E型肝炎 – 感染症

E型肝炎(Hepatitis E)とは、主に汚染された水や食品を介して感染するウイルス性の急性肝炎です。

E型肝炎ウイルス(HEV)によって引き起こされ、衛生環境が整っていない地域での発生率が高く、旅行者にとっても注意が必要な感染症の一つです。

日本国内では、野生動物の肉を介した感染が報告されています。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

E型肝炎の主な症状

E型肝炎の症状は、無症状から重症まで幅広く現れ、感染から発症までの潜伏期間は平均40日程度で、症状の持続期間や程度には個人差があります。

一般的な症状

E型肝炎に感染すると、多くの人に以下のような症状が現れます。

  • 倦怠感(だるさ)
  • 発熱
  • 食欲不振
  • 吐き気や嘔吐
  • 腹痛
  • 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)
  • 尿の色が濃くなる
  • 便の色が薄くなる

症状の程度と経過

多くの場合、感染者は軽度の症状を経験し、数週間から数か月で自然に回復しますが、高齢者や妊婦、既存の肝疾患を持つ人では、症状がより重度になり、長期化するケースもあります。

症状の程度特徴
軽度倦怠感や軽い消化器症状のみ
中程度黄疸や発熱を伴う
重度肝機能の著しい低下や全身症状

特殊な症状

E型肝炎には、一般的な肝炎症状以外にも、まれではありますが特殊な症状が現れることがあります。

特殊症状影響を受ける部位
神経症状末梢神経系
血液異常造血系
腎機能障害腎臓

無症候性感染

E型肝炎に感染しても、症状が全く現れない無症候性感染のケースも少なくなく、感染者本人は気づかないまま他の人への感染源となる可能性があるため、注意が必要です。

無症候性感染でも、肝機能の低下は起こっていることがあります。

健康診断での肝機能検査の結果に異常が見られた際には、E型肝炎の可能性も考慮に入れて精密検査を受けることが大切です。

E型肝炎の原因・感染経路

E型肝炎の原因はE型肝炎ウイルス(HEV)で、主に糞口経路で感染し、汚染れた水や食品の摂取、感染した動物との接触が主な感染経路です。

E型肝炎ウイルス(HEV)について

E型肝炎の原因となるE型肝炎ウイルス(HEV)は、主に4つの遺伝子型(1型~4型)に分類され、それぞれ地域や宿主動物が異なります。

遺伝子型主な分布地域主な宿主動物
1型、2型途上国ヒト
3型、4型先進国ブタ、イノシシなど

主な感染経路

E型肝炎は、感染者や保菌動物の糞便に含まれるウイルスが口から体内に入ることで感染が成立します。

主な経路

  1. 汚染された水の摂取
  2. 十分に加熱されていない豚肉や鹿肉などの摂取
  3. 感染した動物との接触

途上国では、衛生環境の整っていない地域で汚染された水を介して感染するケースが多く、先進国では、十分に加熱されていない豚肉や鹿肉などの摂取による感染が問題になっています。

動物からの感染リスク

E型肝炎は人獣共通感染症の一つであり、動物から人への感染が起こりうる感染症です。

3型や4型のHEVは、ブタやイノシシなどの動物が保有していることがあり、これらの動物との接触や肉の摂取により感染する場合があります。

動物種感染リスク
ブタ
イノシシ
シカ
ウサギ

診察(検査)と診断

E型肝炎の診断は、臨床症状の観察、血液検査、画像診断、特異的な抗体検査を組み合わせて行われます。

初期診断

E型肝炎の診断で大切なのは、まず患者さんの症状や渡航歴などを聞くことです。

その後、身体の様子を観察し、続いて、一般的な血液検査が行われ肝機能の状態を示す指標が調べられます。

検査項目主な意味
AST (GOT)肝細胞障害の指標
ALT (GPT)肝細胞障害の指標
γ-GTP胆道系障害の指標
総ビリルビン黄疸の指標

画像診断

腹部超音波検査やCTスキャン、MRIなどの画像診断は、肝臓の状態を視覚的に確認するために用いられ、肝臓の大きさや形状、内部の構造などを詳しく観察することが可能です。

画像診断は、特異的な所見を示すものではありませんが、他の肝疾患との鑑別や肝臓の全体的な状態を把握するのに役立ちます。

特異的抗体検査

E型肝炎の確定診断には、ウイルスに対する特異的な抗体検査が不可欠であり、この検査によってE型肝炎ウイルスの感染を直接的に証明できます。

検査項目意味
HEV IgM抗体急性感染の指標
HEV IgG抗体過去の感染や免疫の指標
HEV RNAウイルスの直接検出

HEV IgM抗体が陽性の場合、現在進行中の急性感染を示唆し、早期の対応が必要です。

一方、HEV IgG抗体は過去の感染や免疫の獲得を示すものであり、患者さんの感染歴や免疫状態を理解するうえで重要な情報となります。

HEV RNAの検出は、体内でウイルスが増殖していることを直接的に証明するもので、確定診断の決め手となるため、最も信頼性の高い指標です。

鑑別診断

鑑別が必要な疾患

  • A型肝炎
  • B型肝炎
  • C型肝炎
  • 自己免疫性肝炎
  • 薬剤性肝障害

鑑別診断には、各疾患に特異的な検査が追加で行われることがあり、これらの結果を総合的に判断することで、より正確な診断が可能となります。

E型肝炎の治療法と処方薬、治療期間

E型肝炎の治療は主に対症療法が中心で、多くの場合は自然に回復します。

ただし、重症化した際にはリバビリンなどの抗ウイルス薬が使用されることがあります。

E型肝炎の一般的な治療法

E型肝炎の治療は、多くの場合、安静と十分な栄養・水分摂取といった対症療法が主体となり、患者さんの体力回復と肝機能の改善を促すことが目的です。

患者さんの体調や肝機能の状態に応じて、入院や自宅療養が選択されます。

重症化した場合の治療

一部の患者さんでは症状が重くなり、より積極的な入院での治療が必要となることがあり、抗ウイルス薬の投与や肝庇護薬の使用が検討されます。

特に免疫機能が低下している方や慢性化のリスクがある方では、早期からの治療介入が重要です。

治療法対象
対症療法軽症〜中等症
抗ウイルス薬重症例、慢性化リスク例

主な処方薬

E型肝炎の治療に用いられる主な薬剤

  • リバビリン(抗ウイルス薬)
  • グリチルリチン製剤(肝庇護薬)
  • ウルソデオキシコール酸(利胆薬)

リバビリンは、重症例や慢性化のリスクがある患者さんに対して使用されることがあり、ウイルスの増殖を抑制する効果が期待されます。

ただし、妊婦や腎機能障害のある方には慎重に投与することが必要です。

薬剤名主な効果
リバビリンウイルス増殖抑制
グリチルリチン製剤肝細胞保護

治療期間

E型肝炎は、発症から4〜6週間程度で自然に回復することが多く、この間は安静と経過観察が中心です。

リバビリンを使用する場合、通常3〜4週間の投与が行われますが、患者さんの症状や検査結果に応じて投与期間が調整されることがあります。

免疫機能が低下している方では、より長期の治療が必要となることも。

予後と再発可能性および予防

E型肝炎の予後は一般的に良好で、多くの患者さんが完全に回復します。

しかし、一部の患者さんでは慢性化や再発のリスクがあるので、免疫機能が低下している方々や高齢者、妊婦などでは注意が必要です。

E型肝炎の一般的な予後

大半の患者さんは、数週間から数か月で自然に回復しますが、この回復過程では、肝機能の正常化や全身状態の改善が段階的に見られることが一般的です。

回復の過程や期間は個人差が大きく、年齢や既往歴、免疫状態などによって異なり、回復に時間を要したり、より慎重な管理が必要となったりする場合があります。

予後の分類特徴
良好完全回復、後遺症なし
中程度回復に時間を要する
重度慢性化や合併症のリスク

慢性化のリスク

E型肝炎は通常、急性感染症として扱われますが、まれに慢性化することがあります。

慢性化のリスクは、免疫機能が低下している方々で高くなる傾向があり、これは免疫系がウイルスを効果的に排除できないことが一因です。

慢性化した場合、肝硬変などの深刻な合併症につながる可能性があります。

慢性化のリスクが高い患者さん

  • 臓器移植後の患者さん
  • HIV感染者
  • 血液の悪性腫瘍患者さん
  • 免疫抑制剤を使用している方

再発のリスクと対策

E型肝炎は、一度感染して回復すると通常は免疫ができますが、再感染のリスクが全くないわけではありません。

再発のリスク要因

リスク要因説明
免疫機能の低下加齢や疾患による
高リスク地域への渡航衛生状態の悪い地域
感染源への再曝露汚染された食品や水

以下の対策を日常的に実践することで、E型肝炎の感染リスクを効果的に低減できます。

  1. 衛生管理の徹底
    • 手洗いの励行
    • 清潔な水の使用
    • 食品の十分な加熱調理
  2. 安全な食品選択
    • 生肉、特に豚肉や鹿肉の摂取を避ける
    • 貝類の十分な加熱
    • 安全性が確認された水の飲用
  3. 渡航時の注意
    • 流行地域での生水や氷の摂取を避ける
    • 現地の衛生状況に応じた食事選択

E型肝炎の治療における副作用やリスク

E型肝炎の治療には、主に対症療法と抗ウイルス薬が用いられますが、抗ウイルス薬のリバビリンは、貧血や催奇形性などの副作用があります。

対症療法における注意点

長期の安静は筋力低下や血栓症のリスクを高める可能性があるため、患者さんの状態を見ながら、徐々に活動量を増やしていくことが望ましいです。

また、過度の栄養制限は回復を遅らせる場合があるため、バランスの取れた食事摂取が推奨され、必要に応じて栄養サポートチームの介入も検討されます。

リスク対策
筋力低下適度な運動
血栓症早期離床

リバビリンの副作用

重症例や慢性化のリスクがある患者さんに使用されるリバビリンには、いくつかの副作用があるので、注意が必要です。

最も注意すべき副作用は溶血性貧血で、赤血球の破壊が促進されることで貧血症状が現れる可能性があります。

このほか、倦怠感、かゆみ、不眠などが報告されており、患者さんの生活の質に影響を与えることがあります。

  • 溶血性貧血
  • 倦怠感
  • かゆみ
  • 不眠
  • 胃腸障害

特殊な患者群におけるリスク

妊婦や腎機能障害のある方、高齢者では、E型肝炎の治療におけるリスクが高まることがあり、特別な配慮や代替治療法の検討が必要になる場合があります。

妊婦の場合、リバビリンには催奇形性があるため使用できず、厳重な経過観察と対症療法が中心です。

腎機能障害のある方では、薬物の排泄が遅延し、副作用が強く現れる可能性があるため、薬物動態を考慮した用量調節や代替薬の選択が検討されます。

患者群主なリスク
妊婦催奇形性
腎機能障害薬物排泄遅延

合併症のリスク

E型肝炎の経過中に、合併症が生じるリスクがあり、早期発見と対応が治療成功の鍵です。

急性肝不全は最も重篤な合併症の一つで、集中的な治療が必要となり、場合によっては肝移植も考慮されることがあります。

また、神経症状や血液異常などの肝外症状が現れることもあり、注意が必要です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外来治療の費用

E型肝炎の軽症例では、外来での治療が一般的です。

主な費用項目には、血液検査、画像診断、投薬などが含まれます。

項目概算費用
肝機能検査3,000円~5,000円
HEV抗体検査5,000円~8,000円
腹部CT検査15,000円~20,000円
投薬(1週間分)5,000円~10,000円

外来治療の総額は、1回あたり2万5千円から4万円程度となることが多いです。

入院治療の費用

重症例や合併症がある場合は入院治療が必要となります。

入院期間は通常2週間から1ヶ月程度です。

項目概算費用(1日あたり)
入院基本料10,000円~30,000円
検査・処置15,000円~35,000円
食事療養費2,000円~2,500円

これらの費用に加え、薬剤料や画像診断料が発生します。

以上

References

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