脳血管性パーキンソニズム(vascular parkinsonism)とは、脳の血管に障害が生じることで起こる、パーキンソン病に似た症状を示す神経疾患のことです。
この病気では、脳内の様々な部位に小さな梗塞や出血が複数発生することにより、手足の震えや筋肉のこわばり、歩行時のバランスの乱れといった症状が現れます。
一般的なパーキンソン病とは異なり、血管性の要因で発症するため、高血圧や糖尿病、心臓病などの生活習慣病との関連が強く、特に高齢者に多く見られる疾患です。
脳血管性パーキンソニズムの主な症状
脳血管性パーキンソニズムでは、歩く動作が不安定になることや姿勢を保つことが難しくなること、体のバランスが取りにくくなることなどの運動に関する症状が主に現れ、足の方により強く症状が出ます。
基本的な運動症状
脳血管性パーキンソニズムでは、足の筋肉の力が弱くなることと筋肉が硬くなることが特徴的です。
歩幅が小さくなったり、まるで足が地面にくっついているかのような歩き方がよく見られます。
手よりも足に強く症状が出るのは、脳血管性パーキンソニズムを他の神経の病気と見分けるための重要なポイントです。
症状の部位 | 症状の特徴 |
下肢 | 筋力低下、筋固縮が強い |
上肢 | 比較的軽度な症状 |
体幹 | 姿勢反射障害、バランス機能低下 |
足の症状は左右両方に現れることが多く、階段を上り下りする時や体の向きを変える時に症状がはっきりと見られます。
姿勢とバランスの変化
姿勢を保つ反射機能の障害と体のバランスを取る機能の低下は、よく見られる症状の一つで、病気の進行とともに徐々に強くなっていきます。
体の中心部分の筋肉の力が弱くなることと、スムーズな動きができなくなることにより、まっすぐ立っているときの安定性が失われ、予期せぬ転倒につながるリスクが高まるので注意が必要です。
バランス機能の問題 | 症状 |
静的バランス | 立位保持困難、ふらつき |
動的バランス | 方向転換時の不安定さ、歩行開始時のためらい |
姿勢反射 | 突発的な体勢変化への対応低下、転倒傾向 |
バランスに関する症状は、日常的な動作を行う際に特に目立つようになり、凸凹した地面を歩く時や急な動きをする時に症状が悪化します。
運動障害の進行パターン
病気の進行に伴って次のような症状が段階的に現れます。
- 歩行時の小刻み歩行と加速歩行
- すくみ足現象と方向転換時の不安定さ
- 姿勢反射障害による転倒傾向の増加
- 両側性の筋固縮と運動緩慢
- 下肢優位の筋力低下と協調運動障害
自律神経症状
自律神経系の機能が低下することも、特異的な症状です。
血圧が大きく変動したり、体温を一定に保つ機能が低下したりするなど、様々な自律神経に関連する症状が生じます。
立ち上がった時にめまいがしたり、汗の出方が異常になったりするなどの症状も見られることがあります。
自律神経症状 | 症状の内容 |
循環器系 | 血圧変動、起立性低血圧 |
体温調節 | 発汗異常、体温調節障害 |
消化器系 | 便秘、嚥下障害 |
自律神経に関連する症状は、運動機能の障害と同時に現れることが多いです。
進行性の特徴
運動機能の低下は、最初に足に症状が起き、その後徐々に手や体の中心部分にも症状が広がっていきます。
早い段階からリハビリテーションを始めることで体の機能を維持することが大切です。
バランスを保つ機能の低下は、特に注意が必要な症状の一つで、転倒を防ぐための環境作りを計画的に進めていく必要があります。
自律神経の症状は、運動機能の障害が進行するにつれて見られる所見で、定期的な診察と対応が大切です。
脳血管性パーキンソニズムの原因
脳血管性パーキンソニズムは、脳内の血管障害による虚血や出血によって起こる疾患で、複数の血管性病変が運動調節に関わる神経回路を障害することで発症します。
血管性病変の種類と影響
脳血管性パーキンソニズムの発症には、大きく分けて二種類の血管性病変が関与しています。
微小血管病変は、高血圧や糖尿病などの基礎疾患により、脳の深部にある細い血管が長期にわたってダメージを受けることで発生。
一方、ラクナ梗塞と呼ばれる小さな脳梗塞が、基底核や視床などの運動制御に重要な部位に複数発生することで、パーキンソン症状を起こします。
血管性病変の種類 | 主な特徴と影響 |
微小血管病変 | 慢性的な血管障害による白質病変を引き起こし、神経伝達を妨げる |
ラクナ梗塞 | 運動調節領域での複数の小梗塞により、運動機能に影響を及ぼす |
危険因子と発症メカニズム
血管性パーキンソニズムの発症リスクを高める要因として、以下の項目が挙げられます。
- 加齢による血管の老化
- 高血圧症による血管へのダメージ
- 糖尿病による血管内皮機能障害
- 脂質異常症による動脈硬化
- 心房細動による血栓形成リスク
- 喫煙習慣による血管収縮と酸化ストレス
血管障害の進行と神経回路への影響
血管性パーキンソニズムでは、慢性的な血流障害により、運動制御に関与する神経回路のネットワークが徐々に破綻していきます。
特に、大脳基底核と呼ばれる運動調節の中枢が、複数の血管性病変により障害を受けることで、スムーズな運動制御が困難になることが疾患の原因です。
神経回路の部位 | 血管障害による影響 |
大脳基底核 | 運動開始と調節機能の低下 |
視床 | 姿勢制御と運動の協調性障害 |
前頭葉皮質 | 運動の計画性と実行機能の低下 |
小脳 | バランス機能と歩行リズムの乱れ |
血管性の要因による神経回路の障害は、一度発生すると完全な回復は見込めず、複数の部位で起こる血管障害が相互に影響し合って症状を形成します。
血管性病変の特徴として、脳の深部白質に広範囲に及ぶ変化が見られ、MRIなどの画像検査で特徴的な所見として確認することが可能です。
加齢とともに血管の弾力性が低下し、血管壁の肥厚や硬化が進行することで、慢性的な血流障害が起き、神経細胞の機能低下を招くという連鎖的なメカニズムが働いています。
診察(検査)と診断
脳血管性パーキンソニズムという病気を診断するためには、診察とMRIやCTなどの画像検査で脳の血管に問題がないかを確認する必要があります。
神経学的診察の基本
診察では、まず患者さんの歩き方をよく観察することから始めていき、その後、筋肉の力を調べたり、膝や足首の反射を確認したり、体のバランスを保てるかどうかなど、体全体の状態を細かく調べます。
診察項目 | 診察内容 |
歩行観察 | 歩幅、歩行速度、加速歩行の有無 |
筋力テスト | 上下肢の筋力、左右差の確認 |
反射検査 | 深部腱反射、病的反射の確認 |
バランス | 立位保持、方向転換時の安定性 |
患者さんの歩行の様子を様々な角度からじっくりと観察することで、この病気に特徴的な歩き方のパターンを見分けていきます。
画像診断による評価
脳血管性パーキンソニズムという病気を正確に診断するためには、脳の中の血管の状態を詳しく調べることができるMRIやCTといった画像検査を行うことが不可欠です。
診断を行う際の参考となる特徴
- 大脳基底核領域の虚血性変化
- 脳室周囲白質の信号変化
- 皮質下白質の多発性病変
- ラクナ梗塞の存在
- 深部白質病変の広がり
補助的検査法
検査種類 | 検査目的 |
SPECT検査 | 脳血流分布の評価 |
DATスキャン | ドパミン神経終末の分布確認 |
頸動脈エコー | 血管性病変の評価 |
補助的な検査は、脳血管性パーキンソニズムと他の神経の病気との鑑別に重要で、検査結果を総合的に判断することで、より正確な診断につながります。
鑑別診断のポイント
一般的なパーキンソン病と脳血管性パーキンソニズムとの違いを慎重に見極めていく必要があり、患者さんの症状の経過や生活習慣などについて、詳しく聞き取りを行います。
症状が左右どちらに強く出るのか、どのように進行してきたのか、また、パーキンソン病の薬がどの程度効果があるのかといった情報を総合的に判断することで、より正確な診断が可能です。
通常のパーキンソン病との違いをはっきりさせるために、高血圧や糖尿病といった脳の血管に影響を与える病気を持っているかどうかについても、確認します。
脳血管性パーキンソニズムの治療法と処方薬、治療期間
脳血管性パーキンソニズムの治療には、抗パーキンソン病薬による薬物療法を中心に、リハビリテーション、生活習慣の改善などを実施します。
薬物療法の基本方針
L-ドパ製剤を中心とした抗パーキンソン病薬による治療は、脳血管性パーキンソニズムの運動機能改善において、第一選択肢です。
主な薬剤名 | 作用機序と効果 |
L-ドパ製剤 | ドパミン補充により運動機能を改善 |
ドパミンアゴニスト | ドパミン受容体を直接刺激し症状を緩和 |
抗コリン薬 | アセチルコリンの作用を抑制し、震えを軽減 |
MAO-B阻害薬 | ドパミンの分解を抑制し、効果を持続 |
L-ドパ製剤による治療では、投与量を段階的に調整しながら、個々の患者さんに最も効果的な用量を見出すことが重要です。
リハビリテーション療法
運動機能の維持・改善を目指したリハビリテーションプログラムには、次のような要素が含まれます。
- 歩行訓練による移動能力の向上
- バランス訓練による転倒予防
- 筋力強化運動による身体機能の維持
- 日常生活動作の練習による自立支援
- 呼吸機能訓練による全身持久力の向上
血管リスク因子への対応
基礎疾患 | 治療薬の例 |
高血圧症 | カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬 |
糖尿病 | 経口血糖降下薬、インスリン製剤 |
脂質異常症 | スタチン系薬剤 |
心房細動 | 抗凝固薬 |
血管性パーキンソニズムの治療において、基礎疾患のコントロールが大切です。
長期的な治療効果を得るためには、薬物療法とリハビリテーションを組み合わせて行います。
薬物療法では、L-ドパ製剤の投与から開始し、症状の程度に応じて他の抗パーキンソン病薬を追加していく方法が一般的です。
投薬開始後は、3ヶ月から6ヶ月程度の期間をかけて薬剤の効果を評価しながら、投与量の調整します。
リハビリテーションプログラムは、週2〜3回の頻度で実施し、3ヶ月を一つの区切りとして継続的に行うことで、運動機能の維持・改善を図ることが可能です。
基礎疾患に対する投薬は、血管性パーキンソニズムの進行を抑制する目的で継続的に行う必要があり、定期的な血圧や血糖値のモニタリングを行いながら、投与量を調整していきます。
脳血管性パーキンソニズムの治療における副作用やリスク
脳血管性パーキンソニズムの治療では、様々な薬やリハビリテーションなどの治療方法を組み合わせて行いますが、それぞれの治療方法には独自の副作用やリスクがあります。
薬物療法における副作用
パーキンソン病の治療に使用するL-ドパ製剤やドパミンアゴニストといった薬には、胃腸の不調や血圧が変動するなどの副作用が起こることがあります。
薬剤の種類 | 主な副作用 |
L-ドパ製剤 | 吐き気、食欲不振、起立性低血圧 |
ドパミンアゴニスト | めまい、眠気、幻覚 |
抗コリン薬 | 口渇、便秘、排尿障害 |
副作用が現れた際には、薬剤の量を調整したり、別の薬に変更したりするなどの対応を行っていきます。
循環器系への影響
循環器系への影響には、特に慎重な観察が必要となり、定期的な検査や診察を行いながら、安全な治療を進めていきます。
- 血圧低下による転倒リスクの増加
- 心拍数の変動による不整脈の出現
- 末梢循環障害による浮腫の悪化
- 起立性低血圧の増悪
- 循環器系薬剤との相互作用
薬物相互作用のリスク
併用薬 | 相互作用の内容 |
降圧薬 | 血圧低下の増強 |
抗凝固薬 | 出血リスクの上昇 |
向精神薬 | 眠気・認知機能への影響 |
薬の組み合わせによる相互作用は、患者さんの体調に大きく影響を与えることがあるため、薬の組み合わせについて慎重に判断をすることが大切です。
リハビリテーションに伴うリスク
リハビリテーションを行う際には、体に必要以上の負担がかかることで体力を消耗してしまったり、転倒してしまったりするリスクについて、十分な注意を払うことが必要です。
運動の強さや時間については、患者さんの体力や全身の状態を考慮しながら調整を行い、安全に実施できるよう配慮していきます。
年齢や合併症による影響
高齢の方や他の病気を持っている患者さんでは、薬の効き方や体からの排出のされ方が変化することがあり、より慎重な薬の調整が大切です。
年齢が高くなるほど、また複数の疾患を持っている患者さんでは、副作用が出やすくなったり、症状が重い傾向があります。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
基本的な診察・検査費用
診断には、さまざまな検査が必要です。
検査項目 | 患者負担額(3割負担) |
MRI検査 | 6,000〜9,000円 |
CT検査 | 4,500〜7,500円 |
血液検査 | 1,500〜3,000円 |
神経学的検査 | 2,000〜4,000円 |
薬物療法の費用
主に使用される薬剤
- L-ドパ製剤 1ヶ月あたり3,000〜8,000円
- ドパミンアゴニスト 1ヶ月あたり 5,000〜12,000円
- 抗コリン薬 1ヶ月あたり 2,000〜4,000円
- 血管リスク因子治療薬 1ヶ月あたり 3,000〜7,000円
リハビリテーション費用
治療内容 | 1回あたりの患者負担(3割負担) |
理学療法 | 1,500〜2,500円 |
作業療法 | 1,500〜2,500円 |
言語療法 | 1,500〜2,000円 |
運動療法 | 1,000〜2,000円 |
継続的な治療により、薬剤費用とリハビリテーション費用を合わせると、月額15,000〜30,000円です。
以上
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