百日咳 – 感染症

百日咳(pertussis)とは、百日咳菌が原因で発症する感染症です。

特徴的な症状は、激しい発作性の咳で、特に夜間に症状が悪化する傾向にあり、 咳き込んだ後に吐き気を感じることもあります。

乳幼児がかかった際は、重症化するリスクが高く、無呼吸発作や肺炎などを併発する可能性があるため注意が必要です。

ワクチン接種により予防できますが、免疫の持続期間が短いため、追加の接種が求められます。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

百日咳の種類(病型)

百日咳は、臨床症状の特徴により、典型的百日咳と非典型的百日咳の2つの病型に分類されます。

典型的百日咳

典型的百日咳は、百日咳の古典的な症状を示す病型であり、3つの病期を経過します。

  1. カタル期(1~2週間):軽度の上気道炎症状が見られます。
  2. 痙咳期(2~8週間):特徴的な咳込みと吸気性笛声が出現します。咳込みは発作的で、夜間に悪化する傾向があります。
  3. 回復期(数週間~数ヶ月):咳嗽が徐々に改善していきます。
病期期間主な症状
カタル期1~2週間軽度の上気道炎症状(鼻汁、くしゃみ、低熱など)
痙咳期2~8週間特徴的な咳込みと吸気性笛声、咳込み後の嘔吐など
回復期数週間~数ヶ月咳嗽の徐々な改善、全身状態の回復

典型的百日咳は主に乳幼児で見られ、重症化するリスクが高いので、早期診断と治療が不可欠です。

非典型的百日咳

非典型的百日咳は、典型的な症状を示さない病型です。

軽度の咳嗽や上気道炎症状のみを示すことが多く、典型的な症状を欠くことがあります。

非典型的百日咳の特徴
軽度の咳嗽や上気道炎症状のみを示すことが多い
典型的な症状(痙咳発作、吸気性笛声など)を欠くことがある
年長児や成人で多く見られる
重症化するリスクは低いが、感染源となる可能性がある

非典型的百日咳は、年長児や成人で多く見られます。

また、この病型では重症化するリスクは低いですが、感染源となって乳幼児に感染を広げる可能性があるため、感染予防対策が重要です。

病型の違いによる臨床的意義

百日咳の病型で理解しておくべき点

  • 典型的百日咳では、重症化リスクが高いため、早期診断と治療が不可欠です。
  • 非典型的百日咳では、感染源となるリスクがあるため、感染予防対策が大切です。
  • 病型に応じた臨床管理が求められます。

病型の鑑別

百日咳の病型の鑑別の注意点

  • 症状の有無と程度:典型的な症状(痙咳発作、吸気性笛声など)の有無と重症度を評価します。
  • 患者の年齢:乳幼児では典型的百日咳、年長児や成人では非典型的百日咳が多いことを考慮します。
  • 接触歴:百日咳患者との接触歴がある場合、感染の可能性が高くなります。

これらの情報を総合的に判断することで、病型の推定が可能です。

百日咳の主な症状

百日咳の主要な症状は病型によって異なり、典型的百日咳と非典型的百日咳では、それぞれに特徴的な症状が見られます。

典型的百日咳の症状

典型的百日咳は、感染後の経過に応じてカタル期、痙咳期、回復期の3つのステージに分類されます。

ステージ期間主な症状
カタル期1~2週間初期症状として鼻汁、くしゃみ、微熱などが現れます。この時期の症状は風邪に似ているため、百日咳だと気付きにくいことが多いです。
痙咳期2~8週間特徴的な発作的な咳込みが見られます。吸気時に「ヒューヒュー」という高音を伴うことがあり、このような咳込みが昼夜を問わず頻回に生じます。咳込みが持続すると、顔色が紫色になったり、嘔吐を伴ったりすることもあります。
回復期数週間~数ヶ月咳の頻度が徐々に減少していきますが、完治までには長い期間を要することがあります。咳込みの後には、大量の粘液や粘性の痰が出ることもあります。

典型的百日咳は特徴的な咳込みと、長期間に渡る症状が特徴です。

非典型的百日咳の症状

非典型的百日咳は、典型的百日咳と比較して症状が軽度であることが多いです。

  • 軽度の咳が数週間から数ヶ月間持続する
  • 咳に伴って痰が絡むことがある
  • 微熱が出ることがある

非典型的百日咳の症状は年齢によっても異なります。

年齢層主な症状
乳児チアノーゼ、無呼吸発作、痙攣などの重篤な症状が出現することがあります。特に新生児では重症化しやすく、注意が必要です。
学童以上軽度の咳が長期間持続することがありますが、典型的な発作的咳込みは見られないことが多いです。百日咳だと気付かずに、感冒や気管支炎などと診断されるケースもあります。

咳以外の随伴症状

百日咳では、咳以外にも随伴症状が見られる場合があります。

  • 鼻汁やくしゃみなどの上気道炎症状
  • 結膜充血
  • 全身倦怠感や食欲不振などの全身症状
  • 肺炎などの合併症(重症例で見られることがある)

百日咳の原因・感染経路

百日咳は、百日咳菌(Bordetella pertussis)が原因であり、主に飛沫感染によって人から人へ広がります。

百日咳の原因

百日咳の原因は、グラム陰性桿菌である百日咳菌(Bordetella pertussis)の感染です。

この細菌は気道に感染し、毒素を産生することで特徴的な症状を引き起こします。

細菌名特徴
Bordetella pertussisグラム陰性桿菌
Bordetella parapertussis百日咳類似症状を引き起こす

感染経路

百日咳は主に、感染者が咳やくしゃみをした際に飛散する飛沫に含まれる百日咳菌を、他の人が吸入することで感染が成立します。

感染リスクが高くなる要因

  • 感染者との濃厚接触
  • 感染者と同じ室内で長時間過ごすこと
  • 感染者の使用した物品との接触

感染力と感染期間

百日咳は感染力が非常に強く、感染者の周囲への二次感染率は高いです。

感染状況二次感染率
家庭内80-90%
学校など50-80%

感染者は咳症状が出現する前の潜伏期から感染力を有し、抗菌薬治療を開始しないと症状出現後数週間は感染力が持続します。

感受性

百日咳に対する免疫を持たない人は、年齢に関係なく感染する可能性があります。

特に免疫力の低下した乳幼児や高齢者は重症化リスクが高く、注意が必要です。

ワクチン接種により免疫を獲得できますが、時間の経過とともに免疫力は低下するため、追加接種が重要となります。

診察(検査)と診断

百日咳の診断は、臨床所見と検査結果を総合的に判断します。

臨床診断

百日咳の臨床診断は、特徴的な症状である発作性の咳嗽や吸気性笛声音(ウープ)などの症状を確認することで行われます。

ただし、これらの症状は他の呼吸器感染症でも見られる可能性があるため、確定診断のためには検査が必要です。

臨床症状特徴
発作性の咳嗽連続した咳き込み
吸気性笛声音ウープと呼ばれる特有の音

検査による診断

百日咳の確定診断に用いられる検査

  • 鼻咽頭スワブを用いたPCR検査
  • 血清抗体価の測定

PCR検査は、鼻咽頭から採取したサンプルを用いて、百日咳菌の遺伝子を検出する方法で、感度が高く、早期診断に有用です。

一方、血清抗体価の測定は、百日咳菌に対する抗体の量を調べる検査で、急性期と回復期のペア血清で抗体価の上昇を確認することで診断が可能となります。

検査方法特徴
PCR検査感度が高く、早期診断に有用
血清抗体価測定ペア血清で抗体価の上昇を確認

検査のタイミング

百日咳の検査は、症状出現から2週間以内に行うことが推奨されています。

この期間は、菌量が多く、PCR検査の感度が高いためです。

また、血清抗体価の測定は、急性期(症状出現から2週間以内)と回復期(症状出現から4~6週間後)のペア血清で行います。

診断の流れ

百日咳の診断の流れ

  1. 臨床症状の確認
  2. 鼻咽頭スワブを用いたPCR検査の実施
  3. 血清抗体価の測定(急性期と回復期のペア血清)
  4. 検査結果と臨床症状を総合的に判断し、診断を確定

百日咳の診断においては、臨床所見と検査結果を組み合わせることが大切です。

百日咳の治療法と処方薬、治療期間

百日咳の治療は、抗菌薬の投与を中心に、症状に合わせた対症療法が行われます。

抗菌薬治療

百日咳の治療には、マクロライド系抗菌薬が第一選択です。

代表的な薬剤

薬剤名投与量投与期間
アジスロマイシン10mg/kg/日5日間
クラリスロマイシン15mg/kg/日7日間

これらの抗菌薬は、百日咳菌の増殖を抑制し、症状の改善を促します。

ただし、発症から3週間以上経過した際には、抗菌薬の効果は限定的です。

対症療法

百日咳の症状に対して行われる対症療法

  • 咳嗽に対する鎮咳薬の投与
  • 呼吸困難に対する酸素投与
  • 脱水に対する輸液療法

特に、新生児や乳児では重症化しやすいため、症状に応じた対症療法が必要です。

治療期間

百日咳の治療期間は、抗菌薬投与開始から5~7日間が目安です。

ただし、症状が遷延する際や、重症例では治療期間が延長されることがあります。

また、百日咳は感染力が強いため、治療終了後も一定期間の隔離が必要となるケースがあります。

患者の年齢隔離期間
1歳未満入院中および退院後5日間
1歳以上治療開始から5日間

予後と再発可能性および予防

百日咳は治療が行えば予後は良好で、再発はまれですが、予防が何より大切です。

重症化リスク

百日咳の治療の中心は抗菌薬の投与で、早期の診断と治療開始が重要です。

治療により、大半のケースで症状は改善し、後遺症なく治癒に至りますが、乳幼児や免疫力の低下した人については、重症化のリスクがあります。

年齢重症化リスク
0-3ヶ月高い
3-6ヶ月中程度
6ヶ月以上低い

再発の可能性

百日咳が再発することはまれですが、完全に排除することは困難です。

再発の原因

  • 不完全な治療
  • 免疫力の低下
  • 再感染

再発を防ぐには治療を最後まで継続し、免疫力を維持することが必要です。

予防の重要性

百日咳の予防においては、ワクチン接種が重要な役割を果たし、ワクチンにより感染リスクを大幅に減らし、重症化を防ぐ効果が期待できます。

ワクチン接種時期
DTaP生後3ヶ月から
Tdap11歳以上

ハイリスクグループへの対策

乳幼児や免疫力の低下した人は、百日咳の重症化リスクが高いため、特段の注意が求められます。

ハイリスクグループに推奨される対策

  • 早期診断と治療
  • 接触者の検査と予防投与
  • ワクチン接種の徹底

百日咳の治療における副作用やリスク

百日咳の治療に用いられる抗菌薬や対症療法には、一定の副作用やリスクが伴います。

抗菌薬の副作用

百日咳の治療に用いられるマクロライド系抗菌薬には、副作用が報告されています。

副作用頻度
消化器症状(悪心、嘔吐、下痢)5~10%
肝機能障害1~5%
皮疹1~5%

これらの副作用は、多くのケースで、投与中止により改善します。

対症療法のリスク

百日咳の対症療法として用いられる薬剤にも、以下のようなリスクがあります。

  • 鎮咳薬:眠気、めまい、便秘などの副作用
  • 酸素投与:高濃度酸素による肺障害のリスク
  • 輸液療法:電解質異常、fluid overloadのリスク

特に、新生児や乳児では、注意が必要です。

重症化のリスク

百日咳は、特定の患者群で重症化するリスクが高くなります。

  • 新生児、乳児
  • 免疫不全患者
  • 慢性呼吸器疾患を有する患者さん

これらの患者さんでは、治療と注意深いモニタリングが大切です。

重症化のリスク因子具体例
年齢新生児、乳児
免疫状態免疫不全患者
基礎疾患慢性呼吸器疾患

治療中のモニタリング

百日咳の治療中に注意して行うモニタリング

  1. 症状の変化(咳嗽、呼吸困難など)
  2. 副作用の出現
  3. 重症化の兆候(無呼吸、チアノーゼなど)

治療中に異常が認められた場合、速やかな対応が求められます。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

初診料と再診料

百日咳の診断と治療のための初診料は、医療機関によって異なりますが、3,000円から5,000円程度が一般的です。

再診料は、1,000円から2,000円程度が相場となっています。

項目費用
初診料3,000円~5,000円
再診料1,000円~2,000円

検査費

百日咳の診断に必要な検査には、血液検査や細菌学的検査などがあります。

これらの検査費用は、合わせて5,000円から10,000円程度が一般的です。

検査項目費用
血液検査3,000円~5,000円
細菌学的検査2,000円~5,000円

処置費

百日咳の治療では、点滴や吸入などの処置が行われることがあり、処置費用は、1回あたり1,000円から3,000円程度です。

入院費

重症の百日咳では、入院治療が必要となるケースがあります。

入院費は、1日あたり10,000円から30,000円程度が一般的ですが、病状によってはさらに高額になることもあります。

以上

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