クリプトスポリジウム症 – 感染症

クリプトスポリジウム症(cryptosporidiosis)とは、クリプトスポリジウム属の原虫の感染によって引き起こされる腸管の感染症です。

主な症状として、下痢や腹痛、発熱などがあり、汚染された水や食べ物を介して感染します。

免疫力が低下している人や乳幼児は重症化しやすく、衛生環境が十分に整備されていない地域では感染リスクが高くなります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

クリプトスポリジウム症の種類(病型)

クリプトスポリジウム症は、急性型、慢性型、無症候性型の3つの病型に分類されます。

急性クリプトスポリジウム症

急性クリプトスポリジウム症は、健康な人がクリプトスポリジウムに感染したときに発症する最も一般的な病型です。

病型症状
急性型下痢、腹痛、発熱
慢性型持続的な下痢、体重減少

急性型の場合、症状は通常1〜2週間続きますが、適切な支持療法により自然に回復することが多いです。

慢性クリプトスポリジウム症

慢性クリプトスポリジウム症は、主に免疫力が低下している人にみられる病型です。

HIV感染者や臓器移植患者など、免疫機能が損なわれている人がクリプトスポリジウムに感染すると、慢性的な下痢が続くことがあります。

無症候性クリプトスポリジウム症

無症候性クリプトスポリジウム症は、クリプトスポリジウムに感染しているにもかかわらず、症状が現れない病型です。

  • – 免疫力が正常な人に多い
  • – 感染者は無自覚のまま他者へ感染を広げる可能性がある
  • – 定期的な検査により感染を確認することが大切
病型特徴
無症候性型症状なし、感染源となり得る
急性型1〜2週間の症状、自然回復が多い

クリプトスポリジウム症の主な症状

クリプトスポリジウム症では、水様性の下痢や腹痛、発熱などの消化器系症状がみられ、対処を行わないと、脱水や栄養不良につながるリスクがあります。

下痢と腹痛

クリプトスポリジウム症の最も代表的な症状が下痢で、水様性の下痢が続き、1日に10回以上にもなることがあり、腹痛や腹部の不快感を伴うこともあります。

症状頻度
下痢90%
腹痛70%

発熱

クリプトスポリジウム症では、38度前後の発熱を伴うことがあり、下痢や腹痛とともに現れることが多く、数日間続くこともあります。

症状割合
発熱50%

体重減少と栄養不良

持続的な下痢により、体重減少や栄養不良を起こし、特に乳幼児や高齢者、免疫力の低下した人では、重症化のリスクが高くなります。

その他の症状

その他、以下のような症状がみられる場合もあります。

  • 嘔吐
  • 食欲不振
  • 倦怠感
  • 筋肉痛

クリプトスポリジウム症の原因・感染経路

クリプトスポリジウム症は、クリプトスポリジウム属の原虫が引き起こす感染症であり、主に汚染された水や食品を介して感染が拡大します。

クリプトスポリジウムとは

クリプトスポリジウムは、ヒトを含む哺乳類や鳥類など幅広い動物に感染する原虫で、このうち、ヒトへの感染に関与するのは主にCryptosporidium parvumとCryptosporidium hominisの2種類です。

種名宿主
C. parvumヒト、ウシ、ブタなど
C. hominisヒト

クリプトスポリジウムは、感染動物の糞便中に排出されるオーシストという耐久性の高い状態で長期間生き延びます。

感染経路

クリプトスポリジウム症の主な感染経路

  • 汚染された水の飲用
  • 汚染された食品の摂取
  • 感染者や感染動物との接触
  • 汚染された遊泳池や公衆浴場の利用

感染リスクが高くなる状況

感染リスクが高い状況理由
汚染された井戸水の使用オーシストを除去できない
感染動物との接触糞便中のオーシストが付着

塩素消毒に対しての耐性

クリプトスポリジウムのオーシストは塩素消毒に強い耐性を持つため、水道水の塩素消毒だけでは感染を防げません。

診察(検査)と診断

クリプトスポリジウム症の診断を行う際は、問診と身体的な観察の臨床診断と、顕微鏡検査や抗原検査などを用いた確定診断を組み合わせます。

病歴聴取と身体所見

クリプトスポリジウム症を疑う場合、まずは詳細な病歴聴取を行い、いくつかの点に着目します。

  • 下痢の持続期間と性状
  • 海外渡航歴
  • 感染リスクのある食品の摂取歴
  • 同様の症状を呈する接触者の有無

顕微鏡検査

クリプトスポリジウム症の確定診断には、糞便の顕微鏡検査を行います。

  1. 直接塗抹法:新鮮な糞便を直接スライドガラスに塗抹し、顕微鏡で観察する。
  2. 集シスト法:糞便を濃縮し、シストを集めて観察する。
検査方法感度
直接塗抹法50-70%
集シスト法80-90%

抗原検査

糞便中のクリプトスポリジウム抗原を検出する方法もあり、ELISA法やイムノクロマト法などが用いられ、感度は90%以上です。

検査方法感度
ELISA法90-100%
イムノクロマト法90-95%

その他の検査

必要に応じて、その他にも検査を行うことがあります。

  • 血液検査:炎症反応や貧血の評価
  • 画像検査:腸管の炎症や合併症の評価

クリプトスポリジウム症の治療法と処方薬

クリプトスポリジウム症の治療は、患者さんの免疫状態や症状の重症度に応じて決められ、主に対症療法と抗菌薬の使用が行われます。

免疫機能が正常な患者さんの場合

免疫機能が正常な患者さんの場合、クリプトスポリジウム症は自然に治癒することが多いため、治療の中心は脱水症状の予防と回復です。

治療法内容
経口補水療法水分と電解質の補給
止痢薬必要に応じて使用

重症の下痢症状がある場合には、入院での点滴治療が必要になることもあります。

免疫機能が低下している患者さんの場合

HIV感染者や臓器移植患者など、免疫機能が低下している患者さんの場合、クリプトスポリジウム症は重症化しやすく、治療に抗菌薬の使用が欠かせません。

薬剤名作用
ニタゾキサニドクリプトスポリジウムの増殖を抑制
パロモマイシンクリプトスポリジウムの増殖を抑制

ただし、これらの薬剤の効果は限定的であり、免疫機能の回復が治療の鍵となります。

治療法の選択

クリプトスポリジウム症の治療法の選択には、いくつかの点を考慮する必要があります。

  • 患者の免疫状態
  • 症状の重症度
  • 合併症の有無
  • 薬剤の副作用と相互作用

治療に必要な期間と予後について

クリプトスポリジウム症の治療に必要な期間は、免疫機能が正常な人では、治療を行わなくても自然治癒することが多い一方、免疫不全の患者さんでは重症化しやすくなります。

治療期間の目安

クリプトスポリジウム症の治療には、主に対症療法が行われます。

治療期間の目安

患者治療期間
免疫機能正常数日〜2週間
免疫不全数週間〜数ヶ月

治療効果の判定

治療効果の判定方法

  • 症状の改善度合い
  • 糞便検査での原虫の消失
  • 体重の増加

一般的に、治療開始後3〜5日で症状の改善が見られ、2週間以内に完治することが多いです。

治療効果の指標期間
症状の改善3〜5日
完治2週間以内

再発と再感染

クリプトスポリジウム症は、治療後も再発や再感染を起こすことがあり、特に免疫不全の患者さんでは、再発リスクが高くなります。

合併症と予後

クリプトスポリジウム症の合併症

  • 脱水
  • 電解質異常
  • 胆管炎
  • 呼吸器感染

合併症は、免疫不全の患者さんで起こりやすく、予後に影響を与えることがあります。

クリプトスポリジウム症の治療における副作用やリスク

クリプトスポリジウム症の治療において、使用される薬剤や治療法には副作用やリスクが伴うことがあります。

抗菌薬の副作用

クリプトスポリジウム症の治療に用いられる抗菌薬、特にニタゾキサニドとパロモマイシンには副作用が報告されています。

薬剤名主な副作用
ニタゾキサニド悪心、嘔吐、腹痛、頭痛
パロモマイシン聴覚障害、腎機能障害

副作用は、患者さんの状態や併用薬によって発現頻度や重症度が異なります。

免疫抑制剤の調整に伴うリスク

臓器移植患者など、免疫抑制剤を使用している患者さんでは、クリプトスポリジウム症の治療のために免疫抑制剤の調整が必要になることがあります。

ただし、免疫抑制剤の急な減量や中止は、拒絶反応のリスクを高める可能性がああるので、慎重に進めます。

免疫抑制剤の調整に伴うリスク対策
拒絶反応の増加注意深いモニタリングと調整
他の日和見感染症の発症予防的な治療の検討

治療に伴う脱水のリスク

クリプトスポリジウム症の主な症状である下痢は、重度の脱水を引き起こすことがあり、治療中も下痢が持続する場合、脱水のリスクに注意が必要です。

脱水の兆候があるときは、すぐに医師に相談してください。

  • 口渇
  • 尿量の減少
  • めまいやふらつき
  • 皮膚の乾燥

重度の脱水は、腎機能障害や電解質異常など、重篤な合併症につながります。

予防方法

クリプトスポリジウム症の予防には、感染経路の遮断と衛生管理の徹底が必要です。

飲料水の管理

クリプトスポリジウム症の主な感染源は汚染された水であるため、安全な飲料水を確保することが最も大切です。

水の種類安全性
水道水(ろ過・煮沸)高い
ミネラルウォーター高い
井戸水・河川水低い

食品の衛生管理

食品を介した感染を防ぐためには、衛生管理が必要です。

食品の種類予防策
生鮮食品加熱
調理器具洗浄・消毒

手洗いの励行

手洗いは、感染予防の基本で、トイレの後 、食事の前 、おむつ交換の後 、動物に触れた後は、特に丁寧に石鹸で手を洗いましょう。

免疫力の維持

免疫力が低下していると、クリプトスポリジウム症に感染しやすくなるので、免疫力を維持するような生活習慣が大切になってきます。

免疫力を維持するための生活習慣

  • バランスの取れた食事
  • 十分な睡眠
  • 適度な運動
  • ストレス管理

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

自然治癒する場合の治療費

免疫機能が正常な患者さんの場合、クリプトスポリジウム症は自然に治癒することが多いです。

この場合、治療費は主に対症療法に関連する費用となります。

治療内容費用目安
医療機関での診察数千円〜1万円程度
経口補水液数百円〜数千円程度

ただし、重度の脱水症状がある場合、入院治療が必要になることもあり、その場合の治療費は数十万円以上になる可能性があります。

抗菌薬治療が必要な場合の治療費

免疫機能が低下している患者さんの場合、抗菌薬治療が必要です。

薬剤名費用目安(1コース)
ニタゾキサニド数万円〜10万円程度
パロモマイシン数万円〜10万円程度

医療保険の適用

クリプトスポリジウム症の治療費は医療保険の適用対象です。

以上

References

Current WL, Garcia LS. Cryptosporidiosis. Clinical microbiology reviews. 1991 Jul;4(3):325-58.

Davies AP, Chalmers RM. Cryptosporidiosis. Bmj. 2009 Oct 19;339.

Chen XM, Keithly JS, Paya CV, LaRusso NF. Cryptosporidiosis. New England Journal of Medicine. 2002 May 30;346(22):1723-31.

de Graaf DC, Vanopdenbosch E, Ortega-Mora LM, Abbassi H, Peeters JE. A review of the importance of cryptosporidiosis in farm animals. International Journal for parasitology. 1999 Aug 1;29(8):1269-87.

Leitch GJ, He Q. Cryptosporidiosis-an overview. Journal of biomedical research. 2011 Jan 1;25(1):1-6.

Tzipori SA. Cryptosporidiosis in animals and humans. Microbiological reviews. 1983 Mar;47(1):84-96.

Xiao L, Feng Y. Zoonotic cryptosporidiosis. FEMS Immunology & Medical Microbiology. 2008 Apr 1;52(3):309-23.

Chalmers RM, Davies AP. Minireview: clinical cryptosporidiosis. Experimental parasitology. 2010 Jan 1;124(1):138-46.

Xiao L. Molecular epidemiology of cryptosporidiosis: an update. Experimental parasitology. 2010 Jan 1;124(1):80-9.

Cacciò SM, Chalmers R. Human cryptosporidiosis in Europe. Clinical Microbiology and Infection. 2016 Jun 1;22(6):471-80.

免責事項

当記事は、医療や介護に関する情報提供を目的としており、当院への来院を勧誘するものではございません。従って、治療や介護の判断等は、ご自身の責任において行われますようお願いいたします。

当記事に掲載されている医療や介護の情報は、権威ある文献(Pubmed等に掲載されている論文)や各種ガイドラインに掲載されている情報を参考に執筆しておりますが、デメリットやリスク、不確定な要因を含んでおります。

医療情報・資料の掲載には注意を払っておりますが、掲載した情報に誤りがあった場合や、第三者によるデータの改ざんなどがあった場合、さらにデータの伝送などによって障害が生じた場合に関しまして、当院は一切責任を負うものではございませんのでご了承ください。

掲載されている、医療や介護の情報は、日付が付されたものの内容は、それぞれ当該日付現在(又は、当該書面に明記された時点)の情報であり、本日現在の情報ではございません。情報の内容にその後の変動があっても、当院は、随時変更・更新することをお約束いたしておりませんのでご留意ください。