急性心膜炎(Acute pericarditis)とは、心臓を取り巻く心膜に炎症が起こる疾患です。
心膜は心臓を包み込み、保護するという重要な役目を担っています。
ウイルスや細菌の感染、自己免疫疾患、腫瘍、外傷など様々な要因によって炎症が生じることがありますが、そのほとんど(約90%)が原因不明の突発性です。
胸の痛み、息切れ、発熱、だるさなどが主な症状で、心膜の炎症に伴う心臓の動きの制限や心嚢液の貯留が原因で引き起こります。
急性心膜炎の主な症状
急性心膜炎の特徴的な症状は、発熱や浅い頻呼吸、胸痛です。
胸痛
急性心膜炎の最も一般的な症状は胸痛です。この胸痛は、心膜の炎症によって引き起こされます。
特徴 | |
場所 | 通常は胸の前面、特に胸骨の後ろに感じられる |
性質 | 鋭くて刺すような痛み |
姿勢による変化 | 前かがみになると悪化し、座位や立位で軽減する |
呼吸による変化 | 深呼吸や咳で悪化する |
その他の一般的な症状
- 発熱
- 全身倦怠感
- 息切れ
- 動悸
重症例でみられる症状
重症の急性心膜炎では、以下のような症状がみられる場合があります。
症状 | 説明 |
失神 | 心タンポナーデによる血圧低下のため |
ショック症状 | 重度の心タンポナーデによる |
心タンポナーデとは、心膜の炎症により心膜腔に多量の液体が貯留し、心臓が圧迫される状態です。
急性心膜炎の原因
急性(突発性)心膜炎は、ウイルスにより引き起こされると推測されています。
多くは感染などに続発しますが、原因となるウイルスが特定できない場合が多いです。
ウイルス感染
コクサッキーウイルス、アデノウイルス、エコーウイルス、インフルエンザウイルスなどが急性心膜炎の引き金になると考えられています。
これらのウイルスが心膜に感染すると、炎症反応が起こり、心膜が厚くなったり癒着したりします。
細菌感染
- 肺炎球菌
- 連鎖球菌
- 結核菌
- ブドウ球菌
細菌感染も急性心膜炎の原因になる可能性があります。
肺炎球菌、連鎖球菌、結核菌などが心膜にまで広がると、急性心膜炎の発症につながります。
特に肺炎や敗血症などの重い感染症にかかった場合は、細菌が直接心膜に入り込んだり、血液を介して運ばれたりしやすくなります。
自己免疫疾患
関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、強皮症などの自己免疫の病気でも、急性心膜炎が起こるケースがあります。
自己免疫疾患では、免疫のシステムが自分自身の心膜の組織を攻撃してしまい、炎症が引き起こされます。
自己免疫の病気 | 心膜炎を合併する頻度 |
関節リウマチ | 30~50% |
全身性エリテマトーデス(SLE) | 20~30% |
強皮症 | 10~20% |
自己免疫の病気が原因の心膜炎は、基礎にある病気がうまくコントロールできていないと発症するリスクが高くなります。
その他の原因
- がんの心膜への転移
- 放射線治療、薬の副作用
- 怪我
珍しいケースではありますが、これらの要因が心膜の炎症のきっかけになることがあります。
診察(検査)と診断
急性心膜炎の診察では、身体所見の確認、心電図検査、心エコー検査、血液検査などを行っていきます。
心嚢液の貯留が疑われる際には心嚢穿刺を実施し、原因を特定するための各種検査により確定診断に至ります。
身体診察
所見 | 説明 |
心膜摩擦音 | 心膜の炎症により心膜葉間に生じる特徴的な異常音 |
頸静脈怒張 | 心タンポナーデを示唆する所見の一つ |
心電図検査
急性心膜炎では、心膜の炎症を反映した特徴的な心電図変化が現れます。
心エコー検査
心エコー検査は、心嚢液貯留の有無や量の評価、心タンポナーデの診断に有用です。
所見 | 説明 |
心嚢液貯留 | 心嚢内に液体が貯留している状態 |
右室虚脱 | 心タンポナーデによる右室の拡張障害 |
血液検査
急性心膜炎では、炎症マーカーの上昇や、基礎疾患を反映した特異的な所見が認められる場合があります。
炎症反応の評価や、ウイルス感染、自己免疫疾患、悪性腫瘍などの基礎疾患を調べるために行います。
心嚢液の性状分析や細胞診、培養検査なども原因特定のために重要です。
急性心膜炎の治療法と処方薬、治療期間
急性心膜炎の治療法は原因によって異なりますが、主に薬物療法と手術療法が選択されます。
多くのケースで非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やコルヒチンを使った対症療法が中心となり、数週間から数ヶ月程度の治療期間が必要です。
NSAIDsによる治療
急性心膜炎の第一選択薬として、NSAIDsが使用されます。
アスピリン、イブプロフェン、インドメタシンなどが処方され、心膜の炎症を抑え、症状を和らげる効果があります。
一般的に1〜2週間程度の投与が行われますが、症状によっては投与期間が調整される場合もあります。
薬剤名 | 一般的な用量 |
アスピリン | 1日あたり2〜4g |
イブプロフェン | 1日あたり1200〜3200mg |
インドメタシン | 1日あたり50〜200mg |
コルヒチンによる治療
コルヒチンは、多くの場合NSAIDsと併用して用いられる薬剤です。炎症性サイトカインの産生を抑制することで、心膜の炎症を抑制します。
通常、0.5〜1.2mg/日の用量で、数週間から数ヶ月間の投与が行われます。
ステロイド薬による治療
NSAIDsやコルヒチンで十分な効果が得られない患者さんや、自己免疫性疾患が原因である場合にはステロイド薬が使用される場合があります。
プレドニゾロンやメチルプレドニゾロンが処方され、炎症を強力に抑える働きがあります。
ステロイド薬の投与期間は症状や原因によって異なりますが、数週間から数ヶ月間の投与が一般的です。
薬剤名 | 一般的な用量 |
プレドニゾロン | 1日あたり20〜60mg |
メチルプレドニゾロン | 1日あたり16〜64mg |
手術療法
薬物療法で十分な効果が得られない場合や、心タンポナーデを合併している場合には手術療法が検討されます。
手術療法後は再発を防ぐために薬物療法が継続される場合が多く、数ヶ月から数年間の経過観察が必要です。
予後と再発可能性および予防
急性心膜炎の治療成績は全体的に良く、治療により再発を防ぐことができる可能性が高いと言えます。
急性心膜炎の治療成績
急性心膜炎の治療成績は、原因や重症度によって違いがあります。 多くのケースでは治療によって症状は良くなり、合併症なく回復します。
しかし、一部では心膜の癒着や慢性心膜炎への移行といった後遺症が残る方もいます。
また、ウイルス性心膜炎のケースでは自然治癒する傾向がありますが、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や安静などの対症療法が必要となります。
成績 | 割合 |
良好 | 80-90% |
後遺症あり | 10-20% |
再発の可能性
急性心膜炎は再発する可能性があります。再発率は10〜30%程度とされており、特に特発性心膜炎では再発リスクが高いとされています。
再発リスク因子 | 詳細 |
特発性心膜炎 | 原因不明の心膜炎は再発リスクが高い |
ウイルス性心膜炎 | ウイルス感染が原因の場合、再発する可能性がある |
自己免疫疾患 | 関節リウマチやSLEなどの自己免疫疾患に伴う心膜炎は再発しやすい |
再発防止
再発防止には、以下のような対策が重要です。
- 基礎疾患の適切な管理
- ストレス管理
- 感染予防
- 定期的な経過観察
急性心膜炎の再発を防ぐためには、原因となる基礎疾患の適切な管理が欠かせません。
例えば、ウイルス感染が原因のケースでは、感染予防や免疫力の維持が大切です。
また、ストレスが誘因となるケースもあるため、ストレス管理も重要な予防策の一つです。
急性心膜炎の治療における副作用やリスク
急性心膜炎の治療で使用されるNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)やコルヒチンなどの薬剤には、副作用やリスクが伴います。
NSAIDsの副作用
NSAIDsの副作用としては、胃腸障害、腎機能障害、心血管系のリスク上昇などが知られています。
副作用 | 症状 |
胃腸障害 | 胃痛、胸やけ、吐き気、下痢など |
腎機能障害 | 尿量減少、浮腫、高血圧など |
特に高齢者や基礎疾患を有する患者においては、NSAIDsによる副作用のリスクが高くなる傾向です。
コルヒチンの副作用
コルヒチンの副作用としては、消化器症状(悪心、嘔吐、下痢など)が最も多く報告されています。
また、稀ではありますが、骨髄抑制や肝機能障害などの重篤な副作用が生じる可能性もあります。
- コルヒチンの主な副作用
- 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢など)
- 骨髄抑制
- 肝機能障害
ステロイド薬の副作用
治療抵抗性の心膜炎に対してステロイド薬が使用されることもありますが、長期使用による副作用があります。
ステロイド薬の副作用 | 発生機序 |
骨粗鬆症 | 骨形成の抑制と骨吸収の促進 |
糖尿病 | インスリン抵抗性の増大 |
易感染性 | 免疫抑制作用 |
ステロイド薬の長期使用は、骨粗鬆症、糖尿病、易感染性などの全身性の副作用を引き起こすリスクがあるため、注意深い経過観察が必要です。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
急性心膜炎の治療費は、症状の重さや治療方法によって変わります。
初診料と再診料
- 初診料:2,820円 – 4,350円
- 再診料:730円 – 1,450円
検査費
検査項目 | 費用目安 |
心電図検査 | 1,500円 – 3,000円 |
心エコー検査 | 5,000円 – 10,000円 |
血液検査 | 3,000円 – 5,000円 |
処置費
抗炎症薬の処方や、心嚢ドレナージなどの処置にかかる費用は数万円程度となります。
入院費
重症の場合は入院治療が必要になる場合があり、その時の入院費は1日あたり1万円から3万円程度が一般的です。
入院が必要な場合は、これらの費用に加えて、食事療養費や差額ベッド代などの費用がかかります。
以上
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