葉状腫瘍 – 乳腺外科

葉状腫瘍(phyllodes tumors)とは、乳房内に発生する腫瘍です。

乳腺の結合組織から生じ、形状が葉っぱに似ていることから、この名称で呼ばれるようになりました。

多くの場合、葉状腫瘍は良性ですが、まれに悪性化(がん化)します。

大きさや成長の速さは、小さなものから急激に増大するものまであります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

葉状腫瘍の主な症状

葉状腫瘍の症状は、しこり、乳房の形状の変化、皮膚の変化、分泌物など多様な形で現れます。

しこり

葉状腫瘍で最もよく見られる症状は、乳房にできるしこりです。

しこりはどちらか一方の乳房にだけ現れ、手で触れると簡単に感じ取れます。

しこりの特徴

  • 硬く、動かしやすい
  • 周囲との境界がはっきりしている
  • 多くの場合、痛みを感じない
しこりの特徴詳細
硬さ比較的硬い
動き動かしやすい
境界周囲とはっきり区別できる
痛みほとんどの場合感じない

急速に大きくなる腫瘍

葉状腫瘍の症状の一つに、腫瘍が短期間で急激に大きくなることが挙げられます。

多くのケースで、数週間から数か月という短い期間で、腫瘍の大きさが目に見えて変化します。

診療した例では、わずか1か月で乳房のサイズが1カップ以上大きくなったという患者さんがいました。

急速な成長は、良性の葉状腫瘍でも見られることがありますが、悪性の場合は、よりはっきりと現れます。

乳房の形に現れる変化

腫瘍のサイズが増大するにつれ、乳房の形状に変化が生じます。

  • 片方の乳房が明らかに大きくなる
  • 乳房の表面にでこぼこが生じる
  • 乳頭の位置がずれたり、向きが変わる
形の変化内容
大きさの変化片側の乳房だけが目立って大きくなる
表面の変化乳房の表面にでこぼこが現れる
乳頭の変化位置がずれたり、向きが変わったりする

変化は鏡を見て確認できることもありますが、自己触診をして初めて気づくこともあります。

皮膚に現れるサイン

葉状腫瘍が大きくなると、乳房の皮膚に変化が現れます。

  • 皮膚が引っ張られたように見えたり、くぼんだり
  • 皮膚の色が赤くなったり、普段と異なる色に変化
  • 触ると皮膚の温度が周囲より高くなる

皮膚に現れる症状は、腫瘍が皮膚のすぐ近くにあったり、腫瘍の大きさがかなり大きくなっているときに顕著に現れます。

乳頭からの分泌物

ときに、葉状腫瘍が原因で乳頭から分泌物が出ることがあります。

分泌物の特徴内容
見た目血液が混じっている
出方自然に出てくる
出る場所片方の乳頭だけから出る

乳頭から分泌物が出るのは、葉状腫瘍以外の乳腺の病気でも見られる症状ですが、血液が混じっている場合は注意が必要です。

葉状腫瘍の原因

葉状腫瘍の発生メカニズムは完全には解明されていませんが、遺伝子変異と内分泌系の影響が要因として考えられています。

遺伝子変異と葉状腫瘍の関連性

MED12遺伝子の変異が葉状腫瘍の発生と密接に関連していることが判明しています。

MED12遺伝子は細胞の成長や分裂を制御する重要な役割を担っているため、遺伝子に変異が生じると、細胞の異常増殖を起こす可能性があるのです。

また、RARAやIGFBP5遺伝子の変異も葉状腫瘍の発生に関与していることがあります。

遺伝子名機能
MED12細胞の成長・分裂制御
RARA細胞分化の調整
IGFBP5細胞増殖の制御

内分泌系の影響と葉状腫瘍

葉状腫瘍の発生には、体内のホルモンバランスの乱れも関係しています。

エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンが、腫瘍の成長を促進する要因です。

女性ホルモンは乳腺組織の発達や維持に重要な役割を果たしていますが、過剰な刺激は細胞の異常増殖を起します。

40代の女性患者さんでホルモン補充療法を受けていた方に葉状腫瘍が発生したケースがあり、ホルモン療法の中止と手術により、腫瘍の完全切除に至りました。

年齢と葉状腫瘍の発生頻度

葉状腫瘍は30代から50代の女性に多く見られ、これは女性ホルモンの分泌が活発な時期と重なっています。

年齢による発生リスクの違い

年齢層発生リスク
20代以下低い
30-50代高い
60代以上やや低下

環境要因と生活習慣の影響

葉状腫瘍の発生には、環境要因や生活習慣も影響を与えます。

  • 放射線への過度の曝露
  • 慢性的なストレス
  • 不規則な生活リズム
  • 偏った食生活
  • 過度の飲酒や喫煙

これらの要因が直接葉状腫瘍を起こすわけではありませんが、細胞の異常を促進し、腫瘍発生のリスクを高める可能性があります。

遺伝的要因の影響

家族歴のある方は、そうでない方と比較して葉状腫瘍の発生リスクがやや高いです。

ただし、遺伝性の葉状腫瘍はまれであり、多くの場合は散発的に発生します。

遺伝的背景リスク
家族歴ありやや高い
家族歴なし標準的

診察(検査)と診断

葉状腫瘍の診断は目視と触診から始まり、その後画像を使った検査、そして最後に組織を顕微鏡で調べる検査によって最終的な診断をくだします。

初診での視診と触診

葉状腫瘍の診断はまず、患者さんの乳房を視診と触診をして調べます。

視診では乳房の形や大きさが左右で違わないか、皮膚に変わった点がないかを観察し、触診ではしこりがある場合、その硬さや大きさ、動かしやすさを確かめます。

目視と触診で見るポイント確認すること
目で見る(視診)乳房の形や大きさ、皮膚の様子
手で触れる(触診)しこりの特徴、動かしやすさ

葉状腫瘍のしこりは通常、周りとの境目がはっきりしていて、指で動かしやすいです。

画像検査

目視と触診の後、より細かい情報を得るために画像を使った検査が行われます。

  • マンモグラフィ(乳房専用のレントゲン撮影)
  • 超音波検査(エコー検査)
  • MRI検査(必要に応じて行われる)

マンモグラフィでは、腫瘍の大きさや形、石灰化(組織の中にカルシウムがたまること)の有無を確認します。

超音波検査は腫瘍の中がどうなっているか、血液の流れはどうかを観察することが可能です。

MRI検査はより精密な画像を得るために行われることがあり、腫瘍の広がり具合を調べられます。

針生検

画像を使った検査の結果葉状腫瘍の可能性が考えられた後に行うのは、針を使って組織の一部を採取する検査(針生検)です。

針生検の種類方法
細胞診(さいぼうしん)とても細い針で細胞を吸い取る
コア生検(せいけん)やや太い針で、米粒くらいの組織を採取する

コア生検はより多くの組織を採取できるため、葉状腫瘍かどうかを判断するのに適しています。

顕微鏡を使った最終的な診断

針生検で採取した組織は、病理検査(顕微鏡で組織を詳しく調べる検査)に回されます。

病理検査で調べる点

  • 細胞の形や大きさが通常と違わないか(細胞の異型性)
  • 細胞と細胞の間を埋める組織(間質)が異常に増えていないか
  • 細胞が分裂している様子(核分裂像)がどのくらい見られるか

観察結果を総合的に判断し、良性、境界悪性(良性と悪性の中間)、悪性(がん化)の3つのいずれかに分類します。

似た病気との鑑別

葉状腫瘍は、他の乳腺にできる腫瘍と似た特徴を持つことがあるため、鑑別が重要で、特に、線維腺腫(せんいせんしゅ)という良性の腫瘍との区別が必要です。

鑑別のポイント

  • どのくらいの速さで大きくなるか
  • 腫瘍の大きさ
  • 画像検査でどのように見えるか
  • 顕微鏡で見たときの特徴

葉状腫瘍の治療法と処方薬、治療期間

葉状腫瘍の治療は、腫瘍の大きさや性質に応じて外科的切除を基本とし、さらに放射線療法や化学療法を組み合わせて行います。

外科的切除

葉状腫瘍の治療において、外科的切除は第一選択肢です。

腫瘍を完全に取り除くことを目指し、健康な組織を含めて広い範囲で切除します。

切除の範囲は腫瘍の大きさや性質によって決められますが、通常腫瘍の端から1〜2cm程度余裕を持たせます。

手術の方法は、腫瘍だけを取り出す腫瘍摘出術、乳房の一部を切除する乳房部分切除術、乳房全体を切除する乳房全摘術の三つです。

手術方法どんな場合に選ばれるか
腫瘍摘出術小さな良性の腫瘍の場合
乳房部分切除術中くらいの大きさの腫瘍の場合
乳房全摘術大きな腫瘍や悪性の腫瘍の場合

手術時間は1〜3時間程度で、入院期間は5〜7日間ほどです。

手術後の回復期間を含めると、治療期間全体で約1〜2か月かかります。

放射線療法

悪性度の高い腫瘍や、切除の際に腫瘍の周りの健康な組織を十分に取り切れなかったときに、放射線療法が行われます。

放射線療法は、手術後2〜4週間経ってから始め、週に5回、5〜6週間にわたって実施することが標準です。

1回の放射線を当てる時間は10〜15分程度で、放射線療法の効果はゆっくりと現れ治療が終わった後も数か月間続きます。

化学療法

化学療法は、悪性度の高い葉状腫瘍や、腫瘍が転移しているときに考慮します。

使われる薬は、ドキソルビシンやイホスファミド、ダカルバジンです。

2〜3週間ごとに薬を投与し、4〜6回を1セットとして行います。

薬の名前投与する間隔投与する回数
ドキソルビシン3週間ごと4〜6回
イホスファミド3週間ごと4〜6回
ダカルバジン3週間ごと4〜6回

化学療法の治療期間は約3〜6か月です。

フォローアップ

葉状腫瘍の治療後は、定期的に受診することが大切です。

再発や転移のリスクを考えて、少なくとも5年間は診察を受け、画像検査を行います。

期間診察を受ける頻度画像検査を受ける頻度
1年目3か月ごと6か月ごと
2〜3年目4〜6か月ごと1年ごと
4〜5年目6か月〜1年ごと1〜2年ごと

葉状腫瘍の治療における副作用やリスク

葉状腫瘍の治療には、手術や放射線を使う方法がありますが、さまざまな副作用やリスクが伴います。

手術に伴うリスク

葉状腫瘍の主な治療法である手術には、他の手術と同じように一般的なリスクがあります。

  • 出血(手術中や手術後に予想以上の出血が起こる)
  • 感染(傷口から細菌が入り、炎症を起こす)
  • 麻酔に関連する合併症(麻酔薬による予期せぬ反応)
リスク頻度
出血あまり多くない
感染ときどき起こる
麻酔まれ

乳房の形の変化と左右差

葉状腫瘍の手術では、腫瘍を含む乳腺組織を広い範囲で取り除くことがあり、見た目の変化が生じます。

  • 乳房の形が変わる
  • 左右の乳房の大きさや形に差が出る
  • 乳頭や乳輪(乳頭の周りの色の濃い部分)の位置が変わる

感覚の変化と痛み

手術の後乳房やわきの下の辺りで感覚が変わったり、痛みを感じたりすることがあり、これらの症状は、手術中に神経に影響が及んだことが原因です。

症状持続期間
感覚の変化数週間から数か月
痛み数日から数週間

症状は時間が経つにつれて良くなりますが、一部の患者さんでは長く続くこともあります。

リンパ浮腫

わきの下のリンパ節を取り除く手術では、リンパ浮腫のリスクがあります。

リンパ浮腫で起きる症状

  • 腕がむくむ
  • 腕が重く感じる
  • 腕が動かしにくくなる

放射線治療に関連する副作用

一部の葉状腫瘍では手術の後に放射線治療を行うことがありますが、副作用があります。

  • 皮膚が赤くなったり痛くなる
  • 乳房が硬くなる
  • まれに肺炎を起こす

再発のリスク

葉状腫瘍は、十分な治療を行っても再発するリスクがあるので、注意が必要です。

腫瘍の性質再発するリスク
良性低い
境界悪性(良性と悪性の中間)中程度
悪性(がん化)高い

再発のリスクを最小限に抑えるためには、定期的に検査を受けることが欠かせません。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外科的切除の費用

葉状腫瘍の外科的切除の費用は、手術の種類や範囲によって変動します。

手術の種類概算費用(3割負担の場合)
腫瘍摘出術15万円〜30万円
乳房部分切除術20万円〜40万円
乳房全摘術30万円〜60万円

費用には、手術料、入院費、術前検査費用などが含まれています。

放射線療法の費用

外科的切除後に行われる放射線療法の費用

  • 1回の照射費用 約1万円〜2万円
  • 標準的な治療(25〜30回)の総額 約30万円〜60万円(3割負担の場合)

化学療法の費用

悪性度の高い葉状腫瘍に対して行われる化学療法の費用

薬剤名1クール(3〜4週間)あたりの費用(3割負担の場合)
ドキソルビシン10万円〜20万円
イホスファミド15万円〜25万円
ダカルバジン8万円〜15万円

4〜6クール実施されるため、総額で40万円〜150万円程度です。

その他の関連費用

治療に伴う検査や処置にも費用がかかります。

  • CT検査 1回あたり約1万円〜2万円
  • MRI検査 1回あたり約1.5万円〜3万円
  • 超音波検査 1回あたり約5千円〜1万円
  • 病理検査 約1万円〜3万円

以上

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