Lewy小体型認知症 – 脳・神経疾患

Lewy小体型認知症(Lewy body dementia)とは、脳内にα-シヌクレイン(特定のタンパク質)が異常に蓄積することで起こる、徐々に進行する神経の変性疾患です。

物事を理解したり判断したりする能力の低下、実際にはないものが見える幻視、手足の震えや動作の緩慢さなどのパーキンソン症状といった症状が現れます。

初めのうちは症状が軽く気づきにくいため、早い段階で見つけることは難しいこともあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

Lewy小体型認知症の主な症状

Lewy小体型認知症の症状は、認知機能の低下、パーキンソン症状、視覚幻覚、睡眠障害などが組み合わさって現れます。

認知機能の変動と注意力の低下

Lewy小体型認知症の特徴的な症状の一つは、認知機能の変化です。

患者さんの認知機能は、一日のうちでも大きく変化し、ときには正常に近い状態から突然混乱状態に陥ることがあり、この変化は注意力と覚醒度に顕著に現れます。

朝は比較的しっかりしていても、午後になると急に混乱し、家族のことがわからなくなることがあります。

状態特徴日常生活への影響
良好時ほぼ正常な判断力、会話能力通常の活動が可能
不良時混乱、無反応、傾眠傾向介助が必要になる

認知機能の変動は、Lewy小体型認知症の診断において重要な手がかりとなり、他の認知症との違いを示す特徴的な症状です。

視覚幻覚と錯覚

Lewy小体型認知症では鮮明な視覚幻覚が早期から見られ、患者さんは実際には存在しない人物や動物、物体を見たと訴えます。

幻覚は非常にリアルで詳細であり、患者さんにとっては現実のものとして認識されるため、強い不安や恐怖を感じることも。

視覚幻覚の内容

  • 人物(知らない人、亡くなった家族など)
  • 小動物(犬、猫、昆虫など)
  • 幾何学的な模様や色彩
  • 風景(実際にはない建物や木々など)

幻覚以外にも、錯覚(実際にあるものを別のものと誤認識すること)もよく見られ、壁の模様を虫に見間違えたり、テレビの中の人物が実際に部屋にいると勘違いすることがあります。

パーキンソン症状

Lewy小体型認知症では、パーキンソン病に似た運動症状が現れ、これらの症状は脳内のドーパミン産生細胞の変性が原因です。

症状特徴日常生活への影響
筋固縮筋肉の硬直動作のぎこちなさ、痛み
振戦手足の震え細かい作業の困難さ
無動動作の鈍さ日常動作の遅さ、表情の乏しさ
姿勢反射障害バランスの悪さ歩行困難、転倒リスクの増加

レム睡眠行動障害

Lewy小体型認知症の患者さんでは、レム睡眠行動障害(RBD)が高頻度で認められ、認知症の診断がつく何年も前から現れます。

RBDは、レム睡眠中に筋肉の弛緩が不十分となり、夢の内容に合わせて体を動かしてしまう状態です。

患者さんは夢の中で戦っているような激しい動きを示し、自分や周囲の人を傷つけることがあります。

例えば、夢の中で野球をしているつもりで実際に腕を振り回したり、逃げているつもりでベッドから転落したりします。

RBDは、Lewy小体型認知症の早期診断の重要な手がかりとなるため、睡眠中の異常な行動に気づいたときは、早めに専門医に相談することが大切です。

自律神経症状

Lewy小体型認知症では、自律神経系の機能障害による様々な症状が現れます。

症状特徴日常生活への影響
起立性低血圧立ち上がった時のめまいや失神転倒リスク増加、活動制限
発汗異常多汗または無汗体温調節の困難さ
便秘排便困難、腹部膨満感不快感、栄養吸収の低下
排尿障害頻尿、排尿困難睡眠の質低下、外出の制限

Lewy小体型認知症の原因

Lewy小体型認知症の根本的な原因は、脳内におけるα-シヌクレインタンパク質の異常蓄積です。

α-シヌクレインの役割と異常蓄積

α-シヌクレインは、正常な状態では神経細胞のシナプス(神経細胞同士の接合部)機能を支える重要なタンパク質です。

何らかの要因によりα-シヌクレインが異常に折りたたまれ、凝集すると、脳内に Lewy小体(特徴的な異常構造体)を形成します。

このLewy小体の蓄積が、神経細胞の機能障害や細胞死を起こし、認知機能の低下や運動症状の問題を生じさせます。

神経伝達物質の不均衡

Lewy小体型認知症では、神経伝達物質の不均衡も重要な要因です。

ドーパミンとアセチルコリンという2つの神経伝達物質のバランスが崩れることで、運動機能の低下や認知機能の障害が現れます。

神経伝達物質正常時の役割Lewy小体型認知症での変化
ドーパミン運動制御、報酬系、感情調整減少
アセチルコリン記憶形成、注意力維持、覚醒状態の調整減少

遺伝的要因と環境因子

Lewy小体型認知症の発症には、遺伝的要因と環境因子の両方が関与しています。

遺伝的要因は、SNCA遺伝子(α-シヌクレインの産生に関与)やLRRK2遺伝子(細胞内のタンパク質輸送に関与)などの変異です。

遺伝子変異は、α-シヌクレインの産生や代謝に影響を与え、Lewy小体の形成を促進します。

また、環境因子は、α-シヌクレインの異常蓄積や神経細胞の脆弱性を高め、Lewy小体型認知症の発症リスクを増大させます。

環境因子

  • 加齢(年齢を重ねること)
  • 慢性的なストレス
  • 環境毒素への長期的な曝露
  • 頭部外傷の既往(過去に頭部を強く打った経験)

炎症と酸化ストレスの関与

Lewy小体型認知症の進行には、脳内の慢性的な炎症反応と酸化ストレスも関係しています。

異常なα-シヌクレインの蓄積は、ミクログリア(脳内の免疫細胞)を活性化させ持続的な炎症反応を起こし、さらなる神経細胞の損傷を生じさせる悪循環を生み出し、症状の進行を加速させます。

また、酸化ストレスによる細胞内小器官(特にミトコンドリア)の機能障害も、神経細胞の脆弱性を高める重要な要因です。

Lewy小体型認知症における炎症と酸化ストレスの影響

要因影響二次的な影響
慢性炎症ミクログリアの持続的活性化神経細胞の進行性損傷、シナプス機能障害
酸化ストレスミトコンドリア機能障害エネルギー産生低下、DNA損傷、細胞死促進

神経ネットワークの破綻

Lewy小体型認知症では、特定の脳領域における神経細胞の変性だけでなく、脳全体の神経ネットワークの破綻も生じることが分かっています。

α-シヌクレインの異常蓄積はシナプス機能を阻害し、神経細胞間の情報伝達を妨げます。

状態が進行すると、記憶や認知機能、運動制御などに関わる複雑な神経回路が広範囲に障害され、Lewy小体型認知症に特徴的な多様な症状が起きるのです。

診察(検査)と診断

Lewy小体型認知症の診断には、患者さんとご家族からの病歴聴取、神経学的検査、認知機能検査、脳画像検査などを用います。

初期評価と問診

Lewy小体型認知症の問診では、認知機能の変化、幻視の有無、パーキンソン症状、睡眠障害などの特徴的な症状について聞き取りを行います。

日常生活における変化や困難な点についても質問し、症状の発症時期や進行の速さなどを収集します。

神経学的検査

次に、神経学的検査を実施し、反射、筋力、感覚、協調運動、歩行などの神経学的機能を総合的に評価します。

特に、パーキンソン症状の有無や程度を確認することが重要です。

神経学的検査項目評価内容
反射深部腱反射の亢進または低下
筋力筋力低下の有無と分布
感覚表在感覚・深部感覚の異常
協調運動運動の円滑性と正確性
歩行歩行パターンの変化と不安定性

認知機能検査

認知機能の評価のために行う検査は、MMSE(Mini-Mental State Examination)やMoCA(Montreal Cognitive Assessment)などの標準化されたスクリーニングです。

さらに、注意力、実行機能、視空間認知能力などを評価する特殊な神経心理学的検査も必要に応じて行います。

画像診断

脳の構造的・機能的変化を評価するために、複数の画像検査を用います。

  • MRI(磁気共鳴画像法) 脳萎縮の程度や血管性変化を観察
  • SPECT(単一光子放射断層撮影)・PET(陽電子放射断層撮影) 脳血流や代謝の変化を定量的に評価
  • DaTスキャン(ドパミントランスポーターシンチグラフィ) 黒質線条体ドパミン神経系の機能を評価する検査で、Lewy小体型認知症の診断に高い特異性を持つ
画像検査評価内容
MRI脳萎縮、白質病変、血管性変化
SPECT局所脳血流量
PET脳糖代謝、アミロイド沈着
DaTスキャン線条体ドパミントランスポーター密度

臨床診断基準

現在、広く使用されている診断基準は、2017年に改訂された「DLB国際ワークショップの診断基準」です。

この基準では、中心的特徴、中核的特徴、示唆的特徴などを評価し、組み合わせによって「確実(probable)DLB」「ほぼ確実(possible)DLB」などの診断カテゴリーに分類します。

臨床診断基準の評価項目

  • 進行性の認知機能障害
  • 注意・覚醒レベルの顕著な変動
  • 繰り返す具体的な幻視
  • 特発性パーキンソニズム
  • レム睡眠行動障害
  • 抗精神病薬に対する過敏性
  • DATイメージングにおける取り込み低下

Lewy小体型認知症の治療法と処方薬、治療期間

Lewy小体型認知症の治療は、認知機能改善薬、パーキンソン症状改善薬、精神症状改善薬などを組み合わせた薬物療法と、リハビリテーションや環境調整などの非薬物療法を併用します。

認知機能障害への薬物療法

Lewy小体型認知症の中核症状である認知機能障害に使用するのは、コリンエステラーゼ阻害薬です。

阻害剤は、脳内のアセチルコリンという神経伝達物質の量を増加させることで、認知機能の改善を図ります。

日本で承認されているコリンエステラーゼ阻害薬は、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンの3種類です。

薬剤名特徴
ドネペジル1日1回服用、長時間作用型
ガランタミン1日2回服用、緩徐な効果発現
リバスチグミン貼付剤タイプ、消化器系副作用が比較的少ない

パーキンソン症状への対応

Lewy小体型認知症に伴うパーキンソン症状に対しては、L-ドパやドパミンアゴニストなどの薬剤を使用し、脳内のドパミン不足を補います。

ただし、これらの薬剤は幻覚などの精神症状を悪化させる可能性があるため、少量から投与することが大切です。

精神症状に対する薬物療法

幻覚や妄想などの精神症状に対して使用するのは、非定型抗精神病薬です。

クエチアピンやアリピプラゾールなどは比較的安全ですが、Lewy小体型認知症患者は抗精神病薬に過敏に反応するため、少量から開始し、慎重に増量します。

睡眠障害への薬物療法

レム睡眠行動障害に対しては、メラトニン受容体作動薬や少量のクロナゼパムを使用することがあります。

症状薬剤
認知機能障害コリンエステラーゼ阻害薬
パーキンソン症状L-ドパ、ドパミンアゴニスト
精神症状非定型抗精神病薬
睡眠障害メラトニン受容体作動薬、クロナゼパム

非薬物療法の重要性

薬物療法と並行して、非薬物療法も重要な役割を果たします。

  • 認知リハビリテーション:記憶力や注意力の維持・改善を目指す
  • 運動療法:筋力維持や転倒予防のための運動プログラム
  • 作業療法:日常生活動作の維持・改善
  • 言語療法:コミュニケーション能力の維持
  • 環境調整:安全で過ごしやすい生活環境の整備

Lewy小体型認知症の治療における副作用やリスク

Lewy小体型認知症の治療では、使用する薬剤の種類や組み合わせにより、様々な副作用やリスクが生じる可能性があります。

抗認知症薬の副作用

抗認知症薬は、Lewy小体型認知症の認知機能低下を改善するために使用されますが、コリンエステラーゼ阻害薬は、消化器系の副作用を起こします。

コリンエステラーゼ阻害薬の副作用

副作用症状対処法
消化器症状悪心、嘔吐、下痢食後の服用、制吐剤の併用
食欲不振体重減少栄養指導、補助食品の利用
徐脈心拍数の低下用量調整、心電図モニタリング

副作用の多くは、投与量の調整や服用方法の工夫により軽減することが可能です。

抗精神病薬のリスク

幻覚や妄想などの精神症状に対して使用される抗精神病薬は、ドーパミン受容体をブロックすることで、パーキンソン症状を悪化させます。

抗精神病薬の使用により、過度の鎮静(眠気や意識レベルの低下)や錐体外路症状(手足のこわばりや震え、歩行障害など)が生じる可能性があります。

さらに、重大な副作用は、悪性症候群です。

悪性症候群の症状

  • 高熱(38度以上の急激な体温上昇)
  • 筋強剛(全身の筋肉が硬直する状態)
  • 意識障害(軽度の混乱から昏睡まで)
  • 自律神経症状(著しい発汗、血圧変動、頻脈など)

抗パーキンソン病薬の副作用

Lewy小体型認知症に伴うパーキンソン症状に対して使用される抗パーキンソン病薬にも、いくつかの副作用があります。

抗パーキンソン病薬の副作用

薬剤副作用注意点
レボドパ製剤ジスキネジア(不随意運動)、幻覚長期使用で効果減弱の可能性
ドパミンアゴニスト眠気、衝動制御障害突発的な眠気に注意

ドパミンアゴニストによる衝動制御障害は、ギャンブル依存や過度の買い物、過食などの行動変化を起こすので、注意が必要です。

薬物相互作用のリスク

Lewy小体型認知症の治療では、複数の薬剤を併用することが多いため、薬物相互作用のリスクがあります。

抗認知症薬と抗精神病薬の併用により、錐体外路症状(手足のこわばりや震え、歩行障害など)が増強されることがあり、患者さんの運動機能をさらに低下させ、転倒リスクを高める要因です。

また、抗パーキンソン病薬と抗精神病薬の併用は、互いの効果を相殺することがあります。

抗パーキンソン病薬がドーパミン作用を増強する一方で、抗精神病薬がドーパミン作用を抑制するため、両者のバランスを取ることは難しいです。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外来診療と薬物療法の費用

外来診療では、定期的な診察と薬物療法が主な治療です。

項目概算費用(月額)
外来診察料1,000円〜3,000円
薬剤費5,000円〜20,000円

入院治療の費用

症状が悪化した際には、入院治療が必要になることがあります。

入院期間概算費用
1週間10万円〜15万円
1ヶ月30万円〜50万円

リハビリテーションの費用

認知機能や日常生活動作の維持・改善のためにリハビリテーションを行います。

  • 理学療法
  • 作業療法
  • 言語療法

費用は利用頻度や内容により、月額1万円から10万円です。

以上

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