脳アミロイドアンギオパチー – 脳・神経疾患

脳アミロイドアンギオパチー(cerebral amyloid angiopathy)とは、脳血管壁にアミロイドβタンパク質が蓄積し、血管構造を脆弱化させる進行性の疾患です。

この疾患は65歳以上の高齢者に好発し、脳血管の変性により脳葉型出血や認知機能障害など、重篤な神経学的症状を起こします。

加齢は主要なリスク因子ですが、高血圧症や喫煙などの血管リスク因子の管理が、疾患の進行抑制において重要な役割を果たします。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

脳アミロイドアンギオパチーの主な症状

脳アミロイドアンギオパチーの主要な症状は、突発的な脳出血による意識障害や麻痺、さらに認知機能の低下や一過性の神経症状です。

脳出血による急性症状

脳アミロイドアンギオパチーにおいて最も警戒すべき症状は、脳内の出血によって起こる急性の神経症状であり、患者さんの状態は突如として変化することがあります。

血管壁へのアミロイドタンパク質の蓄積は血管の脆弱化を起こし、見られる症状は、突然の激しい頭痛や意識レベルの変動、運動機能や感覚機能の障害などです。

症状特徴的な所見
頭痛突発的な激痛、持続性の鈍痛
意識障害軽度の意識混濁から昏睡まで様々
運動障害片側の手足の脱力や麻痺
感覚障害しびれ感や知覚鈍麻

一過性の神経症状

脳アミロイドアンギオパチーに関連する一過性の神経症状は、数分から数時間で自然に改善することが多く、この特徴は診断において非常に大切な手がかりです。

一過性の症状は、脳の微小な循環障害によって生じ、症状の種類や程度は患者さんごとに異なり、また同じ患者さんでも発作のたびに異なる症状が現れることがあります。

  • 視覚異常(一時的な視野の欠損や歪み)
  • 言語障害(一時的な話しにくさや理解力の低下)
  • 感覚異常(手足のしびれや違和感)
  • 運動障害(一時的な脱力感や動きにくさ)

画像検査で確認できる特徴的な所見

脳アミロイドアンギオパチーの進行に伴い、画像検査では特徴的な所見を確認することができ、所見は症状の重症度や進行度を評価する上で不可欠な情報となります。

画像所見の特徴は病変の分布や性状によって異なりますが、脳の表層部に多く見られる微小出血や白質病変は、脳アミロイドアンギオパチーに特徴的な所見です。

画像所見臨床的意義
微小出血将来の大きな出血のリスク指標
白質病変認知機能への影響や進行度の指標
皮質微小梗塞血管障害の程度を反映

脳アミロイドアンギオパチーの原因

脳アミロイドアンギオパチーの根本的な原因は、脳血管壁へのアミロイドβタンパク質の異常沈着とそれに伴う血管構造の変性です。

アミロイドβタンパク質の役割と蓄積メカニズム

アミロイドβタンパク質は通常、脳内で産生と分解のバランスが厳密に制御されている物質ですが、加齢に伴う代謝機能の低下や遺伝的要因による影響により、バランスが徐々に崩れていくことで血管壁への異常な蓄積が始まります。

脳血管壁への蓄積は一朝一夕に進行するものではなく、数年から数十年という長期にわたって継続的に進行し、高齢者の脳内では加齢に伴ってアミロイドβの蓄積量が徐々に増加しています。

要因蓄積メカニズム
加齢性変化分解酵素の機能低下、血管壁の構造変化
遺伝的背景アミロイド前駆体タンパク質の異常、分解酵素の遺伝子変異

遺伝的要因と家族性アミロイドアンギオパチー

遺伝子変異に起因する家族性アミロイドアンギオパチーは、全症例の約5%を占める特殊な病型で、若年での発症や進行の速さなど、孤発性症例とは異なる臨床的特徴を示します。

発症に関与する遺伝子変異

  • アミロイド前駆体タンパク質遺伝子の変異
  • シスタチンC遺伝子の変異
  • トランスサイレチン遺伝子の変異
  • ゲルソリン遺伝子の変異

環境因子と血管への影響

環境要因血管への影響
高血圧血管壁の損傷促進、アミロイド蓄積加速
動脈硬化血管弾性低下、アミロイド沈着促進
糖尿病血管内皮機能障害、蓄積促進

環境因子による血管への影響は、単独ではなく複合的に作用することで疾患の進行を加速させ、特に高血圧症と動脈硬化は互いに関連し合いながら血管壁の脆弱化を促進します。

診察(検査)と診断

脳アミロイドアンギオパチーの診断は画像検査を中心とし、生検による組織診断を組み合わせて行い、Modified Boston基準に基づいて診断を確定します。

問診と神経学的診察

問診においては、患者さんの既往歴や家族歴などの情報収集を行うことが重要で、出血性疾患の既往や、家族内での類似症例の有無について確認します。

神経学的診察では、意識状態、運動機能、感覚機能、反射などの確認を実施しており、所見を総合的に分析することで、病変の範囲や程度を推測することが大切です。

診察項目確認内容
意識状態覚醒度、見当識、応答性
運動機能筋力、協調運動、歩行状態
感覚機能触覚、痛覚、温度覚
反射検査深部腱反射、病的反射

画像診断の実施手順

MRI検査では、T2強調画像やSWI(磁化率強調像)を用いると微小出血の有無を確認でき、従来のMRI撮影では見落としてしまう微細な病変の検出ができます。

CTスキャンによる検査では、急性期の出血性病変や慢性期の石灰化病変を観察でき、緊急時の診断において不可欠な検査方法です。

画像検査の特徴的な所見

  • 脳葉型出血の有無と分布
  • 微小出血の存在と分布パターン
  • 白質病変の程度と広がり
  • 皮質表層の異常所見

髄液検査と生化学的解析

髄液検査は、脳脊髄液中の様々な物質を分析することで、病態の進行度や他の神経疾患との鑑別を行うために有用な検査法です。

検査項目測定意義
アミロイドβ蛋白脳内蓄積状態の把握
タウ蛋白神経変性の程度
炎症マーカー他疾患との鑑別

遺伝子検査と組織診断

遺伝子検査では、アミロイド前駆体蛋白遺伝子などの変異の有無を確認することで、遺伝性の脳アミロイドアンギオパチーの可能性について検討を行うことができます。

組織診断は、生検や剖検により得られた血管壁のアミロイド沈着を特殊染色で確認する手法で、診断の確実性を高めることが可能です。

脳アミロイドアンギオパチーの治療法と処方薬、治療期間

脳アミロイドアンギオパチーに対する治療アプローチは、抗凝固薬や降圧薬による血管保護療法を基本としながら、病態の進行度に応じて抗てんかん薬や認知機能改善薬を組み合わせます。

基本的な薬物療法

血管保護を目的とした治療における中心的な役割を果たすのが血圧のコントロールです。

カルシウム拮抗薬やACE阻害薬などの降圧薬を用いて、血管壁への負担を軽減させながら、脳循環の安定化を図ります。

薬剤分類主な使用目的
カルシウム拮抗薬血管拡張作用による血圧低下
ACE阻害薬レニン・アンギオテンシン系の抑制
ARB血管収縮抑制と臓器保護

降圧薬は、作用機序や副作用プロファイルが異なることから、患者さんの年齢や腎機能、心機能などの要素を総合的に判断したうえで薬剤を選択します。

抗凝固療法と投与期間

抗凝固療法における主要な治療薬剤

  • ワーファリン(ワルファリン)による長期的な抗凝固療法
  • 直接経口抗凝固薬(DOAC)による血栓予防
  • 抗血小板薬による血小板凝集抑制
  • ヘパリンによる急性期の抗凝固療法

抗凝固薬は、脳血管の微小出血リスクと血栓形成予防のバランスを考慮しながら、投与量と期間を決定していくことが大切です。

認知機能への対応

投与薬剤治療目標
コリンエステラーゼ阻害薬アセチルコリン量の増加
NMDA受容体拮抗薬グルタミン酸による神経障害の抑制

認知機能低下に対する薬物療法では、神経伝達物質の代謝やシナプス機能の改善を目指し、複数の作用機序を持つ薬剤を組み合わせます。

てんかん発作への対応

てんかん発作のコントロールでは、レベチラセタムやラモトリギンなどの新規抗てんかん薬を中心に選択し、各薬剤の特性と患者さんの状態を考慮しながら、発作型や年齢に応じた投与量の調整を行っていきます。

入院による集中治療

急性期治療においては、24時間体制での厳密な血圧管理と抗凝固療法の実施が必要です。

継続的なバイタルサインのモニタリングを通じて薬物療法の効果を評価しながら、投与量の微調整を行うことで治療効果を追求していきます。

脳アミロイドアンギオパチーの治療における副作用やリスク

脳アミロイドアンギオパチーに対する薬物療法や手術療法には、出血リスクの増加や感染症、臓器機能への影響などの副作用とリスクがあります。

抗血栓薬関連のリスク

抗血栓薬の使用に伴う出血性合併症は、脳アミロイドアンギオパチーの患者さんにおいて特に慎重な対応を要し、出血のリスクと血栓予防の効果のバランスを考慮しながら投与量を調整します。

抗血栓薬による副作用は、投与開始直後から長期的な使用まで、様々な時期に発現し、高齢の患者さんや腎機能が低下している患者さんでは、より注意深い観察が必要です。

薬剤分類副作用の特徴
抗凝固薬脳出血、消化管出血
抗血小板薬皮下出血、粘膜出血
血栓溶解薬重症出血性合併症

手術に伴うリスクと合併症

手術中や術後の管理においては、以下のような様々なリスクに対して対応を進めていきます。

  • 術中出血のリスク増加
  • 麻酔関連の合併症
  • 創部感染や髄膜炎
  • 術後の脳浮腫

モニタリングにおける注意点

血液検査や画像検査の結果に基づいて投薬内容や投与量の調整を行うことで、副作用のリスクを最小限に抑えながら治療効果を維持することができます。

検査項目モニタリングの意義
凝固機能出血リスクの評価
肝機能薬物代謝への影響
腎機能薬物排泄への影響

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

入院時の基本的な治療費

治療内容3割負担の概算費用
一般病棟入院(1日)5,000円~8,000円
集中治療室(1日)15,000円~25,000円
MRI検査(1回)15,000円~20,000円
CT検査(1回)10,000円~15,000円

外来診療における治療費

外来診療での主な費用項目として、以下が挙げられます。

  • 定期的な画像検査(MRI/CT)15,000円~30,000円
  • 血液検査 3,000円~5,000円
  • 薬剤費(1ヶ月分) 5,000円~15,000円
  • リハビリテーション(1回) 3,000円~5,000円

薬物療法にかかる費用

薬剤種類1ヶ月あたりの概算費用(3割負担)
降圧薬2,000円~5,000円
抗凝固薬3,000円~8,000円
抗てんかん薬5,000円~12,000円
認知機能改善薬8,000円~15,000円

以上

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