肺炎球菌性肺炎 – 感染症

肺炎球菌性肺炎(pneumococcal pneumonia)とは、肺炎球菌が引き起こす肺の炎症です。

高齢者や免疫力の低下した人に多く見られ、重症化した場合、生命に関わる危険性があります。

健康な人の鼻咽頭にも肺炎球菌は存在しますが、体力が低下した際に肺に侵入し炎症を引き起こすことがあります。

肺炎球菌性肺炎の主な症状は急激な高熱、咳、胸の痛み、呼吸困難などです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

肺炎球菌性肺炎の種類(病型)

肺炎球菌性肺炎は、市中肺炎(CAP)、院内肺炎(HAP)、人工呼吸器関連肺炎(VAP)、医療ケア関連肺炎(HCAP)に分けられます。

市中肺炎(CAP)

市中肺炎は、医療機関への入院や長期療養施設への入所に関連しない肺炎です。

肺炎球菌は市中肺炎の最も一般的な原因菌の一つで、高齢者や基礎疾患を有する患者さんに多く見られます。

発症前の健康状態による分類

分類特徴
軽症肺炎基礎疾患がなく、バイタルサインが安定している
中等症肺炎基礎疾患があるが、バイタルサインは安定している
重症肺炎基礎疾患があり、バイタルサインが不安定

院内肺炎(HAP)

院内肺炎は、入院後48時間以降に発症する肺炎です。

肺炎球菌は院内肺炎の主要な原因菌の一つであり、特に高齢者や免疫抑制状態の患者さんで問題になります。

発症時期による分類

分類発症時期
早期発症院内肺炎入院後48時間以降、5日以内
晩期発症院内肺炎入院後5日以降

早期発症院内肺炎では、市中肺炎と同様の原因菌が多いのに対し、晩期発症院内肺炎では多剤耐性菌の関与もあります。

人工呼吸器関連肺炎(VAP)

人工呼吸器関連肺炎は、気管挿管や人工呼吸管理中に発症する肺炎です。

人工呼吸器を介した細菌の侵入や誤嚥が主な原因で、肺炎球菌はVAPの原因菌の一つになります。

発症時期による分類

分類発症時期
早期発症VAP人工呼吸開始後48時間以降、5日以内
晩期発症VAP人工呼吸開始後5日以降

早期発症VAPと晩期発症VAPでは、原因菌の種類や薬剤感受性が異なります。

医療ケア関連肺炎(HCAP)

医療ケア関連肺炎は、医療機関との接点を有する患者さんに発症する肺炎の総称です。

HCAPは、以下のようなリスク因子の有無によって定義されます。

  • 90日以内に2日以上の入院歴がある
  • 介護施設や長期療養施設に入所している
  • 30日以内に静脈注射療法を受けている
  • 30日以内に創傷ケアを受けている
  • 透析患者である

HCAPでは、多剤耐性菌の関与が問題となり、肺炎球菌もその一つです。

また、高齢者や合併症を有する患者さんが多いため、重症化のリスクが高くなります。

リスク因子具体例
医療機関との接点入院歴、介護施設入所、通院治療
免疫抑制状態ステロイド使用、化学療法、透析
高齢65歳以上
合併症慢性呼吸器疾患、心不全、糖尿病

肺炎球菌性肺炎の主な症状

肺炎球菌性肺炎の主な症状は、急性に発症する高熱や咳、胸痛などですが、病型によって症状や重症度が異なります。

市中肺炎(CAP)の主な症状

市中肺炎の典型的な症状は、38度以上の発熱、咳、喀痰、胸痛などです。

特に高齢者や基礎疾患のある人では、呼吸困難や意識障害など重症化しやすい傾向があります。

症状頻度
発熱80-90%
70-80%
喀痰60-70%
胸痛30-50%

院内肺炎(HAP)の主な症状

院内肺炎は、入院後48時間以降に発症する肺炎で、市中肺炎と比べると症状が非典型的なことが多いです。

発熱や白血球増加がみられないこともあり、胸部X線での浸潤影の出現が診断の手がかりとなります。

人工呼吸器関連肺炎(VAP)の主な症状

人工呼吸器関連肺炎は、気管挿管や人工呼吸器の使用に伴って発症する肺炎です。

発熱、膿性痰、白血球増加、酸素化の悪化などがみられますが、人工呼吸器使用中は症状の把握が難しい場合もあります。

症状頻度
発熱50-80%
膿性痰30-70%
白血球増加40-60%
酸素化悪化60-80%

医療ケア関連肺炎(HCAP)の主な症状

医療ケア関連肺炎は、医療施設に通院中や介護施設に入所中の患者さんに発症する肺炎です。

高齢者や基礎疾患を持つ患者さんが多いため、症状が非定型的で重症化しやすい特徴があります。

  • 発熱や咳が目立たない
  • 食欲不振や活動性低下がみられる
  • 意識障害を伴うことがある
  • 呼吸不全に陥りやすい

肺炎球菌性肺炎の原因・感染経路

肺炎球菌性肺炎は、肺炎球菌による感染が原因で発症する呼吸器感染症で、ヒトからヒトへと感染が広がります。

肺炎球菌とは

肺炎球菌は、グラム陽性の双球菌で、萊膜(らいまく:細菌の細胞壁の外側を覆う粘性の高い多糖体の層)を有しています。

萊膜型によって感染力や病原性が異なり、現在、100種類以上の萊膜型が知られています。

肺炎球菌の特徴説明
グラム陽性双球菌細胞壁の構造と形態による分類
萊膜の存在病原性に関与し、型によって異なる

主な感染経路

肺炎球菌性肺炎の主な感染経路

  1. 飛沫感染:感染者の咳やくしゃみなどによって放出された飛沫を吸入することで感染する。
  2. 接触感染:感染者との直接的な接触や、汚染された物品を介して間接的に感染する。

特に、飛沫感染が最も一般的な感染経路で、感染者との密接な接触が感染リスクを高めます。

感染経路感染源
飛沫感染感染者の飛沫
接触感染感染者との直接接触や汚染物品

感染源と感受性者

肺炎球菌の主な感染源は

  • 肺炎球菌を保有する健常者(無症候性キャリア)
  • 肺炎球菌性肺炎患者
  • まれに、汚染された物品(タオルや食器など)

健康な人の一部は、症状を示さずに肺炎球菌を保有しており、無症候性キャリアとなり、このキャリアからの感染も感染経路の一つです。

肺炎球菌に対する感受性は、年齢や免疫状態によって異なり、 乳幼児や高齢者、免疫抑制状態の患者さんは感染リスクが高いです。

診察(検査)と診断

肺炎球菌性肺炎の診察と診断には、病歴聴取や身体所見、画像検査、血液検査、細菌学的検査などを総合的に評価します。

病歴聴取と身体所見

まず、患者さんの症状や発症経過、基礎疾患の有無などを詳細に聴取します。

さらに、バイタルサインのチェックや胸部の聴診、打診などの身体診察を行い、肺炎を疑う所見がないか確認することが大切です。

病歴聴取のポイント身体所見のポイント
発熱、咳、喀痰などの症状バイタルサイン(体温、脈拍、呼吸数、血圧)
症状の発現時期と経過胸部聴診における異常呼吸音(湿性ラ音など)
基礎疾患や免疫抑制状態の有無胸部打診における濁音領域の有無

画像検査

胸部X線検査やCT検査での所見

検査特徴的な所見
胸部X線検査片側性の浸潤影、空洞形成
胸部CT検査すりガラス影、気管支壁肥厚

血液検査

白血球数や炎症マーカー(CRP、プロカルシトニンなど)の上昇を確認します。 また、血液培養を行い、肺炎球菌の検出を試みます。

細菌学的検査

喀痰のグラム染色や培養検査により、肺炎球菌の存在を証明します。 ただし、検体の質が重要で、口腔内の常在菌との区別が必要です。

  • 喀痰のグラム染色:グラム陽性双球菌の存在を確認
  • 喀痰培養検査:肺炎球菌の分離同定
  • 尿中肺炎球菌抗原検査:迅速診断に有用

肺炎球菌性肺炎の治療法と処方薬、治療期間

肺炎球菌性肺炎を治療するためには、効果的な抗菌薬を投与することが大切です。

抗菌薬の選択

肺炎球菌性肺炎の治療に用いられる主な抗菌薬は、ペニシリン系、セフェム系、マクロライド系などです。

抗菌薬の種類代表的な薬剤名
ペニシリン系アモキシシリン
セフェム系セフトリアキソン

抗菌薬を選ぶ際の注意点

  • 患者さんの年齢や基礎疾患の有無
  • 肺炎球菌の薬剤感受性
  • 抗菌薬の副作用や相互作用

投与経路と期間

肺炎球菌性肺炎の重症度に応じて、抗菌薬の投与経路が決定されます。

軽症から中等症の患者さんには、経口投与が可能ですが、重症例や合併症を有する患者さんの場合は、静脈内投与が選択されることが多いです。

重症度投与経路
軽症~中等症経口
重症静脈内

抗菌薬の投与期間は、通常7~14日間程度です。

合併症への対応

肺炎球菌性肺炎で起こりえる合併症

  • 胸水貯留
  • 膿胸
  • 敗血症

これらの合併症を伴う患者さんでは、抗菌薬治療に加えて、胸腔ドレナージや膿胸腔掻爬術などの外科的処置が必要となる可能性があります。

また、敗血症を合併した場合は、集中治療管理が必要です。

予後と再発可能性および予防

肺炎球菌性肺炎の治療後の予後は良好ですが、一定の再発リスクがあるため、予防対策が重要です。

予後

肺炎球菌性肺炎は、抗菌薬治療により多くの場合で症状が改善し、完治が可能です。

治療後の死亡率は低く、大半の患者さんは良好な予後が期待できます。

予後再発可能性
良好一定の再発リスクあり
死亡率は低い適切な予防で再発防止可能

治療後の慎重な経過観察の必要性

ただし、治療後も一定期間の慎重な経過観察が大切です。

合併症の有無や全身状態の評価を行い、必要に応じて追加治療を検討することが求められます。

特に高齢者や基礎疾患を有する患者さんでは、より入念なフォローアップが必要です。

再発予防のための重要な対策

再発予防の対策

  • 肺炎球菌ワクチンの接種
  • 禁煙の徹底
  • 口腔ケアの励行
  • 全身管理の最適化
再発予防対策効果
ワクチン接種免疫力の向上
禁煙呼吸器への悪影響の軽減

ワクチン接種の重要性と推奨

ワクチン接種により、肺炎球菌性肺炎の感染のリスクを大幅に低減することが可能です。

高齢者や基礎疾患を持つ方は、定期的なワクチン接種が強く推奨されています。

生活習慣の改善と全身管理

喫煙は肺炎球菌感染のリスクを高めるため、禁煙が強く勧められます。

口腔内の衛生管理も肺炎予防につながる重要な要素で、歯磨きや口腔ケアを怠らないことが大切です。

さらに、併存疾患のコントロールや栄養状態の改善など、全身管理も再発予防に寄与します。

肺炎球菌性肺炎の治療における副作用やリスク

肺炎球菌性肺炎の治療には副作用やリスクも伴うため、慎重な対応が必要です。

抗菌薬の副作用

抗菌薬療法では、アレルギー反応や消化器症状などの副作用が起こる可能性があります。

副作用リスク
アレルギー反応ショック、呼吸困難など
消化器症状下痢、嘔吐、腹痛など

抗菌薬耐性菌出現のリスク

不必要な抗菌薬の使用は、抗菌薬耐性菌の出現につながり、抗菌薬耐性菌が増加すると、治療効果が低下し重症化のリスクが高まる懸念があります。

合併症発症のリスク

肺炎球菌性肺炎では、以下のような合併症を発症するリスクがあります。

  • 膿胸
  • 敗血症
  • 髄膜炎
  • 心内膜炎
合併症リスク
膿胸膿の貯留による呼吸困難
敗血症全身性の炎症反応と臓器障害

高齢者や基礎疾患を有する患者におけるリスク

高齢者や基礎疾患を有する患者さんでは、重症化リスクが高いことに注意が必要です。

免疫力の低下や併存疾患により、治療反応性が低下し、合併症発症リスクが上昇します。

副作用やリスクを最小限に抑えるための対策

副作用やリスクを最小限に抑えるために必要な対策が、いくつかあります。

  • 正しい抗菌薬の選択と用量調整
  • 副作用モニタリングと速やかな対処
  • 抗菌薬耐性菌対策の徹底
  • 合併症の早期発見と迅速な治療介入

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

初診料と再診料

肺炎球菌性肺炎の診断と治療のために医療機関を受診する際には、初診料または再診料がかかります。

種類金額
初診料2,820円~4,350円
再診料720円~1,450円

検査費と処置費

肺炎球菌性肺炎の診断には、血液検査、胸部X線検査、CT検査などが行われます。

検査名金額
血液検査3,000円~10,000円
胸部X線検査2,000円~5,000円
CT検査10,000円~20,000円

また、抗菌薬の投与や酸素療法などの費用がかかることもあります。

入院費

重症の肺炎球菌性肺炎の場合、入院治療が必要です。

入院費は、1日あたり10,000円~30,000円程度で、合併症の治療や集中治療管理が必要な場合は、さらに費用が増加する可能性があります。

以上

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