脳動脈瘤解離(cerebral artery dissection)とは、脳の血管の内側の層が突然裂けて、その裂け目に血液が入り込み、血管の壁が二重構造になる脳血管の疾患です。
この病気は、激しい頭痛や首の痛みが特徴的な症状として現れ、40代から50代の働き盛りの世代に多く発症します。
血管の壁が二重になることで、血液の流れる場所が狭くなったり、血栓ができやすくなったりし、脳梗塞などの深刻な合併症につながる可能性が高まります。
脳動脈瘤解離の主な症状
脳動脈瘤解離で最もよく見られる症状は、突発的な激しい頭痛から始まり、意識障害や麻痺などの神経学的症状へと進行する一連の過程です。
激しい頭痛と初期症状
脳動脈瘤解離の初期段階では、雷が落ちたような激烈な頭痛が起こり、頭痛は一般的な頭痛とは全く異なり、数秒から数分で強い痛みに達します。
頭部全体に広がる激しい痛みに加えて、吐き気や嘔吐を伴うことも多く見られ、激しい頭痛は、脳血管の異常を示す重大なサインです。
症状の種類 | 特徴的な性質 |
突発性頭痛 | 突然の激痛、持続的な痛み |
随伴症状 | 嘔吐、めまい、首の痛み |
意識状態 | 傾眠傾向、混乱、見当識障害 |
神経学的症状と進行性変化
脳動脈瘤解離が進行すると、様々な神経学的症状が現れ、特に注目すべき点として、手足の脱力感や麻痺症状が片側性に生じることが挙げられ、顔面から上肢にかけての症状が顕著です。
言語障害や視覚障害なども随伴することがあり、複数の神経症状が組み合わさって出現します。
緊急性を示す警告症状
- 意識レベルの低下
- 瞳孔サイズの左右差
- けいれん発作
- 呼吸の乱れ
- 急激な血圧上昇
上記の症状は、脳動脈瘤解離が深刻な状態へと進行している危険信号となり、直ちに医療機関を受診してください。
特に意識レベルの変化は、脳の重要な機能が障害を受けている可能性が高く、緊急度の高い症状です。
身体症状と全身への影響
症状の部位 | 具体的な症状 |
頭部症状 | 拍動性頭痛、後頭部痛 |
感覚障害 | しびれ、知覚鈍麻 |
自律神経症状 | 発汗異常、血圧変動 |
脳動脈瘤解離により様々な身体症状が現れ、特に四肢のしびれや感覚障害は、神経組織への圧迫や血流障害によって引き起こされることが多いです。
自律神経系への影響として、発汗異常や血圧の急激な変動などが生じることもあり、症状は全身状態の不安定さを示す指標となります。
また、身体のバランスを保つことが困難になり、歩行時のふらつきや転倒のリスクが高まることがありますので、十分な注意が必要です。
症状の時間的推移
症状は一般的に段階的に進行し、頭痛の性質や強さは時間とともに変化することがあり、断続的に激しさを増すことも珍しくありません。
神経症状は徐々に悪化することもあれば、急激に症状が進行することもあり、症状の進行速度は予測が困難であることが特徴です。
このような症状の変化は、脳血管の状態が刻々と変化していることを示唆する重大な指標となります。
脳動脈瘤解離の原因
脳動脈瘤解離は、高血圧や動脈硬化などの生活習慣病、急激な外力、遺伝的な要因など、複数の原因が組み合わさって起こる疾患です。
基礎疾患による影響
高血圧は脳動脈瘤解離の発症に深く関わる重要な要因で、血圧が長期間高い状態が続くと、血管の内側の層が徐々に弱くなっていきます。
血管の老化を進める動脈硬化や、全身の血管に影響を与える糖尿病なども、血管の壁を少しずつ傷つけていき、疾患が重なると、血管への負担はさらに大きくなります。
血圧が高い状態が続くと、血管の内側の層にヒビが入りやすくなり、そこから血液が入り込んで解離が始まるのです。
基礎疾患 | 血管への影響 |
高血圧症 | 血管壁の脆弱化 |
動脈硬化 | 血管の弾力性低下 |
糖尿病 | 血管壁の変性 |
脂質異常症 | プラーク形成 |
生活習慣と環境因子
毎日の生活習慣が血管の健康に大きく影響することが分かっていて、特にタバコは血管を収縮させ、お酒の飲みすぎは血圧を上げ、運動不足は血流を悪くします。
- 喫煙による血管収縮
- 過度な飲酒による血圧上昇
- 運動不足による血流低下
- ストレスによる血圧変動
- 不規則な生活習慣
- 睡眠不足による自律神経への影響
これらの習慣は一つだけでも血管に負担をかけますが、いくつかが重なると血管への影響は何倍にも上昇します。
外的要因と物理的刺激
急な事故やケガによる強い衝撃は、血管の壁を直接傷つけ、首や頭に受けた衝撃は、血管の壁に過度な力をかけ、解離の引き金となることが多いです。
交通事故やスポーツ中のケガだけでなく、普段の生活での姿勢や動作も、長い時間をかけて少しずつ血管に影響を与えることが、最近の研究で明らかになってきました。
外的要因 | 発生状況 |
交通事故 | 頭頸部への衝撃 |
スポーツ外傷 | 急激な体動 |
頸部マッサージ | 過度な圧迫 |
長時間の同一姿勢 | 持続的な負荷 |
遺伝的背景と体質的要因
生まれつきの体質や遺伝子の違いも、脳動脈瘤解離のなりやすさに関係し、若いうちに発症する方の中には、遺伝的な要因が関係していることがあります。
マルファン症候群やエーラス・ダンロス症候群といった、生まれつき血管が弱い病気がある方は、解離を起こすリスクが高いです。
また、家族の中に同じような病気になった方がいる場合、血管の壁が弱くなりやすい体質を受け継いでいる可能性があ、遺伝的な背景がある方は、他の危険因子がなくても解離を起こすことがあります。
診察(検査)と診断
脳動脈瘤解離の診断過程においては、神経学的診察から画像診断に至るまで、段階的な検査を組み合わせることで、病態の正確な把握と血管病変の詳細な分析を実施します。
初期診察と神経学的所見
初期診察では患者さんの意識状態や神経学的な状態を詳しく観察いたし、この段階での綿密な診察は、その後の検査方針を決定する重要な指標となるので、特に慎重に行います。
診察項目 | 診察内容 |
意識レベル評価 | JCSスケール、GCSスケール |
瞳孔検査 | 対光反射、瞳孔径、左右差 |
運動機能 | 筋力テスト、協調運動 |
感覚機能 | 触覚、温度覚、痛覚 |
神経学的診察では、脳神経系の機能を順序立てて確認していきますが、この過程で特に注意深く観察すべき点は、脳神経の働きに関する検査です。
瞳孔の大きさや対光反射、眼球運動、顔面の動き、舌の動きなど、脳神経の働きを細かく調べることで、障害の範囲や程度を正確に把握できます。
画像検査による血管評価
MRIやCTなどの画像検査を用いることで、脳血管の状態を立体的かつ詳細に観察することができ、血管の形態学的な変化や血流動態の異常を捉えるためには、複数の画像方法を組み合わせて検査を進めることが大切です。
- MRアンギオグラフィー
- CTアンギオグラフィー
- 脳血管造影検査
- 頸動脈超音波検査
- 経頭蓋ドップラー検査
画像検査は血管の形態や血流の状態を視覚的に確認する手段となり、血管壁の異常や血流パターンの変化を詳細に観察できます。
また、検査結果を総合的に判断することで、より精密な病態把握が可能となります。
血液検査と生化学的分析
検査項目 | 検査目的 |
凝固機能 | 出血傾向の評価 |
炎症反応 | 血管炎の確認 |
血液一般 | 貧血や感染の有無 |
生化学 | 代謝異常の検出 |
血液検査により、血管の状態や全身の健康状態を数値化して把握することができます。
特に注目すべき点として、凝固系の異常や炎症反応の有無は、病態の進行や予後に深く関連することがあります。
凝固系の検査では、血液の固まりやすさを確認し、出血のリスクを判断することができ、また、炎症マーカーの測定により、血管壁の炎症状態を評価することも可能です。
経時的な観察と記録
定期的な神経学的診察を実施し、症状の変化を詳細に記録することは、病態の進行を把握する上で極めて重要な意味を持ちます。
特に、意識状態や神経症状の微細な変化を見逃さないよう、慎重な観察が必須です。
バイタルサインの測定では、血圧や脈拍、体温などの基本的な生体情報を継続的に確認し、変動パターンから病態の安定性を判断します。
補助的検査法
心臓超音波検査や心電図検査など、循環器系の状態を併せて確認することで、全身の循環動態をより包括的に評価でき、検査結果は、脳血管の状態に直接的な影響を与える因子となります。
頸部の血管エコー検査では、頸動脈の状態を非侵襲的に観察することが可能で、血管壁の性状や血流パターンの変化を経時的に追跡できます。
さらに、呼吸機能や酸素飽和度なども継続的にモニタリングを行い、全身状態の変化を捉えることで、より総合的な病態評価を行うことが大切です。
脳動脈瘤解離の治療法と処方薬、治療期間
脳動脈瘤解離の治療は、薬物療法と手術療法を組み合わせて行い、病状や血管の状態に応じて、3〜6ヶ月の入院治療と、その後の外来治療が必要です。
薬物療法の基本
血圧をコントロールし、血管を保護することが治療の第一歩になり、急性期の血圧管理には、24時間体制での厳密なモニタリングが必要で、点滴による降圧薬の投与を行います。
カルシウム拮抗薬のニカルジピンやニフェジピンは、血管を直接広げる作用があり速やかに血圧を下げ、血管平滑筋のカルシウムチャネルを遮断することで、血管を拡張させ、血圧を低下させる働きがあります。
ARBやACE阻害薬は、レニン-アンジオテンシン系に作用して血圧を安定化させ、24時間にわたって安定した降圧効果を発揮し、血管保護作用も持ち合わせているため、長期的な治療に適した薬剤です。
β遮断薬は、交感神経の興奮を抑えることで心拍数と血圧の変動を抑制し、血圧の急激な上昇を防ぐ効果に優れており、運動や体位変換による血圧変動を最小限に抑えられます。
薬剤の種類 | 治療目的 |
カルシウム拮抗薬 | 血圧低下と血管拡張 |
ARB/ACE阻害薬 | 血圧安定化 |
β遮断薬 | 血圧変動抑制 |
降圧利尿薬 | 循環血液量調整 |
薬剤は、患者さんの状態や血圧の変動パターンに応じて、2種類から4種類程度を組み合わせて使用し、急性期には点滴による投与を行い、状態が安定してきた段階で徐々に内服薬に切り替えていきます。
手術治療の選択
手術療法は、血管の解離状態、出血の有無、血流の状態、そして患者さんの年齢や全身状態などを総合的に判断して選択します。
手術方法の選択には、解離した血管の場所や大きさ、周囲の血管との関係なども考慮に入れることが重要です。
血管内治療は、足の付け根や腕の血管からカテーテルを挿入し、解離した血管まで到達させるもので、開頭手術に比べて体への負担が少なく、回復も早いという利点があります。
- 血管内治療(ステント留置術)
- クリッピング術
- トラッピング術
- バイパス術
- コイル塞栓術
血管内治療では、特殊な金属製のステントを用いて解離した血管壁を内側から支えます。
ステントには、単純に血管を支持するだけのものから、血流を制御する機能を持つものまで、様々な種類があるので、病変の状態に応じて選択することが重要です。
クリッピング術は、頭蓋骨を一時的に開いて直接血管にアプローチする方法で、顕微鏡を用いて操作を行い、チタン製のクリップを用いて解離した血管を補強します。
この手術は、複雑な形状の解離や、他の治療法では対応が難しい場合に選択します。
トラッピング術は、解離した血管の両端を遮断して血流を完全に止める方法で、手術を行う際には、遮断する血管が供給している脳の部分への血流を確保するため、別の血管を用いてバイパス手術を組み合わせることが多いです。
治療期間と段階
治療期間は、解離の程度や選択した治療法によって大きく異なりますが、一般的には数か月から1年以上の長期的な経過観察が必要です。
特に発症から最初の1か月は、再解離や出血のリスクが高い時期となります。
治療段階 | 期間の目安 |
急性期入院 | 2-4週間 |
回復期入院 | 4-8週間 |
退院後通院 | 3-6ヶ月 |
経過観察 | 1-2年 |
急性期には、ベッド上での安静を中心とした治療を行い、24時間体制で血圧を測定し、必要に応じて点滴による降圧治療を行います。
また、定期的な画像検査で血管の状態を確認しながら、慎重に治療を進めていきます。
回復期に入ると、徐々に離床を進め、日常生活動作の訓練を開始し、この時期には、内服薬による血圧コントロールを確立することが大切です。
退院後は、定期的な外来診察で経過を観察し、血圧手帳を用いた自己測定の記録や、定期的な画像検査により、血管の状態を継続的に評価していきます。
使用される主な薬剤
降圧薬による治療は、脳動脈瘤解離の管理において最も基本となる重要な治療法です。
急性期には注射薬を用いて厳密な血圧管理を行い、その後徐々に内服薬に切り替えます。
血栓予防の薬剤も治療には欠かせません。
アスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬は、血小板の凝集を抑制することで血栓の形成を防ぎ、また、ワーファリンやDOACなどの抗凝固薬は、血液の凝固機能を抑制することで、より強力な血栓予防効果を発揮します。
入院中は、不眠や不安に対して睡眠薬や抗不安薬を使用することもあり、急性期の安静が必要な時期に、患者さんの精神的な負担を和らげ、安定した治療経過を支援することが目的です。
脳動脈瘤解離の治療における副作用やリスク
脳動脈瘤解離の治療において、投薬や手術などの医療介入に伴う様々な副作用やリスクが存在し、出血性および虚血性の合併症から薬剤性の有害事象などがあります。
薬物療法における副作用
抗凝固薬や抗血小板薬による治療では、出血傾向の増加に細心の注意を払い、特に、高齢の患者さんや他の基礎疾患をお持ちの方々においては、より慎重な投与管理が必要です。
薬剤分類 | 主な副作用 |
抗凝固薬 | 消化管出血、皮下出血 |
抗血小板薬 | 鼻出血、歯肉出血 |
降圧薬 | めまい、低血圧 |
鎮痛薬 | 胃部不快感、腎機能障害 |
薬物療法に関連する副作用は、投与量や併用薬によって大きく変動することがあり、肝機能や腎機能が低下している患者さんでは、より注意深いモニタリングが大切になってきます。
血管内治療に関連するリスク
- 動脈解離の進行
- 血管穿孔
- 血栓形成
- 造影剤アレルギー
- 放射線被曝
合併症は、治療の難易度や血管の状態によって発生する可能性が変わり、血管の脆弱性が高い患者さんや、複雑な血管走行を持つ症例では、より慎重な手技操作が必要です。
全身麻酔に伴うリスク
全身麻酔下での治療では、呼吸器系や循環器系への影響に特に留意し、麻酔薬の種類や投与量によって、各種臓器への影響度が異なることを考慮しながら、慎重な管理を行います。
リスク要因 | 具体的な内容 |
呼吸器系 | 無気肺、肺炎 |
循環器系 | 不整脈、血圧変動 |
代謝系 | 電解質異常、高血糖 |
神経系 | 意識回復遅延、せん妄 |
麻酔管理における各種モニタリングが不可欠で、術中の血圧管理や呼吸状態の維持には細心の注意を払い、また、既往歴や合併症の有無によっては、追加的な監視項目を設定することもあります。
術後合併症のリスク
手術直後から数日間は、創部の感染や血腫形成に特に注意を払い、手術部位の状態によっては、脳浮腫や頭蓋内圧上昇などの合併症にも気を付けます。
術後の痛みや発熱は、創部の炎症反応として現れますが、重症化や遷延化の兆候がないかどうかを慎重に観察していくことが必要です。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
入院治療に関わる基本的な費用
入院費用は、個室やベッド数に応じて1日あたり3,000円から20,000円の範囲で変動します。
一般病棟での標準的な入院費用は、1日あたり5,000円から8,000円が一般的です。
入院施設 | 1日あたりの費用(3割負担) |
一般病床 | 5,000-8,000円 |
2人部屋 | 8,000-12,000円 |
個室 | 12,000-20,000円 |
ICU | 15,000-25,000円 |
手術治療に関わる費用
手術費用は術式によって異なり、以下のような費用が発生します。
- 血管内治療(ステント留置術)90-120万円
- クリッピング術 100-150万円
- コイル塞栓術 120-180万円
- バイパス術 150-200万円
- トラッピング術 80-120万円
薬物療法に関わる費用
降圧薬や抗血栓薬などの薬剤費用は、1か月あたり5,000円から15,000円程度となります。
薬剤の種類 | 月額費用(3割負担) |
降圧薬 | 3,000-8,000円 |
抗血小板薬 | 2,000-5,000円 |
抗凝固薬 | 3,000-10,000円 |
その他併用薬 | 2,000-5,000円 |
画像診断に関わる費用
MRIやCTなどの画像検査は、1回あたり5,000円から15,000円程度、脳血管造影検査は、1回あたり20,000円から30,000円程度の費用となります。
リハビリテーションに関わる費用
理学療法や作業療法などのリハビリテーション費用は、1回あたり2,000円から5,000円です。
入院中のリハビリテーションは、1日あたり3,000円から8,000円の費用が発生します。
以上
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