筋強直性ジストロフィー – 脳・神経疾患

筋強直性ジストロフィー(myotonic dystrophy)とは、遺伝子の変異によって起こる進行性の神経筋疾患です。

筋肉の収縮と弛緩に関わる機能が徐々に低下していき、手足の筋肉だけでなく、心臓や呼吸に関わる筋肉、さらには目や脳など、全身のさまざまな組織や臓器に症状が現れます。

遺伝性疾患であることから、家族歴の確認や遺伝カウンセリングが大切です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

筋強直性ジストロフィーの主な症状

筋強直性ジストロフィーは、進行性の筋力低下と筋強直を主症状とし、心臓や内分泌系、消化器系など全身の様々な臓器に影響を及ぼします。

全身の筋肉における症状

筋強直性ジストロフィーの筋症状は、他の筋ジストロフィーと比較して特徴的な経過をたどります。

最初に顔面の筋肉に症状が現れ、その後徐々に首から肩、腕、そして足へと症状が進行していくことが一般的です。

症状部位特徴的な症状
顔面筋表情筋の脱力
咀嚼筋開口障害
四肢筋把握制限
呼吸筋呼吸機能低下

筋力の低下は徐々に進行するため、初期には気付きにくいのですが、握力の低下や歩行時のふらつきなど、日常生活における不自由さは次第に顕著になっていきます。

また、首の筋肉の脱力により、頭部を支えることが困難になる事例も報告されています。

筋強直(ミオトニア)現象

筋強直は筋強直性ジストロフィーにおける最も特徴的な症状の一つです。

筋強直が起きると、筋肉を随意的に収縮させた後、その筋肉をリラックスさせることが一時的に困難になります。

筋硬直の症状

  • 手を強く握った後に開きにくくなる
  • 舌を突き出した後に引っ込めにくくなる
  • まぶたを強く閉じた後に開きにくくなる

筋強直現象は寒冷刺激により増悪する傾向があり、特に冬季や冷房の効いた環境下では症状が顕著になることが多いです。

また、この現象は運動を繰り返すことで一時的に改善する「ウォーミングアップ現象」が見られます。

心臓における症状

筋強直性ジストロフィーによって生じる心臓の刺激伝導系における障害は、看過しできない症状の一つです。

様々な種類の不整脈を起こす可能性があり、定期的な心電図検査による経過観察が不可欠とされています。

不整脈の種類発生頻度
心房細動高頻度
房室ブロック中頻度
心室性不整脈低頻度

心臓に関する症状は、必ずしも筋力低下の程度と相関するわけではないため、筋症状が軽度であっても注意深い観察が必要です。

特に心房細動は血栓塞栓症のリスクを高めることから、循環器専門医との連携による管理が大切になります。

内分泌系の症状

筋強直性ジストロフィーでは、内分泌系に関する症状も見られ、次のような異常が認められます。

  • 耐糖能異常
  • 甲状腺機能低下
  • 性腺機能低下

内分泌の異常は、体重変化や疲労感、体温調節機能の変化など、様々な全身症状として現れます。

また、耐糖能異常は糖尿病へと進展する可能性があるので、定期的な血糖値のモニタリングが必要です。

消化器系の症状

筋強直性ジストロフィーの重要な合併症の一つに、消化管運動の低下があります。

食道から胃、小腸、大腸に至る広範な消化管で、平滑筋の機能低下が生じることも。

胃腸の蠕動運動が低下することにより、食べ物の通過障害や栄養吸収の問題が生じ、また、嚥下機能の低下による誤嚥性肺炎のリスクの増加もあります。

さらに、腸管運動の低下は便秘や腹部膨満感などの症状を引き起こすことがあり、消化管機能の維持には食事内容や食事時間の規則性にも配慮が必要です。

筋強直性ジストロフィーの原因

脳・神経疾患の一種である筋強直性ジストロフィーは、DMPK遺伝子またはZNF9遺伝子における遺伝子変異によって起きる遺伝性疾患です。

遺伝子変異のメカニズム

筋強直性ジストロフィーの発症には、主に2つの遺伝子が関与していることが明らかになっています。

第一の型(DM1型)では、第19番染色体上のDMPK遺伝子内部にあるCTGという塩基配列の異常な繰り返し伸長が認められ、繰り返し回数が多いほど発症年齢が早まる傾向にあります。

第二の型(DM2型)では、第3番染色体上のZNF9遺伝子内部にあるCCTG配列の異常な繰り返し伸長が見られ、変異は次世代に伝わっていく可能性が高いです。

関連遺伝子染色体位置異常配列
DM1型DMPK19番CTG
DM2型ZNF93番CCTG

遺伝子変異がもたらす細胞レベルの影響

遺伝子変異によって生じた異常なRNAは、細胞核内に蓄積して核内フォーカスと呼ばれる構造体を形成することで、様々な細胞機能に影響を及ぼします。

核内フォーカスの形成により生じる細胞内の変化

  • RNA結合タンパク質の機能障害
  • 選択的スプライシングの制御異常
  • タンパク質合成の効率低下
  • 細胞内シグナル伝達の歪み

遺伝形式

筋強直性ジストロフィーは常染色体優性遺伝の形式をとり、片方の親から変異遺伝子を受け継ぐことで発症する遺伝性疾患です。

遺伝形式特徴遺伝的リスク
優性遺伝片親からの遺伝子で発症50%
表現促進現象世代を経て重症化顕著

診察(検査)と診断

筋強直性ジストロフィーの診断は、問診と神経学的診察を基本としながら、筋電図検査や遺伝子検査といった各種検査を組み合わせて総合的に評価します。

初診時の診察手順

初診時の診察では、まず患者さんの症状や経過についての聞き取りからら始まります。

家族歴の聴取も重要な情報源となるため、可能な限り詳細な家族歴を把握することが欠かせません。

診察項目確認内容
視診筋萎縮の程度
触診筋緊張の状態
徒手筋力検査筋力低下の分布
反射検査腱反射の変化

神経学的診察においては、筋力低下のパターンや分布を評価するとともに、ミオトニア現象(筋肉を随意的に収縮させた後、弛緩が遅延する現象)の有無を確認していきます。

特に握力検査後の手指の弛緩状態や、叩打ミオトニアの有無は、診断の手がかりとして大切な所見です。

一般的な臨床検査

基本的な検査として、まず血液検査や心電図検査などを実施していきます。

検査結果は、疾患の活動性や心臓の状態を把握する上で貴重な情報源です。

臨床検査

  • 血液生化学検査による筋逸脱酵素の測定
  • 心電図による不整脈の評価
  • 呼吸機能検査による肺活量の測定

血液検査では、クレアチンキナーゼ(CK)をはじめとする筋逸脱酵素の測定に加え、内分泌機能の評価も併せて行います。

また、心電図検査は定期的なモニタリングが必要となることが多く、不整脈の早期発見に役立ちます。

専門的な機器検査

筋の状態をより詳細に評価するため、専門的な機器を用いた検査を実施します。

いくつかの検査により、筋病変の分布や程度をより客観的に評価することが可能です。

検査名評価内容
筋電図筋強直現象
筋CT筋萎縮の分布
筋MRI脂肪変性の程度

筋電図検査では、特徴的な筋強直放電を確認することができ、診断の確実性を高めることにつながります。

また、画像検査では筋の萎縮パターンや脂肪変性の程度を評価でき、病期の判定にも有用です。

遺伝子診断

遺伝子診断は本疾患の確定診断において不可欠な検査となっています。

特に、DMPK遺伝子におけるCTG繰り返し配列の異常な延長を確認することが、診断確定の決め手です。

遺伝子検査に関わる事項

  • DMPK遺伝子のCTG繰り返し配列の解析
  • 遺伝カウンセリングの実施
  • 家系内検索の検討

遺伝子検査を実施する際には、事前に十分な遺伝カウンセリングを行うことが大切す。

筋強直性ジストロフィーの治療法と処方薬、治療期間

筋強直性ジストロフィーの治療では、いろいろな症状に対応するため、複数の診療科によるアプローチと、症状の進行を考慮した段階的な薬物療法を組み合わせることが重要です。

包括的な治療アプローチ

筋強直性ジストロフィーの治療では、神経内科医を中心として、循環器科、呼吸器科、眼科など、複数の診療科が連携して治療にあたります。

診療科主な治療内容
神経内科筋症状の管理
循環器科心機能の管理
呼吸器科呼吸機能の管理
眼科白内障の治療

薬物療法の基本方針

筋強直性ジストロフィーの薬物療法では、以下の点に注意して投薬を進めていきます。

  • 各症状に応じた投薬選択
  • 併用薬との相互作用の確認
  • 投薬量の慎重な調整
  • 定期的な効果の確認

経過観察をしながら、患者さんの状態に合わせて投薬内容を調整することで、より効果的な治療効果を引き出せます。

主な処方薬と投与期間

筋強直性ジストロフィーの治療で処方される薬剤は、筋弛緩薬、抗不整脈薬、気管支拡張薬です。

薬剤分類投与期間主な効果
筋弛緩薬継続的筋緊張の緩和
抗不整脈薬必要時心機能の安定化
気管支拡張薬継続的呼吸機能の改善

リハビリテーションプログラム

リハビリテーションでは、運動機能の維持・改善を目指して、いくつかのプログラムを実施していきます。

  • 関節可動域訓練
  • 筋力維持運動
  • 呼吸リハビリテーション
  • 嚥下機能訓練

薬物療法とリハビリテーションを組み合わせることで、より良い治療成果を目指します。

筋強直性ジストロフィーの治療における副作用やリスク

筋強直性ジストロフィーの治療では、使用する薬剤の副作用や合併症への対策が必要で、特に呼吸器系や循環器系への影響についてモニタリングを行うことが大切です。

薬物療法における副作用

薬物療法では複数の薬剤を併用する際には、相互作用による副作用に注意を払います。

薬剤分類主な副作用
筋弛緩薬眠気・脱力
抗不整脈薬徐脈・低血圧
鎮痛薬消化器症状

筋弛緩薬を使用するときには、過度な筋弛緩による呼吸機能の低下に注意が必要で、投与量の調整を慎重に行うことが推奨されています。

また、抗不整脈薬については、心機能への影響を考慮しながら、定期的な心電図モニタリングを実施することが重要です。

呼吸管理におけるリスク

呼吸器系への影響は生命予後に直結する可能性があるため、細心の注意を払って管理していく必要があります。

特に夜間の呼吸状態については、専門的な評価と対応が求められます。

呼吸器系への影響

  • 呼吸抑制
  • 無呼吸
  • 誤嚥性肺炎

呼吸器系の合併症予防には、定期的な呼吸機能検査による評価が大切です。

また、感染予防の観点から、予防的な呼吸リハビリテーションの実施も検討します。

リハビリテーションにおける注意点

リハビリテーションを実施する際には、過度な負荷を避けながら、効果的なプログラムを組み立てていく必要があります。

患者さんの体力や筋力の状態を考慮しながら、個別に運動強度を設定することが欠かせません。

リハビリテーションのリスク

  • 筋疲労
  • 転倒
  • 関節拘縮

運動負荷の設定は、疲労の蓄積を防ぐため、十分な休息時間を確保しながら実施し、また、関節拘縮の予防には、他動運動やストレッチングを組み合わせていきます。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外来診療の費用内訳

診断や経過観察に必要な外来診療では、定期的な診察に加えて各種検査も実施していきます。

診療内容3割負担の概算費用
一般診察1,000円~2,000円
血液検査2,000円~4,000円
筋電図検査4,000円~8,000円

投薬治療の費用

投薬治療では、症状の緩和や進行抑制を目的として、複数の薬剤を組み合わせて処方することが一般的です。

薬剤種類1ヶ月あたりの概算費用
筋弛緩薬3,000円~5,000円
心臓用薬2,000円~4,000円
呼吸器用薬2,500円~4,500円

リハビリテーションの費用

運動機能の維持・改善を目的としたリハビリテーションは、患者さんの状態に合わせて頻度や内容を決定していきます。

医療保険を利用したリハビリテーションを受ける際の注意点

  • 1回のリハビリ料金は概ね2,000円~4,000円
  • 通常、週2~3回の頻度
  • 運動機能に合わせた個別プログラムあり
  • 自宅での運動指導を含む

外来診療における検査や投薬の費用は、月額1万円から2万円程度です。

以上

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