菌にも有効 |
治療期間
クレブシエラ感染症の治療期間は、感染症の種類や重症度によって異なります。
- 尿路感染症:7〜14日間
- 肺炎:7〜14日間
- 菌血症:10〜14日間
ただし、免疫不全患者さんや重症感染症では、さらに長期の治療が必要となることがあります。
耐性菌への対応
近年、クレブシエラ菌の抗菌薬耐性化が問題となっています。 特に、基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生株や、カルバペネム耐性株の増加が懸念されています。
耐性菌感染症が疑われる場合や、経験的治療で効果が不十分な場合は、感受性試験の結果を踏まえ、抗菌薬を変更することが大切です。
予後と再発可能性および予防
クレブシエラ感染症の治療予後は、感染症の重症度や患者さん背景によって大きく異なり、再発のリスクは比較的高くなっています。
治療予後を左右する因子
治療予後は、感染症の重症度や患者さんの基礎疾患、免疫状態などによって影響を受けます。
特に、敗血症や重症肺炎などの侵襲性感染症では、死亡率が高いです。
予後不良因子 | 詳細 |
重症感染症 | 敗血症、重症肺炎など |
基礎疾患 | 免疫抑制状態、悪性腫瘍など |
再発のリスク因子
クレブシエラ感染症では、治療後も再発することがあります。
再発のリスクが高くなる要因
- 不十分な感染源コントロール(ドレナージ不足、異物残存など)
- 間違った抗菌薬選択や治療期間の不足
- 薬剤耐性菌の関与
- 免疫抑制状態の持続
再発リスク因子 | 対策 |
感染源の残存 | ドレナージや外科的処置 |
薬剤耐性菌 | 感受性に基づいた抗菌薬選択 |
再発予防のための対策
再発を予防するためには、以下のような対策が必要です。
- 感染源に対するドレナージや外科的処置
- 薬剤感受性に基づいた抗菌薬の選択と十分な治療期間の確保
- 薬剤耐性菌の監視と感染対策の徹底
- 基礎疾患のコントロールと免疫抑制状態の改善
クレブシエラ感染症の治療における副作用やリスク
クレブシエラ感染症の治療では、副作用やリスクを十分に理解し対処することが非常に大切です。
抗菌薬の副作用
抗菌薬の副作用は、消化器症状(悪心、嘔吐、下痢など)、アレルギー反応(発疹、かゆみなど)、肝機能障害などです。
また、特定の抗菌薬では、腎機能障害、血液障害、神経障害などの重篤な副作用が報告されています。
副作用 | 症状 |
消化器症状 | 悪心、嘔吐、下痢など |
アレルギー反応 | 発疹、かゆみなど |
耐性菌の発現リスク
抗菌薬の乱用や長期使用は、耐性菌の発現につながり、耐性菌が現れると、抗菌薬が効かなくなり、治療が難しくなる危険性があります。
- カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)
- 基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌
- バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)
合併症のリスク
クレブシエラ感染症が治療されないと、重篤な合併症を引き起こすリスクがあります。
特に、免疫力の低下した患者さんや基礎疾患をお持ちの方は、注意が必要です。
合併症 | リスク因子 |
敗血症 | 免疫力の低下、基礎疾患 |
肺炎 | 高齢者、慢性肺疾患 |
髄膜炎 | 新生児、免疫抑制状態 |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
初診料と再診料
初診料は、3,000円から5,000円程度で、再診料は、1,000円から2,000円程度が相場です。
項目 | 費用 |
初診料 | 3,000円~5,000円 |
再診料 | 1,000円~2,000円 |
検査費と処置費
検査費は、細菌培養検査や薬剤感受性試験にかかり、処置費は、膿瘍のドレナージや外科的処置などで必要です。
項目 | 費用 |
細菌培養検査 | 数万円 |
薬剤感受性試験 | 数万円 |
入院費
重症感染症では、入院治療が必要で、入院費が高額になることがあります。 1日あたりの入院費は、1万円から3万円程度が一般的です。
以上
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