乳管内乳頭腫 – 乳腺外科

乳管内乳頭腫(intraductal papilloma)とは、乳腺内の乳管(母乳を運ぶ管)に発生する良性の腫瘍のことです。

この腫瘍は、乳管の内側を覆っている細胞が必要以上に増えることで形成されます。

大きさは1cm未満で、単独で発生することもあれば、複数箇所に同時に現れることもあります。

多くの患者さんでは目立った症状が現れないまま経過しますが、中には乳頭からの分泌物や乳房のしこりとして発見されることも。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

乳管内乳頭腫の種類(病型)

乳管内乳頭腫(にゅうかんないにゅうとうしゅ)は、孤立性と多発性という2つの主要な病型に分類されます。

孤立性乳管内乳頭腫

孤立性乳管内乳頭腫は、乳房内の1箇所にのみ発生します。

50歳前後の女性に多く見られ、乳頭直下の主要乳管に発生し、腫瘍のサイズは1cm未満で、指で触れて確認できないほどの大きさです。

特徴詳細
好発年齢50歳前後
発生部位乳頭直下の主要乳管
サイズ通常1cm未満

多発性乳管内乳頭腫

多発性乳管内乳頭腫は、乳房内の複数の箇所に同時に発生する形態です。

40歳前後のやや若い年齢層に多く見られ、乳房全体に広がります。

多発性は個々の腫瘍のサイズは小さいものの、複数の病変があることで乳房全体に影響を及ぼし、孤立性に比べて診断がやや難しいです。

特徴詳細
好発年齢40歳前後
発生部位乳房全体に分布
病変の数複数

病型による違い

孤立性と多発性の乳管内乳頭腫は、臨床的な違いがあります。

・孤立性:局所的な症状が主で、悪性化のリスクは低い

・多発性:広範囲の症状が生じる可能性があり、悪性化のリスクがやや高い

乳管内乳頭腫の主な症状

乳管内乳頭腫は多くの場合無症状ですが、ときに、乳頭分泌、しこり、乳房痛が現れます。

乳頭分泌

乳管内乳頭腫の最もよく見られる症状は、乳頭からの分泌物です。

片側の乳房にのみ見られ、自然に出てくることもありますが、乳房を軽く押すことで分泌が確認できます。

分泌物は、透明、黄色、緑色、茶色、または血液が混じった赤褐色など、色や性状が異なりますが、血性の分泌物が見られると、乳管内乳頭腫の可能性が高いです。

分泌物の色特徴
透明無色透明、水様
黄色やや濁った黄色
緑色淡い緑色から濃緑色
茶色薄い茶色から濃い茶色
赤褐色血液が混じった色

しこり

乳管内乳頭腫のしこりは小さく1cm未満であることが多いため、自己触診で気づきにくいこともあります。

硬さは柔らかいものから硬いものまであり、可動性があることが多いです。

乳頭の近くに多く見られますが、乳房のどの部分にも発生します。

乳房痛

乳管内乳頭腫による乳房痛は多くの場合軽度で、鈍痛や違和感として感じられることが多く、持続的な痛みよりも断続的な不快感です。

乳房全体の痛みではなく、特定の部位に限局した痛みとして感じられ、月経周期に関連して痛みが変化します。

症状の種類特徴注意点
乳頭分泌片側性、色や性状が多様血性分泌は要注意
しこり小さく柔らかいことが多い自己触診で見逃しやすい
乳房痛局所的、断続的な不快感月経周期との関連に注目

乳管内乳頭腫の症状は無症状のこともあれば、複数の症状が組み合わさって現れることもあります。

乳管内乳頭腫を疑う症状

  • 乳頭からの異常分泌(血性分泌)
  • 乳房のしこり(通常1cm未満)
  • 局所的な乳房痛や違和感
  • 乳頭や乳輪の変形(まれ)
症状頻度特徴
乳頭分泌高い片側性が多い
しこり中程度小さく触知困難な場合も
乳房痛低い軽度で断続的
乳頭変形まれ腫瘍が大きい場合に生じる

乳管内乳頭腫の原因

乳管内乳頭腫の原因は、ホルモンバランス、遺伝的要因、環境要因などがあります。

ホルモンバランスの影響

乳管内乳頭腫の発生には、エストロゲンとプロゲステロンの影響が大きいです。

エストロゲンとプロゲステロンは乳腺組織の成長と発達を促す働きがありますが、バランスが崩れると、異常な細胞の増え方を起こします。

ホルモン働き
エストロゲン乳腺組織の発達を促進する
プロゲステロン乳腺細胞の分化(細胞が特定の働きを持つようになること)を促進する

ホルモンバランスが乱れる原因は、妊娠、出産、閉経、ストレス、食生活の変化、環境ホルモンなどです。

遺伝的要因

遺伝子の変化や個人差が、乳管内乳頭腫ができるリスクを高める可能性があるものの、現時点では特定の遺伝子との明確なつながりは証明されていません。

遺伝的要因が関係していると考えられる理由は、家族の中に乳管内乳頭腫になった人がいる患者さんでこの病気になる割合が高いからです。

乳管上皮細胞の異常増殖

乳管内乳頭腫は、乳管を内側から覆う上皮細胞が異常に増えることで形成されます。

異常な細胞の増え方のしくみ

  • 細胞を増やす物質(細胞増殖因子)が必要以上に作られる
  • 細胞が自然に死滅するしくみ(アポトーシス)がうまく働かない
  • 細胞同士をつなぐ分子(細胞接着分子)に異常が起こる
要因影響
細胞増殖因子細胞分裂を促進する
アポトーシス抑制異常な細胞がたまる
細胞接着異常組織の構造が乱れる

炎症と組織修復プロセス

乳管の中で長く続く炎症や組織の傷も、乳管内乳頭腫ができる原因の一つです。

炎症や組織の傷が起こると治そうとして組織を修復するしくみが働き始め、ときにこの修復反応が必要以上に強く起こり、異常な細胞の増加につながります。

患者さんの中には、以前に乳腺炎になったことがある方で乳管内乳頭腫が見つかったことがありました。

この患者さんの場合、長く続いた炎症が乳管を覆う細胞の異常な増殖を起こし、乳管内乳頭腫ができたのではないかと考えられます。

環境要因と生活習慣

環境や生活習慣も、乳管内乳頭腫の発症に関係しています。

  • 環境ホルモン(体の外から入ってきて、ホルモンのような働きをする物質)に触れる
  • たばこを吸う
  • お酒を飲みすぎる
  • 肥満
  • 運動不足

診察(検査)と診断

乳管内乳頭腫の診断は、まず初めに問診と視触診による臨床診断を行い、その後画像診断や細胞診、組織診断などの精密検査を実施して確定診断に至ります。

問診と視触診

乳管内乳頭腫の問診では、患者さんの症状、持続期間、変化の様子などを聞き取り、病歴を把握します。

続いて視診と触診を行い、乳房の外観や触感の変化を確認。

視診では乳頭の変形や分泌物の有無、皮膚の変化を観察し、触診ではしこりの有無や硬さ、大きさ、可動性を評価します。

検査項目確認ポイント目的
問診症状の詳細、経過病歴の把握
視診乳頭変形、分泌物外観の異常確認
触診しこり、硬さ、可動性触感の変化評価

画像診断

乳管内乳頭腫の診断に用いられる画像検査は、マンモグラフィ、超音波検査、MRI検査です。

  • マンモグラフィ 乳房全体の構造を平面的に捉え、微細な石灰化や腫瘤の有無を確認するのに有効。
  • 超音波検査 乳管内の腫瘤や嚢胞(のうほう)を鮮明に映し、良性・悪性の鑑別に役立つほか、リアルタイムで観察できる。
  • MRI検査 より詳細な3次元画像を得られ、腫瘍の血流評価にも優れているため、他の検査で判断が難しい場合に補助的に使用。
画像検査特徴長所
マンモグラフィ微細石灰化の検出に優れる全体像の把握が容易
超音波乳管内病変の描出に適するリアルタイム観察が可能
MRI詳細な3D画像と血流評価高い組織コントラスト

細胞診と組織診断

画像検査で乳管内乳頭腫が疑われると、細胞診や組織診断が実施されます。

細胞診では、乳頭分泌物や腫瘤から採取した細胞を顕微鏡で観察し、異型細胞の有無を確認し、より確実な診断のためには、組織診断が必要です。

針生検(コア針生検)や吸引式組織生検があります。

針生検では局所麻酔下で細い針を用いて腫瘤の一部を採取し、吸引式組織生検はより大きな組織片を採取でき、診断精度が高いです。

検査方法特徴利点
細胞診分泌物や穿刺吸引で採取低侵襲で繰り返し可能
針生検細い針で組織を採取局所麻酔で外来可能
吸引式組織生検大きな組織片を採取高い診断精度

乳管内乳頭腫の治療法と処方薬、治療期間

乳管内乳頭腫は手術で取り除くことが主な治療法ですが、様子を見ながら経過観察をすることもあります。

外科的切除

乳管内乳頭腫の治療において手術が最もよく行われ、切除は腫瘍摘出術と乳管切除術の2種類です。

腫瘍摘出術は、しこりだけを周りの正常な組織とともに切り取る方法で、小さなしこりに対して行われます。

乳管切除術はしこりを含む乳管全体を切除し、複数のしこりがあるときや再発を防ぐための方法です。

切除方法どんな時に行うか
腫瘍摘出術小さな単発性のしこり
乳管切除術複数のしこり、再発予防

経過観察

症状がなく画像検査で悪性のしこりでないと思われる小さな乳管内乳頭腫は、経過観察が選ばれ、定期的な画像検査(マンモグラフィや超音波検査)と診察が行われます。

経過観察の頻度は6ヶ月から1年ごとです。

薬物療法

乳管内乳頭腫に対して直接効く薬はありませんが、症状をやわらげたり再発を防ぐために薬剤が使われることがあります。

  • 痛み止めや炎症を抑える薬 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
  • ホルモン療法 再発予防にタモキシフェンなどの選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERMs)薬
  • 抗生物質 感染があるとき
薬の種類目的
NSAIDs症状をやわらげる
SERMs再発を防ぐ
抗生物質感染を治す

薬物療法は手術の補助に使われ、薬だけで乳管内乳頭腫を完全に治すものではありません。

治療期間

手術で取り除く場合手術自体は1〜2時間程度で終わりますが、入院期間は1〜3日で、回復期間は2〜4週間です。

経過観察は、6ヶ月から1年ごとの定期検査を数年にわたって続けます。

治療後の経過観察

乳管内乳頭腫の治療後は、再発したり新しい異常が見つかったときに早く発見するため、定期的な検査が大事です。

手術で取り除いた後の検査スケジュール

  • 手術後1年目 3〜6ヶ月ごとの診察と超音波検査
  • 手術後2〜3年目 6ヶ月ごとの診察と超音波検査
  • 手術後4年目 以降年1回の診察と超音波検査
経過期間検査の頻度
術後1年目3〜6ヶ月ごと
術後2〜3年目6ヶ月ごと
術後4年目以降年1回

乳管内乳頭腫の治療における副作用やリスク

乳管内乳頭腫の治療で行う手術には、副作用やリスクがあります。

手術に伴う副作用

乳管内乳頭腫を外科的に取り除く際は、以下のような副作用が見られます。

副作用発生頻度
手術後の痛み高い
軽い出血中程度
傷口の腫れ中程度
感染低い

副作用の多くは一時的なものです。

乳房への影響

乳管内乳頭腫を切除する手術は、乳房の見た目や働きに影響を与えます。

影響特徴
乳房の形の変化大きなしこりを取り除く時に起こりやすい
乳頭の感覚の変化一時的なことが多い
母乳育児への影響まれだが可能性あり

影響は、取り除くしこりの大きさや場所によって変わってきます。

麻酔に関連するリスク

局所麻酔や全身麻酔を使う際には、それぞれにリスクがあります。

局所麻酔

  • アレルギー反応
  • 神経の損傷

全身麻酔

  • 呼吸に関する合併症
  • 心臓や血管系への影響

長期的なリスク

乳管内乳頭腫の治療後、長い目で見て注意すべき点もあります。

リスク対策
再発定期的な検査
傷跡傷の手当て
乳がんになる危険性が少し高まる継続的な検診

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

診断時の検査費用

乳管内乳頭腫の診断には、さまざまな検査が行われます。

検査項目概算費用(3割負担)
マンモグラフィ1,500円〜2,500円
超音波検査1,000円〜2,000円
針生検5,000円〜10,000円

外来での治療費用

小さな乳管内乳頭腫のときは、外来での処置で対応できます。

処置内容概算費用(3割負担)
局所麻酔下での切除10,000円〜30,000円
レーザー治療15,000円〜40,000円

入院を伴う手術の費用

大きな乳管内乳頭腫や複数箇所に発生している際は、入院での手術が必要です。

  • 入院期間:3〜5日程度
  • 手術費用:15万円〜25万円(3割負担)
  • 入院費用:5万円〜10万円(3割負担)

術後のフォローアップ費用

手術後は定期的な経過観察が大切です。

フォローアップ内容頻度概算費用(3割負担)
外来診察3〜6ヶ月ごと1,000円〜2,000円/回
超音波検査年1〜2回1,000円〜2,000円/回

以上

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