鳥インフルエンザA(H7N9)とは、トリ類に感染するインフルエンザウイルスの一種です。
主に中国で流行が確認されており、ヒトへの感染事例も報告されています。
感染経路は、感染した鳥との濃厚接触が主要な要因であると考えられています。
鳥インフルエンザA(H7N9)に感染した際には、発熱や咳、呼吸困難などの症状が現れ、重症化した場合、肺炎を引き起こし、最悪の場合は死に至ることもあるため、十分な注意が必要です。
鳥インフルエンザA(H7N9)の種類(病型)
鳥インフルエンザA(H7N9)に感染した場合、症状や予後に基づいて、以下に分類されます。
無症候性病原体保有者
軽症
重症
致死性
無症候性病原体保有者
鳥インフルエンザA(H7N9)に感染していても、症状が現れないことがあります。
このような人は、無症候性病原体保有者と呼ばれています。
病型 | 症状の有無 |
無症候性病原体保有者 | なし |
軽症 | あり |
軽症
軽症の際には、発熱や咳などの症状が現れますが、重篤な合併症を伴わず、比較的短期間で回復します。
発熱
咳
全身倦怠感
重症
重症の際には、高熱や呼吸困難などの深刻な症状が現れ、肺炎などの合併症を引き起こす可能性があります。
集中治療を必要とする場合も多く、回復までに長期間を要することがあります。
病型 | 肺炎の合併 | 集中治療の必要性 |
軽症 | 稀 | 低い |
重症 | 多い | 高い |
致死性
致死性の場合、急速に病状が進行して多臓器不全などを引き起こし、適切な治療を行ったとしても死亡に至る可能性が高くなります。
鳥インフルエンザA(H7N9)の主な症状
鳥インフルエンザA(H7N9)に感染した際には、様々な症状が現れます。
発熱
鳥インフルエンザA(H7N9)に感染すると、高熱が出ることが多いです。
症状 | 頻度 |
発熱 | 高い |
咳 | 高い |
発熱とは、体温が38℃以上に上昇した状態を指します。
感染初期から高熱が持続する際には、重症化のサインである可能性があります。
咳
鳥インフルエンザA(H7N9)に感染した人の多くに、咳の症状が見られます。
- 空咳(からぜき)
- 痰を伴う咳
- 血痰を伴う咳(重症例)
咳は、気道の炎症や刺激によって引き起こされます。
重症化すると、血痰を伴う咳が出現することがあります。
呼吸困難
鳥インフルエンザA(H7N9)に感染した場合、呼吸困難を訴えることがあります。
症状 | 重症度 |
軽度の呼吸困難 | 軽症〜中等症 |
重度の呼吸困難 | 重症 |
呼吸困難は、肺炎などの合併症によって引き起こされます。
重症例では、人工呼吸器による呼吸管理が必要となることがあります。
全身倦怠感
鳥インフルエンザA(H7N9)に感染すると、全身の倦怠感を伴うことが多いです。
この倦怠感は、体のだるさや疲労感として現れます。
感染初期から倦怠感が強く現れる際には、重症化のリスクが高いと考えられています。
鳥インフルエンザA(H7N9)の原因・感染経路
鳥インフルエンザA(H7N9)は、主に鳥類に感染するインフルエンザウイルスが原因であり、一部のウイルス株がヒトにも感染します。
原因ウイルス
鳥インフルエンザA(H7N9)の原因となるのは、インフルエンザAウイルスのH7N9亜型です。
このウイルスは、主に以下の鳥類に感染します。
- 野生の水鳥類(アヒル、ガチョウなど)
- 家禽類(ニワトリ、アヒルなど)
鳥インフルエンザウイルスは、鳥類の腸管で増殖し、糞便とともに排出されます。
ヒトへの感染経路
鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスは、以下の経路でヒトに感染します。
- 感染した鳥との直接接触
- ウイルスに汚染された環境(鳥の糞便など)との接触
- 感染した鳥を介した限定的なヒト-ヒト感染
感染経路 | リスクの高さ |
感染した鳥との直接接触 | 高い |
ウイルスに汚染された環境との接触 | 中程度 |
感染した鳥を介したヒト-ヒト感染 | 低い |
特に、生きた家禽類を扱うライブマーケットでの感染リスクが高いと考えられています。
診察(検査)と診断
鳥インフルエンザA(H7N9)の診断においては、患者の症状や疫学的情報を考慮した臨床診断と、ウイルス学的検査による確定診断が重要です。
臨床診断
鳥インフルエンザA(H7N9)の臨床診断では、以下の点に着目します。
- 発熱、咳、呼吸困難などの呼吸器症状
- 生きた家禽類との接触歴
- 感染地域への渡航歴
臨床診断の着目点 | 重要度 |
呼吸器症状 | 高い |
生きた家禽類との接触歴 | 高い |
感染地域への渡航歴 | 中程度 |
これらの情報を総合的に評価し、鳥インフルエンザA(H7N9)を疑う際には、速やかに確定診断のための検査を実施します。
ウイルス学的検査
鳥インフルエンザA(H7N9)の確定診断には、以下のウイルス学的検査が用いられます。
検査方法 | 検査材料 | 検査感度 |
リアルタイムRT-PCR法 | 呼吸器検体(鼻咽頭拭い液、気管吸引液など) | 高い |
ウイルス分離 | 呼吸器検体 | 高い |
血清学的検査 | 急性期および回復期の血清 | 中程度 |
リアルタイムRT-PCR法は、感度が高く、迅速な診断が可能です。
ウイルス分離は、ウイルスの性状解析に有用ですが、結果を得るまでに時間を要します。
確定診断までの流れ
鳥インフルエンザA(H7N9)が疑われる患者の診察から確定診断までの流れは、以下の通りです。
- 臨床症状と疫学的情報から鳥インフルエンザA(H7N9)を疑う
- 呼吸器検体を採取し、リアルタイムRT-PCR法で検査
- 陽性の場合、確定診断とする
- 陰性の場合、臨床症状と疫学的情報を再評価し、必要に応じて再検査を実施
鳥インフルエンザA(H7N9)の治療法と処方薬
鳥インフルエンザA(H7N9)の治療においては、抗インフルエンザ薬の投与と対症療法が中心となります。
抗インフルエンザ薬
鳥インフルエンザA(H7N9)の治療に用いられる主な抗インフルエンザ薬は、以下の通りです。
- オセルタミビル(タミフル)
- ザナミビル(リレンザ)
- ペラミビル(ラピアクタ)
薬剤名 | 投与経路 | 用法・用量(成人) |
オセルタミビル | 経口 | 1日2回、75mgを5日間 |
ザナミビル | 吸入 | 1日2回、10mgを5日間 |
ペラミビル | 点滴静注 | 1回300mgを単回投与 |
これらの薬剤は、ウイルスの増殖を抑制することで、症状の改善と重症化の防止に寄与します。
早期の投与開始が重要であり、発症から48時間以内の投与が推奨されています。
対症療法
鳥インフルエンザA(H7N9)の症状に対しては、以下のような対症療法が行われます。
- 解熱鎮痛薬の投与(アセトアミノフェンなど)
- 輸液療法による体液バランスの維持
- 酸素療法による呼吸管理
重症例では、人工呼吸器管理や集中治療が必要となることがあります。
治療の注意点
鳥インフルエンザA(H7N9)の治療には、以下の点に注意が必要です。
抗インフルエンザ薬の耐性株の存在
基礎疾患を有する患者や高齢者での重症化リスク
重症化リスク因子 | 具体例 |
基礎疾患 | 慢性呼吸器疾患、心疾患、糖尿病など |
高齢 | 65歳以上 |
免疫抑制状態 | ステロイド長期使用、HIV感染など |
これらのリスク因子を有する患者においては、より慎重な経過観察と積極的な治療介入が求められます。
治療戦略
鳥インフルエンザA(H7N9)の治療戦略は、以下の通りです。
- 早期診断と抗インフルエンザ薬の速やかな投与
- 重症度に応じた対症療法の実施
- 合併症の予防と管理
- 基礎疾患を有する患者や高齢者での慎重な経過観察
これらの戦略を適切に実施することで、患者の予後改善と感染拡大防止が期待できます。
治療に必要な期間と予後について
鳥インフルエンザA(H7N9)の治療期間と予後は、患者の重症度や合併症の有無などによって異なります。
治療期間
鳥インフルエンザA(H7N9)の治療期間は、以下の通りです。
重症度 | 治療期間 |
軽症 | 5〜7日程度 |
中等症 | 1〜2週間程度 |
重症 | 数週間〜数ヶ月 |
抗インフルエンザ薬の投与は、発症から48時間以内に開始することが重要です。
合併症と治療期間
鳥インフルエンザA(H7N9)では、以下のような合併症が見られることがあります。
- 肺炎
- 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)
- 多臓器不全
これらの合併症を伴う際には、治療期間は長期化する傾向があります。
合併症 | 治療期間への影響 |
肺炎 | 治療期間が延長 |
ARDS | 長期の集中治療が必要 |
多臓器不全 | 予後不良、治療期間が大幅に延長 |
合併症の早期発見と適切な管理が、治療期間の短縮と予後の改善に繋がります。
予後
鳥インフルエンザA(H7N9)の予後は、以下の通りです。
重症度が高いほど、予後不良となる傾向があります。
高齢者や基礎疾患を有する患者においては、重症化リスクが高く、予後が悪化します。
鳥インフルエンザA(H7N9)の治療における副作用やリスク
鳥インフルエンザA(H7N9)の治療における副作用やリスクを理解し、適切な管理を行うことが、患者の安全と良好な治療成績に繋がります。
抗インフルエンザ薬の副作用
鳥インフルエンザA(H7N9)の治療に使用される主な抗インフルエンザ薬とその副作用は、以下の通りです。
薬剤名 | 主な副作用 |
オセルタミビル | 悪心、嘔吐、腹痛、下痢など |
ザナミビル | 気道刺激症状(咳嗽、喘鳴など) |
ペラミビル | 下痢、好中球減少など |
これらの副作用は、通常軽度から中等度であり、治療継続に支障をきたすことは稀です。
しかし、重篤な副作用が現れた際には、速やかに医療従事者に相談する必要があります。
抗インフルエンザ薬の注意点
抗インフルエンザ薬を使用する際は、以下の点に注意が必要です。
注意点 | 理由 |
腎機能障害患者での用量調整 | 薬剤の血中濃度が上昇し、副作用リスクが増大するため |
妊婦・授乳婦への投与 | 胎児や乳児への影響が完全には解明されていないため |
小児・高齢者での副作用モニタリング | 副作用の発現頻度が高い傾向があるため |
これらの点を考慮し、患者個々の状況に応じた慎重な投与が求められます。
耐性ウイルスの出現リスク
抗インフルエンザ薬の使用に伴うリスクとして、耐性ウイルスの出現が挙げられます。
耐性ウイルスの出現は、治療効果の低下や感染拡大のリスクに繋がります。
適正使用と感染予防対策の徹底が、耐性ウイルス出現のリスク管理に重要です。
重症化リスクの高い患者への注意
以下のような重症化リスクの高い患者においては、副作用やリスクに特に注意が必要です。
- 高齢者
- 基礎疾患を有する患者
- 免疫抑制状態の患者
これらの患者では、副作用のモニタリングを強化し、合併症の予防と早期発見に努めることが重要です。
予防方法
鳥インフルエンザA(H7N9)は、ヒトへの感染力が強く、重症化リスクが高いウイルスです。
予防策を講じることは、個人の健康を守るだけでなく、社会全体の感染拡大防止に繋がります。
個人レベルでの予防策
個人レベルでの鳥インフルエンザA(H7N9)の予防策は、以下の通りです。
- 手洗いの徹底(石鹸と流水で最低20秒間)
- マスクの着用(特に感染地域への渡航時)
- 咳エチケットの実践(咳やくしゃみの際は、ティッシュやハンカチで口と鼻を覆う)
予防策 | 効果 |
手洗い | ウイルスの手指への付着を防ぐ |
マスク着用 | 飛沫感染を防ぐ |
咳エチケット | 飛沫の拡散を防ぐ |
これらの予防策を日常的に実践することが、感染リスクの低減に繋がります。
感染鳥との接触回避
鳥インフルエンザA(H7N9)の主な感染源は、感染した鳥との接触です。
以下のような場所や状況では、特に注意が必要です。
- ライブマーケット(生きた家禽類が売買される市場)
- 家禽類の飼育場
- 野鳥との接触
感染地域への渡航時は、これらの場所への不要な訪問を控えることが重要です。
やむを得ず訪問する際には、適切な防護措置(マスク、手袋、ゴーグルなど)を講じる必要があります。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
軽症例の治療費
軽症例の鳥インフルエンザA(H7N9)治療費は、以下のような内訳になります。
軽症例の総治療費は、55,000円〜110,000円程度となります。
重症例の治療費
重症例の鳥インフルエンザA(H7N9)治療費は、以下のような内訳になります。
- 診察費:10,000円〜20,000円
- 検査費(血液検査、ウイルス学的検査など):50,000円〜100,000円
- 薬剤費(抗インフルエンザ薬、対症療法薬など):100,000円〜200,000円
- 入院費(集中治療室管理費含む):1,000,000円〜5,000,000円
重症例の総治療費は、合併症の治療費も含めると、1,160,000円〜5,320,000円以上になることがあります。
治療費項目 | 費用の目安 |
診察費 | 10,000円〜20,000円 |
検査費 | 50,000円〜100,000円 |
薬剤費 | 100,000円〜200,000円 |
入院費 | 1,000,000円〜5,000,000円 |
ただし、公的医療保険や高額療養費制度により、自己負担額は大幅に軽減されることもあります。
以上
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